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「オペレーション・ツイスト」を受けた金融市場の反応は、「世界同時株安」「長期金利低下」「ドル高」というものであった。
「オペレーション・ツイスト」実施に踏み切ったFRBの思惑通りに動いたのは債券市場のみで、その他の市場はFRBが懸念していた方向に大きく動いた。金融市場は、FOMC声明の「今後、景気回復ペースが幾分高まると予想」という部分は全く無視し、「景気見通しに対しては著しい下振れリスクが存在し、これには世界の金融市場における緊張が含まれる」という部分に大きく反応した格好。
米国債券市場では、「オペレーション・ツイスト」実施に敬意を払うと共に「株安」が加わり、30年国債が大幅に上昇(利回り低下)。米30年国債利回りはこの2営業日で3.21%から2.79%へと42bp低下。2営業日の利回りの低下幅としては、金融危機の最悪期にあった2008年12月以来の最大となった。
世界の株式市場は、景気回復に対する効果が定かでない「オペレーション・ツイスト」ではなく、「景気見通しに対しては著しい下振れリスクが存在し、これには世界の金融市場における緊張が含まれる」というFOMCの声明に過敏に反応。
22日の世界の株式市場はNYダウが2日間の下げとしては2008年12月以降で最大の下落を記録するなど、全面大幅安となった。アジア市場では今年度最も好調な市場の一つであったインドネシアのジャカルタ総合指数が1日で8.8%下落したのを筆頭に、インド、香港が4%以上下落するなどほぼ全面安。欧州もフランスCAC40が5%以上下落をしたのをはじめ、軒並み4%を超える大幅下落。その結果、MSCIのALL COUNTRY WORLD INDEX(先進国24カ国と新興国21カ国の合計45カ国で構成)は4.49%の下落(US$ベース)となった。
金融市場がFOMC声明の「景気見通しに対しては著しい下振れリスクが存在し、これには世界の金融市場における緊張が含まれる」というコメントに過剰に反応したのは、金融市場がドルを調達資金とした「キャリートレードの巻戻し」に入っていたからである。
「キャリートレード」が成立するためには、「魅力的な投資先」と「安定した調達通貨」が存在することが条件である。ここに来てこの2つの条件が両方とも満たされない方向に動き出していた。
「魅力的な投資先」であった資源国や新興国通貨は8月31日にブラジルが予想外の50bpの利下げに踏み切ったことに加え、ユーロの逃避先であったスイスフランも9月6日にスイス国立銀行が約30年ぶりにフランの上限(1ユーロ=1.20フラン以上のスイスフラン高を容認しない)を設定したことで、「魅力的な投資先」が減少する状況に変化し始めていた。
こうした「魅力的な投資先」の減少と同時に、ユーロ圏ソブリン債危機が拡大して来たことで、「キャリートレード」が成立するためのもう一つの条件である「安定した調達通貨」の状況も大きく変わってしまった。
ユーロ圏ソブリン債危機の拡大は、欧州の金融機関のドル資金の調達に大きな支障を来すこととなった。銀行間取引において銀行は、取引相手行の格付けや財務状況に応じて「クレジットライン(与信枠)」を設けてリスク管理をしている。こうした中で、ユーロ圏ソブリン債危機に伴う銀行の財務内容の悪化を受け、一部の銀行では金融市場でのドル調達に支障が生じて来ていた。真偽のほどは定かではないが、中国の銀行が一部の欧州金融機関とのドルのフォワードやスワップ取引を停止したことが伝えられていることはその代表例である。
そして、日米欧の主要中央銀行が、9月15日にユーロ圏ソブリン債危機の影響で短期金融市場が機能不全となる事態を回避するため、3カ月物ドル資金供給で協調すると発表したのも、金融市場でドル資金調達に支障が生じて来ていたからである。
こうしたドル資金の調達に支障が生じ始めたことで、調達通貨ドルを銀行から借入れて「キャリートレード」を行っていた投資家は、コスト及び資金量両面で資金調達に支障を来すことになった。「キャリートレード」を続けようとしてた投資家も、銀行からのドル資金の調達が出来なくなってしまえば、「キャリートレード」を続けるわけには行かない。ユーロ圏ソブリン債危機の拡大による金融機関のクレジット問題は、「キャリートレード」を行う投資家の資金源を断つ結果となってしまった。つなり、ドルは「安定した調達通貨」ではなくなってしまったのである。
ドルが「安定した調達通貨」ではなくなってしまったことに加え、「魅力的な投資先」も減少したことで、ドルを調達通貨とした「キャリートレード」は成立し難くなってしまった。この「二重苦」によって「キャリートレードの巻き戻し」が始まったのである。
この「キャリートレードの巻戻し」は、さらなる「キャリートレードの巻戻し」を誘発する特徴を持っている。
何故ならば、「キャリートレードの巻戻し」によって借入れていたドルを調達(投資先の通貨を売却してドルを購入)して返済する必要が生じるため、為替市場でドル高圧力が高まるからである。為替がドル高に転じるということは、ドルを調達通貨としている投資家にとっては、「借入が増える」ということである。
「魅力的な投資先」が乏しくなる中での「調達通貨高による借入の増大」は、「キャリートレード」を行っている投資家にとって致命的である。要するに、調達通貨であるドルの上昇は、さらなる「キャリートレードの巻戻し」を誘発する仕組になっている。
22日のNY市場では、主要6通貨に対するICEのドル指数は1.4%上昇の78.447と、7カ月ぶり大幅高を記録。一時、78.798と2月14日以来の高水準に上昇した。 こうしたドル高は、この先も「キャリートレードの巻戻し」が誘発される可能性が高いことを示唆するものでもある。
また、これまでドルやユーロという基軸通貨の代替として買われて来た金が、ここに来て大きく調整し始めているのも、「キャリートレード」の終焉を示唆する動きである。
FOMCは、「タカ派3総裁」の影響もあり、QE3など直接的な金融緩和策を取れない状況にある。こうした状況は、「キャリートレード」を行っている投資家にとって、「魅力的な投資先」が増えないことを意味するものである。そして、11〜12月に決算を控える多くのヘッジファンドにとって、この時期は非常に神経質にならざるを得ない時期でもある。
今回の「世界同時株安」は、日本経済新聞が報じているような「世界景気の減速懸念や、くすぶる欧州債務問題への警戒感から、投資家が運用リスクを回避する目的で株式を売る動きを強めた」という投資家の主体的な投資行動によって引起されたのではなく、「オペレーション・ツイスト」が、ドルを調達資金とした「キャリートレード」に対して「引導を渡す」結果となったからである。(近藤駿介)
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