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実質的な投資効率がコストの低い新興国と同レベルになるまでは、先進国での競合する民間投資はなかなか伸びないから
金融政策や財政政策でいくら雇用や消費を押し上げようとしても、一時的なものにしかならず、穴の空いた風船のようにマネーは投資効率の高いエリアに流れていく
それ自体は、自然の流れであり、変えようもない動きだ
それでも無策というわけにはいかないから、短期的な刺激策を利害の対立する人々から批判を受けながらも繰り返しやっていくのだろう
ただ北欧を見ればわかるように、潜在成長率を高めるような規制や税制、社会保障改革、低所得層対策のBIなど長期を見据えた構造改革をしておけば、ダメージは遥かに小さかったとは言える
http://diamond.jp/articles/-/14163
ソブリン危機――歴史的難局の選択肢【第12回】 2011年9月27日
世界経済失速にどう立ち向かうか(上)
思わぬ副作用に悩まされる米国の財政・金融政策 Fedの新金融緩和強化策も効果は極めて限定的
――京都大学公共政策大学院教授 翁 邦雄
8月上旬にFed(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長は、金融緩和の継続を決め、さら に21日には保有する短期国債を売り、長期国債を買い入れる「ツイストオペ」を実施すると発表した。一方、9月上旬にはオバマ大統領が新たな景気対策を発 表したが、世界の金融市場の動揺は収まっていない。
今、世界経済には何が起こっているか。
かつて日本銀行の理論的支柱と目され、最近『ポスト・マネタリズムの金融政策』を著した、翁邦雄京都大学教授に、米国を中心とした金融・財政政策の評価、そしてこれからの政策対応として、何ができるのかについて聞く。
リスク回避、不確実性の高まり実需の大幅な減少が起こった
まず、2008年に起こったリーマンショックで、どういうことが起きたか考えてみましょう。米国のFedと財務省が、大手投資銀行であるリーマ ン・ブラザースの処理を誤った結果、不確実性が大きく高まり、リーマンショックは予想を超えた金融危機になって、金融市場が機能不全に陥った。機能不全の 背景にあるのは、市場参加者がみなリスクテイクを極端に避けようとした、ということです。
金融市場の不確実性の高まりは、実体経済の急激な収縮につながります。経済活動がファイナンスできない、という直接効果だけでなく、企業も家計も 濃霧の中にいるような不確実性を強く感じると、耐久消費財を買ったり、設備投資したり、といったことをとりあえず見合わせて、可能な限り先送りする。不確 実性そのものが実需の急速な落ち込みにつながるわけです。何が起きたかを私なりにまとめると、誰もリスクテイクしなくなった、不確実性が高まった、実需が 強烈に冷え込んだ。それがリーマンショック直後に起きたことです。
次のページ>>リーマンショック後に起こった3つの現象
もう一つ、金融危機には中長期的影響もあります。これは、90年代の日本のバブルの崩壊後と一緒で、金融機関や家計、企業のバランスシートが毀損 されてしまい、民間部門がそれを修復していかなくてはならない、という中長期的な課題を抱え込んだ、ということです。リーマンショックの影響は、大雑把に 言えば、これらの組み合わせで理解できる、と思います。
だから、経済政策は、これらに対応する必要がある。つまり、第1に市場参加者が萎縮して極端なリスク回避に走っているのを何とかしなくてはならな い。二つ目は不確実性の払しょく。三つ目は落ち込んだ需要を下支えること。これには二つの側面があって、短期の厳しい冷え込みに対する需要の補てんと、も う少し長い目で見て、民間部門のバランスシートが回復するまでの間は、ずっと経済が貧血状態にあるので、この間、需要をどう下支えするか、ということで す。
――リーマンショック後、米欧を中心に、政府・中央銀行は大規模な金融緩和や財政出動を実行しました。その政策の効果が、あまりなかったということでしょうか。
今申し上げた三つのポイントに沿って評価する必要がある、と思います。リスクテイクの回避をどの程度緩和できたか。不確実性をどの程度解消できたか、そして実体経済の需要収縮をどの程度緩和できたかということです。
