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三途の川から舞い戻ってきた。福島第一原子力発電所事故で一度は“死の淵”に立った東京電力が、ゆっくり息を吹き返しつつある。
関係筋によると、9月にはついに10%程度の電気料金値上げを打ち出すという。
東電は事故後も、燃料費の上昇に応じて「燃料費調整制度」による値上げを行ってきた。が、今回は原発稼働率低下に伴う火力発電所の稼働増など、電源構成の変化による料金改定をもくろんでいるとみられる。仮に値上げすることになれば、31年ぶりの料金改定となる。ある関係者は「(東電の資産査定を手掛ける)経営・財務調査委員会も了承するようだ」と話す。
原発事故から6カ月足らず。いまだ事故が収束していないうえ、本格的な損害賠償すら始まっていない。このタイミングでの値上げとなれば、当然世論の反発も強い。それでも東電がある意味、強気になれるのは、8月3日に「原子力損害賠償支援機構法(以下、機構法)」が成立したからにほかならない。
東電自体は依然、満身創痍の状態にある。8月9日に発表した2011年4〜6月期決算では、電力供給力の激減で収益が沈んだうえ、事故処理や損害賠償の特別損失を計上した結果、最終赤字5717億円を計上。6月末時点の純資産は1兆0509億円、自己資本比率は7・1%にまで悪化した。ただ、決算会見の席で、西澤俊夫社長は「支援機構から入ってくる資金で賠償金をチャラにさせる。資金の流れができれば債務超過にはならない」と、安堵の表情を見せた。
巨額の賠償金が見込まれるにもかかわらず、債務超過に陥らないのはなぜか。東電によると、損害賠償引当金を特別損失として計上する一方、ほぼ同じ額を機構から交付金として受け取り、特別利益として計上する。これにより賠償金の特別損失は相殺される。いくら賠償金を引き当てようと、最終損益には影響を与えないため、純資産も毀損されないわけだ(表)。当面、2兆円までは9月上旬に新設される機構経由で支払われる。
(図:賠償金損失を「交付金」で相殺することで債務超過を解消
貸借対照表では: 損益計算書では: )
一方、賠償金支払い以外の運転資金は別途調達しなければならないが、機構法では政府が金融機関に対して2兆円まで政府保証を付けることも決まった。破綻リスクがあった東電への追加融資には消極的だった金融機関も、政府保証があれば話は別だ。
交付金と政府保証で合わせて4兆円に上る資金を得たことで、東電の経営の見通しはがぜん明るくなったのである。
(図:機構法の連関図
機構法で命拾いしたが依然リスクも)
東電に関心薄い政府 消えた解体論
さらに注目すべきは、6月の閣議決定時から新たに加えられた「原子力賠償法」の見直しだ。現状の法律では、原子力事業者に対して無限責任を課すことになっているが、今回の原発事故を機に国の責任を問う声が強まっていた。そこで今回、1年以内をメドに、事故の際の事業者と国の責任をあらためて見直す。
そこで取りざたされているのが、東電の賠償負担に上限が設置されるかどうかだ。東電は今後、「特別負担金」という形で毎年、機構に対して返済を行っていくことになるが、「少なく見積もっても15兆円」(政府関係者)とさえいわれる賠償額を東電だけで賄うことになれば、返済期間が長期に及ぶことは想像にかたくない。
米プライス・アンダーソン法のように、先進国の多くは原発事故時の原子力事業者の賠償負担上限を定めており、「上限がないのは日本、ドイツ、スイスくらい。そのうち、ドイツは原発をやめると決めている」(みずほ証券シニアクレジットアナリストの寺澤聡子氏)。東電の西澤社長は「今回の賠償については現在の法の中でやることになる」としているが、仮に上限制度が適用されることになれば、東電にとってこれ以上ありがたいことはない。
機構法の成立は東電にとってまさに「久々のポジティブなニュース」(スタンダード&プアーズ上席アナリストの柴田宏樹氏)。事故後、フリーフォール状態だった東電債の格付けも、機構法成立以降は見直しがない。
東電は今後、経営・財務調査委員会が9月下旬に出す調査報告書に基づいて、10月には特別事業計画書を策定する予定。同時に賠償については9月から受け付けを始め、10月から本払いを開始する。この間にも、新設される機構へ資金援助要請をするとみられており、「これまでわからなかった、時間軸での動きが見えるようになった」(寺澤氏)。
事故後浮上した、東電“解体”論もトーンダウンしつつある。
仙谷由人・元官房長官率いる経営・財務調査委員会は当初、資産査定を足掛かりに、「発送電分離」に踏み込むともみられていた。「事業を行う『グッド東電』と、賠償を行う『バッド東電』に分け、グッド東電に優秀な人材を集めて最強集団を作ろうという構想もあった」と、ある関係者は話す。が、首相交代を挟んで、民主党内で「東電に対する関心が薄くなっている」(同)こともあり、調査委がどこまで踏み込めるかが微妙になってきた。
一連の動きの背景には、監督官庁である経産省の力添えもある。そもそも機構法の素案となった「賠償スキーム」は大手銀行の案をたたき台に経産省が作成。「当初は官邸も出来が悪いと考えたらしいが、金を出したくない財務省と東電を守りたい経産省に押されて、追認してしまった」(元経産官僚で、東電問題に詳しい慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科の岸博幸教授)。
