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世界全体で協調して資産課税を行うのが理想的だが、現実には難しい
規制緩和や国内消費や新規投資への優遇策程度なら国民にも許容可能か
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ソブリン危機――歴史的難局の選択肢
【第14回】 2011年9月29日
日本国債のデフォルトは本当に起きるのか?
語られることがなかった「ソブリンリスクの本質」
――バークレイズ・キャピタル証券の土屋剛俊氏、森田長太郎氏に聞く
8月下旬、大手格付け機関により、今年2度目となる日本国債の格下げが行なわれた。欧州ソブリン危機や米国債のデフォルト騒動を経て、危機的な財政難に直面している日本についても、一部で国債の暴落を懸念する声が出ている。日本国債がデフォルトすることなど、実際にあり得るのだろうか。バークレイズ・キャピタル証券の土屋剛俊氏と森田長太郎氏は、著書『日本のソブリンリスク〜国債デフォルトリスクと投資戦略』の中で、日本の財政問題について斬新な提言を行なっている。2人に日本のソブリンリスクの「本質」について、詳しく聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
日本国債の「暴落」は考えられるか?
先進国になされるべき格付けのアプローチ
――米大手格付け機関のムーディーズが、8月下旬に日本国債の格付けをAa2からAa3へと引き下げた。東日本大震災の復興が足踏みしていることに加え、政治の混迷で財政再建が進みにくいと判断したためだ。大手格付け機関による日本国債の格下げは、1月のスタンダード&プアーズに続いて今年2度目となる。欧州ソブリン危機や米国のデフォルト騒動を経て、危機的な財政難に直面している日本についても、一部で国債の暴落を懸念する声が出ている。しかし、いざ格下げが行なわれても、投資家は大きく反応していないように見える。実際、日本国債がデフォルトすることなど、あり得るのだろうか。
現在格付け会社が採用しているソブリン格付け手法は、先進国の分析手法としては必ずしも適切ではない部分があるのではないかという印象を持っている。一口に国家の破綻と言っても、振り返ると戦争などの特殊要因を除けば、対外債務が膨らみ経常収支が悪化した小国が破綻し、その勢いで為替調整が起きるというパターンしかなかった。
規模の小さい小国については、「営業CFの倍率がどれくらいか」「いつまでに借りたおカネをキャッシュで用意することができるか」といった、一般事業会社の格付けロジックの延長線上で考えることも不可能ではないが、基軸通貨国や先進国の信用評価には、もう少し違う次元の分析アプローチが必要なのではないかと考えている。
次のページ>> 国債問題で真に議論すべきは、財政政策より「為替政策」
にもかかわらず、格付け機関は国債の総発行量に対するGDPの比率など、事業会社レベルの分析手法で判断して格付けしているような印象がある。もし日本の財政に破綻危機があるとしたら、こうしたプロセスで論じるべきではない。
昨今の格下げの影響はほとんどない
ポイントは財政政策より為替政策
――では、そもそも国の信用はどのように評価されるべきなのか。
過去十数年間を見ると、国債の先物が1円50銭以上動いた日が14回ほどあったが、それらは格付けのアクションとは全く関連性がなかった。今回の格下げによって、世間の投資行動が変化することはほとんどないと見ている。
アジア通貨危機のときも、格付けの矛盾が取り沙汰された。当時は、財政黒字国で格付けがよかった韓国がいきなり破綻して、投資家を驚かせた。
このときは、財政というより、ドルペッグ制の国で通貨がどう流れるリスクがあるかという点が重要だった。韓国の場合は、ドルがものすごい勢いで流れ込んでいて、その短期資金が逆流して資金が詰まり、財政黒字にもかかわらず破綻してしまった。
韓国債は破綻直後にBに引き下げられたが、従来の格付けのロジックが機械的過ぎるため、国の構造変化に対応できていなかったことがよくわかる。
足もとで危機に陥っているイタリアやスペインのケースも、当時の韓国と非常に似ている。財政赤字国ではあるが、これも財政問題より通貨問題を議論すべきケースだ。
