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マイナス成長になることは通常は考えられないが、
政治が逆噴射すれば、どうなるかは、我々が、良く知っているところだ
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ソブリン危機――歴史的難局の選択肢
【第10回】 2011年9月1日
不安の種は欧州の混乱に尽きる 米国経済の足踏みが長期化してもマイナス成長転落は考えにくいこれだけの理由
――ディーン・ベイカー 経済政策研究センター所長
世界的な金融危機から3年。震源地となった米国は、まさに“日本病”ともいうべき停滞に直面し、もがき苦しんでいる。ギリシャなど過剰債務国のデフォルトリスクをはらむユーロ圏のような危機的状況ではないものの、超低金利・低成長に陥った日本の姿に重なる超大国の袋小路は世界経済の前途への悲観論を否応なく高める。しかしその一方で、2000年代半ばにサブプライムローン問題についていち早く警鐘を鳴らしたエコノミストのディーン・ベイカー氏は、ユーロ圏が無秩序な混乱に陥らない限り、米国経済の先行きを過度に悲観することは間違いだと語る。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)
――米国経済の現状をどう見ているか。
ディーン・ベイカー(Dean Baker)
ワシントンのシンクタンク、経済政策研究センター(CEPR)の共同所長。米国ではサブプライムローン問題をいち早く指摘したエコノミストとして有名。ミシガン大学で経済学の博士号取得。バックウェル大学助教授などを経て現職。世界銀行や米国議会の経済委員会、OECDのコンサルタントを務めた経験もある。近著に『Taking Economics Seriously』『False Profits: Recovering from the Bubble Economy』などがある。欧米の大手新聞やテレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。
ここ最近、米国経済の二番底懸念を頻繁に耳にするようになったが、そのような無責任な分析は傾聴に値しないと言いたい。債務上限引き上げ協議の紛糾に象徴されるように、ワシントンに緊縮財政ムードが広がる中、大規模な財政出動が難しくなり、景気浮揚の決め手に欠けるのは事実だが、現状を分析する限りにおいては、けっして大きく底割れするような事態にはまだ至っていない。米国経済の現状と行方を正しく表現するならば、住宅バブル崩壊からの回復過程にあり、まだまだ低成長が続くということだ。
――その場合の低成長とは、どの程度の成長率を指しているのか。
私の試算では、住宅バブル崩壊で失った需要は1.2〜1.4兆ドルに上り、簡単に埋め合わせできるようなものではない。新たな大型の財政出動がないという前提で話せば、今年の成長率は2%前後になると見ている。下半期はガソリン価格が下がるなどして多少景気が押し上げられるだろう。ただ、それでも今年の成長率は年率換算で良くて2.5%程度が上限なのではないだろうか。来年(2012年)についても、あまり期待できないと思っている。
――低成長が何年くらい続くと見ているか。
少なくとも今後数年間はこのままだ。どこかで低迷を脱する必要があるが、緊縮財政ムードが続くと仮定すれば、貿易収支の改善に頼るしかなく、それもドル安がさらに進むことによってしかもたらされない。
米国政府はドル安を強く求めておらず、また貿易相手国も輸出市場を保持するためにドル安を望んでいない。となれば、貿易面での改善も期待できず、やはり低成長率と高失業率の期間が長引くという予測に行き着くほかはない。
ただ、私は、米国経済が深刻なデフレに陥る、あるいは制御不能のインフレに直面するといった類のシナリオは杞憂だと考えている。現在、コアCPI(食品とエネルギーを除いた消費者物価指数)は前年比で2%をやや下回るくらいだが、そこから大きく変化することはないだろう。繰り返すが、要するに、退屈な低成長の時代が続くということだ。
――仮にその予想を超えて景気がさらに冷え込み、底割れするとしたら、何がきっかけになると思うか。
次のページ>> 欧州中央銀行は、火事場でホースを持って立ち尽くす消防士
こう答えよう。くすぶっている火種などもうない。火種はもう爆発してしまったではないか。これからまだ悪いことが起こると待っている人びともいるようだが、悪いことはすでに起こった。その意味で、財政赤字を俎上に載せ、ことさら騒ぎ立てた政治家たちの行動は無責任としか言いようがない。米国の財政赤字は並のレベルにあり、大騒ぎするような問題ではない。むしろ今は、財政赤字を膨らませてもよい時期だ。
また、産業セクターに目を移しても、住宅市場も自動車市場もすでにいったん崩壊した。最悪の出来事はすでに起こったのだ。これ以上、景気後退を引き起こすような隠れたリスクが米国経済の内側にあるとは考えられない。
――しかし、欧州の債務危機はどうか。
確かに、ただひとつリスクがあるとすれば、それはユーロ圏経済の無秩序な混乱だろう。
過剰債務国のデフォルトなどが引き金となって、ユーロの崩壊など欧州のシステムが大きく揺らぐようなことがあれば、米国経済も当然大打撃を免れない。欧州の指導者たちによって危機がどう制御されるかにもよるが、金融市場がリーマンショックの時と同じか、さらに深刻な“凍結”状態に陥るようなことになれば、米国の金融システムを含めて、これに耐えられるところはない。
――それが杞憂でないとしたら?