一時は経産省内でも発送電分離案が浮上したが、「今は推進派でさえ、『東電を存続させることになったのだから分離は無理』と、考え方が後退している」(岸教授)。
当の東電も「(賠償を行うだけでは)何のために会社があるのかがわからなくなる」(西澤社長)と言い切る。今後は「おカネのない中でも、必要な事業投資は続けたい」(同)と意欲を見せている。
廃炉費用がかさみジリジリと財務毀損も
ほんの数カ月前まで「死に体」だった東電だが、機構法という延命策で情勢が大きく変わったことは間違いない。しかし、これで事故前の姿に戻れるかというと、それは無理だろう。
最大の「不確定要素」(岸教授)は、リストラ監視役である経営・財務調査委員会の存在だ。東電は今期、人件費や修繕費などの圧縮で5000億円の経費を削減するとしている。が、調査委は「他業種に比べて、給与や企業年金などを含めたトータルな人件費が高い感は否めない」(下河辺和彦委員長)との認識を示しており、「5000億円を超えるリストラを委員会から迫られる可能性もある」(東電関係者)。
人件費については現状で給与の2割削減にとどまっているが、企業年金減額や人員削減なども「調査委では議論の対象となっている」(西澤社長)。燃料などの調達についても「相手の言い値どおり通常の3倍近い価格で買っており、この点も問題視されている」(関係者)。
調査委自体は報告書提出で役割を終え、その後は新設の機構が東電の運営を監視していくことになる。ただ、機構には調査委のメンバーが参加するとみられ、一度は後退した分離論も再燃しかねない。
拠り所となっている機構法そのものが見直される可能性もある。今回、政府は原賠法見直し後、2年以内に東電と政府、他の電力会社の負担と、株主など利害関係者の負担のあり方を検討するとしており、盤石な支援態勢がいつまで続くかは見通しにくい。すでに、中部電力が一般負担金の支払いに難色を示すなど、「オールジャパン」態勢は出だしから波乱含みである。
こうした“バランス”が崩れれば当然、金融機関の融資スタンスも変わるリスクがある。そもそも、「(政府保証があっても)東電向けの債権は増える方向にあるが、銀行が融資残高を増やしていけるかは不透明感が強い」(S&Pの柴田氏)。
個別企業としての財務の回復もまるで見えない。まず、電力供給の要となる原発の再稼働見通しが立たない。
現在保有する原発17基中、稼働しているのは柏崎刈羽の2基のみ。定期点検中の原発について政府は今後、ストレステスト(耐性検査)を実施するが、再稼働には原子力安全・保安院や首相など3閣僚だけでなく、地元の了承も必要で早期の稼働再開は容易ではない。このままいけば、来年4月までにはすべての原発が止まる。
原発の稼働減を埋め合わせるには、火力発電などの稼働を増やすしかないが、原油高が続く中で今期は前期比1兆円近くの燃料費増が見込まれる。加えて今後、交付金の返済のために、特別負担金だけでなく、原発を持つすべての電力会社が対象となる「一般負担金」も支払うことになる。それぞれの額は機構が決めることになるが、総額は少なくとも数千億円規模になるとみられる。
貧乏くじを引いたのは被害者と東電利用者
事故原発の廃炉関連費用も不確かだ。東電は前期中に約6400億円を関連費用として引き当てており、今後これ以上大きく膨れ上がることはないと見ている。しかし、事故はまだ収束しておらず、汚染水の漏出を防ぐ遮水壁のように、今後も想定外の費用が出てきても驚きはない。こうした費用は特別損失として計上され、最終損益の悪化につながる。
(図:値上げなしでは赤字が続く 機構法成立で、賠償金が最終損益に影響を与えることはなくなったが、電力料金の大幅な値上げがないと、収益の回復は見込みにくい )
賠償は政府の原子力損害賠償紛争審査会の指針に基づいて実施されるが、指針を不服とする被害者などが集団で訴訟を検討する動きもある。東電側は「関連や偶発、風評などの被害については争う覚悟を決めている」(みずほ証券の寺澤氏)。
仮に賠償金が交付金で相殺されたとしても、事故収束や訴訟費用など想定外の費用が膨らんで、最終赤字を出し続けることになれば、ジリジリと財務が毀損され続けかねない。
そうなると、「営業利益段階で黒字にするには、少なくとも10%の値上げは必要」(柴田氏)となる。
冒頭の観測どおり、すでに東電は電力料金の値上げを打ち出そうとしている。10月に提出する特別事業計画書には、向こう10年程度にわたる事業の収益計画などが盛り込まれるとみられるが、ここで値上げを織り込むかどうかが焦点となる。ただ、利用者や企業からの猛反発が見込まれる中、正面突破は困難だろう。
東電を囲む環境が目まぐるしく変わる中、「このままでは東電の独り勝ちとなる一方で、福島の被害者や東電利用者が貧乏くじを引くことになる」(慶応大の岸教授)と、懸念の声も上がる。機構法の成立によって、せっかく沸き上がった、国民の間でのエネルギー政策見直し議論も尻すぼみになってしまった。
利用者を中心に国民の監視の目が緩む中、東電は着実に“活力”を取り戻しているのである。
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