統一通貨ユーロの仕組みは、ドルペッグ制と同じ。事実上、通貨がペッグされているなかで、高金利の国に短期マネーが流入してバブルが起き、その後マネーが一気に還流した結果、ユーロ圏全体に負の連鎖が広まっている。本来、財政問題とは直接関係のない部分で起きている危機だ。
――従来の格付けの理論が当てはまらなくなっているとすれば、日本のソブリリンリスクの本質を見極めるためのポイントとは何か。
通貨と国債は、究極的には同じ価値を持っており、国の信用は最終的に通貨に集約される。よって、他国通貨に対する円の価値が下がるか否かがポイントになる。
次のページ>> 「国の信用」を維持しているのは、実は企業の「貯蓄過剰」
日本において円の価値が深刻に毀損される状況とは、インフレに他ならない。将来、インフレによって円安や金利上昇が連鎖的に起きれば、国の信用は大きく揺らいでしまう。そのシナリオこそが、日本のソブリンリスクの本質なのだ。
しかし、デフレが続く現状を見る限り、日本がその段階に至っていないのは明らかだ。デフレである以上は、円の価値が毀損されることはない。また、たとえ日本がインフレに転じたとしても、4〜5%の水準ならともかく、2%程度までの緩やかな水準なら、危機にはつながらないだろう。
デフレ下では通貨の価値は毀損されない
「国の信用」を維持する企業の貯蓄過剰
――その理論でいけば、デフレが続く日本でソブリン危機が起きる可能性は、極めて低いということになる。
ただし、未来永劫そうだという保証はない。今の日本でデフレが続いている理由は、通貨高と低金利だ。その背景には「貯蓄過剰」がある。
ポイントは、企業部門の超過収益が過剰に貯まっていること。個人金融資産の半分以上が銀行預金などを通じて国債を買い支えていると言われるが、実は企業がおカネを貯めこんでいる影響が大きいと思う。
期待成長が落ち込み続けるなか、企業は投資を絞る一方、輸出が好調で売り上げが上がっている。また、新興国への生産移転などにより、労働コストも低下している。企業はそうした儲けを全て借金の返済に回し、投資を控え、莫大なキャッシュを溜め込んできた。
本来、企業はおカネを調達して事業をやるものだが、この10年間、借金の返済だけに力を注いできた。このような状況が続けば、産業の空洞化も招きかねない。皮肉にも、こうした状況がソブリンリスクを食い止める原動力になっている。
企業の資金調達需要が乏しければ、金利は低く抑えられる。そうなると、金融機関は預貸ギャップが広がってしまうため、彼らは国債の購入を続けざるを得ず、こうした状況が国債のファイナンスを継続させているから、日本国債は暴落しないのだ。
次のページ>> 国債暴落のリスクは低いが、急激なインフレには要注意
しかし、もしフロー均衡の構図が変われば、金利上昇、インフレ、円安が連鎖的に起き、日本のソブリンリスクが本格化する可能性はある。
――では今後、金利が大きく変動する可能性はないだろうか。
理論上では、国債暴落は短期的にいつでも起こり得る。10年債だけでも、毎月2兆円超の入札が行なわれている。何かの弾みに銀行などの主要投資家が「環境が悪いから買いたくない」と思えば、短期的に金利は上昇するだろう。
ただし、金利が急上昇すれば、おカネが余っている投資家にとっては「魅力的な相場」と映る。そうなると国債市場には自律的にマネーが戻り、ファンダメンタルを織り込んだ妥当な水準へと収斂されていくだろう。つまり、短期的な長期金利の振れは起こり得ても、一般的にイメージされる「国債の暴落」に近いクラッシュ・シナリオが起きることは、考えにくい。
日本国債の本格的な暴落はまだない
注意すべきは急激なインフレへの転換
そのことは過去の例を見ても明らかで、短期的なボラティリティの発生は、我々は何度も経験している。
たとえば、1998年に日本国債がAaaからAa1へ格下げされた直後から、0.7%だった長期金利がわずか1ヵ月半で2.7%まで急上昇した(実際には、格下げの影響よりも資金運用部の国債余力が乏しくなったという要因が大きかったが)。
しかしその後、量的緩和の実施もあって、2002年までの間に0.4%まで下がっていった。2003年にはいわゆる「VaRショック」という銀行による短期的な国債の投げ売りが起き、金利は1ヵ月で1.7%へ急上昇したが、昨年までに0.8%まで下がっている。