私自身は、そこまで悲観していない。なぜなら、それは解決策のない問題ではなくて、やるかやらないかの「能力」の問題だからだ。つまり、極論すれば、危険な状態にある国々がデフォルトを起こさないように、欧州中央銀行がもっとお金を刷ればよいという問題であるからだ。
現状は、まるで学校が火事で燃えているのに、消防士がホースを握ったまま突っ立って何もしないでいるようなものだ。崩壊を防ぐためにやることはひとつしかないはずだが、これらの国々を心痛状態に置いたままにしているという信じられないことをやってのけている。しかし、さすがに、きちんとした対応がこれからなされることだろう。
――米国経済に話を戻すが、マイナス成長に陥る可能性は本当にないと言い切れるのか。2011年第1四半期の成長率は年率換算でわずか0.4%で、第2四半期は速報値の1.3%から1%に下方修正された。今後の改訂しだいでは、どちらもマイナスに陥っておかしくないのではないか。
私は、欧州経済の無秩序な混乱がない限り、米国経済のマイナス成長転落は“考えにくい”といっている。何か断言的な予言をしているわけではない。ただ一部の行き過ぎた悲観論者に与していないだけだ。
米国経済の基本をおさらいしよう。バブルにいたるまで、経済の70%は消費が占め、それは住宅バブルによって牽引されていた。バブル崩壊後、消費は大きく縮小し、その一方で貯蓄率は5〜5.5%まで高まった。10%まで高まることはないだろうが、もう少し上がるかもしれない。
次のページ>> QE3は、やらないよりもましという程度
さて、貯蓄率がだいたい安定すれば、後は賃金が増えることを待つしかない。現在、緩慢なペースではあるが民間雇用者数は増えている。7月には前月比で約10万人増えた。今から6ヶ月後、全体としてみれば、労働者はより多くのお金を手にしていることだろう。ガソリンなど燃料費の低下も好材料だ。所得が拡大すれば、ごく当たり前の帰結として、消費は押し上げられる。設備投資も、7〜9%という妥当なレベルで伸びている。政府支出は縮小しているが、落ち込みは1〜2%であり、急速ではない。したがって、ここから成長がマイナスになることは本来は考えられない。
――QE3(量的緩和第3弾)は必要か。
助けにはなるだろう。QE2はわずかだが経済に好影響を与えた。10年物米国債の利回りを20ベーシスポイント(ベーシスポイントとは1%の 100分の1)ほど下げた効果があった。現在の経済環境では大きなインパクトはないが、ローンの借り換えをした人びとはその時にいくらか節約できたはずだ。ただ、QE3はいくつもある政策のうちのひとつであって、やらないよりはましという程度にすぎない。
通貨供給量をいくら増やしても、そのほとんどが滞留してしまう可能性が高いことは、日本の前例が示している。もっとも、経済が持ち直し、金利が2.6〜2.8%あたりになった時、さらに20ベーシスポイント程度下げるために量的緩和を行えば、それはある程度の効果をもたらすかもしれない。大きな成長を促すことにはつながらないだろうが、成長率を0.1〜0.2%押し上げ、数10万の雇用を生むならば、やっても損はないかもしれない。
次のページ>> ドル安に反発する米産業界の顔ぶれ
――米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は、今のところ、QE3には具体的に言及せず、その代わりに、少なくとも2013年半ばまで異例の超低金利政策を継続する可能性が高いとしている。これをどう評価するか。
超低金利政策を継続しても、その効果は限られたものにとどまるだろう。つまるところ、バーナンキFRB議長は市場の混乱を見て何かしなければならないと思ったものの、考えついたのはそれだけだったということだ。
もし雇用が毎月30万、40万と増え、失業率が6%にまで下がるようなことになったら、バーナンキ議長も超低金利政策に固執しなくなるだろう。だが今は経済がこのままずっと低迷を続けたら、金利を上げたりはしないというメッセージを伝える必要があった。要するに、何ら大きなインパクトのある発言ではなく、FRBがきちんと問題を把握しているということを伝えたという意味では、安心感をもたらしたという程度のものだ。
――ところで、あなたは先ほど、現状のドル安について米国政府はとくに望んでいるわけではないと言ったが、それでも容認はしているということか。
政府は、相半ばした思いを持っているのではないか。先述したように、貿易赤字の有効な改善策はドル安であり、政府はそれを推進すべきところだろう。ただ、米国にはドル安を歓迎しない企業も実は多い。ウォルマートのように中国に広範な供給網を持つような企業や、中国でビジネスを拡大しようとしている金融機関などは、ドル安を嬉しく思っていない。彼らは政府や議会に多大な影響力を持っている。こうした状況下、ドルの水準について、政府に今現在、明確な戦略があるとは到底思えない。
私自身の考えを述べれば、貿易赤字がGDPの5〜6%になっているような状況は、そもそも健全ではない。貿易赤字は、すなわち国内貯蓄がマイナスだということだ。
私が学生のころは、米国のような裕福な国家は、貿易黒字であるというのが普通の考えだった。ところが、今や誰もそんなことが可能だとは信じていないようだ。なぜ黒字であってはならないのか、いい理論があれば聞きたいくらいだ。学生時代に習った基本的な教えは、今でも正しいと私は信じている。
質問1 数年内に米国経済がマイナス成長に陥る可能性について、あなたの意見は?
55.6%
あり得る
22.2%
あり得ない
22.2%
分からない
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