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1ドル50円、日経平均7000円時代到来 「超円高・超株安」ニッポン何が起きるか、読み切る
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/18095
2011年09月05日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
異常な円高・株安は「炭鉱のカナリア」。この国に目に見えない「有毒ガス」が充満しているという市場からの警告だ。針路を誤れば即死が待っている。戸惑うニッポンの迷走が始まった。
■初めて見る光景
円高・株安が止まらない。
米国の「格付けショック」を契機に円買いが加速、76円から75円、そして70円を目指す動きに突入した。株式市場ではホンダ、パナソニック、ソニーといった優良銘柄が年初来最安値を更新、トヨタ、任天堂なども株価が低空飛行≠続けている。
こんな超円高・超株安で影響を受けるのは企業や投資家だけではない。企業が一斉に「自己防衛」のため海外脱出を開始、いわゆる企業城下町を中心に大変な事態が起きている。
愛知県はトヨタを中心とした自動車工場、部品工場などが集まる日本の製造業の中心地。北見昌朗氏は常時200社以上の中小企業を顧客に持つコンサルタントとしてこの地をつぶさに見てきたが、最近の惨状は目を覆うばかりだという。
北見氏が名古屋市内を歩いて回ると、名古屋駅前にタクシーがやたらと多い。2列3列で客待ちをするのは「初めて見る光景」。不況にあえぐ企業がコストカットを余儀なくされているのだろう、地下鉄やJRの構内を歩くと広告ボードはガラガラ。
つい1~2年ほど前まで行列ができていた高級レストランや和食店は閑古鳥が鳴いている。「家族4人で1万円というようなお店にはもはや庶民は寄り付けなくなっている」のだ。
背景にあるのは円高。中小企業は輸出でダメージを受けているうえ、大企業が発注先を海外に移転する「空洞化」で受注量が激減するか、納入価格を大幅に削られている。
北見氏は愛知県に本社を持つ中小企業社員約2万人の給与明細を収集、その実態について調査している。さきごろ最新調査をまとめたところ、次のような悲惨な結果が出たという。
「50代の一般職男性で年収500万円に満たない人が54%と多数派≠ノなっており、賞与(ボーナス)をもらっていないのが5人に1人となった。不況がないと言われてきた土地が一変、深刻な事態に見舞われている」(北見氏)
鹿児島県出水市も「産業空洞化」の煽りを受けている。
かつて企業城下町として栄えた面影はもうない。プラズマテレビのパネルを製造するパイオニア鹿児島工場、液晶パネル製造のNEC鹿児島工場が撤退してから2年。同市商工労政課長の樋口孝志氏は関東、関西をまわって企業誘致の声掛けを続けるが、「跡地に新規参入してくる企業はいない」。16万m2の土地が野ざらしになっている。
「パイオニアさん、NECさんが撤退してから雇用が1000人規模で減りました。彼らの所得は合わせて約50億円あったので、市財政への圧迫も著しい。夜も賑わっていた飲食店が閑散としている」(樋口氏)
残っている企業の工場があるうちはまだ耐えられるが、さらに「撤退」が続けば市経済は壊滅的なダメージを受けるという。「この円高がどこまで続くか、心配です」と樋口氏は語った。
円高で国際競争力を失いかねない大企業は、争って海外進出を図っている。しかし、それで困るのは国内に残された個人である。
国内の雇用がどんどん失われ、失業率が高まる。並行して給与水準も下がり、働いても働いても一向に収入が増えないワーキングプア≠ェ大量発生するのだ。
実はこれとそっくりなことが、すでに米国で起きている。
それは「アップル化現象」と呼ばれるもの。米国アップル社は生産・販売拠点をほとんど海外に置いているため、いくら業績好調でも米国国内に新たな雇用を生まない。「勝ち組」経営者が数十億円の報酬を得る代わりに、多くの人が2ドルのハンバーガーをかじる「二極化」が広がっている。
要は企業が栄えても、国民は潤わない。今後は日本でも同様の現象が起こることは確実なのだ。
