http://www.asyura2.com/11/hasan73/msg/423.html
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日本がギリシャ化するには、早くても数年はかかるだろうが、一応、リスクの一つとして考慮しておくのは悪いことではない。
しかしWSJやM.Wolfら海外の翻訳解説の2番煎じと言うと酷かもしれないが、今さらという感じは少し否めない。
(まあ、良くまとまっているから、これも教育的ではある)
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110928/285466/ 大前研一の「産業突然死」時代の人生論
ついに「世界金融危機」の狼煙は上がった
2011年09月28日
米国政府は9月12日、オバマ大統領が打ち出した総額4470億ドル(約35兆円)の雇用対策費用を、富裕層への増税でまかなう計画を発表した。 野党である共和党が長らく反対してきた増税案を押し切った形で、これでまた米国議会では与野党の対立が深まることも予想される。
ケインズ型のオバマノミックスは機能しない
米国が抱える雇用問題の解決は、オバマ氏が大統領に立候補したときから公約の一つに掲げていた。今回の対策費用4470億ドルというのは他にあまり例を見ない大規模なもので、その意味では「ようやく本腰を入れてきた」とも言える。
しかし私は、これで雇用が改善するとは考えにくい、と見ている。すでに同じようなプログラムは大統領に就任直後にも大規模にやってきているからだ。その後の失業率が9%で高止まりしていることを考えると、今の米国でケインズ型のオバマノミックスが機能するとは思えない。
ダメとわかっていても来年の大統領選に向けて大型の景気刺激策を打たなくてはならないところが、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長とガイトナー財務長官を抱えたオバマ政権の窮状を映し出している。
何より救済したはずの米銀が依然として脆弱であり、ファニーメイ(米連邦住宅抵当公社)やフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)などの住宅公社も水面下から浮上していない。
Next:実際は20%の人が仕事をしていない
結局、日本と同じで、銀行の集約、ゼロ金利、公共工事と時間を稼いでも、需要の創出につながるような政策を打ち出せないでいる。オバマノミックスの財源は国債と金持ちに対する増税というところも野田新政権と酷似している。
以下、もう少し詳細に見ていこう。まず米国の雇用環境の変化だ。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110928/285466/chart1.jpg
オバマ氏が大統領に就任したのは2009年1月である。ブッシュ大統領の最後の1年(2008年)で米国の失業率が急速に悪化し始めた。これはオ バマ氏の就任から2年以上経った今も続いていて、失業率は9%台を推移し、一向に改善の兆しが見られない。「対前月比での雇用者数の増減(非農業部門)」 を見ると、多少は改善されているように思えるものの、これで失業対策が成功したとは到底言えない。
実はこのグラフは失業率の推移であって、実際に失業している人の割合ではない。日本と同じで、失業率というのは就職斡旋所に職を求めてきている人々のうち雇用にありつけなかった人々しか対象にしていない。
今現在、就職適齢期(15歳から64歳まで、学生を除く)を対象に仕事をしていない人の割合を見ると、年々増加していて20%を超えている。その 中には裕福な人もいるだろうが、多くは就職斡旋所にも来ない人々である。失業率9%というのは、そのうちの約半数が就業努力をしている、ということでもあ る。
Next:日本も米国も、政治と経済が乖離している
米国の問題は、そもそも5人のうち1人に職がない「職不足」「社会適応困難」という社会問題である。これは企業側から見ると、人が足りないという 認識にもつながっており、スキルを持った人がいればいくらでも採用したいというスキルミスマッチの問題でもある。つまりは教育・再訓練の問題であり、それ を受け入れない落伍者の問題でもある。その結果、企業は海外に人材を求めることになり、米国内の空洞化にもつながっている。
米国企業は、実は世界全体で見れば躍進しているところが多く、「市場は世界だ」と考える企業の株価は下がっていない。つまり、米国企業はますます世界的には強くなり、米国経済はその恩恵を受けない。政治と経済が水と油のように分かれてきている、ということである。
こうした問題は、まさに日本の問題でもある。日本企業の方が「脱・日本」では米国のグローバル企業に大きく遅れてはいるが、スキルミスマッチの問題も、人材教育の問題も、根は同じである。政治と経済、あるいは政治と経営の乖離もほぼ同じ状況にあると考えて良い。
歴代の米国大統領を見ると、有効な雇用対策を打ち出せなかった大統領が再選される可能性はきわめて低い。共和党の大統領候補は本命がいないし、路 線的にも「百家争鳴」の状態で混戦している。しかし、だからと言って、オバマ氏が来年の大統領選で再選を目指すため、ケインズ的に公共投資を行って雇用を 増やそうとしてもうまくいかないだろう。
Next:日米両国は同じ不幸を共有している
ケインズ政策は経済が一国の中で閉じていた時代の産物である。しかしボーダレス経済の時代になると、あらゆることが従来の期待効果と逆さまになっ てくる。景気刺激のために金利を下げても需要がなければ経済は活性化しない。資金供給を増やしても、結果は同じである。余剰分は国境を越えて海外に出てい く。世界全体では辻褄が合っているのだが、国内の景気ということでは「閑古鳥」状態になる。
