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大収縮への処方箋、カネを借りて使え!債券市場の声に耳を傾けるべき理由
2011.09.08(木) (2011年9月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
なすべきことは何か。その答えが知りたければ、市場の声に耳を傾ければいい。市場はこう言っている。「どうかカネを借り、それを使ってほしい」
しかし市場の魔法を信奉していると公言している人々が、誰よりも頑なに市場の叫びを無視している。財政が破綻しそうになっているのだと彼らは主張する。
超大国に迫るデフォルト危機、米国の10年間に何があったのか
トリプルA格付けを失った米国だが、借り入れコストは60年ぶりの低水準となっている(写真はワシントンの米財務省)〔AFPBB News〕
HSBCは、高所得国の2011年の経済成長率を1.3%、2012年で1.6%と予測している。債券市場も、少なくともこれと同じくらい悲観的だ。
米国の10年債利回りは9月5日に1.98%となり、60年ぶりの低水準を記録した。ドイツ国債の利回りは1.85%。英国でさえ2.5%の金利で資金を借りられる。
各国の国債利回りは急速に日本の水準に近づいている。信じがたいことに、物価連動債の利回りは、米国がほぼゼロ、ドイツが0.12%、英国が0.27%となっている。
市場は正気を失ったのだろうか? 賢い人々は、その通りだと答える。最大のリスクは、市場が恐れるような不況ではなく、デフォルト(債務不履行)なのだ、と。しかし市場がこれらの国債にこれほど誤った価格をつけてしまうとしたら、どうして市場の声にまともに耳を傾けなければならないのか、と彼らは言う。
巨額の財政赤字の原因は刺激策ではなく危機
現在の巨大な財政赤字は、特に深刻な金融危機が生じた国では、計画的なケインズ流の財政刺激策により生じたものではない。米国でさえ、的外れで不十分な景気刺激策の規模は国内総生産(GDP)の6%足らずで、3年間の累積赤字のせいぜい5分の1だ。
赤字の大部分は、危機の結果として生じたものだ。民間部門が節約にいそしんだために、政府が財政赤字を膨らませたのだ。
財政赤字の増加を防いでいたら、大惨事を招いていたはずだ。野村総合研究所のリチャード・クー氏が主張するように、財政赤字は民間部門のデレバレッジング(負債圧縮)を助ける。まさにこれが米国や英国で今起きていることだ。
米国では、住宅価格が下がり始めると、家計部門が資金不足から資金余剰に転じた。企業部門は危機の最中に資金余剰へと移行した。外国からは変わらず資本の供給が続いている。その結果、政府が最後の借り手にならざるを得なかった。
英国の状況も、企業部門の資金余剰がずっと続いてきた点を除けば、大きな違いはない。
政府借り入れの効用
民間部門と海外部門が(超低金利にもかかわらず)巨額の資金余剰となっている限り、一部の政府は借り入れが容易なはずである。唯一の問題は、一部の政府とはどの政府かということだ。
投資家は通貨圏ごとに1つの安全な避難先を選んでいるように見える。ドル圏では米国、ポンド圏では英国、ユーロ圏ではドイツといった具合だ。一方、通貨圏の間での調整は、避難先となる債券の金利より為替レートを通じての方がはるかに多く行われる。
民間部門の資金余剰が大きいほど(したがって、それを埋め合わせる財政赤字が大きいほど)、民間部門は早く債務を返済できる。つまり、財政赤字がバランスシート不況において役立つのは、経済を素早く健全な状態に戻すからではなく、苦痛なまでに遅い回復を後押しするからだ。
1つの異論――ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授が本紙(英フィナンシャル・タイムズ)で8月に展開した主張――は、人々が将来の増税を恐れ、さらに節約するというものだ。筆者は納得していない。事実、日本では家計の貯蓄が減少している。
