http://www.asyura2.com/11/hasan72/msg/859.html
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過当競争で輸入企業の利益が減っていくのは企業のステークホルダーにとって問題だが
円高差益の還元が進むなら、一般大衆にとっては利益となる
http://diamond.jp/articles/-/13740
公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略
【第65回】 2011年8月26日
高田直芳 [公認会計士、公認会計士試験委員/原価計算&管理会計論担当]
円高は輸入型企業や内需型企業にとっても逆風だった!?ニトリ、ABCマートが円高で営業「減」益になる理由
東日本大震災のときに最高値を記録した円高が、半年近く経過したこの夏(2011年8月下旬)、さらに更新された。ニッパチ(2月と8月)の閑散相場になるかと思っていたら、そうでもなかった。
こうした円高問題について、前回(第64回)コラムでは、トヨタ自動車などの自動車業界3社と、東芝などの電機業界8社のデータを用いて、「為替レート感応度分析」を紹介した。これは「1円の円高」によって、貿易立国を標榜するニッポン企業(特に輸出型企業)の営業利益がどれだけ「減少」するかを調べるものだ。
前回コラムでは、その分析結果として〔図表 1〕を提示した。以下、証券コード順で略称名を使用する。
企業活動や経済活動は「複利構造」
円高の恐怖を必要以上に煽る「単利計算」の罠
前回の復習を兼ねて、〔図表 1〕から浮かび上がる、いくつかの特徴を指摘しておこう。
1つめは、メディアなどでは2011年になってもいまだに、「トヨタは、1円の円高で▲300億円の営業『減』益になる」としていることだ。最近 では「▲340億円」や「▲350億円」まで飛び出している。ニッサンについては▲200億円、ホンダについては▲150億円とする見解が多い。これらの 企業はヘッジ取引もせずに、むき身で「円高の嵐」に立ち向かっているとでもいうのだろうか。
〔図表 1〕を見れば明らかなように、トヨタの場合、2年前の09年3月期であればそうした見解も正しかったであろう。ところが、09年後半以降は、急速に改善されている。ニッサンやホンダについては「なにをかいわんや」である。
これだけ大きな「見解の相違」があるとなると、そもそもの話として、「為替レート感応度分析」の計算方法に彼我の差があるのかもしれない。それを簡単に確認しておく。まず、〔図表 1〕で描いた「タカダ式感応度分析」は、次の命題を基礎としている。
〔図表 2〕は要するに、昨日稼いだキャッシュは今日へ再投資され、今日稼いだキャッシュは明日へ再投資されるという「複利」を基本とする。そのための計算構造として「自然対数の底e」を内蔵した指数関数を用いる。
〔図表 2〕が示唆する「複利」以外の計算方法としては、「単利」がある。本連載でたびたび指摘しているCVP分析(損益分岐点分析&限界利益分析)や、限界利益 概念は、1次関数を用いるので単利計算の典型だ。これは要するに、昨日稼いだキャッシュは今日へ再投資せず、今日稼いだキャッシュは明日へ再投資しない。 日々稼いだキャッシュを翌日に再投資することなく、金庫に死蔵していくのが、単利の基本だ。
次のページ>> 輸出型企業が円高で「増益」!?もはや円高は株価低迷の理由にならない
経済学の、特に企業行動論では、指数関数や1次関数ではなく、2次関数や3次関数を用いる(スティグリッツ・ミクロ経済学170頁)。これは単利でもなければ複利でもない。ましてや「自然対数の底e」を用いて企業行動を複利構造で解明しようとする経済学には、お目にかかったことがないのである。
どのような「関数形」を用いると、現実の企業活動や経済活動を描写できるかは、改めて説明するまでもないだろう。ニッポン企業が直面している「円 高の恐怖」は、こうした関数形の違いのほか、きちんとした解析作業を行なわずに「文章」だけで語られているのも一因だ、と筆者は推測している。
もちろん、〔図表 1〕の「タカダ式感応度分析」の計算構造のほうが間違っている可能性もあるので、筆者のほうがむしろ、感応度分析の何たるかを理解していないのかもしれな いが。ただし、〔図表 1〕では2010年以降、各社が「束」となって推移しており、無茶な計算構造になっていないことを一目で判断していただきたい。
為替レート感応度分析は百家争鳴の状況にあり、通説的見解はないようだ。これについては各自で、書店にある書籍を棚ざらえして研究すればいいだろう。誰かに問えば、タダで教えてもらえると思っているなら、それは大間違い。『マンキュー経済学Iミクロ編』5ページによれば、「無料の昼食(フリーランチ)といったものはどこにもない」のである。
輸出型企業が円高で「増益」!?
