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Q:業主婦の年金制度見直し、その効果と意味合いは?
◇回答
□土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部教授
□津田栄 :経済評論家
□中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長
□金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
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■今回の質問【Q:1232】
厚労省は、来年にも専業主婦の年金制度を見直す方針だということです。
( http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110929/plc11092921100020-n1.htm )
この見直しには、どのような効果と意味合いがあるのでしょうか。
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村上龍
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■ 土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部教授
第3号被保険者の取り扱いは、1985年の年金改正に被用者の無業の配偶者も国
民年金が適用されることとなり「婦人年金権」が確立した時から、ことあるごとに問
題提起されてきました。我が国の社会保険制度および税制が、全般的に個人単位に基
づいたものではなく、「世帯」を単位として設計されている側面が強いために、こう
した問題は常につきまといます。就業しているが収入が少ない妻は、年金制度におい
て第3号被保険者になっているだけでなく、医療保険では就業する夫の扶養家族と
なったり、所得税においては就業する夫が配偶者控除を受けて所得税負担が軽減され
ることになります。これらは、まさに我が国の社会保険制度および税制が、「世帯」
を単位として設計されている側面です。そして、これらは、共働き世帯や自営業の妻
が抱く不公平感という意味では、同列に扱われなければならないはずです。いわゆる
「専業主婦」への優遇措置対する批判は、経済学からも既に提起されています。
ただ、現行の第3号被保険者の取り扱いは、専業主婦への優遇措置の1つとして、
女性の就業の妨げになっているとする見方がありますが、現行の第3号被保険者の取
り扱いを見直すだけで問題が解消するわけではありません。別の言い方をすれば、年
金制度だけ独立して対処したからといって、これらの問題は解消できない、というこ
とです。医療保険における扶養家族扱いも残っていますし、最も大きなものとして所
得税の配偶者控除も残っています。したがって、年金制度だけで独立して「専業主婦」
にも保険料を課すことにしたとしても、医療保険における扶養家族扱いとなる収入の
閾値や、配偶者控除が適用される収入の閾値が変わらなければ、女性の就業行動に劇
的な変化を与えることは難しいでしょう。
所得税における配偶者控除の存廃については、政府・与党で昨年に議論があり、結
論を事実上先送りし今後の検討課題としています。したがって、配偶者控除は今後
(年内にも)議論が再燃するかもしれません。(医療保険での扱いもさることながら)
もし第3号被保険者からも相当程度保険料を徴収することにし、配偶者控除を廃止す
るなら、確かに女性の就業に与える歪みや共働き世帯や自営業の妻が抱く不公平感は
かなり解消されることになるでしょう。
これは、我が国の社会保険制度や税制を「世帯」を単位とする仕組みから個人単位
とする仕組みの方向にシフトさせるものと言えます。しかし、保険料や税額の決定に
際しては、完全に個人単位とする仕組みにしなければ、単に第3号被保険者からも保
険料を取ったり配偶者控除をなくしたりするだけでは、別の「不公平」を生みかねま
せん。
例えば、共稼ぎで夫婦でそれぞれ年500万円ずつ、計1000万円の年収を稼ぐ
世帯と、夫のみが働き年1000万円稼ぐ世帯があったとします。現行では、第3号
被保険者制度と配偶者控除があるが故に、夫のみが稼ぐ世帯はそれだけ負担が軽減さ
れています。そこで、第3号被保険者からもある程度保険料を取り配偶者控除を廃止
したとすると、所得税制が累進課税となっていることなどが影響して、共稼ぎ世帯の
税・社会保険料負担の方が、夫のみが稼ぐ世帯のそれよりも少なくなるという結果に
なります。社会保険制度や税制が不完全にしか個人単位になっていないと、同じ課税
