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震災の復興財源探しで、政府保有株の売却論が浮上している。株売却で最大の資金収入が見込まれるのが日本郵政だ。純資産は9.9兆円。PBR1倍なら同額の市場価値となるはず。だが今の日本郵政に、本当にそれだけの市場価値があるのだろうか。
■ゆうちょ銀、PBR1倍の価値はあるか
日本郵政の連結純資産9兆9000億円(今年3月末)の内訳は、傘下のゆうちょ銀行が9兆円、かんぽ生命保険が1兆2000億円で、2社で大半を占める(連結は内部消去の関係で単純合算とはならない)。このためゆうちょ銀とかんぽ生命をグループに残す「郵政改革法案」の考え方を前提とするなら、日本郵政株の市場価値を試算するには、この銀行・保険子会社の価値をどう見積もるかがカギだ。日本郵政株を売却するとしても、政府は3分の1超は保有し続けるため、売却できるのは最大3分の2弱ということになる。
「ゆうちょ銀は収益性が低く、大手銀行のPBR(株価純資産倍率)と比べても純資産価格で売却するのは難しい」。JPモルガン証券の笹島勝人銀行株担当アナリストはこう指摘する。大手銀行のPBRは現在0.6倍前後で、仮に同水準なら、ゆうちょ銀の市場価値は9兆円の6掛けで5.4兆円となる。世界的に見ても銀行株のPBRは平均で1倍を下回っており、ドイツ証券の神山直樹チーフエクイティストラテジストも「PBR1倍で売るのは難しい」とみる。
PER(株価収益率)ならどうか。大手銀行は平均で7.1倍。消費者金融事業などを持たないゆうちょ銀はもう少し高いとして、仮に10倍だとしても、2011年3月期の純利益は大手銀行を下回る3163億円なので、市場価値は3兆円強ほどにしかならない。
成長シナリオも見えにくい。資産を効率良く使って稼いだかを示すROA(総資産利益率、業務純益を総資産で割った比率)は0.2%だが、大手銀は単体で0.5%ある。さらに業務の効率性を示すOHR(経費を業務粗利益で割った比率)は70.4%と、大手銀行の50%を大きく上回り、経費の高さと低収益性が浮き彫りになる。
前期の経費1兆2102億円のうち、半分の6319億円を占めたのが郵便局会社に支払う業務委託手数料だ。貯金の取り扱いなどによって一定の料率が決まっているようで、株式会社後の4年間はほぼ横ばい。今後も全国津々浦々の店舗網で金融機能の維持を義務付けられるとすれば、「業務委託手数料の削減は難しそう」(笹島氏)。ユニバーサルサービスが求められる中では人件費や物件費の削減も限界がある。
となると、規模拡大や収益源の多様化が重要になるが、貯金残高は00年3月期の260兆円をピークに右肩下がりで前期は175兆円まで減った。1人当たりの預入限度額を現在の1000万円から引き上げることになれば、貯金が集まりやすい環境にはなる。ただ足元の金利は定期で3年未満が0.035%、3年超で0.05%と大手銀とほぼ同水準で、暗黙の政府保証というだけでは資金シフトは期待しにくい。
低金利の国債運用の代わりに一部で始めている住宅ローンに加え、将来、法人向けの貸付業務ができるようになったとしても「市中銀行同士が過当競争する中で、簡単に収益があがるほど甘くはない」(別の外資系証券アナリスト)。収益拡大策が期待しにくいもう一つの証左が、07年に策定した中期経営計画と実績との比較だ。純利益は09年3月期の3210億円から前期に3650億円に拡大する計画だったのに対し、実績は09年3月期が2293億円、前期が3163億円にとどまった。集めた資金で国債を買うだけの会社に、投資家は「夢」を見ないだろう。
一方で、純資産程度の企業価値はあるとの見方もある。「貸出金が焦げ付くリスクを抱える銀行と異なり、資産がほぼ国債で経営リスクが小さいから」(米系の企業価値評価会社の幹部)だ。銀行法に基づく自己資本比率は74%と、世界の大銀行でも類のない高さ。市中銀行のように「増資懸念によるディスカウントもない」(同)。極めてシンプルな経営ゆえに、PBR1倍という解散価値程度はあるという皮肉な見方とも言える。
かんぽ生命もゆうちょ銀とほぼ同様の経営環境にある。保険料収入は2期連続で減少、飽和状態の日本の保険市場で収益を大きく伸ばす戦略は描きにくい。ただ、PBRは第一生命保険(8750)が1.07倍だけに、純資産の1兆2000億円程度は期待できそうだ。
■連結総資産293兆円、実は「国債の塊」
日本郵政の連結総資産は今年3月末で293兆円、上場企業最大の三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)の206兆円を上回る。ただ資産の72%は国債で、実体は「国債の塊」だ。日本の国債発行残高758兆円の27%を背負っている。
資産全体のうち、ゆうちょ銀行の資産は193兆円、かんぽ生命保険の資産が96兆円で、2社でほとんどを占める。主な負債はゆうちょ銀が集めた貯金の174兆円、かんぽ生命が保険契約者への支払いに備えて積んである準備金の93兆円。貯金や保険で資金を集め、国の巨額借金を賄うという日本の財政構造を鏡映しにしたような貸借対照表(バランスシート、BS)だ。
国債に次いで多い資産が社債で、19兆円。国内の社債発行残高62兆円の3割を保有する国内最大の社債投資家でもある。一方、市中銀行で資産の大半を占める貸出金は18兆円と、資産の1割にも満たない。
「虎の子」の資産が、JR東京駅前の旧東京中央郵便局の敷地に建設中の「JPタワー(仮称)」。JR東日本、三菱地所と共同開発中で、来年には地上38階建ての巨大なオフィスビルに生まれ変わる。旧庁舎は戦前の優れた建築物として知られ、2009年には当時の鳩山邦夫総務相が「トキを焼き鳥にするようなものだ」と発言、旧庁舎の外観がより多く保存されるように設計が見直された。土地の所有者は郵便局会社。BSに路線価で計上しているといい、含み益が期待できそうだ。
一方、各社の11年3月期決算をみるとグループ全社が減収で、成長力に疑問符を付ける市場関係者が多い。なかでも2期連続で赤字の郵便事業会社は経営の重荷。宅配便の不振に加え、手紙やはがき、書類の代わりにインターネットでやりとりする人が増える中で、苦戦が続いている。
(藤原隆人、山本由里、宮本岳則)
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連結総資産293兆円の72%までもが国債で占められているとは驚きだ。早晩これ以上国債を購入できなくなる事態に直面することは明らかだ。
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