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長期的な労働需給を考えず、ただ漫然と大学を出ただけでは、もう付加価値の高い職に自動的につける時代はとっくに終わっているのは世界共通だが
IT技術などの進化やグローバル化のせいで高付加価値のポストが減少したため、先進国ではその動きは、益々加速しているようだ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/21599?page=3
高学歴者の苦悩:大学は出たけれど・・・
2011.09.08(木) (英エコノミスト誌 2011年9月3日号)
大卒という学歴はもはや、経済的な安定を与えてくれない。
先進国ではそろそろ、高校を出た何百万人もの若者が両親に涙の別れを告げ、大学で新たな生活を始める頃だ。中には純粋な向学心に燃えている人もいるだろう。しかし、大半の人は同時に、大学で3〜4年勉強すれば(その間、巨額の借金を積み上げることになる)、給料が良くて安定した仕事にありつく可能性が高まると信じている。
年長者はこれまで彼らに、教育こそがグローバル化した世界で成功するための最善の備えだと言い聞かせてきた。ブルーカラー労働者の仕事は海外に流出し、自動化されていく、というのがお決まりの台詞だ。中退者はカネに窮する不安定な生活を強いられるが、大学を卒業したエリートは世界を股にかけることができる、と。
そうした見方を裏付ける証拠もある。ジョージタウン大学の教育・労働力センターによる最近の研究は、「高卒以上の資格を得ることは、ほぼ間違いなく価値がある」と論じている。
学歴と生涯収入の関係
収入と学歴、若い世代の女性で男性を上回る傾向に 米国
かつては大学を出れば、給料のいい、安定した仕事を得られた〔AFPBB News〕
学歴は給料にも密接に関係している。専門学位を有する米国人は、生涯を通して360万ドルの収入を手にすることを期待できる。一方、高卒の資格しか持たない人はたった130万ドルの生涯収入しか期待できない。
学歴による収入の格差は、拡大しているかもしれない。2002年に行われた調査では、学士号を持つ人は高卒資格しか持たない人より75%多い生涯収入を期待できることが分かった。今では上乗せ幅がもっと拡大している。
だが、過去は将来を知る確かな指針なのだろうか? あるいは今、仕事と教育の関係が新たな段階に突入しているのではないか?
旧来の構図が変わろうとしており、現在の景気後退による欧米大卒者の需要の落ち込みが構造的なものに変化していくと考えるだけの理由が存在する。過去数十年間にわたって多くのブルーカラー労働者を震撼させてきた創造的破壊の渦が、知識エリートたちをも揺さぶり始めているのだ。
大卒者の数は急増している。クロニクル・オブ・ハイヤーエデュケーション誌の試算では、1990年から2007年にかけて、大学に進学する学生の数は北米で22%、欧州で74%、中南米で144%、アジアで203%増加したという。2007年には世界中で1億5000万人が大学教育を受けており、そのうち7000万人はアジアの学生だった。
新興国(特に中国)は、米国や欧州のエリートと競合できる大学の建設に資源をつぎ込んでいる。またこれらの国は、新卒者を採用して世界に通用するコンピュータープログラマーやコンサルタントに育て上げる、タタ・コンサルティング・サービスやインフォシスのような専門サービス企業も生み出している。
先進国のエリートたちは次第に、彼らより少ない給料でより一生懸命働く新興国のエリートと競争せざるを得なくなっているのだ。
また、かつて農業労働者の需要が19世紀に、工場労働者の需要が20世紀に塗り替えられたように、知的労働者の需要も技術によって再編されつつある。
知的労働者の需要が変わる
コンピューターはもはや、反復的な知的作業を人間よりずっと速いスピードでこなせるだけではない。今では、コンピューターを使えば、素人がかつて専門家が行っていた作業を行うことができる。
ターボタックス(納税申告用ソフトウエア)がわずかな費用で納税申告書を作成してくれる時に、わざわざ生身の会計士を雇う必要などないだろう。また、プログラマーが微妙なトーンや言語の曖昧さに対応できるようにしたため、コンピューターがこなせる仕事はますます増えてきた。
ポール・クルーグマン氏ら何人かのエコノミストは、ポスト工業社会は教養のある人材に対する需要急増ではなく、大規模な「空洞化」に特徴づけられるようになると論じるようになった。中級の仕事が賢いコンピューターに奪われ、ハイレベルな仕事も伸び悩むと見られるからだ。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のデビッド・オーター氏は、コンピューター時代における自動化の主な効果は、ブルーカラーの仕事を破滅させることではなく、定型化が可能なすべての仕事を台無しにすることだと指摘する。
プリンストン大学のアラン・ブラインダー氏は、これまで大卒者が伝統的にこなしてきた仕事の方がむしろ、給料の低い仕事より海外に流出しやすいと言う。配管工やトラック運転手の仕事はインドにアウトソースすることはできないが、コンピュータープログラマーの仕事なら可能だからだ。
医学や司法、学問の世界など、安定的で給料が高い仕事を与えてくれる一部の職業集団には、大学教育は今も必須条件だ。こうした集団は20世紀に、見事な手腕を発揮して参入障壁を引き上げてきた――正当な理由(誰も理容師に手術してほしくはない)もあったが、自己本位なものもあった。
だが、こうした職業も崩れ始めている。新聞社はブログの世界と負け戦を戦っている。大学は終身在職コースに乗った教授を、終身地位保障がないスタッフに置き代えている。法律事務所は「ディスカバリー(裁判に関係のある資料をかき集める作業)」などの決まった仕事を、ブラックストーン・ディスカバリーのようなコンピューター化された調査専門会社に外注するようになった。
また、患者がオンラインで医療アドバイスを受け、ウォルマートに新しく開設されたヘルスセンターで治療を受けるようになり、医師さえ脅かされている。
アダム・スミスのピン工場
MITのトマス・マローン氏は、こうした変化――自動化、グローバル化、規制緩和――は、より大きな変革の一環かもしれないと指摘する。すなわち、知的労働に対する分業の適用だ。
アダム・スミスの工場長がピンの製造を18工程に細分化したように、企業は次第に知的労働をどんどん細分化するようになってきた。トップコーダーはIT(情報技術)プロジェクトを一口大の作業に切り分け、世界中にいるフリーのプログラマーに与えている。
こうした変化は間違いなく知的労働者の生産性を高める。そのおかげで消費者は、サービスの見返りに高い報酬を搾取する専門職を避けることができる。また多くの知的労働者はそれぞれの得意分野に集中し、つまらない仕事を外注できるようになる。
しかし、知的労働の再編は同時に、次世代の大卒者の生活を極めて居心地悪く、予測不可能なものにしていくのである。
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