http://www.asyura2.com/11/hasan73/msg/275.html
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対象は慎重に選んだ方がいいが、投資と緩和の組み合わせは
短期的には望ましい金融・財政政策になるだろう
ただ円高ではマネーは海外に流れ、輸入が増えるので、
投入した規模から期待したほど雇用は増えない覚悟は必要だろう
http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/2011/09/15/013769.php
三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!
第119回 四天王
読者には信じられないかも知れないが、この世界には日本以外にも、長期金利、すなわち新規発行十年物国債金利が、一時的に1%を下回ってしまった国が存在する。スイスだ。
最近のユーロ危機を受け、スイスに欧州の資金が集中。国債が買われ続けた結果、ついに先日、長期金利が1%を下回ってしまったのだ。その後、少し戻しはしたものの、9月9日時点の長期金利は1.01%と、ほぼ日本と同じ水準になっている。
両国が異なるのは、日本の長期金利低迷は、国内の過剰貯蓄の投資先が見つからず、国債に流れ込んでいるのに対し、スイスはユーロ圏から逃避資金が メインという点だ。すなわち、スイスの国債が買われる前に「ユーロがスイス・フランに両替」されているわけである。結果、スイスの場合はスイス・フラン高 騰と国債金利低下が同時に起きる。無論、日本もその傾向がないわけではないが、あくまで国内の金融機関の買いが国債金利低迷の主因である。
さて、長期金利の低下はともかく、スイス・フランが一方的に上がっていく状況は、これはスイス経済にとっては好ましい話ではない。スイス・フラン は、07年の欧州不動産バブル崩壊以降、ほとんど一方的に対ユーロで上昇し続けた。07年には1ユーロ=1.68フランだったのが、2011年の夏には一 時的に1ユーロ=1.1フランを切ったのである。
スイスは「金融立国」と思われがちだが、観光や精密工業、化学薬品工業などもそれなりに強い。金融産業にしても、外国への投資を基本にしている以 上、スイス・フラン高が続くと、スイスが保有する対外資産が実質的に目減りしていくことになる。現在の一方的なスイス・フラン高は、スイス経済にとって大 きな負担になっているのである。
スイス・フランの一方的な上昇を受け、スイス国立銀行は、何と1ユーロ=1.2フランという上限を設定し、為替レートがその水準を上回る場合は、「無制限に外貨を購入する準備がある」 と宣言した。ほとんど、変動相場制放棄宣言である。
『2011年9月6日 ブルームバーグ紙「スイス中銀:フラン相場に30年ぶりの上限設定−断固として防衛」
スイス国立銀行(SNB、中央銀行)は6日、スイス・フランの対ユーロ相場に上限を設定すると発表した。上限設定は30年余りで初めて。必要となれば「断固たる決意」でこの水準を防衛すると表明し、フランは過去最大の下げを演じた。
中銀は電子メールで配布した声明で、「大幅で持続的なフラン安を目指す」とし、「即時実行で、ユーロについて1ユーロ=1.20フランを下回る為 替レートを容認しない。この下限レートを断固たる決意をもって防衛する。無制限に外貨を購入する準備がある」と表明した。(後略)』
「為替防衛」とは、本来は自国通貨の暴落を防ぐことを指す。すなわち、外貨準備を取り崩し、中央銀行が外貨で自国通貨を買い取ることにより、為替レート の急激な「下落」を防ぐわけである。アジア通貨危機時のタイや韓国、あるいは08年の危機の際の韓国が実施したのは、まさに外貨準備の取り崩しと自国通貨 買いによる「為替防衛」である。
それに対し、スイス国立銀行は「自国通貨で外貨を売り、為替レートの暴騰を防ぐ」ことを為替防衛と呼んでいるわけだ。何というか、時代は変わったとしか言いようがない。
そもそも、ニクソン・ショック以降の世界経済は、基本的に変動相場制の国々の交易により成り立っていた。日本やアメリカ、ドイツはもちろん、スイスも世界のメインプレーヤーの一員として、変動相場制を採用していたわけだ。
それが、「1ユーロ=1.2フラン以上の為替レートは認めない」と表明したわけである。スイス・フランが対ユーロで下落することは、今後しばらくは考えられないため、これは事実上の対ユーロ固定相場制宣言だ。