もはや円高は株価低迷の理由にならない
〔図表 1〕から浮かび上がる2つめの特徴は、2010年以降、「自動車業界3社+電機業界8社=11社」のほとんどが、原点Oの横軸を上回っていることだ。これは円高が、追い風になっていることを表わしている。
従来、ニッポンの自動車業界や電機業界は、輸出型企業の代表として、円高が進むたびに株価の低迷を余儀なくされてきた。円高は「減益」をもたらすと思われてきたからだ。ところが10年以降、円高は各社に「増益」をもたらしており、株の「売り材料」にならない。
輸出型企業にとって、円高が追い風に転じる? このようなことがあっていいのだろうか。筆者も訝しく思っていたところ、7月23日付の日本経済新 聞で「円高が日本経済の復調に水を差す懸念が強まる一方、株式市場では『円高=売り』の構図が薄れている」とあった。なるほど、である。
ここでいう「構図」とは、円高になれば輸出関連株は「売り」、輸入関連株は「買い」になること。それがいままでの常識とされてきた。
ところが〔図表 1〕を見ると、2010年以降、その常識が通用しない。11年3月に起きた東日本大震災によって、〔図表 1〕の右端(11年3月期)は全社とも「オジギ」をしてしまったが、「輸出関連株 → 円高 → 営業減益 → 売り」という構図は薄れてしまった、というわけだ。
次のページ>> ニトリとABCマートは円高で営業「減」益に!
「輸入型企業に円高は追い風」は本当か?
ニトリとABCマートは円高で営業「減」益に!
先ほど、関数形の違いのほか、文章だけの分析が「円高の恐怖」を煽っているのではないか、と述べた。上塗りするならば、円高は「輸入型企業に追い風だ」「内需型企業には中立だ」といった見解も跋扈している。こういう「文章だけの分析」を読むと、ウンザリしてしまう。
相手を非難するからには、対案を出すのがビジネス上のマナー。そこで今回は、家具インテリアを扱うニトリや、靴専門のABCマートのデータを拝借して、「タカダ式感応度分析」を用いた対案を示そう。
ニトリは、インドネシアなどに製造拠点を置いてオリジナル商品を生産→ 輸入するとともに、世界中のメーカーからも直接輸入することにより、低価格化戦略を進めている企業として有名だ。ABCマートは、「VANS」(スポーツ -シューズ)や「G.T.HAWKINS」(トレッキング-シューズ)などの輸入販売を行なっている。両社ともに輸入型企業の典型であり、円高は「プラス に作用するはずだ」と誰もが想像する。
筆者がゾッとするのは、円高問題が「想像」で語られて、それが本当に「事実」なのかどうかを、具体的なデータで検証しようとする人を見かけない点だ。想像と事実は、往々にして異なる場合が多い。
そこで、ゾッとする解析結果を以下でお見せしていこう。データ収集と解析処理は、筆者が1人で制作している『原価計算工房ver.6』で行なっている。誰も解いたことのないパズルの穴を一つずつ埋めていくのが、筆者の商売でもある。
次の〔図表 3〕は、ニトリとABCマートの、営業利益ベースでの「タカダ式感応度分析」の解析結果である。1円の円高によって、営業利益がどれだけ「増減」したかを、時系列で展開していったものだ。
〔図表 3〕の最上部に原点Oの横軸(年月)があり、縦軸はすべて▲印が付いている。すなわち、ニトリもABCマートも、円高が1円進むたびに営業「減」益を余儀なくされているのだ。
輸入型企業であれば円高はプラスに作用するはずだ、という「根拠なき文章分析」が、如何にいい加減なものであるかを〔図表 3〕は指し示している。
円高ドライブ効果、円高限界点の観察に
「戦略利益」が有用なわけ
もちろん〔図表 3〕は、短兵急すぎる結論だ。まず、ニトリとABCマートが輸入型企業であることを確認してみよう。その前に、輸出型企業の例としてソニーの「円高限界点図表」を〔図表 4〕に示す。
〔図表 4〕を描くにあたっては、いくつかの仮説を必要とする。詳細は第63回(トヨタ&ニッサン&ホンダ編)や第64回(自動車業界&電機業界編)の各コラムに委ねるとして、以下では簡単な説明をしておく。
次のページ>> 輸出型企業の場合、円安には輸出ドライブが。円高には輸出ブレーキが働く
輸出型企業の場合、円安には「輸出ドライブ」が働く。その反対に、円高には「輸出ブレーキ」が働く。筆者は、後者(輸出ブレーキ)のほうを「円高ド ライブ効果」と呼んでいる。〔図表 4〕では、黒色の各点が少し下に膨らんでいるところが「円高ドライブ効果」を表わしている。各点が直線で並ぶのなら、「ドライブ」とはいわない。
「円高ドライブ効果」を観察するためには、財務諸表に計上されている営業利益・経常利益・当期純利益などは役に立たない。それは、第49回コラム(東芝編)の〔図表11〕で証明している。
