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正論ではあるが、実際、円高で倒産に追い込まれたり、雇用不安でパニックになっている人々にはあまり通用しそうもない。
自由貿易推進が総論賛成、各論反対でなかなか進まないのと(逆の意味で)同じ構図だな。
日銀や政府への圧力は、今後も高まっていくだろう。
http://diamond.jp/articles/-/14001
【第21回】 2011年9月13日
著者・コラム紹介バックナンバー
出口治明 [ライフネット生命保険椛纒\取締役社長]
なぜ円高で大騒ぎするのか。そこに財界の時代遅れの発想が見え隠れする
主要紙の社説などを見ると、まるで判を押したように「急激な円高を是正し、景気の回復を図らねばならない」といった論調が並んでいる。むろん、経団連を始めとする財界主流も同じ見解だ。安住財務相はG7後(9日夜)の記者会見で、大幅な円高について「日本の景気に冷水を浴びせかねない。動向を注視し、投機的な動きには断固たる措置を取る」と述べた(9月10日付、日本経済新聞夕刊)。
このように現状では、メディアも財界も政界もこぞって円高是正を叫んでいるように見える。これは本当に正しいのだろうか。「全員が同じことを叫ぶ時は、まず疑ってみよ」という言葉もある。円高問題を整理してみよう。
自国通貨の価値が上がる
円高は長期的には好ましい
白地に絵を描くつもりで原点に戻って考えてみれば、円高が長期的には好ましいことは明らかである。自国通貨が高くなる(価値が上がる)ことを、嫌がる人はどこにもいない。財布に入っている1万円札の価値が金貨1枚に相当するとしよう。これが円高になって金貨2枚に交換できるとしたら、一体、誰が嫌がるだろうか。
では、なぜ、世間は円高を忌避するのだろう。それは、20世紀後半の高度成長期と同じように、輸出製造業の目で為替を見ているからだ。わが国の比較優位性のある産業であり生産性の高い輸出製造業が円高で打撃を受ければ、景気の回復に後れが生じると言う、ある意味、単純な認識論がその根底にある。
確かに、現在のわが国経済の局面では、短視眼的に考えると、円安の方が景気回復には(若干の)プラスであるようにも思えるが、事はそう単純ではないのではないか。
QE2(FRBによる量的金融緩和第2弾)の影響もあって世界的に一次産品の価格が急騰している。そうであれば、円高がもたらす交易条件有利化の側面を軽視するわけにはいかない。ましてやわが国では東日本大震災で原子力発電に対する不安感が急速に高まり、ここ数年の間は火力発電にかなりの部分を頼らざるを得ない状況にある。言うまでもなく、電力は輸出製造業を含めた産業のコメであって、電気料金のコストは、輸出産業の競争力を左右する大きな要素である。
加えて、現在の円高は購買力平価で見れば、まだまだ円安であるとの指摘もある。かつての最高値である95年の79円台の円高は、購買力平価で換算すると60円台に相当するという試算もあるようだ。
このように考えれば、現在の水準の円高(9月12日正午現在77.52円)が、わが国経済(例えば向こう1〜2年間の実質GDP)に与える具体的な影響について、プラス面とマイナス面をまずは冷静に数字で検証・比較する必要がある。
空洞化にもプラス面がある
円高是正論は、輸出製造業の空洞化が生じてもいいのかという一種の強迫論にもその論拠を置いているようだ。輸出製造業を簡単に定義してみよう。「競争力のある機械設備+コストの安い労働力」がそれである。大まかに言って、わが国の労勤者の所得が4万ドル、中国のそれが4000ドルという格差がある中で、企業活動がグローバルに広がっていくことは歴史の必然である。かつての英国や米国もその道を歩んできた。空洞化が心配だと言って、わが国輸出製造業のグローバル化にブレーキをかけることは、成長可能性に天井を設けることとほぼ同義ではないか。
また、空洞化は雇用の流動化をもたらし、20世紀後半の高度成長期とは異なった21世紀型の産業構造へと転換する、またとないチャンスともなり得る。加えて、円高をもっと積極的に活用し、海外の企業の買収を含めて、もっと国内に呼び込むという発想が取れないものだろうか。必然的に出ていかざるを得ない企業を情に訴えて引き留めるよりも、新しい企業を世界中から連れてくる戦略の方が遥かに理に適っている。