つまり、日本国債の本格的な暴落は、今まで起きたことがない。本当の意味で国債暴落と金利急騰スパイラルが起きるには、ファンダメンタル全体が変化することが要因となるが、それは究極的にはインフレだ。それによって、日本の通貨の価値が本格的に毀損されると、一度上昇した金利はもう下がらなくなるが、現状はそうではない。
次のページ>> 財政再建の上で本当に必要なのは、「負担の公平化」
――逆説的に言えば、日本の期待成長が低い限り、ソブリンリスクは起きないということになる。むしろ経済が上向いたときこそ、本当の危機がやって来そうだ。
そういう考え方もできるだろう。今の日本はデフレ均衡状態にあるが故に、それが全ての問題にフタをしているという側面がある。しかし、期待成長が上がってデフレがインフレに転じれば、国内の需要が相対的に強まり、経常赤字につながる可能性はある。デフレからインフレへの転換は、実はかなり怖いことだ。
――欧州諸国のように、諸外国との関係によって、日本のソブリンリスクが高まることはないだろうか。
1つのシナリオとして、欧米の「ジャパナイゼーション化」で米国がデフレに転じれば、それが巡り巡って日本に影響を与える可能性はある。米国は今、緩やかなインフレ傾向にあるが、これは主に資源高によるものだ。消費の低迷を見る限り、国内は決してインフレが起きやすい環境ではなく、デフレへと転換する可能性は少なくない。
現在の米国はゼロ金利状態だが、インフレ率はプラスなので、実質金利は大幅なマイナスになっている。これがデフレに転じると、金利はゼロ以下には下げられないので、実質金利は逆に上がってくる。そうなれば、ドル高円安傾向となり、日本でインフレ傾向が強まる恐れもある。これが緩やかなペースならよいが、早いペースで進む場合は警戒が必要だ。
政府は財政再建をどう進めるべきか
「負担の公平化」なくして解決にはならない
――いずれにせよ、日本にとって財政赤字の解消は急務となる。国と地方を合わせた政府の債務残高は約860兆円と、GDPの2倍に及んでいる。これは、欧州危機の震源地となったギリシャを上回る水準だ。日本は財政再建をどう進めるべきか。
毎年大幅な赤字が続く状況には、一刻も早く歯止めをかけなくてならない。ただし、国は財政再建の方法論をもっとよく議論すべきだ。
我々も、将来的に消費税を一定割合引き上げることは、必要だと思っている。ただし、「何でもかんでも消費税を引き上げればよい」という政府や財務省の議論には、欠けている視点もある。
次のページ>> 高齢者にもっと負担してもらうためには、制度改革が必要
それは、「負担の公平化」だ。これを解決しない限り、増税で財政再建を進めたとしても、経済がうまく回るようにはならない。
現在明らかなのは、高齢者が受け取るおカネと若い世代が負担するおカネの割合とのギャップが、あまりにも大きいことだ。だから、若い世代はおカネを貯金し続け、なかなか消費をしようとしない。
現役世代を直撃する所得税の増税に比べれば、まだ公平感があるとはいえ、この上消費税を引き上げれば、現役世代はますますおカネを使わなくなってしまうだろう。それよりも、多くの金融資産を持っている高齢者層に、もう少し負担をさせることはできないだろうか。
高齢者の負担で理想的なのは資産課税だが、これは金融市場で資本回避を招く恐れがあり、現実的ではない。むしろ、高齢者におカネを使わせるための規制緩和や、税制優遇を行なうべきだろう。
高齢者の需要を増やすには
「抜本的な政策」が必要になる
――増税路線を突き進む野田内閣と財務省に、それができるだろうか。
国民に選ばれる政治家にとって、既得権益に手を付けるのは難しいことだ。しかし、現在の日本が「財政再建原理主義」の状態になっていることには、不安を感じる。野田首相の発言は、財務省の論理の域を出ていないように思える。
財務省が最も恐れているのは、深刻な高齢化によって貯蓄が減り、経常収支が赤字化して海外からの借り入れが困難になり、金利がハネ上がるというシナリオだ。ただ、国債の担当者は、少なくとも今は国債のフローがちゃんとバランスしており、本当に議論すべきことはっもっと他にあるということを、理解しているはずだ。
――高齢者の需要を喚起するためには、具体的にどうしたらよいだろうか。
一時期、団塊世代の大量退職により、高額消費が盛り上がるという期待もあったが、実際彼らの退職金の多くは貯金に回ってしまっている。彼らの消費意欲を喚起するためには、もっと根本的な政策が必要だ。
次のページ>> 「小泉改革」で、本当に財政再建の道筋が付けられたか?