そこで「戦略利益」という概念を、〔図表 4〕の横軸に設けることにした。これは拙著『実践会計講座/原価計算』345ページ〔式13-21〕で紹介しているように、筆者オリジナルの経営指標だ。次の式で表わされる。
「戦略利益」に対峙する概念として、管理会計や経営分析などの世界では「限界利益」という絶対的通説が存在する。貢献利益や変動利益とも呼ばれ、次の式で表わされる。
限界利益の難点は、右辺第2項の固定費が期によって大きく変動したり、マイナスに転落したりして、実務で使い物にならない点にある。これは本連載を通じて再三証明してきた。
また、限界利益では、固定費の操業度率を、年間を通して常に100%と仮定しているのも難点だ。実務の世界で、そのような企業は存在しない。流通 業界のみならず、メーカーでさえ、春夏秋冬の波がある。〔図表 5〕の戦略利益は「実際操業度率」を加味することによって、季節変動を反映させている。具体的には、後掲の〔図表 9〕や〔図表 10〕を参照していただきたい。
〔図表 5〕の「戦略利益」は、〔図表 6〕の「限界利益」が抱える矛盾を克服するために筆者が独自に編み出したものだ。特に〔図表 5〕右辺第2項の「基準固定費」と、〔図表 6〕右辺第2項の「固定費」とは、算出方法がまったく異なるので注意して欲しい。
限界利益の「固定費」は、単利計算(1次関数)を前提としている。〔図表 2〕の命題を紹介したときに説明した通りである。それに対して戦略利益の「基準固定費」は、〔図表 2〕の命題を基礎とした複利計算(自然対数の底eを用いた指数関数)を前提として導出する。実務をつぶさに観察すると、企業活動というのは「キャッシュの 再投資=複利計算」であることがわかる。
〔図表 5〕の戦略利益は、「実務の世界」に携わることによって、はじめて理解されるものだ。企業実務に軸足を置かず、空調のきいた都会のオフィスで会計学や経済学などの「教科書」を振りかざす人々には、決して理解されない概念でもある。
なお、「戦略利益」が複利計算構造を抱えるからには、指数対数や微積分などのノウハウを必要とする。詳細は拙著『実践会計講座/戦略ファイナンス』や『会計&ファイナンスのための数学入門』を参照していただきたい。
次のページ>> 円高は「差益還元セール」など低価格化戦略へ
ニトリとABCマートには「円安」限界点が存在!
円高は「差益還元セール」など低価格化戦略へ
〔図表 4〕のソニーの例では、横軸に戦略利益を設けることによって、各点の並びが「左下がり」となった。これが輸出型企業の特徴だ。
赤色の矢印の先に、ソニーの円高限界点「62円54銭」が示されている。この矢印は便宜的に直線型としているが、正確には「自然対数の底e」を用いた指数曲線である。
ソニーが左下がりになるのなら、ニトリやABCマートのような輸入型企業は、「左上がり」になるはずだ。それを解析処理したのが〔図表 7〕である。
〔図表 7〕の特徴を指摘しておこう。赤色をニトリ、青色をABCマートとしている。矢印を便宜的に直線型で描いているが、「円安ドライブ効果」が働くので、正確には上に少し膨らんだ曲線型になる。
〔図表 4〕のソニーと異なり、〔図表 7〕では各点の並びが「左上がり」になっており、ニトリやABCマートが輸入型企業であることを示している。そして左上がりの赤色と青色の矢印を、縦軸ま で伸ばしていったところに、ニトリやABCマートの「円安限界点」が存在する。そのため〔図表 7〕は「円安」限界点図表と表示した。
〔図表 7〕によってニトリとABCマートが輸入型企業であると判定されるにもかかわらず、〔図表 3〕の「タカダ式感応度分析」は、なぜ、マイナス領域を推移するのだろうか。
以下は筆者の推測になる。すなわち、「並みの企業」であれば輸入品に係る円高差益を確認した後で、差益還元セールと称した値下げ戦略を行なう。ニ トリとABCマートはおそらく、円高差益が発生することを見越し、営業減益になることを覚悟で低価格化戦略を先行させ、その後で円高差益のサヤ取りを行っ ているのだろう。それが東証1部にまで登り詰めた企業の経営戦略である。
空想好きの人であれば、ニトリとABCマートは、円高差益を内部に貯め込んでいるのだろう、と妬む可能性がある。そうではない。円高差益が発生することを見越して、他社を凌駕する低価格化戦略を先行実施している、と読むべきなのだ。
その証拠に、〔図表 3〕ではニトリが▲4億円〜▲5億円、ABCマートが▲2億円前後で推移している。両社の直近の営業利益(11年2月期)はそれぞれ、527億円と269 億円であったから、円高差益のほとんどは内部に貯め込まれることなく、低価格化戦略に利用されていると読んでいいようだ。
単なる値引き競争なら消耗戦に!
