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深刻化する若年失業:取り残されて
2011.09.20(火) The Economist
現在の若年失業がもたらしている災いは、今後何十年にもわたって、被害者である若者と社会全体の双方に影響し続けるだろう。
スペイン・マドリードの公共職業安定所前に並ぶ人びと〔AFPBB News〕
マリア・ギル・ウルデモリンスさんは、聡明で自信に満ちた若い女性だ。彼女は英国の大学を出て、近く母国スペインでも学位を取得し終える。それでも彼女は、自分には前途がないと感じている。
ウルデモリンスさんは、一生懸命働けば、自分の親よりも良い暮らしができるという、祖国と結んだ暗黙の契約が破られたと感じているスペインの若い世代の1人だ。
金融危機が起きる前は、信用ブームを原動力とした経済成長と長く続いた建設バブルが積年の課題だったスペインの失業率を押し下げ、2007年にはわずか8%となっていた。
それが今では失業率が21.2%に上り、若年層の間では46.2%と驚異的な数字となっている。「私は存在しない世界のために教育を受けてきた」と彼女は言う。
長期的な被害
スペインの失業率は特に悲惨だ。しかし若年層の失業率は大半の先進国で破壊的なまでに上昇している。
若年失業は枝葉の問題のようにも思える。若者には大抵、頼るべき両親がいる。学校に長く留まることも可能で、一生ゴミ溜めにいるわけではない。扶養家族があるわけでもなく、中高年の労働者が失業する時に失ってしまう医療保険を切実に必要とするわけでもない。
しかし、若年失業が長期的な被害をもたらすと考えられる証拠は豊富にある。
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若年失業率は過去5年間で、先進国クラブである経済協力開発機構(OECD)の加盟国の大半で上昇している(図1参照)。
欧州連合(EU)加盟国では、25歳未満の労働人口の5人に1人が失業しており、南欧諸国で特に悲惨な状況になっている。
米国では25歳未満の18%強が失業中で、この世代の15%を占める若い黒人層の失業率は31%に達し、高卒資格を持たない場合は44%にも上る(白人の場合は24%)。
スイス、オランダ、メキシコなどでは若年層の失業率は10%に満たないが、やはり上昇傾向にある。
景気が悪い時、若年層は真っ先に失業することが多い。若者は相対的に経験が浅く、技能に乏しい。多くの国では若者は中高年よりも容易に解雇できる。若年層は低賃金だけに状況が多少ましになるとはいえ、若者は概してコスト削減を図る雇用主の絶好の標的になる。
積み上がるコスト
大半のOECD加盟国では、若年層の失業率は人口全体の失業率の約2倍に上る。英国、イタリア、ノルウェー、ニュージーランドではその比率が3対1を超えており、スウェーデンでは15〜24歳の労働者の失業率が、25〜54歳の失業率の約4.1倍に達している。
OECD加盟国における15〜24歳の不完全雇用者の数は、同機構がデータ収集を開始した1976年以降最大となっているだけではない。先進国で就職活動を断念した若年人口も記録的に高い。
低成長、各国に広がる緊縮財政、雇用創出を目的とした刺激策の終了は、全体的な失業者数をさらに増加させる恐れがある。若年失業者は景気回復期には、際立って立ち直ることが多い。真っ先に失業するが、一番初めに職場に戻れることも多いのだ。
しかし急速な景気回復は見られず、今回はこうした部分的な償いが見込めないことを意味している。米国の2007年以降の雇用回復は、ここ数十年で 2番目に深刻だった1980年代前半の景気後退期と比べて2倍近い時間がかかっている。しかも、回復の起点は前回よりもひどい状態だ。
現職者を贔屓し、若者を排除する労働市場の仕組みが、いくばくかの新規雇用を手の届かないものにしまっている国もある。
若年失業には、すべての失業者とほぼ同じように、直接的なコストがかかる。失業給付金の増加、所得税収入の喪失、生産能力の浪費などだ。
英国では、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)とロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)、プリンス・トラストの3者が まとめた報告書は、英国の若年失業者74万4000人にかかるコストは、失業保険と生産性低下で毎週1億5500万ポンド(2億4700万ドル)に上ると 算定した。