仮に空洞化で雇用問題が高まれば、政府もそれこそ必死になって、海外の企業を呼び込むべく、税制や証券市場や参入規制等、諸外国との制度間競争を見据えて企業が活動しやすくなるよう、わが国の構造改革に本腰をいれるのではないか。このように考えてみると、空洞化論は20世紀後半の高度成長時代の一つの残滓であって、現状維持を望む以外の何ものでもないのではないか。
為替介入は、税金でFXを行うこと。
円高を是正する有効な方法はあるのか
百歩譲って、円高の是正が必要だとしよう。次の問題は円高を是正する有効な方法があるのかどうかということだ。円高是正論者の大半は、「円高はデフレと対になっており、日銀がさらに金融緩和をすればいい」と考えているようだが、8月30日の当コラムで示したように、日銀はこの15年間欧州や米国の中央銀行に比べ一貫してバランスシートを過大に膨らませてきた。そして、これだけ緩和してもデフレ・円高を抑えることは出来なかったのである。日銀がさらに金融を緩和すれば円高やデフレが終息すると主張したいのであれば、どのような回路・プロセスでもって終息できるのかという根拠を具体的に示すべきであろう(寡聞にして、説得力あるそうした主張は聞いたことがない)。
また、円高是正論者は、為替介入をも望んでいるようだ。先月(8月4日)行われた為替介入は史上最大規模であったと伝えられているが、それでも4.5兆円程度に過ぎなかった。世界の為替市場では1日平均4〜5兆ドルの取引が行われているのである。わずか1〜2%の介入で果たして効果があるのだろうか。投機筋の小鬼を叩いたり、政治的なパフォーマンスを示したりする効果はあるかも知れないが(そして、そういった効果を決して否定するものではないが)、円高を反転させる効果まであるとは、とうてい思えない。
何よりも、為替介入と言えば、何か高度な経済政策のように聞こえるが、その実態は、税金でFXを行うことでしかない。FXはゼロサムゲームであり、投機そのものである。このような財政状況のもとで、貴重な税金をFXに投じて果たしていいものだろうか。政府・財務省は為替介入を行うのであれば、その「費用対効果」の分析結果を国会や市民に対してきちんと説明して然るべきであろう。
ちなみに、G7では日本を除いて為替介入を行っている国はどこにもない。なお、9月9日に閉幕したG7の合意事項では、為替について「市場で決定される為替レートを支持。為替の過度の変動や無秩序な動きに関して緊密に協議し、適切に協力」と、一般論でまとめられたことは周知の通りである。
いまだにお上に頼ろうとする
財界首脳の発想を憂うべき
急激な為替や株価の変動が、企業の決算に大きな影響を与えることは言うまでもない。そうした急激な変化がおこらないことに超したことはない。しかし、マーケットは所詮そういうものであって、「ブラック・スワン」を排除することは誰にもできないのだ。我々は80年代の為替の自由化以来、そうしたマーケットの習性を十分学んできたはずではなかったのか。
また、世界的に見れば、この失われた15年の間、わが国の企業ほど、政府・日銀の手厚い支援(財政出動・金融緩和)を受けて来た例はない。それにも係わらず、この程度の円高でいわば「お上に泣きつく」わが国財界首脳の発想・精神構造の在り方には強い違和感を覚える。
たとえば、上場企業はこの6月末で62兆円ほどのキャッシュを保有している。円高を活用してこのキャッシュでなぜ、海外の企業や資源を自ら購入しようとはしないのだろうか。為替市場に与える影響は同じではあるが、FX(ゼロサムゲーム)より実物資産を買う方が国益に資することは明らかではないか。少なくとも、「我々も自らのキャッシュをはたいて海外企業等を買いに向かいますから税金でもバックアップしてください」と陳情するのがまだしも筋ではないか。
もちろん、メディアや政界も同じではあるが、こうした財界首脳のお上頼みの発想は「1940年体制」下の高度成長時代とまったく変わっていないように見受けられる。付加価値を新しく生み出すのは民間しかない。
米ソの冷戦が終結し、中国やインドの市場経済への参入に伴って、世界はまったく新しいグローバル競争の時代へとパラダイムが転換した。ゲームのルールは大きく変わったのである。このような新しい世界、すなわち金融・経済環境の著しい変化のなかで、わが国企業の競争力が低下し、株価が低迷を続けている真の原因が、財界首脳・経済界リーダーの古色蒼然としたこうした精神構造の在り方でなければ幸いである。
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