ニトリの低価格化戦略は大丈夫なのか
低価格化戦略を進めるだけなら、これまた「並みの企業」だ。単なる値引き競争は消耗戦であり、ジリ貧になりかねない。そこでニトリの収益面をフォローしておこう。
次のページ>> 家具は夏、靴は秋に買うのがおすすめ!
次の〔図表 8〕は筆者オリジナルの分析道具で描いたものであり、SCP分析(Sale-Cost-Profit:タカダ式操業度分析)と呼んでいる。
〔図表 8〕において、赤色の「最大操業度売上高」は経済学の利潤最大化条件を満たすものであり、青色の「予算操業度売上高」は量産効果を最も発揮する条件を満たすものである。
最大操業度売上高と予算操業度売上高に挟まれた領域を「タカダバンド」と呼び、黒色の「実際売上高」がこのバンドの中を進むのが「収益力が最も優 れている」と、SCP分析(タカダ式操業度分析)では解釈する。実際売上高がタカダバンドを超えると、増収「減」益の憂き目にあう。これは第61回コラム(富士フイルム編)の〔図表12〕で紹介した。
SCP分析(タカダ式操業度分析)と対峙するのが、管理会計や経営分析の世界でよく知られたCVP分析(損益分岐点分析&限界利益分析)だ。この CVP分析では、売上高が伸びるほど、利益は一本調子で拡大すると仮定する。〔図表 6〕の限界利益概念と同様に、あまりに非現実的な解釈だ。
09/11(09年11月期)までタカダバンドが上昇し、同社の収益力が低下しているのは、この時期、ニトリが積極的な店舗展開を行なった影響で ある。08年11月期まで毎期200億円程度の投資額であったものが、09年11月期では274億円まで急増しているのが、その要因だ。
右端の11/5(11年5月期)では、黒色の実際売上高がタカダバンドに収まるようになっており、低価格化戦略を展開しても同社の収益力は盤石の方向性を示している。
〔図表 8〕の上方にある橙色を「収益上限点売上高」といい、下方にある緑色を「損益操業度売上高(別名を収益下限点売上高)」という。両者に挟まれた「収益ゾーン」を、黒色の実際売上高が上回ったり下回ったりすると、赤字に転落する。詳細は拙著『財務諸表読解入門』126ページを参照していただきたい。
緑色の「損益操業度売上高」は、CVP分析の「損益分岐点売上高」に似ていなくもない。しかしその実体は、似て非なるもの。損益分岐点売上高が 「単利計算」で算出されるのに対し、損益操業度売上高は「複利計算」で算出されるものだからだ。前に説明した「単利計算の限界利益」と「複利計算の戦略利 益」と同様に、まったく別次元の概念なのである。
家具は夏、靴は秋に買うのがおすすめ!
