http://www.asyura2.com/11/hasan73/msg/388.html
Tweet |
リスクオフにも、いろいろパターンがあるから
そう単純ではないと思うが、教育的か
http://diamond.jp/articles/-/14162/votes
第196回】 2011年9月27日
真壁昭夫 [信州大学教授]
止まらぬ金価格の上昇を不審に感じる人が急増中 一般論では説明できない「金と通貨の恐ろしい事情」
なぜ金の価格がこれほど上がるのか?
説明のために筆者が用意した「2つの回答」
「何故、金の価格がこれほど上がっているのですか?」
最近、金価格上昇について尋ねられることが多い。そのときのために答えを2つ用意している。
1つは、あまりショックに強くない、つまり穏当な説明を期待する人への答えだ。「経済の先行きが不透明なので、投資資金が他に行くところがなくて金に回っているのでしょう」という説明である。
それは、今起こっていることの一端を言い当てているはずだ。しかも、説明を聞く人にとって、それほど刺激的ではないだろう。
もう1つの答えは、「金価格の上昇は、裏を返せば通貨、特に基軸通貨であるドルの価値が下落しているということ」という説明である。
そう答えると、多くのケースで、「まだドルの価値は下がるのだろうか?」という質問が来る。それに対しては、「米国の経済状況次第ですが、個人的には、まだ下がる可能性は高いと思う」と答えることにしている。
もともと金に対する人々の憧憬=憧れの感情は強い。そのため、金に対する需要は安定している。需要が安定しているから、その価値が変わりにくいのである。
かつて通貨は、その金の価値の安定性に助けられていた時期がある。金本位制の時代だ。通貨自体を金で鋳造したり、通貨と金との交換を保証したりすることで、通貨の価値を一定に保つ仕組みだ。
ところが、金の産出量は限られているため、経済の規模が拡大すると通貨の増発に制約がかかることになった。つまり金の供給が、経済の拡大のペースに合わなくなってしまったのである。それは、経済の成長を制約することにもなりかねない。
1971年8月、いわゆるニクソンショックによって、米国のドルが金との交換を停止して以来、基本的に全ての通貨は金とのつながりを解消したことになる。逆に言えば、それぞれの国の通貨はドルとの交換比率を表示することで、その価値を表現することになった。
基軸通貨であるドルを中心とした、世界の通貨制度である。そのドルの価値が崩れようとしている。こう考えると、確かに恐ろしいことが起きているのである。
ニクソンショックで金の裏づけは消滅
ドルが基軸通貨たり得た「米国への信任」
71年のニクソンショックによって、金とのつながりを失ったドルの価値を維持してきた要素は、何と言っても米国の世界ナンバーワンの実力だ。
世界で最も強い経済を持ち、軍事力、政治力全ての面で世界のトップに君臨してきた米国だからこそ、その国の通貨であるドルに信用があり、世界中の人々がドルを保有することを望んだのである。冷戦構造の中で、旧共産圏主義諸国に勝利したことも、重要なファクターだった。
ところが、時が経つにつれて、米国の優位性に次第に陰りが見え始めた。1980年代には、1人当たりのGDPで一時的に日本の後塵を拝したこともあった。90年台に入り、IT革命によって再び米国は経済力を高めたものの、その勢いは長くは続かず、2000年にITバブルが弾けると、金融を中心とした経済構造に軸足を置くようになった。
その間、2001年9月に発生した同時多発テロによって、圧倒的な軍事優位性が少しずつ低下するようになった。また、2000年代初頭の住宅バブルが崩壊し、08年9月のリーマンショックの発生によって経済的な優位性にも陰りが見え始め、米国の比較優位性に決定的な打撃となった。
そうした事態に対応するために、米国は二度の量的緩和策を実施し、通貨供給量を積極的に拡大した。これは有体に言えば、輪転機を回してドル紙幣を刷って、市中にバラまくことだ。
バラまかれたドル紙幣は世界中に流れ出すことになり、結果としてドルの価値を下落させることになる。それは、当然の帰結と言える。