「自動車・電機メーカーだけではない。ユニクロを展開するファーストリテイリング、イトーヨーカ堂、無印良品といった小売企業からヤマト運輸、セコムといったサービス企業がすでに海外進出、成果を上げている。もうこの流れは止まらない。力のある企業はグローバル企業として発展するが、一方で日本という国は荒廃していくだろう」(コンサルティング会社ローランド・ベルガー会長の遠藤功氏)
■「50円くらいがちょうどいい」
ではこの円高・株安はどこまで進むのか。プロたちの意見はこうだ。
◆オバマ米大統領が再選をかけてドル安を進めるのが一つ。日本はデフレ、アメリカはインフレなので経済学的に円高にしか進まないのが一つ。この二つの理由で円高はまだまだ進む。来年に向けて60円台、50円台に向かっていくでしょう【百年コンサルティング代表・鈴木貴博氏の意見】
◆1971年にドルと金の交換を停止したニクソン・ショック以来、実はドルの価値は低下し続けている。いまの米国経済の状況から考えると円は50円くらいがちょうどいい。その水準までは円高になる【同志社大学教授・浜矩子氏の意見】
円がこれだけ高くなれば株安の進行も避けられない。国内に溢れる失業者とワーキングプアの群れ---これが日本が近未来に直面する危機である。
では、長期的にはどうか。
日本企業は手っ取り早い海外進出のために円高を利用し、海外企業買収に乗り出している。
たとえばキリンHD(キリンビールの持ち株会社)は今月に入って、ブラジルで2位のビール会社スキンカリオールを約2000億円で買収すると発表。同じくアサヒビールの持ち株会社・アサヒグループHDも今月、ニュージーランドの酒類大手インディペンデント・リカーを約1000億円で買収すると発表している。
「JT(日本たばこ産業)もスーダンのたばこ会社を買収することを発表、すでに海外企業の買収に3兆円ほどを使ったと言われている。武田薬品工業は1兆円規模でスイスの製薬大手を買収することが決まっている」(元UBS証券勤務で現在は小樽商科大学大学院准教授の保田隆明氏)
しかしこのような海外攻勢≠ヘほかの国の企業も同じように進めている。海外にでればそれで安泰なわけではない。国内以上に熾烈な、世界各国の有力企業との戦いが待っている。
「欧米ではパナソニックと韓国サムスンの大型薄型テレビの価格差が2万円ほど。ただ性能は互角で、安いサムスンのほうがデザインは上と評価されている。これでは勝てるわけがない。三菱UFJFGが英国の銀行を事業買収したが、世界の銀行業務は『人材力』が勝敗を決する。今後、東京三菱が英銀の優秀な人材を他企業にヘッドハントされずに活用できるかどうか疑問だ」(ジャーナリストの須田慎一郎氏)
これまで国内で「勝ち組」とされ、保護されてきた名門企業も、海外ではそのアドバンテージはない。大企業が海外で競争に敗れて失速を始めれば、「勝ち組」企業のサラリーマンもリストラの対象となる。「国内」という基盤を捨て、バクチを打つ企業にどんな運命が待っているかは誰にもわからない。
仮に日本を代表する大企業が、台頭する中国、韓国、インドなどに国際マーケットで敗れれば、投資家たちは今夏以上の「売り」を浴びせてくる。そうなれば日経平均が8000円を割るどころか、7000円に達することもありえる。それは「もう日本は終わり」というメッセージにほかならない。
こうした未来を予感した消費者が財布のヒモをより一層きつく締め始め、足元の景気は悪化している。
クレディ・スイス証券アナリスト(小売り担当)の山手剛人氏によれば、日本橋・二子玉川など特に富裕層の多いエリアの百貨店で、高級品の売り上げが減っているという。
実際に東京・日本橋にある百貨店の高級宝飾品フロアに行くと、客の姿がほとんど見当たらない。
閑散としているフロアで暇そうにしていた店員に聞くと、昔はジュエリーを買いに来るお客がほとんどだったが、その数は減るばかりで今は「お直し」で来るほうが多い。かつては親のために10万円近い宝石をプレゼントに買っていく若者もいたが、最近ではすっかり見なくなった。「客単価も下がっている」という。
