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中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス
“優しい闇金”が崩壊する やり場のない怒りと不満がはらむ怖さ
2011年9月28日 水曜日
福島 香織
日本では、友人間でカネの貸し借りは、友情が壊れる元としてタブー視されるが、中国では友人に借金を頼んだり、頼まれたりすることが普通にある。子供が大学にいく、あるいは留学する。母親が手術する。新しい商売を始めるから車を買いたい。家を買いたい。中国では、個人が銀行からお金を借りるのは簡単ではない。そもそも銀行は個人経営者や農民や出稼ぎ労働者レベルを相手にしてくれない。学資保険も医療保険も整備されていない。
だから、お金が入用なときは、親せきや友達に借りる。ただし、返さないことも多い。貸した方も返せ返せとあまりうるさく言わない。そういうのも織り込み済みでカネを貸すらしい。借金しっぱなし、されっぱなしで、友情や信頼関係が壊れないのかと思うけれど、意外に平気みたいだ。
「銀行に預けるより安心」
そういう、カネを借りても返さない感覚が当初、あまり理解できず、「中国人はカネに厳しいと思っていたのに、実際は甘いね」と、驚いたことがある。すると、ある中国人の友人は中国の伝統的なものの考えとして、こう説明してくれた。
中国では、今ある地位やカネ、財産も一夜にして失う可能性がある。たとえば汚職や政争で敗れて失脚し、財産を没収されることもある。そういう、一夜にして金持ちが貧しくなり、貧しいものが成り上がる波乱の時代を知っている人たちは、使わない余分のカネを友人に貸すのは当たり前。「銀行に預けるより安心、くらいに考えている」というのだ。銀行に預けたカネは没収されることがあるが、カネに困っていた友人に貸してやったカネと恩は没収されない。自分が困ったときに、遠慮なく頼れる友人がいる、という安心感が借金の担保なのだ、と。
「だから、お金を貸して、早々に返されると恩を売りきれなかった、と悔しいくらいだ」
そういう人間の信頼関係を基礎にしたカネの貸し借りが、いわゆる正規金融とは別のところで長年、中国の庶民経済を支えてきた。
ところで、最近は中国でも人間関係が世知辛くなくなってきたのか、あるいは物価がずいぶん高くなり、友達に借りる程度の小金では、今や都会に家を買うことも事業を興すことも難しくなったからか、こういう「友人同士の信用貸し借り」よりも、人人貸(P2P、ネットを通じた見知らぬ者同士の個人間融資)や民間高利貸しに依存する個人や中小企業が急増している。そして今年になって、この民間金融が危機的状況になっている、中国の金融危機の発端になるのは民間金融ではないか、という報告が相次いでいる。
「優しさ」ゆえのリスク
中国では民間金融は人民銀行(中央銀行)の基準金利の4倍以内であれば合法だ。しかし現実は、基準金利年6.65%(1〜3年)の4倍どころの利息ではない。民間金融の月利は10〜20%、年利は60〜70%、なかには100%というところもある。つまり、ほとんどが闇金なのだ。
ただ、闇金といっても、トイチ、トイニ(10日で1割、2割)で貸し、ずるずると生かさず殺さず利息をむしり取ったり、債務者を風俗や重労働で強制労働させたり、追い詰めて自殺させたり、といった日本のマンガに出てくるようなおどろおどろしいイメージはあまりない。むしろ、余っているお金のある個人や企業が「担保企業」「仲介企業」にお金を預け、銀行からお金を借りる術のない個人や小規模企業にお金を図るという「優しい闇金」だ。これがないと、民間経済が回らないので黙認されている。だが、この「優しさ」ゆえのリスクが表面化しつつある。
例えば今、浙江省温州市では9月、温州最大の眼鏡メーカー「浙江信泰集団」の会長が多額の借金を抱えて夜逃げしたことが大ニュースとなった。会長は複数の民間高利貸しからの借金しており、負債総額は20億元以上に上った。
実はこうした夜逃げしていた企業トップは大勢おり、9月12〜21日の10日間だけでも7人の「夜逃げ社長」がいた。その中の1人の女社長の負債額は28億元に上る。高利貸しに関わっていた夜逃げ社長は4月ごろから増えはじめ、海外に逃亡した江南皮革の黄鶴会長や、ポートマンコーヒーの厳勤為社長などいわゆる著名企業のトップまで逃げ出している。
8月だけでも20人が借金をかかえて“失踪中”。うち10億元以上の負債を抱えているのが3人。自殺しているのか、どこかに潜んでいるのか、分からない。
高利で又貸しした方が利益率は高い
中国人民銀行温州市センター支店が7月に発表した「温州民間金融市場報告」によると、同市の民間金融市場規模は1100億元で、市内の89%の家庭・個人および59%の企業が民間金融に参与しているという。
不動産投資がかつてほど魅力がなくなってくると、市場に余っているカネが民間金融、闇金に流れ込むようになってきた。普通のメーカー企業なら利潤は元手の2〜3%。しかし闇金なら6割以上の利潤が約束されている、と。
さらに問題なのは、銀行のカネもこういう担保企業など民間金融に大量に流れ込んでいることだ。企業が年利6.65%で銀行から融資を受けても、まじめに製造業などやっていては返せない。これを元手に高利で又貸しした方が利益率は高い。それで普通の企業までが銀行からの融資を名目を偽って民間金融に投資するケースも多いというのだ。その結果、闇金といっても、個人や企業法人、上場企業から商業銀行、公益基金に至るまで、さまざまな人間や組織が広範囲に関わっているのが現状だ。
この民間金融のカネは当然、不動産市場にも流れている。数年前であれば、不動産投資すれば高利貸しの年利以上の利益が出た。しかし不動産バブルは来年には調整局面に入ると言われている。この結果、高利貸しの借金を踏み倒し、失踪、破産する個人や企業が急増し、その結果、民間金融が資金を回収できず、その影響は商業銀行にまでドミノ式に及ぶ可能性がある、というのだ。
