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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/20858
高所得国を苦しめる大恐慌以来の「大収縮」
2011.09.01(木) (2011年8月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
8月の市場の混乱は何を物語っているのだろうか? 3つの重要なポイントが示されている、と筆者は考えている。
第1点は、巨額の債務を抱えた高所得国の経済は引き続き極めて脆弱であること。第2点は、こうした困難を解決する政策当局者の能力を投資家がほとんど信頼していないこと。そして第3点は、不安が強まる時に投資家はリスクが最も小さいと見られる資産、つまり(欠点があるにもかかわらず)格付けが最も高い国の国債を金とともに選好すること、だ。
デフレを恐れる投資家は債券を買い、インフレを恐れる投資家は金を買う。どちらにするか決められない投資家は両方を購入する。しかし、これよりも長期の投資リスクを取りたいと考えている投資家や企業経営者はほとんどいない。
「第2次大収縮」か「日本病」か
今や世界は、米ワシントンにあるピーターソン国際経済研究所のシニアフェロー、カーメン・ラインハート氏と、ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授が呼ぶところの「第2次大収縮」(第1次は1930年代の大恐慌)に入っている。そこまで終末論的な見方をしない人なら、これを「日本病」と呼ぶかもしれない。
高所得国の景気が「二番底」に陥る恐れはあるのかという問いかけがあちこちでなされているが、筆者は「ない」と考える。一番底が終わっていないからだ。
従って今は、この景気後退――あるいは「収縮」――がどれほど深く、長いものになるかが問題となる。実際、6大高所得国(米国、ドイツ、フランス、英国、イタリア、日本)の実質国内総生産(GDP)は2011年第2四半期になっても、2008年の金融危機勃発前の水準をまだ上回っていない。
米国とドイツは危機前の水準に近づいているが、フランスはそれより少し遅れており、英国、イタリア、日本の回復はかなり遅れている。
権威ある全米経済研究所(NBER)は、景気後退を「経済全般に及ぶ経済活動の大幅な落ち込みが数カ月以上続く状況」と定義している。これはGDPの水準ではなくGDPの変化に着目した定義であり、普通であれば理にかなっている。しかし、今回の景気後退は普通ではない。
普通でない景気後退
危機の最悪期に見られたようなGDPの急激な落ち込み(GDPの山から谷への減少率は最も小さなフランスでも3.9%、最も大きな日本では9.9%に達した)に見舞われる時には、たとえ景気が拡大しても、GDPが危機前の水準に戻らないうちは景気回復の実感などわかないだろう。
1月の米失業率9.0%、予測超える改善
米国ではまだ、失業率が危機前の2倍の水準で推移している〔AFPBB News〕
失業率が高止まりしたり、新規の雇用が少なかったり、余剰生産能力が多いままだったりする時は特にそうだ。米国ではまだ、失業率が危機前の2倍の水準で推移している。
経済の収縮の激しさと回復の足取りの弱さは、経済の脆弱さが続いていることの結果でもあり原因でもある。
結果だと言えるのは、民間セクターの過大な債務と弱い資産価格(特に住宅の価格)が互いに影響し合って需要を押し下げているためである。
また原因だと言えるのは、予想される需要の伸びが小さければ小さいほど、企業の設備投資意欲は弱くなり、銀行の融資意欲も衰えてしまうからだ。こうなると、経済は宇宙ロケットで言う「脱出速度」を達成できず、大気圏外に飛び出すどころか地表に落下する恐れが生じてしまう。
次に、経済が引き続き脆弱であることを踏まえて、人々が政界の動きをどう見ているかを考えてみよう。
現実から目を背ける政治家
米国でもユーロ圏でも、責任者であるはずの政治家たち――米国のバラク・オバマ大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相――は、筆者の同僚フィリップ・スティーブンスが先日のコラムで指摘したように、事態の展開に対して傍観者以上の働きをしているようには見えない。2人ともよそ者であり、ある程度、よそ者のように行動している。