経常収支黒字国にとって、為替レートを下げることは「自国通貨で外貨を買う」だけなので、容易に可能なのである。スイス政府が市中からスイス・フ ランを借り入れても構わないし、中国ばりにスイス国立銀行がマネタリーベースを拡大しても構わない。すなわち、スイス国立銀行は、「自ら発行したスイス・フランで、ユーロを買う」 ことで、自国通貨の価値を対ユーロで下げることができるのである。それにしても、中央銀行が、「この下限レート(1ユーロ=1.2スイス・フラン)を断固たる決意をもって防衛する。無制限に外貨を購入する準備がある」 と言ってのけるわけだから、過激としか言いようがない。先述の通り、スイス国立銀行は準備預金の口座の金額を「増やすだけ」で、スイス・フランを発行することが可能だ。マネタリーベースの拡大覚悟でスイス国立銀行に為替介入をされたら、投機家側に勝ち目はない。
これが「通貨暴落を防ぐ」為替介入の場合、中央政府の「弾」は外貨準備高が上限になる。外貨準備を取り崩し、自国通貨を購入していくことこそが、 本来的な意味における「為替防衛」だ。この場合、外貨準備が尽きると中央銀行は弾切れになり、為替暴落を受け入れなければならない。
と言うよりも、この種の為替防衛は、対ドルペッグ制を採用している国々が、変動相場制に移行させられる際に実施されるケースが多い。自国通貨の「価値が高まる」ことを防ぐオペレーションを「為替防衛」と呼ぶのは、やはり妙である。
(2/3に続く)
それはともかく、現在の世界には、長期金利の水準が2%を切っている国が、何と四カ国もある。2010年までは、長期金利が2%未満で推移していたのは、唯一、日本のみだった。(スイスは05年に瞬間的に2%を切ったが、その後は2%台に戻っていた)
ところが、今やスイスの長期金利が日本とほぼ並んだのに加え、アメリカとドイツの長期金利までもが2%を下回ってしまったのである。 07年に不動産バブルが崩壊したアメリカは、デフレ化の危機に直面しており、世界に溢れる「ドルの過剰貯蓄」が米国債に流れ込んでいる。要するに、ドルの 投資先不足という話で、98年以降の日本そのままに、アメリカも過剰貯蓄問題に苦しみ始めているわけだ。9月9日時点のアメリカの長期金利は、何と 1.92%である。(「アメリカはデフォルトする!」などと主張していた国内マスコミは、この状況をどのように説明してくれるのだろうか?)
さらに、ドイツにはギリシャやポルトガルなど、財政危機に直面している国々からユーロが戻ってきている。今や、ギリシャの十年債の金利(長期金利)は20%を超えている。
それに対し、ドイツは1.77%と、何とアメリカを下回るほどに長期金利が低迷しているのである。それぞれが異なる理由で長期金利が超低迷してい る国々、すなわち日本、アメリカ、ドイツ、そしてスイスの四カ国を、筆者は「国債のデフォルトが起き得ない国々」という意味を込めて「四天王」と呼んでい る。
【図119−1 日米独及びPIGS諸国の長期金利の推移(単位:%)】出典:ユーロスタット※2011年9月の値は9月9日現在
ギリシャとドイツは共にユーロ加盟国だ。すなわち、ギリシャ−ドイツ間では、為替レートの変動がないのである。為替レートの変動がないということは、為 替差損も為替差益も発生しないという話だ。本来、両国の金利差を考えると、莫大な資金が「ドイツ⇒ギリシャ」と流れてもおかしくはない。何しろ、ドイツと ギリシャの長期金利の開きは、十倍を超えているのだ。
ドイツで十年満期のお金を借り、ギリシャの十年債に投資するだけで、十倍近い金利差で荒稼ぎができるのである。しかも、両国共にユーロ加盟国であるため、為替リスクは存在しない。
ところが、現実のお金の流れは「ギリシャ⇒ドイツ」となっており、「ドイツ⇒ギリシャ」ではない。誰も、債務不履行を起こす可能性が高い債券に投資はしたくないであろうから、まあ、そういう話である。
CDSプレミアムから見るギリシャのデフォルト確率は、すでに90%を上回っている。そんな債券に、今さら投資をしたいと考える投資家は極めて少数派だろう。
今後の投資を考える人は、単にギリシャ債を避ければ済む話だが(そして、ドイツ債やスイス債を買えばいい)、問題はすでに投資をしてしまった金融機関、及び投資国側の政府である。
すでにドイツのメルケル首相は、ギリシャのデフォルトに備え、銀行を支援するための計画を準備中であるとの情報が流れた。ギリシャがデフォルトを 起こし、ギリシャ債が不良債権化した場合、ドイツの銀行は巨額の評価損を迫られる。自国の信用収縮を避けるために、ドイツ政府は資金注入を実施することに なるだろう。
(3/3に続く)
07年のバブル崩壊に苦しみ続けるアイルランドの場合は「ドイツ・フランスの銀行⇒アイルランドの銀行⇒不動産プロジェクト」と、お金が流れた。 バブルが崩壊し、不動産プロジェクトが不良債権化したため、アイルランド政府は外国からお金を借り、銀行に資金注入せざるを得なかったわけである。結果、 2010年のアイルランドの財政赤字対GDP比率は、何と32%という凄まじい規模に達した。