インターネット上でマッチング
銀行業監督管理委員会によれば、沿海部の民間金融市場だけで3兆元の銀行の融資残高を抱える。中西部なども民間金融が急増しているので、おそらく5兆前後の銀行融資が民間金融資金として流れ込んでいると推測されている。
パターンとしては、
[1]商業銀行が少額ローン企業、担保企業に信用貸ししている。
[2]個人が不動産を担保に銀行から融資を受け、それを高利で又貸ししたり、担保企業に投資したりしている。
[3]上場企業が昵懇の銀行から低利で融資を受け、高利で開発業者などに貸しつける。
今年初めに発動した不動産市場抑制政策で開発業者が資金調達に悩む中、[3]のパターンが増えているらしく、8月31日までに64の上場企業を通じて170億元の委託融資が中小の不動産企業などに流入しているという。
こういった野放図な民間融資の破たんが、連鎖反応して銀行システムに及ぶ金融リスクが無いとはいえない、と銀監会は警告するのである。
P2Pも同様の問題を抱える。
これは仲介サービス企業が会員を募り、カネを貸したい個人とカネを借りたい個人をインターネット上でマッチングさせる新しい形の個人間融資で2006年に最初のP2P仲介サービス「宜信」が登場して以来、近年急速に広がってきた。目下、中国には大小300以上のP2P仲介企業があり、当初2000万元程度だった融資規模は既に60億元を超えている。宜信を通じては現在、6万人が約20億元を借りているという。
利息は貸し手と借り手が額と期間に応じてそれぞれ決めるのだが、宜信で年利10〜12%に手数料10%程度で20%程度が標準。中には年利20%前後に手数料を加えて30%以上の利息がつく企業もある。
「P2P詐欺」なるものも続出
銀監会は今年7月に「哈哈貸」と呼ばれるP2P企業を、信用不足と資金不足を理由に閉鎖させたほか、8月にはP2Pのリスクに関する通知を発布した。
その通知では、P2Pの仲介サービスにはマクロコントロール効果があり、違法金融機関と見なされる可能性があると指摘したうえで、商業銀行とP2Pの間にファイヤウォールを作り、銀行がP2Pに参与しないようにしなくてはならない、と訴えた。
P2Pは個人経営者や農民、学生などが、所有する家や車を担保に個人資本家からそこそこの金利で借りる一種の互助システムであり、本来はその資金が不動産市場に流れることも、銀行システムに関わることもないはずだ。だが、銀監会が調査したところ、現実にはP2Pのプラットフォームを使い、有名銀行の協力をうたって、大量に民間資金をかき集め、不動産市場などに資金が流れ込んでいる状況がある。貸しつける側が、銀行から受けた融資を又貸ししている場合も少なくない。
また、いわゆる「P2P詐欺」なるものも続出している。つまり借りたカネを踏み倒すつもりで、いくつものP2Pに登録して大量の借金をする。仲介企業はあくまで仲介者で、銀行のようなしっかりした事前審査機能や監督機能は持たない。仲介企業の甘い宣伝にのって、銀行に預けるより利率がよいとばかりに、財テクの気分で資産を貸す個人が被害に遭っている。
分からないだけに不気味
こういう民間金融のカネの流れは、きっちりとした統計的もなく、そのリスクが実際にどの程度なのかは分からない。分からないだけに不気味である。不動産価格が下落しても商業銀行は耐えられると主張する銀監会も、民間金融の破たんが同時に起きたとき、中国の銀行システムは無事であるとは言い切れないのである。
そしてこういうリスクは単純に経済の問題だけでない。かつては借金を返してもらえなくとも、恩という鎖で強固にした人間関係を頼っていかなる波乱、動乱をも乗り越えることができた中国人だが、現代の民間金融では、こういう報恩の人間関係は築けない。人間関係ではなく、利子の高さだけを動機としたカネの貸し借りの破たんは、多くの庶民のやり場のない怒りと不満を生む。その怒りと不満の爆発こそ、“優しい闇金”のはらむ怖さだろう。
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中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス
新聞とは新しい話、ニュース。趣聞とは、中国語で興味深い話、噂話といった意味。
中国において公式の新聞メディアが流す情報は「新聞」だが、中国の公式メディアとは宣伝機関であり、その第一の目的は党の宣伝だ。当局の都合の良いように編集されたり、美化されていたりしていることもある。そこで人々は口コミ情報、つまり知人から聞いた興味深い「趣聞」も重視する。
特に北京のように古く歴史ある政治の街においては、その知人がしばしば中南海に出入りできるほどの人物であったり、軍関係者であったり、ということもあるので、根も葉もない話ばかりではない。時に公式メディアの流す新聞よりも早く正確であることも。特に昨今はインターネットのおかげでこの趣聞の伝播力はばかにできなくなった。新聞趣聞の両面から中国の事象を読み解いてゆくニュースコラム。
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著者プロフィール
福島 香織(ふくしま・かおり)
ジャーナリスト
福島 香織 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002〜08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。著書に『潜入ルポ 中国の女―エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)、『中国のマスゴミ―ジャーナリズムの挫折と目覚め』(扶桑社新書)、『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版刊)、『中国のマスゴミ』(扶桑社新書)など。
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