オバマ氏は、現実には存在しない国の大統領になりたいと思っている。彼の頭の中にある想像上の米国では、政治家たちは意見の相違を脇に置いて超党派で仕事に取り組んでいる。だが現実の世界では、大統領を成功させるくらいなら国を破綻させる方がいいというような野党勢力に直面している。
「ドクター・ドゥーム(破滅博士)」の異名を取るヌリエル・ルービニ氏は景気の悪化を予想している。1日に2度は正しい時間を指す「止まった時計」のようだと揶揄する向きもあるだろう。しかし、ショックを吸収するクッションがほとんど失われてしまったというルービニ氏の指摘は正しい。
金利は既に低水準で、財政赤字は大きく、ユーロ圏はストレスで弱っている。ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の悪さが政策の失敗につながり、経済がパニックに陥ってファンダメンタルズがさらに悪化するという悪循環に陥るリスクは高い。そうなれば、経済はさらに収縮することになろう。
打つ手はまだある
もっとも、為す術が完全になくなったわけではない。特に、米国とドイツには財政出動の余地がまだかなり残っている。これはぜひ使うべきだ。だが、悲しいことに、財政支出を増やせる政府はこれを行おうとせず、財政支出を増やしたい政府にはその余力がないというのが実情である。
また、中央銀行も弾薬を使い果たしたわけではない。ここは思い切って弾を撃つべきだ。民間セクターのデレバレッジング(負債圧縮)を加速したり、金融システムを強化したりする方策も、もっと実行できるだろう。
景気が再度失速すれば、大惨事になることは間違いあるまい。今回のように危険な状況に際しては、従来型の発想にとらわれないアプローチを取ることが重要だ。これまで以上に大胆になるとはどういうことか? これから何をすべきなのか? この2点については、来週のコラムで論じることにしたい。
By Martin Wolf
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/20845
The Economist
米国経済:二番底という地割れはあるか
2011.09.01(木) The Economist(英エコノミスト誌 2011年8月27日号)
通常の景気後退のアクセルは見当たらない――だが、ブレーキも見当たらない。
8月23日に米国東海岸を地震が襲ってから数時間経っても、オフィスで働く人たちはまだ、不安な気持ちで余震に備えながら、ワシントンやニューヨークの街を歩き回っていた。経済に対しても今、同じような警戒がなされている。
2007年から2009年にかけて米国経済を直撃した地震は、まだ余震を起こしている。最新の余震が最大の揺れになる可能性もある。7月下旬以降、米国および世界各地で株式市場が急落した。米国が景気後退に逆戻りするのではないか、そして欧州の債務危機が欧州の銀行の足を引っ張るのではないかと怯えてのことだ。
飛行機の「失速速度」のような低成長
米国経済は確かに弱い。成長率は第1四半期が年率換算でわずか0.4%、第2四半期が1.3%だった。今後の改訂で、どちらの数字もマイナスに転じるかもしれない。そうなれば、景気は既に二番底に入ったことになる。
そうした景気の弱さは、リビアの民衆蜂起に続く石油価格の上昇や、サプライチェーンを寸断した日本の地震と津波に端を発するのかもしれない。
だが、2つのショックが後退すると、経済活動は上向いた。シカゴ連銀がまとめた経済報告の指数は、7月に経済が成長したことを示している(図1参照)。もっとも、その後また弱まっているかもしれないが。
エコノミストらはこれまで長く、この種の低成長は、それより遅くなると空から落ちる恐れがある飛行機の「失速速度」のようなものだと考えてきた。
米連邦準備理事会(FRB)のジェレミー・ネイルウェイク氏の論文は、1978年以降、ある四半期の経済成長率が1%を下回った時は、半分か3分の2のケースで、その後すぐに景気後退が訪れたことを明らかにしている(結果は経済成長を国内総生産=GDP=で測るか国内総所得=GDI=で測るかによって変わる)。
ネイルウェイク氏の論文は、それほど参考にならない。ゆっくりと飛行する飛行機は時には墜落するが、それよりは着陸する方が多い。景気後退に陥る成長の遅い経済は通常、押される形で景気後退に入る。何らかのショックによって、経済が以前から存在する不均衡にひっくり返されてしまうのだ。