たとえば、高齢者医療の安定性を確保すること。高齢者の最大の不安は「長生きリスク」なので、単に医療費をたくさん払うだけでなく、制度の安定性や持続性を担保し、高齢者が安心しておカネを使える環境にするべきだ。高齢者が多い街をもっと便利にして消費をし易くするなど、住環境の整備も必要になる。
財政再建は本当に進んだのか?
今なお問われる「小泉改革」の成果
――自民党政権時代の小泉改革は、財政再建が進展した局面だとの評価もあり、その後の財政状況が加速度的に悪化したことから、今後も小泉改革型の「規制緩和+歳出削減+増税回避」が財政再建の正しい方法だとする考え方がある。この考え方をどう見るか。
個人的には、正しくない部分も多かったと思うが、結果がよかったという点では、運が強い政権だったのだろう。
当時、小泉内閣が財政再建を唱えて公共投資をどんどんカットし、デフレ的な政策を推し進める一方、世界経済は未曾有の好況期に入っていった。結果的に、公共投資の低下を輸出の増加で補うことができたため、改革は一定の成果を挙げたように見えたのだ。
しかし社会政策的には、日本の労働環境を大きく変えてしまったという、負の側面が強かった。非正規雇用が増え、賃金水準が恒常的に下がっていく状況を招いたからだ。リーマンショックで経済成長が終わると、いよいよ若年層の低賃金化が深刻になっていった。
コストカットが進んだぶん、企業におカネが余り、銀行の貸付けが減ることによって、結果的に国債のファインナンスはうまくいっている。しかし、消費や投資は落ち込み、経済全体としては豊かさが感じられなくなってしまった。
今後は、家計所得を減じるような方向でのやみくもな規制緩和は望ましくない。人口高齢化を何とか消費需要につなげてゆくような形での規制緩和と、世代間負担の公平を主眼とする適度な増税措置を実施してゆくべきだ。
消費税についても、大きな課題を残したと思う。当時は好景気であり、消費税を引き上げるチャンスだったにもかかわらず、小泉首相はそれを封印したまま去ってしまった。そのため、後に続く内閣が大変な苦労を強いられることになった。
●つちや・たけとし/バークレイズ・キャピタル証券 ディレクター クレジットトレーディング部 クレジットアナリスト
1985年一橋大学卒業、石川島播磨重工業入社。87年野村證券入社、野村バンクインターナショナル(英国)、業務審査部を経て、野村インターナショナル(香港)にてアジア・ パシフィックの非日系リスク管理部門を統括。97年チェース・マンハッタン銀行入社。東京支店審査部長、アジア・パシフィック部門におけるデリバティブ取 引信用リスク数量化・管理業務の責任者を兼任。2000年よりチェース証券会社調査部長。01年より野村証券金融市場本部チーフクレジットアナリスト。 05年より 野村キャピタルインベストメント審査部長。09年より現職。著書に『財投機関債投資ハンドブック』『デリバティブ信用リスクの管理』など。
●もりた・ちょうたろう/バークレイズ・キャピタル証券 ディレクター 調査部 チーフストラテジスト
1998年慶應義塾大学卒業、日興證券入社。日興リサーチセンター事業調査部、日興證券債券トレーディング室を経て、94年より日興リサーチセンター投資調査部で債券ストラテジスト。99年日興ソロモン・スミス・バーニー証券入社、債券本部債券ストラテジスト。2000年ドイツ証券入社、経済調査部シニアエコノミストの後、04年より債券調査部チーフ債券ストラテジスト、07年より現職。
質問1 近い将来、日本国債の暴落はあり得ると思う?
57.1%
あり得る
28.6%
あり得ない
14.3%
どちらとも言えない
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