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昨年の春に明確になったギリシャの財政危機(=実質は銀行が大量に保有するギリシャ国債のデフォルト問題)は、ドイツ・フランスを中心としたEUの金融支援策で一時的に鎮静したが、ここにきて危機がにわかに再燃している。
日本では、昨日、野田新首相が所信表明演説を行い、「財政健全化と経済成長の両立」という俗耳に入りやすい政策を掲げた。
ギリシャ危機を同時進行的に見ていながら、トンチンカンな政策に今なお固執する野田新首相は、現実に対する感度が鈍く、財政政策や経済論理がまったくわかっていないと言えるだろう。
昨年の参議院選挙で菅前首相は、消費税(付加価値税)税率アップの必要性を掲げ、日本も「このままいったら、2年か3年で、あるいは1年か2年でギリシャみたいになっちゃうよ」と言って国民を脅迫した。
敗北した参議院選挙後も、「税と社会保障の一体改革」というスローガンのもと、財務省の代弁者とも言える与謝野氏まで担ぎ出して、2010年代半ばまでに消費税税率を10%まで引き上げることを決めた。
菅首相以降の民主党政権は増税路線を明確にし、とりわけ野田首相はその強硬路線の先駆けのような存在である。
ここではギリシャ財政危機問題自体を論じるのではなく、ギリシャ財政危機から日本政府及び日本国民は何を学ばなければならないのかを考えてみたい。
06年にVAT(付加価値税)を1%(19%に)引き上げていたギリシャは、“リーマンショック”後の金融機関救済策もあり09年の財政赤字がEU基準3%の4倍以上の12.7%(その後13.6%に修正)になったことで、歳入を増加を目的にVATを10年初頭に21%、10年7月には23%に引き上げた。
さらに、それと並行して、歳出を減らすため公務員給与や年金支給額を中心とした財政支出削減策を講じた。
(野田新首相も、それこそポピュリズム丸出しで、国民受けする公務員給与の引き下げを提示)
端的に言えば、付加価値税の引き上げで歳入増加を図り、給与や年金を減らして歳出削減を図るという両方向からの財政均衡策により、黒字化は無理でも、デフォルトに対する不安は払しょくできると踏んだわけである。
それがここにきて、ギリシャ国債のデフォルトもやむなしという声さえあがるかたちで危機が再燃したのは、そのような財政政策が“誤り”であり、ギリシャ政府の債務遂行能力がなくなりつつあることが明白になってきたからである。
当然である。
付加価値税は、国民の実質可処分所得のみならず企業の収益を圧迫する税制である。
付加価値税の引き上げで実質可処分所得が減り、公務員給与や年金の削減である層の可処分所得が減少すれば、将来への不安も高まるなかでは、付加価値税の引き上げや給与・年金の減少額以上に消費が衰退し、GDPレベルの総需要も大きく減少することになる。
最終的に消費者につけ回しがされるのが付加価値税であるが、最後にババを引くひとが手元不如意になっているのだから、税率を引き上げても税収は増えない。
(1兆円の5%は500億円だが、7千億円の7%は490億円である。欧州のように食料品など必需品が軽減税率になっている制度であればなおのことである)
個人の所得税や法人税も、給与削減や消費低迷を受けて減少しているはずである。
ギリシャ政府は財政の内実を明らかにしていないが、昨年7月の財政健全化策までの税収より逆に減少していることは間違いないだろう。
(日本では“消費税”という呼称でごまかされているが、負担は誰がするにしろ、消費税は企業が生み出す付加価値(給与・販促費・減価償却費・利益など)に課せられる税金であり、まわりまわって国民経済を幅広く疲弊させる)
日本がギリシャから学ぶものとタイトルしたが、本来は、ギリシャなどがこの20年間の日本から学ばなければならなかったのである。
日本は、1989年4月から3%の消費税を施行した。
さらに、1997年4月からは地方消費税1%と合わせて消費税を5%に引き上げた。
そして、2010年代半ばには消費税を10%に引き上げようとしている。
日本は1989年に消費税(VAT)を初めて導入したが、税収の増加が得られたのは2、3年間のみで、その代わり、バブル崩壊のきっかけでもある89年末での「株価の反落開始」につながり、長期不況・デフレ基調経済への助走が始まった。
1997年の消費税税率引き上げも、その年の秋の拓銀・山一証券の破綻を招来し、税収の増加はその年にわずかなものがあっただけである。