これらの点で、Fedの政策はどうだったか、ということですが、まず、リスクテイクの話からすると、金融危機下のリスク回避で起こることの一つの 側面は、リスクプレミアム(リスクに対する上乗せ金利)が跳ね上がるということです。短期金利の誘導水準水準を2%程度から0%に引き下げたところで、買 い手がほぼいなくなった金融資産については、資産価格の暴落つまりリスクプレミアムの大幅な跳ね上がりをとても相殺できない。だから、Fedは08年12 月からの「信用緩和」政策でMBS、モーゲージ、CPといった個別市場で買い手になることで、これらの市場での「リスクプレミアムの暴騰とリスクテイク回 避の悪循環」を食い止めようとしました。実際、金融市場の不安定化の拡大は食い止めた、と思います。
次のページ>>需要刺激という点では金融政策には限界
不確実性の急激な高まりに対しても、信用緩和をやり、さらにその後、QE2で何かすごいことをやっているのでは、という幻想を与えることで、金融市場の不安心理をある程度、抑えてきた、といえるでしょう。
ただ、需要刺激という観点からは、政策金利がほぼゼロになると、それ以上は短期金利が下がらない。通常の金利政策の経路ではそれ以上需要を下支えすることは不可能なわけです。そうすると、需要への対応は、財政政策に頼ることが考えられます。
非伝統的な金融政策の話は後でしますが、ただ、90年代の日本のデフレについて厳しく日本銀行を批判し、金融緩和を言い続けてきた(ポール)ク ルーグマンなどが、今回の米国の金融危機後は、最初から一貫して大規模な財政出動の方を主張しているのは、日本の経験も踏まえてゼロ金利制約に直面してし まった後は、金融政策でできることは相当に限られている、という認識になっていることが背景にあると思います。
インフレ率の高まりはFedにとっては予想外
――Fedが、昨年の11月から今年の6月まで実施したQE2についても、評価が分かれていますね。
QE2は判りにくい政策です。そもそもQEとは何かということですが、Quantitative Easingつまり量的緩和とよばれているわけですけれども、Fedの目的は量的な拡大ではなく「長期金利を下げること」、短期金利がゼロになってこれ以 上下げられなくても長期債を買えば、長期金利はまだ下げ余地がある、という発想です。Fedは、量的緩和という表現を非常に嫌っています。
次のページ>>食料品とエネルギーに偏って物価が高騰
バーナンキ議長も金融危機時の中央銀行のバランスシートの拡大や縮小は、金融緩和度と関係ない、量が縮小しても金融緩和度が上がる局面もあるのだ から、量でみないでくれと言っていますし、そのために、わざわざ「信用緩和」という言葉を作り出したくらいです。だから、量と金融緩和を結びつけるような 「量的緩和」というネーミングが定着したことは不本意でしょう。
実際に起きたことも複雑で、本来の狙いであった長期金利を持続的に押し下げる効果については疑問符がつきます。他方で、インフレ期待の低下は止ま りましたし、因果関係ははっきりしないものの原油や食料品など、金融商品化して投機的な資金の受け皿になってきているコモディティの価格がものすごく上 がってしまって、それが予想以上にインフレにも効いてしまった。
バーナンキ議長は、QE2はデフレの払拭には効果があったといっています。しかし、食料品とエネルギーに偏って物価が高騰した結果、消費には強い ブレーキがかかり、むしろ景気にはマイナスになった。Fedにとってショックだったのは、景気がよくならず、失業率は下がらないのに、インフレ率だけが景 気回復の芽を摘むような悪い形で上がってしまったことでしょう。
予想外の効き方で痛みがやたらに大きく、また一方で、新興国も「Fedがあんなむちゃくちゃなことをやるから、食料とエネルギーが上がってけしか らん」と怒っているし、共和党からも「反逆罪」という言葉が飛び出すほど批判も強い。それで、景気の足取りが重くなり、何かやる必要に迫られてもすぐ QE3に飛びつく、という感じにはなりにくいのだと思います。