前所得でありながら「不公平」な扱いが別の形で生じてしまいます。もちろん、これ
に対する善処策としては、N分N乗方式を導入するなどの提案がすでに出されていま
す。
今般、第3号被保険者の取り扱いを議論することを契機に、他の世帯類型の人たち
への不公平感や嫉妬を動機づけにするのではなく、我が国の社会保険制度や税制で、
「世帯」や個人の扱いをどう考えるか、根本的なところまで視野に入れながら議論を
進めることが重要だと考えます。
慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
( http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ )
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■ 津田栄 :経済評論家
今回の年金制度の見直し案は、会社員(厚生年金に加入)や公務員(共済年金に加
入)を夫に持つ専業主婦(「第3号被保険者」と呼ばれる)が夫の保険料の半分を負
担したものとみなし、夫と妻で年金を二等分してそれぞれ受けとるというものです。
今回は、専業主婦が保険料を払っていないのは不公平だという保険料を払っている自
営業者の妻や女性会社員からの批判を受けて出てきた案です。
今回の見直しで、夫婦合算の保険料負担(夫が従来通りの保険料を負担する)や年
金受取額は変わりません。ポイントは、専業主婦も保険料を払ったものと見なして、
給付の根拠を明確にするということです。つまり、この見直し案は、専業主婦が保険
料を払っていないのを形式的に払ったことにして、従来夫が受け取っていた年金も半
分ずつにするということで、内容的には保険料負担や保険給付は何も変わらないまま、
保険料を払っていない専業主婦が年金を受け取るのは不公平だと言われている現状を
法的に承認するものといえます。その意味で、これは、小手先で見せかけの見直しで、
求められている根本的な改革からはほど遠いものといえます(社会保障審議会で、こ
の見直し案を提示して、ある委員が「不公平感を解消する第一歩」と言ったと報道さ
れていますが、とてもことの本質が見えていないか、厚生労働省のお抱え有識者だか
らでしょう)。
この見なし案は、働く女性や自営業者の妻はもちろん、もしかしたら年金が減るか
もしれない夫側も、批判しています。そして、この見直し案では、配偶者が死亡する
と、年金受取額が半分に減る可能性があり、専業主婦でも、夫が死亡した場合に、亡
夫の年金の75%を受け取れる遺族年金とは違い、自分の年金分の50%に減るので
はないかと警戒しています。もちろん、こうした不安を緩和するために、同水準の遺
族年金を受け取れるように調整する考えもあるということですから、実態は何も変わ
らないということで、何の見直しかわからなくなります。つまり、この見直し案では、
国民をだますための見直しといわれても仕方がありません。
この専業主婦の年金問題は、以前から不公平だと言われていて、今年の4月18日
に年金制度改革に関する厚生労働省原案で解決すべき問題として取り上げていました。
その時は、専業主婦からの保険料徴収など一定の負担を求めると明記していました。
ただし、厚生労働省も、逃げ道を作っていて、夫の収入の半分に相当する保険料を妻
が収めたとみなす制度も並行して議論するとしていました。そして、実は、今回の記
事が出る前に、5月20日の年金改革案には、専業主婦の年金問題は対応先送りとし
ながら、新たな保険料負担を求めないと決めていましたから、すでに結論は決まって
いたといえます。
この問題は、国民皆年金制度を導入した1961年から始まっており、当時は、専
業主婦が多く、保険料徴収が難しいということで皆年金の対象から外して、任意加入
としたことにあります。その結果、年金をもらえない主婦が増加したため、86年に
制度変更を行い、「第3号被保険者」を創設して労使が専業主婦の保険料負担を肩代
わりする現行になっています。その背景には、専業主婦は夫が働いて収入を得るのを
支えているのだから、家事労働も年金の対象としたと思われますが、現状は、専業主
婦世帯が減り、共働き世帯や単身者世帯が増えている状況にあって、大きく背景が変
わってきています。特に、専業主婦は、夫の所得の高い中高年の世帯に集中している
と言われ、若年層や、所得が低いからこそ共働きしている世帯は不公平を感じている
のではないでしょうか。
こうした不公平な問題は、年金財政改善のために年金給付水準を抑制するマクロ経
済スライドを2004年採用しておきながら、それが一度も発動されず、高齢者への
給付が減らされないままになっている一方で、景気悪化に伴い失業や非正規雇用の増
加、所得の減少などに直面している現役世代の年金保険料負担が年々増加している状