それに対し、ドイツの場合は「ドイツの国民⇒ドイツの銀行⇒ギリシャ債」とお金が流れていた。ギリシャがデフォルトすると、数兆円規 模のギリシャ債が不良債権化する。当然、ドイツ政府も銀行に資金注入し、自国の金融システムを守らなければならなくなるわけだ。ギリシャのデフォルトは、 ドイツにとってはある意味で「ユーロ・バブルの崩壊」を意味しているのである。
不動産だろうがユーロという共通通貨のシステムだろうが、バブルが崩壊した場合、銀行のバランスシートの借方(資産側)は大きく毀損する。それに 対し、貸方に積み上げられた負債総額は変わらないため、放っておくと国内の金融機関が軒並み債務超過に陥ってしまう。これを防ぐためには、日米英やアイル ランドが実施したように、とにかく政府がお金を掻き集め、銀行に資金注入するしかないのだ。
もっとも、ドイツの場合は経常収支黒字国である。しかも、ユーロ諸国から戻ったお金が行き場をなくし、国債に流れた。政府が国債を発行する際の金利が極めて低いため、国内から苦労なく資金調達できると考える。
とはいえ、それでは治まらないのが政治というものだ。
現在のドイツ国民は「ユーロ」について疑問を感じ、ギリシャ支援に反対する国民が過半数を超えている。ここでさらに、ドイツ政府が銀行支援に乗り出さなければならなくなると、「ギリシャのようなダメな国に勝手に投資して大損こいた銀行を、我々の金で救済するのか!」 などと、どこかで聞いたようなレトリックで野党やマスコミが批判の声を高めることになるだろう。すでに連敗が続いているメルケル政権は、ますます選挙に勝てなくなってしまう。
いずれにしても、共通通貨ユーロという壮大な社会実験が、今後一年以内に、ある程度の結末を迎えるのは確かだ。そう考えてはじめて、今後の日本が採るべき道が、より一層はっきりすることになるのである。
まず、ギリシャなどの経常収支赤字国(基軸通貨国のアメリカは除く)の中には、08年までのツケで財政破綻(政府のデフォルト)する国が出てくるだろう。そんな有様では、外国への投資に再度大きく踏み切るという判断は、なかなか難しい。
結果、四天王(日米独ス)の国々の国債は買われ続け、長期低迷が続くことになる。
さらに、アメリカが輸出倍増計画を掲げ、FRBも量的緩和第三弾に踏み切る可能性が濃厚だ。すなわち、マネタリーベース拡大による事実上の「ドル安」政策である。
加えて、金融システムの混乱が深刻化していくユーロは、何をどうしようとも中期的には他通貨に対して価値を落としていく。すでに日本円の対ユーロレートは1ユーロ=105円にまで高騰しているが、今年中に1ユーロ=100円を切ったとしても、全く驚かない。
世界は事実上の「通貨安戦争」に突入しているわけだが、だからと言って日本までもが中国のように対ドルペッグ制を採用する、あるいはスイスのよう に「無制限介入宣言」をするわけにはいかない。何しろ、日本とスイスは経済規模が十倍違うのだ。この状況で日本までもが際限なき為替介入を始めたら、世界 各国が容赦なき近隣窮乏化政策を始める可能性が高い。現時点の日本は「世界経済のためにも」、為替介入を実施するべきではないのだ。
ならば、どうするのか。
別に、難しい話ではない。普通に政府が国債を発行し、有効需要(=GDP)として支出し、日本銀行が長期国債を金融市場から買い取っていけばいい のだ。ちなみに、アメリカのQE2は主に長期米国債を市場から買い取る形で、マネタリーベースを拡大した。今や、中央銀行の長期国債買取は「普通の政策」 なのだ。
無論、日銀が政府発行国債を直接引き受けても構わないが、この場合は国会の議決が必要なので、やや面倒だ。それに対し、金融市場から長期国債を買い入れるのは「普通のオペレーション」であり、直接引き受けと経済効果は変わらない。
すなわち、日本はただ「正しいデフレ対策」を実施すればいいのだ。そうすることで、内需が拡大し、インフレ率上昇と共に実質金利が下がり、円高も 抑制される。さらに、名目GDPが成長を始めれば国民の所得が増え、政府の税収も増えることで財政が健全化される。加えて、日本の内需と輸入が増えれば、 需要不足に悩む世界経済を相当に助けることが可能になるのだ。
日米独スの四天王諸国の中で、最初にデフレと超低金利に突入したのは日本だ。だからこそ、日本は「四天王筆頭」として、正しい政策を最も早く実施 し、世界経済の牽引車になるべきなのである。何しろ、日本は今後の世界各国が繰り返すであろう政策の混乱を、すでにして何度も経験しているわけなのだか ら。
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