9月20日・21日のFOMC(連邦公開市場委員会、日本銀行の金融政策決定会合にあたるもの)についてFedは、会議日程を通常より1日伸ばし て2日間とし、そこで徹底的に議論する、と予告することで、市場に新たな金融緩和強化策の発動を強く示唆してきました。市場が固唾を呑んで見守る中、 FOMCは「経済成長は依然鈍い、労働市場は弱い、家計の支出も緩慢な増加にとどまっている、経済見通しには重大な下振れリスクがある」、といった厳しい 情勢認識を示した上で、償還までの残存期間6〜30年の米国債を2012年6月末までに4000億ドル購入する一方で、残存期間が3年以下の米国債を同額 売却するという形でバランスシートの構成を変えるという、新たな「金融緩和強化策」を打ち出しました。
次のページ>>突進してくるサイを水鉄砲で止めようとしている
これは、いわゆるツイスト・オペレーションと呼ばれるもので長期金利の押し下げをはかる政策です。標準的な金利決定理論から考えると、長期金利は 予想短期金利の平均値に、リスクプレミアムを上乗せしたもので決まります。Fedは前回のFOMCから「2013年の半ばまではFFレートは例外的な低水 準にとどまるだろう」と述べ、短期金利の予想経路はこのアナウンスメント効果で抑えようとしています。今回、長期国債の購入比率を高めることで、リスクプ レミアムの方に働きかけて長期金利をさらに押さえ込む、という構図をめざしたことになります。この点、QE2よりも誤解されにくい政策、と言えるでしょ う。
今回の政策は、ほぼ市場の事前予想通りです。しかし、この緩和策では、仮にFedの思惑通り長期金利が少し下がったところで景気浮揚効果は極めて 小さい、という見方が一般的でした。口の悪いクルーグマンは今回の金融緩和強化策について「Fedは突進してくるサイを水鉄砲で止めようとしているように みえる」、とブログに書いています。
結果として、10年ものの国債金利は政策の狙い通り低下したものの、株価は大きく下がってしまいました。その背景には、欧州情勢への懸念の深刻化 もありますが、FedがFOMCを2日間に延長し、金融緩和について徹底的に議論することをアナウンスして、金融緩和期待を煽ってきたにもかかわらず、世 界経済の一段の悪化の可能性が高まる中で、早くから想定されていた範囲内の金融緩和しか打ち出してこなかったことに対する市場の失望も含まれているでしょ う。長期金利の低下は、リスクプレミアムの押し下げの成果というより、米国の景気回復が後ずれし、予想成長率が下がることへの懸念をより色濃く反映してい ると考えます。
今回、Fedは、用意していた緩和強化策のわりに市場の期待を煽りすぎたのでは、という気がします。かねてバーナンキは「Fedはまだいろいろな 金融緩和ツールをもっている」、と言っていますが、これまで言及してきた具体的な選択肢はいずれも「水鉄砲」級で、むしろ手詰まり感を強く感じさせるもの ばかりです。もし経済状況が今後さらに悪化した場合に、どういう対応で局面の転換をはかろうとするのか。この点は大いに注目されるところです。
次のページ>>財政出動の規模が小さすぎたという主張
米国の財政政策で検証すべき二つの論点
――オバマ政権がリーマンショック後に実施した、約7900億ドルに達する景気対策の効果については、どう評価しますか。
財政政策についてもリスク回避、不確実性、需要補填の三つの視点から見る必要があると思います。この三つの要素のうち、リスクテイクの問題に関し ては、金融市場の話なので、財政政策は前面には出ていません。ただし、Fedの信用緩和によるリスクテイクは資源分配に影響を与える財政的な政策ですし、 これをバックアップしている財務省にリスクは移転されています。
ご質問のオバマ政権の景気対策効果については、不確実性の払拭、需要追加の二つの観点からみるべきでしょう。7900億ドルの景気対策のパッケー ジについては、巨額の割には景気がよくならないので、財政出動してもあまり意味がない、むしろ財政赤字の拡大の方に効いているということで、アメリカでの 議論の焦点は、財政再建問題の方に移ってしまっているようにみえます。財政赤字解消のメドが立たないと、不確実性から米国債の信認が失われる、その前にな んとかすべきだ、ということになります。