米国は金利が低いし、量的緩和第2弾(QE2)で余剰資金をばらまいた。その結果何が起こったかと言えば、ドルキャリー取引(低金利の米ドルを借 り入れ、高金利の新興国などで投資すること)で海外にどんどん現金が流れていっていった。現金が海外へ流れれば雇用も当然そちらに流れてしまうのである。
オバマ大統領が本来すべきことは、(クリントン時代のグリーンスパンFRB議長のように)金利を高くして世界から現金を呼び込むことだが、時に社 会主義者と揶揄される「大きな政府」志向のオバマ大統領にそういう(ボーダレス経済を手玉にとって他人の力で自国を繁栄させるという)発想があるのかどう か。残念ながら「否」だろう。
それはもちろん、我が国の民主党政府についても言えることで、この点において日米両国は同じ不幸を共有しているのである。米国は日本の「失われた20年」を忠実に再現し、後追いをしてきている。
Next:ギリシャの現状は「日本の明日の姿」
不幸といえば、ヨーロッパでも深刻な状況が続いている。
ギリシャ政府は11日、追加的な財政再建策を発表した。不動産税などの増税を通じて財政赤字を20億ユーロ(約2100億円)減らし、欧州連合(EU)などとの間で交わした赤字削減目標の達成を目指す。
財政危機にあえぐギリシャが「増税」というオプションを選択するのはかなり厳しいものだが、目標を達成できなければ周辺諸国から財政支援を打ち切られるなどの制裁が待っている。
いってみれば、そういうギリギリのところまでギリシャは追い込まれているわけで、それは同時に「日本の明日の姿」でもあることを我々は心しなくてはならない。
欧州主要国の10年債利回りの推移を見てみよう。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110928/285466/chart2.jpg
ギリシャの利回りは20%を突破する水準にあり、他より抜きん出て高い。それだけ高くしないと誰もギリシャ国債を買ってくれないのだが、ひるがえって考えると「ギリシャは財政破綻する可能性が高い」と金融市場が見ているということでもある。
ギリシャに次にポルトガル、イタリア、スペイン、ドイツと続く。私は「そろそろイタリアが危険領域に入ってくるのではないか」と見ている。状況に よってはイタリアがポルトガルを抜いてしまうこともあり得るだろう。なんといってもベルルスコーニ首相のリーダーシップは地に堕ちた状態にあるからだ。
Next:イタリア危機が起これば仏独の巨大銀行は大打撃...
ここで主要国銀行のPIIGS(ピーグス)向け与信残高を見ておこう。PIIGSとは、自力での財政再建が難しいと見られているポルトガル・イタリア・アイルランド・ギリシャ・スペインの頭文字を取った頭字語だ。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110928/285466/chart3.jpg
一見してわかるように、フランスとドイツによる貸し付けが多い。その両国の内訳を見ると、イタリアへの貸し付け割合が多いのが目立つ。ドイツは ざっと3分の1、フランスに至っては3分の2がイタリアへの貸し付けとなっている。比較的傷が浅いと見られていたイタリアの銀行も、最近ではウニクレディ ト銀行などのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)スプレッドが急上昇するなど、安泰ではないことが露呈した。
ということは、イタリアが財政破綻でもしようものなら、仏独の巨大銀行はともに大きな打撃を受けることになる。ちなみに米国と日本はそれぞれの経 済規模の割にはあまり貸し込んでいないことになっているが、欧州の銀行は米ドルのコマーシャル・ペーパー(CP)を大量に発行しているので、これを買い込 んでいる米国の金融機関は連鎖する危険性がある。
現在のユーロ危機とは、ヨーロッパの中央銀行と有力銀行が機能不全をきたしつつあるということである。「どの国(の銀行)が」「どこの国に」「どれだけ貸しているのか」を、よく把握しておく必要があるだろう。
米国も日本も、そして中国さえも安全圏ということにはならず、すでに「世界金融危機」の様相を呈しているのである。
Next:ギリシャを財政破綻できない二つの理由
欧州債務問題には金融市場も敏感に反応している。12日の東京外国為替市場は警戒感からユーロ売りが強まり、一時は1ユーロ=103円台となり、 およそ10年ぶりの安値をつけた。また、ヨーロッパの株式市場も全面安となった。国債などの信用保証の目安となるCDS市場でもヨーロッパ各国の保証率料 が急上昇し、14日にはギリシャ国債(5年物)の保証料率が64.2%まで跳ね上がった。
下に9月中旬における主要国のCDS保証料率のグラフを掲げる。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110928/285466/chart4.jpg
ギリシャの「プレミアム度」は群を抜いている。先に述べたこととも重なるが、それだけ市場にはギリシャの先行きに対して悲観的な見方が拡がっているのである。すでに市場は実質破綻を折り込み済みと見ていいだろう。
実質的に破綻しているのに破綻させるわけにはいかない理由は二つある。一つはギリシャが破綻すれば「次は誰(どこ)か?」という詮索が起こる。 リーマンショックの後、米国のほとんどの金融機関がポールソン財務長官(当時)の準備した30兆円にも及ぶ不良資産救済プログラム(TARP)に駆け込ん だ。今回もPIIGS全体に波及する可能性は高く、そうなれば200兆円近い流動性を手元に確保しておかないとパニックは避けられないだろう。
もう一つの理由は、ギリシャをユーロから切り離す仕掛けがない、ということである。通貨同盟であるユーロはマーストリヒト条約によって加入に関し てはかなり詳細に取り決められているが、離脱の方法が決められていない。「行きはよいよい 帰りは怖い〜♪」(とおりゃんせ)というざれ歌があったが、ユーロ・ゾーンが今まさに味わっているのは切り離しの困難さの問題である。
Next:ユーロ各国にある「みな同罪」という後ろめたさ...