問題は、世界の通貨の中心であるドルの価値が、ここへ来て急速に低下していることだ。その影響は、わが国の円をはじめ、世界の通貨に及ぶことになる。それに加えて、ソブリンリスクの高まりによって、準基軸通貨と言われたユーロの価値も怪しくなっている。
ダボつくドルと新興国の需要拡大
米国の力は「通貨」から崩れつつある
主要先進国の多くが、金融政策を緩和して通貨供給量を増やしている。供給量が増えると、一般的に当該通貨の価値は下落しやすくなる。通貨の価値が低下すると、基本的には物価水準が上昇することになる。
一方、BRICsなどの主要新興国の経済を見ると、依然として高い経済成長率を達成している。多くの人口を抱える主要新興国では、経済成長率の高まりに伴って人々のモノを買う力=購買力が顕著に上昇する。
購買力が上昇すると、人々は、「おいしいものを食べたい」「いい住宅に住みたい」「きれいな服装をしたい」という欲求が強まる。その結果、社会全体の需要が増加し、モノの価格は上がりやすくなる。いわゆる、デマンド・プル型のインフレ圧力が高まるのである。
先進国の「通貨増発プラス新興国の需要増大」の要素が重なると、世界的でインフレ圧力が高まることは避けられない。特に、食糧品のように新興国を中心に需要が飛躍的に増加するにもかかわらず、短期間には供給を大きく増加させることが難しい財については、価格上昇の圧力が一段と高まることが予想される。
世界的な価格上昇傾向が、先進国を含めた世界経済を活性化し、好景気へと導いてくれればよいのだが、問題は欧米など主要先進国のストック調整が完全に終了していないことだ。
米国では、不動産市場の低迷に加えて労働市場の回復も遅れている。欧州でも、ソブリンリスクの落ち着きどころが見えない。その結果、先進国を中心に景気の低迷が続く一方、物価水準が上昇傾向を辿るスタグフレーションの可能性が高まる。最悪のケースでは、1930年代の“大恐慌”のように経済状況が落ちこむことも懸念される。
最近、欧米メディアの経済記事を見ると、かなり悲観的な内容が目につく。中には、「ユーロの崩壊は避けられず、一定の目途がつくまで価格変動性の高い金融商品の保有を極力減らすべきだ」というものまである。
投資家は欧州の「リスクオフ」を鮮明化
金融市場の混乱を占う金価格の推移
確かに、海外のファンドマネジャー連中とメールのやり取りをしていると、保有するリスク量を減らすオペレーション、いわゆる“リスクオフ”のスタンスを明確にしていることがわかる。
彼らの頭の中では、欧州のソブリンリスクがギリシャに留まらず、ポルトガルやスペイン、さらにはイタリアまで拡大する懸念が現実味を帯びているのだろう。
それが現実のものになると、フランスやドイツなどの大手金融機関の経営状況が悪化することは避けられない。すでにいくつかの大手金融機関は、金融市場で多額の資金取引を行なうことが難しくなっているという。
それに対してECB(欧州中央銀行)は、年末にかけて無制限の資金供給をすることを明言し、金融機関を支援する姿勢を鮮明化している。しかし、中央銀行による流動性供給は、金融機関の資金繰りを助けるものではあるが、保有する国債などから発生する損失によって毀損した資本勘定を、補填するものではない。
早晩、欧州を中心として金融機関の資本増強の動きが本格化すると見られる。しかし、投資家が“リスクオフ”の姿勢を鮮明化する資本市場が、金融機関の多額の増資を賄うことができるだろうか。疑問の余地がある。
仮にそれができないと、国が公的資金を金融機関に注入することが必要になる。重要なポイントは、それぞれの国が独力で公的資金を注入し、金融機関を救済することができるか否かだ。
それができないと、金融機関の破綻を救うことができず、金融システム不安が発生し、それが世界的に広がることが懸念される。
そうしたシナリオを考えると、欧州のソブリンリスクの先行きが見えるようになるまで、リスクオフの姿勢を取ることに十分な説得力があると考える。金価格の上昇は、そうした懸念を表していると言える。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。