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しかし失業者が若い場合には、失業の間接コストが増大すると思われる。その1つに国外への移住が挙げられる。大志を持ちながらも、自国では見通しが立たない若者はしばしば、扶養家族のいる中高年よりもあっさりと他国に雇用機会を求める。
若年失業率が27%に達するポルトガルでは、18〜30歳の約4割が雇用を理由とした国外移住を考えると話している。
イタリアのような国では、止まらない頭脳流出は、気が滅入るような経済停滞の症状だ。
若年労働者の失望感が2005年以降爆発しているアイルランドでは、同じ期間に国外移住者が倍増しており、20〜35歳がそのほとんどを占めていた(図2参照)。
「ケルトの虎」がかつて過去に葬ったと考えていた移住問題の復活は、国家的な悲劇として扱われている。
個人にいつまでも影響
もう1つのコストは犯罪である。英国で最近起きた暴動を若年失業のせいにするのは軽率だ。しかし、より一般的に若年失業は犯罪と何の関連性もないと言うことは、あまりに楽観的過ぎるというものだろう。
ただでさえ若者は他の世代よりも法律を破る可能性が高い。他の世代と比べ自由な時間と動機を多く持ち、失うものが少ない状況は、犯罪を思いとどまらせることには到底ならない。
若年失業者の増加と犯罪率の上昇の間に緩やかな因果関係が認められると主張している研究者もいる。特に目立つのは窃盗事件(略奪、押し込み強盗、 自動車窃盗、破壊行為)と麻薬犯罪だ。失業者全体では、そのような関連性は見られない。罪を犯して刑務所に行くことになれば、将来の雇用の見込みは崖を落 ちるように低下する。
そして、若年失業は個々人に影響を及ぼす。若者は、失業がもたらす経済的、感情的な影響に特に大きな打撃を受けると、LSEの労働経済学者ジョナサン・ウォズワース氏は述べている。将来の失業を予測する一番の判断材料は過去の失業だということを調査は示している。
英国では23歳までにわずか3カ月間でも失業したことがある若者は、若年失業を経験していない人と比べ、28〜33歳の間に平均して1.3カ月間長く失業している。2度目の失業は状況をさらに悪化させる。
米国と英国の調査では、若年時代の失業は、中年になっても続く恐れのある「賃金の傷」を残すことが分かっている。失業期間が長いほど、影響は大きくなる。
学歴、読み書きと計算能力の成績、住んでいる地域、両親の学歴、知能指数において同等の2人の男性を取り上げてみよう。一方の男性が23歳になる までに1年間失業した場合、10年後の賃金は、他方の賃金より23%低いことが予想される。女性の場合、その差は16%となる。
若年失業のペナルティーは次第に縮小するとはいえ、後々まで長引き、42歳時点で女性で12%、男性で15%の差が残る。現在の危機では今のとこ ろ、それほど若年失業を長期化させていない。OECD加盟国では、失業した若者の約8割が1年以内に仕事に復帰している。しかし、そうした状況も変わる可 能性が十分ある。
傷痕を残す効果は必ずしも、実際に失業した人に限られない。米国の研究では、1980年代前半の深刻な景気後退期に大学を卒業して労働市場に参入 した若者が長期的な賃金の傷に苦しめられたことが分かっている。この不運な集団の卒業生は、全体の失業率が1ポイント上昇するごとに6〜7%の賃金低下に 見舞われた。
こうした効果は時間とともに薄れていくが、15年後になってもまだ、統計的に有意な差が残る。
一定期間失業していた後は、どんな仕事でもいいから、とにかく仕事に就きたいという衝動が強く働く。賃金の傷は、これが長期的な影響を及ぼすと考えられる理由の1つであり、若年失業を最小限に抑えることを狙った政策は時にそれを悪化させることがある。
若者に少なくとも雇用のチャンスを与えるために、臨時契約を延長する制度を設けたスペインでは、2000年代初頭の日本の経験に注意すべきだ。日本では長期にわたって失業していた若者が、賃金が低く、訓練や出世の機会がほとんどない「非正規」雇用に向かわされたのだ。
質の高い仕事のために新規に人材を採用しようとする雇用主は一般に、失業者や不完全就労者よりも(高校や大学の)新卒者を好み、その結果、一塊の 集団が長期の仕事と賃金見通しの悪化に見舞われることになった。最近のOECDのリポートの言葉を借りるなら、「取り残された若者」だ。
