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貧困層のフードスタンプに群がる米国外食産業 景気後退の足音に身構える米国民
2011年10月3日 月曜日
加藤 靖子
米国では家計所得の低下から、2010年の貧困率が17年ぶりの高水準に達した。景気低迷の影響が長引き、失業率も9%台と高止まりしたまま厳しい台所事情を抱える米国民。そんななか、教育費や医療費は軒並み上昇を続けており、米国民は今後一層厳しいやりくりを強いられそうだ。
9月13日に米国国勢調査局が発表した数字は、米国民に衝撃を与えた。2010年時点で連邦政府が定める貧困ライン(4人家族で所得が2万2314ドル以下、1ドル77円計算で約170万円)を下回る生活を送る人の割合は09年から0.8ポイント増加し、15.1%になった。これは93年以来、最悪の数字となる。貧困層に属する人は、前年の4360万人から4620万人へと増加しており、52年間に渡る統計調査の歴史で過去最多数となった。景気低迷が長引くなかで、中間層が貧困層へと没落していく事実を突きつけられたかたちだ。
貧困人口の割合は、6人に1人に迫る勢いだが、人種別の格差も目立つ。黒人の貧困率が27.4%と突出しており、その後ヒスパニックが26.6%と続いている。つまり黒人とヒスパニック系は4人に1人以上という高い割合で貧困に属していることになる。
貧困層が拡大しただけでなく、平均的な国民の生活が地盤沈下していく姿も浮かび上がる。2010年の世帯年収の中央値(インフレ調整後)は、4万9445ドル(約380万円)と、2009年から2.3%減少。60年代後半から開始された世帯年収中央値の値をグラフを見てみると、徐々に上昇してきた世帯年収の中央値は1999年にピークをつけ、そこから2010年までに7%も減少している。世帯年収の中央値の減少は、10年以上も続いていることになる。
連邦政府が支給するフードスタンプ(低所得者層向けの食料配給カード)の受給者は、ここ一年で12%増、2年前に比べると30%も増えている。貧困ラインの生活を強いられた国民は、社会保障によってようやく生活成り立たせているような状況だ。現在フードスタンプは、スーパーマーケットなどで野菜や飲み物、パンといった調理前の食品に利用できるようになっている。しかし、利用者の急拡大が起こったことにより、マクドナルドやピザ屋など、ファーストフード店舗もプログラム参入を狙う動きを見せる。お金に困窮する低所得者が持つフードスタンプ市場は、今やシェア争いが繰り広げられる成長分野なのだ。
教育費は40%上昇。子供を持つ計画に見送りも
苦しい家計状況が続いているが、子育てのコストは反比例して上昇を続けている。米農務省によると、子育て費用は10年前と比べると約40%も増加したという。中所得者層の両親が0歳から18歳まで子供を育てるのに必要な費用(大学を含めない)は2010年時点で2000年より6万ドル以上多い、22万6920ドル(約1740万円)になった。1年分で、9860ドルから1万3830ドルに増えたことになる。
子育て費の上昇は、食料品やガソリンなど物価の上昇に伴うもの。特に交通費の上昇は著しく、全米自動車協会(AAA)によると、消費者が払うガソリン代は2000年から2010年までに85%も上昇している。また食料価格もトウモロコシから小麦まで価格が軒並み上昇し、スーパーマーケットの食品価格も10年前から様変わりしてしまった。
米国をとりまく経済状況から、子供を持つという選択を見合わせる夫婦も多い。
「今年子供が欲しいと思っていたんだけど、旦那が失業してしまったから、しばらくは無理ね。」
20代半ばの知人女性のパートナーは、カリフォルニア州で警官として働いていたが、州の財政カットで職を失ってしまったばかりだ。彼女自身はIT企業で秘書として働いているが、念願のマイホームを買ったばかりで、そのモーゲージを払えるかどうかさえも確かではないという。子供が欲しいと願っていた夫婦だったが、今はそれどころではなく必死で家計をやりくりしている。生活を支えていくことしか頭にないと言う。
国立健康統計センターの推計によると、米国の出生数は金融危機後から減少傾向にある。2007年に432万人でピークを迎えてから年々減っており、2010年は400万人にまで減少している。失業率の高止まりや生活費の上昇が、将来の不安へと繋がり、子供を持つ計画を先延ばしにする人達が増えているようだ。
保険料も急激に上昇
アメリカで社会問題となっている医療保険の問題も、米国民の生活を圧迫する。日本のような国民保険制度がないアメリカは、国民の多くが今のところ企業もしくは個人で民間の医療保険に加入するしかない。非営利調査団体カイザーファミリー財団による最新の調査によると、2011年の企業が提供する家族向けの平均保険費用のコストは年間1万5千ドル(約117万円)に上り、昨年から9%も上昇したという。
従業員に医療給付を行うための企業のコストが上昇することで、企業が新規雇用を踏みとどまる可能性もある。また米メディアでは医療保険料の上昇分をそのまま社員に転嫁する企業が増えていると報じられており、必要不可欠である保険の負担額が国民へ重くのしかかろうとしている。
9月21日に米世論調査会社ギャラップが発表した調査によると、来年も景気が上向かないと応えた人が61%に達した。2008年の金融危機後、多くの米国民を取材させてもらったが、失業や苦難があっても楽観的で前向きな姿勢が印象的だった。しかし現在では景気低迷が続く疲れや先行きの不透明さから、国民もかなり弱気に傾いているようだ。
長年成長経済を謳歌してきた現代のアメリカ国民にとって、長期にわたって厳しい局面が続くのは始めての経験だ。経済疲れから、人々の不安や焦りが「怒り」へと姿を変える様子も見受けられる。一番の焦点である雇用情勢解決への光が見えるまで、米国民にとっては長く厳しい冬が続きそうだ。
このコラムについて
アメリカから見る未来
世界経済の中心、アメリカ。海を渡って来る移民を受け入れる多民族国家は、様々な事業やアイデアが渦巻き、新しい未来を作っていく実験場でもある。
日経ビジネスニューヨーク支局で活躍した経歴を持つ在米ジャーナリストが、シリコンバレーに本拠地を移して「世界最先端」の現場を歩いて行く。そこには、世界が目指す輝ける未来が見える。
そして、歴史が刻まれていく。
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著者プロフィール
加藤 靖子(かとう・やすこ)
在米ジャーナリスト。中央大学卒業後、米ペース大留学。2008年から日経ビジネスニューヨーク支局編集部に勤務し、2010年から在米ジャーナリストとして活躍。2011年に米カリフォルニア州シリコンバレーへ移住し、経済、政治、社会問題を中心に取材・執筆を続ける。テクノロジー関連企業に強い。
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