況のなかで、負担と給付の間の大きな問題としてクローズアップされてきています。
それがゆえに、公的年金への納付率が低下傾向にあり、国民年金納付率は60%を
割って最低を更新、厚生年金でも納付率が低下しています。こうした現状は、現役世
代の保険料で高齢者の年金を支払って支えるという賦課方式の年金制度に対する不公
平感と不満が強いために、制度不信となって表れたものといえましょう。
もはや、小手先の見直しで改革というのは、国民は納得しないでしょう。現行の年
金制度は、環境が当初作られた時とは大きく違い、現状では持続が不可能であり、破
綻の危険があります。5月20日に示された年金制度改革案の要旨に書かれていまし
たように、「現在の社会保障制度は高度経済成長期に形作られ、正規雇用や終身雇用、
右肩上がりの成長、専業主婦、企業による手厚い福利厚生などを前提としていた。非
正規雇用や単身世帯の増加など、取り巻く環境は変化している。少子高齢化の進行や
経済成長の鈍化で世代間の給付と負担のアンバランスも著しい」ことが改革の背景と
見ているのでしたら、こうした小手先で見せかけの見直しではなく、賦課方式を含め
て年金制度を、少子高齢化と低成長の中でより国民の支持が得られるような形で、根
本的、抜本的な改革をすべきではないでしょうか。
したがって、専業主婦の年金問題を、このような形で見直しても、何も効果がない
でしょうし、その意味も、小手先で済ませて今の現行制度を守りたいという厚生労働
省の意図が透けて見える以外は、何もないのではないかと思います。その背景に、こ
の制度を変えると既得権益を失うという恐れがあるからでしょう。むしろ、この見せ
かけの見直しが、改革と称して国民に消費税増税による負担を求め、現行の制度を維
持する手段として使われるのではないかと疑いたくなります。そして、こうしたこと
がまかり通るならば、国民はますます制度への不信を高めて、制度が破綻して収拾が
つかなくなるかもしれません。
最後に、こうした省庁の発表で、疑問を感じるのですが、こうした見直し案や改革
案が、だれが責任をもって発表しているのか分からないことです。所轄の大臣が了承
して発表するのであれば、公開で発表すべきであり、そうでないならば、省庁の誰が
こうした案を発表したのかくらいは、マスメディアは国民に知らせるべきでしょう。
ましてや、大臣が知らないで発表するのであれば、大臣はお飾りということになりま
す。今の政治が劣化していると言われるのは、政治家自身が責任を持っていないから
です。こうした国民に直接かかわる重要なことは、責任の所在を明確にするうえでも、
大臣の口から国民に向けて言うべきです。
結局、責任があいまいなままでは、改革は何も生まないでしょう。しかし、現状は、
実質的に、依然として責任を持たない官僚の主導の政治行政がなされています。この
状況は、民主党のマニフェストからかけ離れたものであり、それを容認している野田
政権は過去の政権とそれほど変わらないということになりましょう。またマスメディ
アもそうしたことを疑問も持たず、どこからとなく流れてきた情報や渡された資料を
もとに報道していますから、現状を黙認しているという意味で、問題は根深いといえ
ましょう。
経済評論家:津田栄
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■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長
どのような効果と意味合いがあるのか、について書こうとしていたら、9日付けの
日経新聞にちょうどとりあげられており、よい解説が出ていました。とりあえず、効
果と意味合いを押さえるために、同記事をまとめたいと思います。
効果と意味合いとしては、専業主婦が保険料を負担しないのは不公平との不満を和
らげる狙いがあります。しかし、こうした対応では既に場当たり的だとの批判を免れ
ないようで、多くの批判や不満が見直し案に対して既に出ています。自分の年金が半
減される夫からの反発は必至、専業主婦にしても夫の死後の自分の年金が減る可能性
を憂慮(遺族年金が入らなくなる)。。。今はやりの年の差婚も問題になりそうです。
夫の年齢が65歳を超せば支給された妻への年金は、妻に支給するという名目にあわ
せれば妻が65歳まで年金が半額になるということなどなど。しかし、そうした不満
に応えるように、現在より減ったりしないよう調整する考えがすでに厚生省にはある
模様。
文字通りにはこうしたことがポイントになるのでしょうが、では実際に意味がある
のかどうか、です。まず、至極当たり前のことが忘れられているのではないか、とい
う気になります。税金を支払うこと、それに対して年金が支給されること、これは
セットで行われることだということです。誰だって税金を払うのは嫌だし、年金が少
