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空洞化の進展で民間設備投資が減少し、外需も減少している
S&Pも指摘しているように復興投資は遅れ、GDPは伸び悩んでいる
野口悠紀雄が指摘するように
資源価格高騰が収まり、超円高で、内外需が縮みつつある今こそ
財政支出を増やし、世代インフラ整備の好機であることは間違いない
十分な投資が行われるのであれば、多少の増税はキャンセルされるのだが
その辺のシミュレーションが財務省できちんと行われているのかは非常に怪しい
http://diamond.jp/articles/-/14029
野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
復興が必要なのに投資が増えない
4−6月期のGDP統計の改定が発表された。
ほとんどすべての需要項目が対前期比でも、対前年同期比でも減少している。
実質GDPは、対前年同期比では1.1%の減、前期比年率では0.54%の減となった。
対前年同期比を項目別に見ると、【図表1】のとおりである。
純輸出の22.6%減が際立っている。これは、輸出が5%減少し、輸入が3%増加したためである。
内需項目では、公的資本形成の4%減と設備投資の1.3%減が目立っている。
これは、今回の復興過程の特性を明確に物語っている。復興過程が始まっているのであれば、これらの項目はかなり高い増加率を示していなければならないからだ。実際、阪神淡路大震災の時にはそうしたことが生じた(【図表1】の下段参照)。
なお、住宅と公的資本形成は、前年同期比で見るか、前期比年率で見るかで違う。住宅投資は、対前年比で見れば増加したが、前期比では減少した。公的資本形成は、対前年比で見れば減少したが、前期比では増加した。
なぜ復興投資が増えないのであろうか。
民間設備投資が増えないのは、日本企業が国内投資でなく、海外移転を進めていることの結果であろう。
公共事業が増えないことについて、政治の責任は、否定しようがない。これまで補正予算は2回編成されたが、いずれも本格的な復興事業を含むものではなかった。「復旧でなく復興」と言われたのだが、復旧さえ行われていないのが実態なのである。
3次補正が10月中に編成されることとされており、事業規模は10兆円などと言われている。しかし、財源手当てについて、いまだに方向付けさえできていないのが実情だ。
住宅投資の遅れは、都市計画の遅れが大きな原因と考えられる。これも政治の責任である。
阪神大震災時との違い
阪神大震災時の状況はかなり違った。
震災にもかかわらず、日本全体の輸出は増えていた。神戸港がプサンに取って代わられたというようなことはいわれていたが、この時には、日本の全体としての生産力はほとんど影響を受けなかったのだ。そして、貿易にも影響は出なかった。
企業設備も4%という、いまから見ればかなり高い成長率で増加していた。
住宅投資は減少している。しかし、阪神大震災は、地域的にみて日本全体のごく一部の災害であった。この時、全国的な状況としては、バブル崩壊によって地価が下落を続け、住宅投資は減っていたのである(次ページの【図表5】を参照)。そのことの影響が大きく影響している。
2つの震災は、もちろん、被害の地域的広がりや、原発事故の有無などの点で大きく違う。
しかし、それだけでなく、日本経済の全般的状況がかなり変わったのである。変化の多くは日本経済の衰退を示すものであり、われわれを失望させるものだ。
しかし、そうした方向ではないものもある。それは、対外資産である。
【図表2】に示すように、資産残高は1995年末から2010年末の間に、約2倍になった。純資産は、3倍以上になった。日本は、この15年の間に豊かになったのだ。
他方で、震災とは富が失われたことを意味する。だから、本来なら、それを利用してインパクトを最小化できる。それを活用しようという考えが出てこないのが問題である。
日本経済は長期的な投資支出減少を外需で補ってきた
長期的に見るとどうだろうか? 図表3〜5は、1980年代からの実質GDPの需要項目の推移を示したものである。
【図表3】に示す実質GDP(季節調整系列)の推移を見ると、80年代末まで 急成長、90年代半ばから停滞。2003年頃から輸出主導成長、そして経済危機で挫折、という経路をたどってきたことが分かる。その後少し回復したが停滞 した。このように、GDPの長期的な推移の中で見れば、阪神大震災のあった90年代半ばは、すでに成長期を過ぎて停滞時期に入っていたことに注意が必要 だ。
設備投資の推移は、【図表4】に示すとおりである。80年代末までのGDP急成長は、設備投資の急激な増加に支えられていたことが分かる。
しかし、不動産バブルの崩壊とともに設備投資は減少した。その後、傾向的な増加を示すことはなく、一定の範囲内での増減を繰り返すパタンになった。
しかし、阪神後には、長期的な増加トレンドには至らなかったものの、設備投資が増えていることに注意が必要である。96年最初に落ち込んだことを除くと、98年半ばまで設備投資は増え続けたのである。
住宅投資と公共投資の推移は、【図表6】のとおりだ。
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住宅については、80年代後半から90年代前半に不動産バブルによって高水準になったが、バブル崩壊後は、長期的な下落が続いている。そして、経済危機後に減少が加速し、その傾向が反転していないわけだ。
公的資本形成は、80年代後半から90年代前半にかけてはかなり高水準になった。しかし、90年代後半からかなり顕著な下落を示した。震災後に一時的な増加があったものの、水準は低いままだ。
日本経済は、以上で見たような投資支出の減少に対して円安政策をとって輸出を増やしてきた。だから、外需はいまでも高水準なのだ。ただし、輸入も増えている(ここで見ているのは実質値なので、原油価格高騰の影響は反映されていないことに注意が必要だ)。
いまは社会資本整備を進める好機
以上で見たように、90年代以降の衰退過程とは国内投資の減少によるのである。しばしば人口高齢化による消費の減少が経済停滞の原因だと言われる のだが、図はほぼGDPに比例している。2011年4−6月期を1980年1−3月期と比べると、GDPは1.896倍、民間最終消費は1.829倍で あって、ほとんど差がない)。
住宅投資が減るのは人口減少から止むをえないが、公的資本形成がこのように減るのは問題だ。これは、政策的に増やせるものである。日本の都市にお ける生活基盤投資は貧弱なので、これを増やす必要性はいままでも高かった。小泉内閣が公共事業を圧縮した。その方向付けは、民主党内閣の「コンクリートか ら人へ」に受け継がれている。しかし、そうした方向は間違いと考えざるをえない。
大震災からの復興過程は、社会資本投資を増やせる機会である。上に述べたように、日本の対外資産は巨額なので、それを財源とすればよいのだ。
日本は生まれ変われるか?『大震災後の日本経済』野口悠紀雄著、5月13日発売、1575円(税込)
大震災によって、日本経済を束縛する条件は「需要不足」から「供給制約」へと180度変わっ た。この石油ショック以来の変化にどう対処すべきか。復興財源は増税でまかなうのが最も公平、円高を阻止すれば復興投資の妨げになる、電力抑制は統制でな く価格メカニズムの活用で…など、新しい日本をつくる処方箋を明快に示す。
「第1章 復興にかかる厳しい供給制約」の全文を掲載した連載はこちら→【野口悠紀雄 大震災後の日本経済】
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