このような不均衡を今の米国に見つけるのは難しい。最も変動の激しいGDPの3つの構成要素である住宅、自動車、企業在庫は通常、景気後退をもたらす収縮を加速させる。だが、どれも特に過剰になっているようには見えない。
実際は全く逆だ。住宅建設は一度も底離れしていないし、GDPに占める割合は現在わずか2.4%と、過去の平均の半分足らずだ(図2参照)。
バージニア州北部の建設業者マイク・ゴーマン氏は、過去3年間で事業が大きく落ち込んだと言う。「40人いた従業員がパートタイム職員1人になった。我々は今、家を1軒か2軒建てているだけだ。本当に、本当に静かだ」
自動車生産は回復しているが、通常GDPに占める割合をはるかに下回る水準まで回復したにすぎない。景気後退の間に急上昇した売上高に対する企業在庫の比率は、今は通常に戻っている。
経済を景気後退に突き落とすショックは、金融市場で発生することが多い。株価は急落したが、融資を得るのは比較的容易だ。社債のスプレッドは正常で、短期金利は、インフレ調整後の実質ベースでは大幅なマイナスだ。
FRBの最新の調査では、銀行が融資を増やしたいと思っていることが示されており、「景気後退直前の貸出状況とは正反対だ」とHSBCのケビン・ローガン氏は言う。
二番底は回避できるが・・・
明らかな不均衡や金融の逼迫がないからと言って米国の景気後退のリスクがなくなるわけではないが、それは長期に及ぶ深刻な景気低迷を防止する方向に働く。実際、大半の人にとっては、軽度の景気後退と低成長とを区別するのは難しいかもしれない。
コンサルティング会社マクロエコノミクス・アドバイザーズが、株価、実質短期金利、信用スプレッド、石油価格、利回り曲線――短期金利と長期金利の差――などからまとめた景気後退の指標は、FRBの政策によってその動きが歪められている利回り曲線を除いた場合でも、今後12カ月間に景気後退が起きる可能性が低いことを示している。
同社のジョエル・プラッケン会長は、その予想に対して限られた自信しか持っていない。過去に景気後退を予測するために使われた史料は、新しいショックを財政政策や金融政策で相殺できない場合には、あまり役に立たないからだ。
景気後退に逆戻りした1998年の日本の大幅な景気減速は、訓戒的な話だ。政府は増加する債務を抑制するために、1997年4月に消費税を引き上げた。
そして2つの大きなショックがその財政引き締めに追い打ちをかけた。輸出に大打撃を与えたアジアの金融危機と大手金融機関数行の破綻だ。金利は既に0.5%だったため、金融政策はその衝撃を和らげることができなかった。
運と政策当局者の見識
そのため、景気後退を回避できるかどうかは、運と政策当局者の見識に大きく依存する。FRBはすぐに金融政策を引き締めるつもりはない。実際、市場は、より多くの債券を購入するとか、保有する債券の構成を変えるといった方法で金融政策を緩和する可能性を示唆するベン・バーナンキ議長の合図を探している。もっとも、市場は拍子抜けする可能性が高いが。
一方、財政政策については、いくつかの財政措置が期限切れを迎えるため、引き締められる可能性が高く、1月以降、GDPを2%程度押し下げることになりそうだ。
バラク・オバマ大統領は来月の演説で、現在1兆5000億ドルの赤字削減策を見つけようとしている議会の特別委員会に対し、同時に短期的な財政刺激策も打ち出すよう訴える計画だ。共和党は受け入れようとはしない。共和党のエリック・カンター下院院内総務は最近、「とにかく自分たちにないカネで新たな景気刺激策を行うという議論」に強くくぎを刺した。
8月2日の債務上限引き上げに先立つ瀬戸際作戦や米国債の格下げ、財政を巡る欧州の混乱はどれも、自己成就的な自信の崩壊を生み出す可能性のあるものだ。
バージニア州のもう1人の建設業者スティーブ・アロイ氏は、米国がデフォルト(債務不履行)しかねないという話が顧客の多くを怖気づかせたことを思い出す。デフォルトが回避された翌日、5人の顧客が急いで家を買ったという。このような話は、議会の意識を集中させ、財政面でもっと理性的な成果をもたらすのに役立つかもしれない。
カンター院内総務は、自身のバージニア州選挙区の有権者たちが、政治的な瀬戸際作戦が米国経済を大惨事の瀬戸際まで追い込んだと不満を訴えていたと話す。偶然にも、彼らは今回の地震の震源地に隣接した地域に暮らしていた。地殻変動を経験した彼らは、経済の地震など求めてはいない。
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