しでも早く、少しでも充実して支給されるのは望むところです。しかし、それでは立
ちゆかない。しかも、すべての対象者が納得し、かつ、満足行くような徴収の仕方も
配分の仕方も、存在はしません。最適解を求めていくことしか、方法はないはずです。
こうすれば、この人が不満、この人は満足、というのを言い続ければ、まったく切り
がない話です。
まったく極論ですが、私見では、そもそも論として年金の改革ではなく、年金の撤
廃の方に話しが進むべきだと考えています。財政赤字が日々増加しているのです。ギ
リシャの例を出すまでもないでしょう。ギリシャは財政再建のため、53歳支給で
あった年金を65歳以上の支払いまで、引き上げて対応しています。53歳から支給
されると思って生活設計をしていた人が大勢いたはずですから、この引き上げは個々
人の問題としてとらえれば、さぞや大変な話だということがわかります。日本が置か
れている財政の問題は、ギリシャを遠くに眺めているわけにはいかない程です。年金
改革といっても、不満が出ないように支払い総額は一定というのでは、何の改革にも
なっていないことは明らかです。
また、この改革には、人々の生活観などに変化が出ていることを反映すべきだとい
うことも当然考慮するべきでしょう。専業主婦が永久就職先として好ましいとされた
時代は遠い過去です。女子や高齢者を労働力に戻そうとする動きもある一方で、専業
主婦のほうがなぜだか有利に見える税体系であれば、働く意欲が多少削がれるかもし
れません。実際には、こうした税金上の問題にならない130万円までのアルバイト
やパートに勤しむ専業主婦が大勢いるのも事実で、それこそ、今更、とってつけたよ
うな対応をされても迷惑だということにもなりかねません。また、専業主婦が永久就
職先である保証も一つもありません。離婚率は年々あがっています。結婚していた年
数を計算し、その分の年金は将来、私のものだという主張が出てくるようになり、ま
すます、複雑なものにもなってしまうでしょう。
基本的には専業主婦の年金分は夫が払うべきで(主婦の労働力は夫に還元されてい
るはずであり、国民所得に直接携わってはいません。あくまでも、主婦の労働力があ
るから夫が100%の力を国民経済のために使えるのだ、と考えます)、それを他の
人が負担し続けるのは、確かに不平等といえば不平等です。専業主婦世帯が今後減っ
ていくことを前提にすれば、そうした不平等は本来抜本的に調整されなければならな
いでしょう。小手先の数字合わせでは、多くの不満が却って目立つことになります。
年金や社会保障は、改革しなければ、財政再建などできません。しかしながら、多
くの人々の生活スタイルやライフプランが変わりかねないことでもあります。徐々に、
調整したり、マジョリティに目線をあわせる変革ばかりしている場合ではないのです。
多くの不満があるにせよ、やはり、年金改革をするからには、年金制度を抜本的にか
える(私が言うところの年金の撤廃はやり過ぎだとしても!)必要があるということ
なのではないでしょうか。
BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈
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■ 金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
社会の基本的な制度は国民一人ひとりの活動や生き方の選択に中立であるべきだ、
との考え方があります。その意味では、特に女性の就労を通じた生き方の選択に影響
を与える問題として、今回の厚労省による年金の第3号被保険者制度の見直しと同様
に、税の配偶者控除制度なども制度の見直しの俎上に挙がるべき問題といえるでしょ
う。
ただし、今回の厚労省による専業主婦の年金制度の見直し方針については、専業主
婦世帯と共働き世帯の間での負担と受益の格差を是正するものではありません。従っ
て、その効果について議論する意義はないと考えます。
そこで、ここでは年金の第3号被保険者制度や税の配偶者控除制度など、専業主婦
世帯を優遇する既成の制度を見直す意味合いについて考えてみたいと思います。
社会制度は個人の活動や生き方の選択に中立であるべき、との考え方は近代的な社
会では普遍的な価値観といえます。しかし、同時に、社会の共同体として強い一般的
な合意があるか、あるいは一定の合理性があれば、特定の活動や生き方を促進する制
度は是認されると考えられます。少なくとも、憲法では「勤労」「納税」「教育」と
いう国民の義務を規定していますし、これらの活動を促進する制度は誰もが認めると
ころでしょう。
「専業主婦」という生き方については、どうでしょうか。個人の意見としては、その