バブル崩壊や97年金融破綻が消費税の導入や税率アップのみで引き起こされたと主張するつもりはないが、経済状況を勘案しながら導入されたり税率アップがなされたことから、消費税(付加価値税)が国民経済に広く深く与える影響を推し量る材料にはなると考えている。
【税収推移(単位:兆円)】
88年:50.8
89年:54.9※消費税導入
90年:60.1
91年:59.8
92年:54.4
93年:54.1
94年:51.0
95年:51.9
96年:52.1
97年:53.9※消費税税率アップ
98年:49.4
99年:47.2
00年:50.7
01年:47.9
02年:43.8
03年:43.3
04年:45.6
05年:49.1
06年;49.1
07年:51.0
08年:44.3
09年:38.7
10年:37.4
この税収推移やこの間の日本経済の変移を見てわかるように、消費税増税=税増収ではなく、増税が一時的な増収になることで国民経済を傷みつけ、中期的には税も減収になることがわかる。
(消費税の導入や引き上げが、高額所得者の所得税“緩和”と一体で行われたことも、このような変動に大きく影響している)
昨年春から今年秋にかけてのギリシャの推移は、日本の数年間の動きを凝縮したものといえるのだ。
増税を批判しているからと言って、財政赤字を野放図でいいとは考えていない。
日本社会と日本経済が置かれている条件から、これまでの政策を続けていけば、供給と需要の関係が逆転し、インフレ・円安に陥ることは避けがたいと考えている。
デフレ不況で企業収益が圧迫され、国内需要の増大も見込めないなかでは、製造業に限らず、様々な企業が国外に活路を求めることになる。さらに、収益を確保するために人件費の抑制をいっそう強化していくはずだ。
その一方で、年金や医療に頼る国民が増加していく。政治である限り、ぎりぎりまでは年金や生活扶助を抑制することはできても、“反乱”を呼び覚ますような切り下げはできない。
このような流れは、日本経済のインフレ・円安につながるものである。
そして、そのような流れでインフレに陥れば容易に抑制することができず、インフレがインフレを呼び、円安が進みそれがさたにインフレを呼ぶという悪循環に陥る。
そうなれば、否応なく、高・中所得者の所得税や法人税(利益にかかるもの)を増税してインフレを少しでも緩和する政策を採らなければならなくなるだろう。
このような事態に陥ることを避けるためにも、デフレの最大要因となっている人件費抑制を是正し、総需要を増大させるなかで個々の企業も利益を上げるという正常な姿に戻す必要がある。
すべての企業が一斉に大幅賃上げができる条件にはないのだから、輸出優良企業が先行して大幅な賃上げを行い、その効果が波及していくなかで他の企業も徐々に賃上げに動く「雁行」型賃上げが求められている。
そして、そののちに、誰がどのように国家及び地方自治体の財政を負担するのが合理的なのかを論議しなければならない。
一言でいえば、インフレ要因である貿易収支黒字を達成していながら、一時的なともかく、15年にわたってデフレ基調にある日本経済は異様なのである。
貿易及び投資で稼いだお金を国内で循環させることで近代の国民経済は成長していくのである。
(輸出は、国内に供給する財を減少させ、輸出する財を生産するための人件費等は内国民に支払われているので、国内の需給バランスを需要超過側に引っ張るものである)
目先の利益や企業というミクロの論理だけで物事を判断するのではなく、供給サイド(企業)が支払ったお金は、まわりまわって供給サイドに戻ってくるものであり、その動きの活発化が企業に利益をもたらすことを理解しなければならない。
逃避でなく、円高を利用した海外進出なら大いにけっこうだ。
進出した先で雇用を広げることでその国の所得水準が上がり、“正常”になった日本経済も成長を続けることもできる。
敗戦の焼け野原から国家=共同体の力で再建を果たし、企業活動の原動力である人材も、日本社会の歴史性や学校制度のなかで培われてきたものである。
ただでさえ長期デフレ不況のなか、大震災とトンデモナイ放射能災害に見舞われた日本は重大に岐路に立たされている。
このようなときこそ、政府もだが、日本経団連など有力大企業の経営者が先頭に立って理性的な判断をしなければならないはずだ。
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