日本の「失われた10年」の労働者は、雇用主が報告するうつ病やストレス障害の症例の中で、人数に釣り合わない大きな割合を占める。
あらゆるタイプの失業は、単に低所得だけでは説明がつかないレベルの不幸と関係している。一方、平均寿命が短く、晩年に心臓発作に見舞われる可能 性が高く、自殺が多い傾向がある。1970〜80年代に職を失ったペンシルベニア州の労働者の調査では、失業が平均寿命に与える影響は、中高年よりも若年 労働者の方が大きいことが分かっている。
大恐慌の最中に米国の労働人口に加わった人々は、数十年間にわたって自信と野心の欠落に苦しんだ。
ほかにも、「フルネスト症候群(エンプティーネストシンドローム=空の巣症候群の反対)」などの社会的な影響がある。2008年には、欧州連合 (EU)加盟国の18〜34歳の層の46%が少なくとも1人の親と一緒に暮らしており、大半の国では、自宅を出た人よりも残った人の方が失業率が高かっ た。
失業率が高く、出生率低下が小家族を意味する南欧諸国では、特にその影響が際立った。イタリア労働総同盟(CGIL)が最近実施した調査では、18〜35歳のイタリア人700万人以上がまだ両親と同居していた。
英国では2001年以降、20代の男性の4人に1人、女性の6人に1人が一定期間、実家にUターンした。この種の変化は良かれ悪しかれ、将来世代に波及し、若者が実家で暮らす期間がどんどん長くなれば、世代間の間隔が広がっていく可能性がある。
仕事の代わりに
一部の国、特に南欧諸国では、政府が重点的に取り組むべきは、若年労働者を締め出す労働市場の開放だ。労働市場が比較的柔軟な国では、若者の「スキルアップ」に重点が置かれる傾向がある。それは万能薬ではない。
大学は技能の源泉になり、不況をやり過ごす場所になり得るため、学生はどんどん大学に進学し、とどまるようになっている。米国の大学院では 2008年以降、願書が少なくとも20%増えている。だが、こうした学生が学費で借金を積み上げる一方、すべての学生が雇用の見通しを改善させられるわけ ではない。
今でも大学の学位を持つことは就職の機会を高めるとはいえ、米国の大卒者の失業率は1970年以来最も高くなっている。
職業訓練にも危険が潜んでいる。今年公開された英国の職業教育に関する報告書「ザ・ウルフ・リポート」は、間違った訓練は逆に雇用見通しに害を及ぼすと指摘した。
英国の16〜19歳の3分の1近くが労働市場では無価値かほぼ無価値の低レベルの職業訓練コースに通っているという。調査結果は、企業が主体の見 習い訓練と組み合わせた制度でない限り、1〜2年かけてこの種のコースを終了することは生涯所得の減少につながることを示唆している。
この点で多くの人から模範とされているドイツでは、雇用主の4社に1社は正式な見習い制度を提供しており、児童の3分の2近くが実習を行う。職業 訓練学校の学生は2〜4年程度、企業の有給見習いパートタイム社員として週に3日前後働く。コストは企業と政府が折半し、訓練期間が終了する時に実習生が 仕事に就くことが多い。
9.5%というドイツの若年失業率は、EU内では最も低い部類に入る。オランダとオーストリアで行われている見習い式の制度も似たような結果を生んでいる。
専門特化した製造業者を多数擁するドイツの輸出主導型経済は、特に見習いモデルに適しているのかもしれない。よりサービス主導型の経済国がこうしたモデルをどれほど容易に取り込めるかは定かでない。
例えば米国には、ドイツモデルを大成功させた制度や組織(強い労組、理解ある経営陣、実際的な政府)がない。
こうした訓練制度は文化的な障害も乗り越えなければならない。実習制度に賛同したビル・クリントン大統領の教育職業制度は、二流の教育として嘲笑 された。見習い制度が定着した技能職でも、建設産業が崩壊し、このモデルは苦しむことになった。ただし、英国はこの仕組みを試みるつもりのようで、昨年、 25万7000人の実習職が創設された。
しかし、それも、仕事がないことが標準的な状態で、手本となる大人が存在しないために若いうちから大志の欠如をもたらす地域や家庭で育った25歳未満の一番難しい人々にとっては、ほとんど役に立たないかもしれない。
「こうした若者が必要としてるのは、マンツーマンで対応する対象を絞り込んだ制度だ」と、プリンス・トラストのディレクター、ポール・ブラウン氏は言う。「すべての若者を狙った政策は単に、最も困窮している若者を放置することになるだけだ」
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