選択に対して、社会の制度は中立であればよい、と考えます。一方で、国民一般の意
識としては、内閣府の調査での「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という
考え方に対する賛否で、賛成つまり「専業主婦」を支持する意見が初めて半数を下
回ったのは2002年でした。1979年当時は7割を超す人が支持していました。
このように、これまでは専業主婦世帯を優遇する既成の制度に対して一定の支持が
あったことは事実として認めざるを得ません。しかし、1992年には雇用所得者世
帯で初めて共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回りましたし、意識は明確に変わって
きているといえるでしょう。
特に、若い世代ほど共働きに対する支持が高い傾向がありますが、これには社会経
済的に切実な事情もありそうです。非正規雇用の拡大などによる所得格差拡大、中間
所得者層の没落といった社会の構造変化の影響は、若い世代ほど顕著です。共働きに
より世帯の収入の維持をはかるのは、当然の流れといえます。しかし、これは特に若
年者層に限りません。実際、専業主婦世帯が月収約43万円なのに対して、共働き世
帯の世帯主の月収は約39万円と共働き世帯を下回るものの、世帯全体では月収約5
7万円と、共働きで収入を確保してる姿が見られます。しかし、その差は小さく、あ
えて専業主婦世帯を優遇することは社会の実情にそぐわないといえるでしょう。
実は「専業主婦」世帯に関わる税や年金の制度についての議論の背景には、もう1
つの問題が見え隠れしているように思います。それが少子化問題、つまり女性の就業
率と出生率の関係を巡る議論です。ここには依然として対立する2つの見方があるよ
うです。
まず、先進国の状況を比較分析しますと、出生率と出産・育児年齢期の女性の就業
率の間には強い相関が見られます。例えば、少子化対策に一定の成功を収めているフ
ランスや北欧欧州諸国が80%台の就業率を維持している一方で、イタリアなど女性
の就業率が日本と同じように低い南欧では、日本と同様に深刻な少子化傾向が見られ
ます。解釈としては、女性が出産を経ても就業を維持できる、あるいは一時離職して
も容易に復職できる制度や環境が整備されていることが、出産・育児世帯にとっての
経済的な基盤となるということでしょう。
日本では、30歳代女性の就業率が60%台と前後の年代よりも10%近く下がる
「M字カーブ」と呼ばれる就業構造が見られます。ここでは、出産・育児世代の世帯
にとって女性の出産に伴う離職による収入減が出産をためらう潜在的な要因となって
いることが容易に推測されます。
一方で、国毎に時系列分析を行うと、就業率と出生率の間には、ほとんど相関が見
られないか、逆にマイナスの相関、女性の就業率の上昇に伴って出生率が低下するケ
ースも見られます。これが「女性の就業率の上昇が出生率の低下を招く要因」との従
来からの見方を支持しているとされていますが、個人的には誤った分析だと思います。
時系列的な分析を行う際に、出生率の低下をもたらす他の要因の影響を含んでいる可
能性が大きいと考えられるからです。例えば、所得の向上、女性の地位の改善に伴う
選択権の拡大、など少子化の傾向をもたらす他の社会的な要因の影響です。実際、先
進国以外に経済発展の早い段階にある新興国を分析対象に含めると、特にその傾向が
強く出るようです。
従って、「専業主婦」化を誘導するような制度は、少子化対策として考えるなら、
全く筋違いの処方箋でしょう。むしろ、「M字カーブ」と呼ばれる就業構造などの問
題の改善が、むしろ出生率の回復には有効な処方箋となる可能性が高いといえます。
特に、年金の第3号制度や配偶者所得控除は、女性が就業や高所得を目指すことを
牽制するという側面があり、就業に対して社会がペナルティを課すのだというネガ
ティブなメッセージとなりかねません。
少子化が社会の活性を損なう、との認識は正しいと思います。しかしそもそも、少
子化には出産・育児世代における経済問題が顕在化したとの側面があります。夫婦と
もに就労することによって世帯の収入を確保しようとする努力は、家計の対策として
当然であるばかりか、社会の活性化にもつながるものです。共働き世帯は、子供の教
育など大きな出費項目を抱える世帯も多いという要素もあり、消費性向が高い傾向が
あるからです。専業主婦世帯から見れば、その点も逆に共働き世帯に対する反感の一
部にはなるのですが、社会経済的に見て誤った嫉妬心といえます。
外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎
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