かりにギリシャがユーロから離れたら自国通貨(かつてのドラクマ)を発行せざるを得ない。しかし、破綻懸念のある国の通貨を受け入れて使う人はな いだろうから、印刷しても即ハイパーインフレとなるだろう。自国民でも必死にユーロにすがりつくだろうから、結局その通貨は流通しないことになる。
国は通貨を発行して施策を行っていくしかないが、その発行した通貨では結局施策は何も実行できない、ということになる。つまり、国家としては完全に破綻する。
いままでは曲がりなりにもユーロに関しては国内総生産(GDP)に比例して印刷する権利があった。その権利はマーストリヒト条約を遵守することによって付与されるわけで、それを守らずに、ずぼらな国家運営をしてきたギリシャ政府および国民にその責任がある。
とはいえ、EU側にも監督・監査の責任はあるわけで、さらに言えばユーロ規約に違反しているところは他にもたくさんある。とくにリーマンショック 以降は各国とも財政規律を緩め、景気刺激策を優先した。「みな同罪」という後ろめたさが、ギリシャ問題への取り組みが後手後手に回った一つの理由でもあ る。
Next:ギリシャの惨状は対岸の火事ではない
ギリシャの救済は、おそらく部分的デフォルト(約50%の国債は債務不履行となる)とそれによって大きなダメージを受ける銀行の救済策の二本立てになるだろう。
一方、ギリシャの責任としては大規模な歳出削減ということになる。4人に1人は公務員、しかも58歳から現役時代の80%の年金がもらえる、という信じられない制度を止めることが当然要求される。
雇用対策や人気取り政策を進めてきた歴代のギリシャ政府は国民を甘やかしてきた。その国民が怒り狂ってゼネストをやっている。民主主義の生まれた国が衆愚政治に陥ったらどうなるか、2000年前の研究をする必要はない。
いまのギリシャの惨状は対岸の火事ではない。これは世界の金融危機の狼煙(のろし)であり、ギリシャ以上に国家債務が積み上がっている「日本の明日の姿」ともダブるからだ。
4月28日に『日本復興計画』(文藝春秋)が緊急出版されました。復興の財源、エネルギー問題、外交政策などについて提言しています。大前氏は同書の印税をいっさい受け取らず、売り上げの12%が被災地救援に寄付されます。
■コラム中の図表は作成元であるBBT総合研究所(BBT総研)の許諾を得て掲載しております■図表、文章等の無断転載を禁じます■コラム中の図表及び記載されている各種データは、BBT総研が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、BBT総研がそれらのデータの正確性、完全性を保証するものではありません■コラム中に掲載された見解、予測等は資料作成時点の判断であり、今後予告なしに変更されることがあります■【図表・データに関する問合せ】 BBT総合研究所, http://www.bbt757.com/bbtri/
大前研一の「「産業突然死」時代の人生論」は、09年4月7日まで「SAFETY JAPAN」サイトにて公開して参りましたが、09年4月15日より、掲載媒体が「nikkeiBPnet」に変更になりました。今後ともよろしくお願いいたします。また、大前氏の過去の記事は、今後ともSAFETY JAPANにて購読できますので、よろしくご愛読ください。
『大前研一 洞察力の原点 プロフェッショナルに贈る言葉』 (大前研一著、日経BP社)◎目次序――私の思考回路に焼きつけた言葉/答えのない時代に必要なこと/基本的態度/禁句/考える/対話する/結論を出す/戦略を立てる/統率する/構想を描く/突破する/時代を読む/新大陸を歩く/日本人へ◎書籍の購入は下記から日経BP書店|Amazon|楽天ブックス|セブンネットショッピング
◆「大前研一の著書に学ぶ『洞察力の磨き方』」はこちらをご覧ください。
大前 研一(おおまえ・けんいち)
1943年、福岡県に生まれる。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博 士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。以来ディレクター、日本支社長、アジア太平 洋地区会長を務める。 2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラム(ビジネスブレークスルー大学院大学)が開講、学長に就任。経営コンサルタントとしても各国 で活躍しながら、日本の疲弊した政治システムの改革と真の生活者主権の国家実現のために、新しい提案・コンセプトを提供し続けている。 著作に『さらばアメリカ』(小学館)、『新版「知の衰退」からいかに脱出するか?』(光文社知恵の森文庫)、『ロシア・ショック』(講談社)など多数がある。大前研一のホームページ:http://www.kohmae.comビジネスブレークスルー:http://www.bbt757.com
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