「百貨店の顧客の中心は富裕層で、その多くは株で資産運用しているため、株高のときは消費意欲が高く、株安では財布のヒモをしめる。そのうえ円高となれば高級品、ブランド品を日本の百貨店ではなく、海外で買うようになる。百貨店は円高・株安で往復ビンタ≠浴びている」(山手氏)
都内のスーパーや外食店では「円高還元」セールが始まっている。フルーツ、肉などが対象で、2~3割引きのものもある。ただ客の入りはいずれも「想定以下」だという。
すでにデフレに慣れきった消費者に、還元セールという言葉も魅力的には響かない。週末になればもっと安く売っている大型輸入専門店に家族連れで出かけ、1週間分の食料などを買い溜めるという生活術≠ェ定着している。
「キツイのが卸業者。『円高分は安く納品しろ』と小売りに言われ、買い叩かれる。そのわりに売り上げは上がらないのだから、利益は悪化する。同じ内需産業でいえば、観光業も厳しい。箱根の旅館は今夏集客が回復しているが、実は『ハイシーズン料金』を取っていない。つまりは実質の値下げ。円高で外国人観光客が減っていることも影響して、売り上げは前年と比べると大幅なマイナスになっているようだ」(帝国データバンク情報統括部長の藤森徹氏)
内需産業は円高で利益を享受するという報道をよく見るが、それはまったくの間違い。現実はさらなる価格安競争に追い込まれているということだ。
さらに人口減少で内需は縮小の一途。安易な価格安競争にかまけてばかりで新たな新商品を作ってこなかったツケがここへきて出ている。結局は海外進出に活路を見出すしかなくなっている。
「そして企業はコストの高い国内の人件費を削減するので賃金は減る。するとモノが売れないのでデフレが加速、さらに人件費カットというスパイラルに入っている」(第一生命経済研究所主席エコノミストの永濱利廣氏)
超円高・超株安の厳しい時代に自己防衛しようとするのは当然だが、いまは企業の自己防衛が個人を苦しめ、個人の自己防衛が小売りを苦しめ、小売りの疲弊がますます経済を縮小させている。日本全体の経済規模が、音をたてて縮小しているのだ。
■超円安に逆噴射する日
こうした事態を受けて、霞が関の中枢・財務省が動き出した。今月、円高シフトを見越した人事を発令。総括審議官だった木下康司氏が国際局長に就任することが決定した。
木下氏は東大法学部卒の'79年入省。財務省の保守本流である主計畑のエースで、同期の香川俊介官房長と並ぶ有力な事務次官候補と目されてきた。主計エースが畑違いの国際局に送り込まれるのは異例のこと。そのサプライズ人事≠フ裏に隠された意図は「財務省の円高シフト」にほかならない。
どういうことか。ある経済官僚によれば、いま財務省は日本経済の見通しについて次のような見解を持っているという。
日本を襲っている超円高はもはや一国政府の手では修正不能の域に達している。つまりはお手上げ状態。そのため自動車、電機メーカーなどといった大手製造業が海外に生産をシフトするのは避けられない。産業の空洞化は必至で、遠くない将来に日本は「カラッポ」になる。
日本経済を支える大企業がいなくなれば、そこにぶら下がっていた周辺企業も打撃を受ける。もちろん倒産する企業もたくさん出てくる。となれば給料カットはもちろん、雇用も激減。日本経済は壊滅的なダメージを受けることになる。
最終的に円高は終わる。「日本の本当の実力」を反映した大幅円安に逆噴射を始めるからだが、それはまだ近い時期ではない。さらに円高が急進、そして日本経済が崩壊してからのことだ。
「財務省はそんな円高後≠見据えた日本のありかたについての青写真を描きにかかっており、その構想の中心を担う人物として、勝栄二郎事務次官が産業政策や金融にも詳しい木下氏に白羽の矢を立てたのではないか」(前出・経済官僚)
ちなみに産業政策は本来経済産業省の縄張りだが、原発問題で同省はレームダック状態=B霞が関も、なかば機能不全なのだ。
企業も、個人も、政府さえ「保身」に必死で、その結果が見てきたとおりの「経済の縮小化」---。これこそが日本病の正体だ。もう誰も止められない。
「週刊現代」2011年9月10日号より
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