しかし、財政政策のあり方を考えるうえでは、検証すべき点は二つあるはずです。一つは、そもそもケインズ的な政策が本当に無効なのか、という議論 です。ケインジアン的なエコノミストが言っていることは、本当はもっとパッケージを大きくすべきだったのでは、ということです。財政による景気刺激が奏功 した、という実感が乏しいので財政赤字縮減を求める議論が強まっているのですが、小さかったからダメだったのだ、という議論はありえます。
ケインジアンの誰かが使っていた比喩でいえば、自動車で坂道を登るのに、助走を大きくとり思い切って加速すれば坂を越せるのに、十分でなかったか ら中腹でストップしてずるずる下がってしまった、という主張です。金融危機後の景気後退を「大規模だけれど一過性の需要落ち込み」と捉えれば、このケイン ジアン的な議論はそれなりにうなずけます。
次のページ>>債務上限の引き上げ問題でかえって不確実性が高まる
ただ、第2に検証すべき点は、本当に「一過性」の需要落ち込みなのか、ということです。最初に述べたようにバランスシート調整が続いている間は、 財政か外需で外生的に需要が下支えされないと、景気は弱い。その調整は日本の経験から言えば、ものすごく長くかかるかもしれません。しかし、ふつうはそん なに長い間、財政出動で需要を足し続けられなくなるはずです。すると、景気が弱くても、どこかで財政政策は手を引かなくてはならない、ということになるか もしれません。
IMFの新しい専務理事のラガルドなどもそういう意見だと思いますが、いま、よく言われている正しい処方箋は、短期的にはフレキシブルな財政出動 と長期的な財政再建の組み合わせ、ということだと思います。それはその通りなのですが、現実は短期の連続で、バランスシート調整が続く限り、短期ではずっ と貧血経済で需要が足らないわけだから、そのどこかで財政が区切りをつけて引くことができるのか、という問題になります。
アメリカの財政政策のあり方に戻って言えば、バランスシート調整が日本の経験に比べて、どの程度、短くすむのかということが問題なのだとおもいますが、アメリカの場合は、とにかく財政赤字がプライオリティの高い政治的なテーマになってしまった。
それでも、財政赤字削減へのきれいなグランドデザインを示して不確実性を解消し、マーケットの信認を得る、という方向に行ければよかったのです が、それが債務上限の引き上げ問題、というかたちで、すったもんだした挙句にきれいなガイドラインは出てこず、かえって不確実性が高まった。国債は格下げ になったうえに、財政政策が需要補填にフレキシブルに使われる可能性はかなり悲観的に見ざるをえない状況になったわけです。
それで金融市場は一時かなり不安定化しました。アメリカでは、国債が格下げされたにもかかわらず、市場参加者のリスク回避の姿勢が一層強まって国 債が買われ、株が売られて株価が下がるという現象が起きてしまった。財政政策は長期的な不確実性を減らしながら適切なタイミングで需要を下支えする必要が ある、という大きな構図から言えば、極めてうまくないことが起こっているし、リスクテイクに働きかけるという観点から言っても、マイナスに働いている。日 本の財政政策もどうなるんだろう、という感じですが、アメリカも何をやっているんだろう、という感じではありますね。
※この続きは明日9月28日(水)に掲載します。
(聞き手/ダイヤモンド社論説委員 辻広雅文、ダイヤモンド・オンライン客員論説委員 原 英次郎)
お きな くにお/1974年東京大学経済学部卒業、日本銀行入行、80年シカゴ大学留学、83年同大学でPh.D取得・日本銀行復帰(金融研究所)、85年筑波大 学社会工学系助教授、88年日本銀行復帰(総務局)、92年調査統計局企画調査課長、94年金融研究所研究第一課長、97年企画局参事、98年金融研究所 長、06年日本銀行退職、中央大学教授、09年京都大学・公共政策大学院・教授、現在に至る。『金融政策』(東洋経済新報社)『ポスト・バブルの金融政 策』(共著、ダイヤモンド社)『バブルと金融政策』(共著、日本経済新聞社)『ポスト・マネタリズムの金融政策』(日本経済新聞出版社)など著書多数。
http://diamond.jp/articles/-/14163/votes
質問1 米国経済はこれから景気後退に向かうと思いますか?
100%
思う
思わない
わからない
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