しかし、良い答えがある。将来の富を増やすために低利の資金を活用し、長期的に財政状態を改善するというものだ。信用力のある政府が、単独もしくは民間部門と共同で物的資産や人的資産に投資して、取るに足らない借り入れコストを大幅に上回る利益を得られないなど、考えられないことだ。
同様に、民間部門の過剰債務の圧縮を促し、銀行の資本を増強し、目先の歳出激減を防ぐことを目的とした政府の借り入れが、そのコストを大幅に上回る利益を上げられないということも考えられない。
もう1つ、特筆すべき異論――ワシントンにあるピーターソン国際経済研究所のカーメン・ラインハート氏とロゴフ教授による独創的な研究に基づくもの――は、公的債務がGDP比90%を超えると、成長が著しく鈍化するというものだ。しかし、これはあくまで統計的な関係であり、決して鉄則ではない。
1815年に英国の公的債務はGDP比260%に上っていた。その後、何が起きたか? 産業革命である。
重要なのは、借り入れの使い道だ。今回の場合、それ以上に考えなければならないのは、別の可能性だ。もし財政赤字を急激に減らすのであれば、経済の他部門の資金余剰も減らなければならない。問題は、資金余剰の減少と、急激なデレバレッジングや支出の拡大がどう両立するかだ。
筆者は、両立し得ないと考えている。現在の状況下では、より可能性の高い結末は、デフォルト(債務不履行)が多発し、利益が縮小し、銀行が崩壊し、新たな不況に陥る事態だ。現在封じ込められている恐慌が抑止されなくなったら、こうしたことが現実になるだろう。
ユーロ圏の差し迫る危機
ユーロ防衛に89兆円、緊急支援基金を新設へ EU
ユーロ圏の赤字国の対外収支を改善させるために、ドイツは何をしているのか?〔AFPBB News〕
特にユーロ圏では危機が差し迫っている。ドイツのヴォルフガング・ショイブレ財務相が寄稿した本紙のコラムには、問題にできる点がいくつもある。中でも特筆すべきは次の2点だ。
まず、赤字国では、対外収支が黒字でない限り、政府部門と民間部門の両方が債務を(デフォルトするのではなく)返済することはできない。では、ドイツは赤字国の対外収支改善のために何をしているのか? 何もしていないに等しい。
次に、通貨同盟内では、構造的な経常黒字を抱える大国は事実上、他の加盟国の赤字を埋めざるを得ない。もし民間部門がそれを拒むのなら、公的部門が引き受けるしかない。さもなくば、赤字国はデフォルトし、経済が崩壊して、輸出国にダメージを与えるからだ。
現時点では、欧州中央銀行(ECB)が必要な資金の大部分を供給している。ショイブレ財務相は本当に、それを止めたいと考えているのだろうか?
従来の見識に反して、財政政策はまだ尽きていない。国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事が8月に米国のジャクソンホールで主張したのは、このことだ。
必要なのは、今、低利資金を借りながら、長期的には確実に支出を抑制することだ。需要を拡大する力のある黒字国も実際に需要を拡大する必要がある。
日本の過ち
高層ビル群のかなたにそびえる夕暮れの富士山
日本はバブル崩壊後のバランスシート不況のさなかに、早計な財政引き締めに走ってしまった・・・〔AFPBB News〕
日本は、バランスシート不況に陥っているさなかに早計に財政を引き締めるという失敗を犯した。今、先進諸国が同じ失敗を、もっと危険で、はるかに世界的な規模で繰り返そうとしているということが明白になりつつある。
財政の引き締めが投資や成長の回復につながるというのが、従来の見識だった。一方それに代わる見識は、苦しむことは良いことだというものだ。前者は愚かであり、後者は不道徳だ。
必要なのは財政政策の見直しだけではない。金融政策にもまだ重要な役割がある。サプライサイドの改革、特に投資を促すような税制改革も大切だ。世界の不均衡是正の必要性も決して小さくない。
しかし今、貯蓄が過剰な世界にあって、最もしてはいけないことは、信用力のある政府が借り入れを大幅に減らすことだ。市場はまさにそのことを声高に叫んでいる。その声に耳を傾けるべきだ。
By Martin Wolf
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