ニトリとABCマートの「弱点」
ニトリに弱点はないのだろうか。それを敢えて示すとすれば、次の〔図表 9〕になる。
〔図表 9〕は、〔図表 8〕にあった予算操業度売上高を100%と置いて「予算操業度100%ライン」と表示し、実際売上高を四半期ごとに百分率で展開させていったものだ。こうした組み合わせにより、〔図表 9〕は季節ごとの「実際操業度率」を表わす。
次のページ>> 内需関連産業は「為替にニュートラル」は本当か
〔図表 6〕の限界利益の欠点を紹介した際、年間を通して操業度率100%を維持する企業は存在しない、と述べた。〔図表 9〕は、「限界利益の非現実性」を証明するものである。
この〔図表 9〕を見ると、ニトリは毎年、春先(3月〜5月)にピークを迎え、夏場(6月〜8月)が閑散期に陥っていることがわかる。「麦わら帽子は冬に買え」といわ れる。冬場に、もともと安物の麦わら帽子を買うメリットがどれだけあるかは不明だが、家具のほうは夏場に買うのが得策のようだ。これを裏返せば、ニトリに とって夏場の販促が課題になるのだろう。
次は、ABCマートにおける実際操業度率の推移を〔図表 10〕に示す。
〔図表 10〕を見ると、靴はどうやら秋(9月〜11月)に買うのがいいようだ。
内需関連産業は「為替にニュートラル」は本当か
円高問題では、輸入型企業と並んで、内需型企業にも注意を払う必要がある。GMS(General Merchandise Store:総合スーパー)の代表であるセブン&アイやイオンは内需型企業なのだから、円高になろうが円安になろうが「ニュートラルだ」と誰もが想像す る。円高が進むと輸出関連銘柄が売られ、内需関連株が物色される。果たしてそれは正しい解釈なのだろうか。
それを確認するために、セブン&アイとイオンのデータを拝借した。次の〔図表 11〕は、両社の「タカダ式感応度分析」の結果である。
〔図表 3〕と同じように、〔図表 11〕もマイナス領域を推移している。〔図表 1〕の「自動車業界3社+電機業界8社=11社」と比べて、感応度は少し弱いといった程度だ。
セブン&アイやイオンは輸入型?輸出型?
積極的な海外進出企業に隠れた円高リスク
セブン&アイやイオンは、ニトリやABCマートと同じ小売業界に分類されるが、ニトリなどのような輸入型企業ではない。それを確認するために、セブン&アイとイオンの円高限界点図表を〔図表 12〕に示す。
〔図表 4〕のソニーと同様、〔図表 12〕では赤色のセブン&アイも「左下がり」の形状を描いている。矢印の先を縦軸に伸ばしていった(指数曲線を描いていった)先に、セブン&アイの円高限界点が存在する。
だからといって、セブン&アイが、食料品や日用雑貨を「輸出」しているわけではない。セブン&アイは、海外進出を積極的に行なっているので、海外子会社を円で換算し直すときに、円高の影響を受けているのだと推測している。
〔図表 12〕では、青色のイオンがほぼ垂直に分布している。有価証券報告書(11年2月期)のセグメント情報を参照すると、セブン&アイの海外比率は31%であ るのに対し、イオンのそれは5%にすぎなかった。両社の海外比率の高低差が、〔図表 11〕の感応度と〔図表 12〕の分布の違いとなって現われているのだろう。
次のページ>> 円高ドライブ型と円安ドライブ型から見る各企業の立ち位置
ソニー、セブン&アイはどの型?
円高ドライブ型と円安ドライブ型から見る各企業の立ち位置
〔図表 4〕のソニーやセブン&アイを「輸出型企業」と呼ぶのは、どうもしっくりこない。ソニーは輸出型企業ではなく海外移転組であり、セブン&アイは輸出型企業 でもなく海外移転組でもないだからだ。輸出型企業や輸入型企業を、「円高ドライブ型」と「円安ドライブ型」と呼んだほうがいいのかもしれない。
そのように定義すると、次の〔図表 13〕の形状が描かれる。黄色の各点は各社の相対的な位置関係を表わしており、「外国為替のタカダカーブPartI」と呼ぶことにする。
「外国為替のタカダカーブPartI」は、観念的管理会計や空想的経営分析の世界から導かれるものではなく、具体的な企業データを観察した結果として描かれる。それが筆者の目指す「実践会計講座」である。〔図表 13〕の横軸に「戦略利益」以外の売上高や営業利益などを設定した場合、こうしたカーブは描かれない点に注意されたい。
〔図表 13〕は先程述べたように、各社の相対的な位置関係を表わしたものだ。個々の企業がタカダカーブ上をどのように移動するかは、次回、「タカダカーブPartII」というものを紹介する。これがまた悩ましい問題を生起させることになる。
「原材料高」は「円高」で本当に解消するのか
素材産業や食品業界が抱える円高問題
ところで、他の産業はどうだろうか。ここ数年、素材産業や食品業界などでは、原材料の高騰で苦労している、という話をよく聞く。急激な円高が進ん でいる2011年になっても、メディアでそういう記事をしばしば見かける。あのニトリでも苦労しているという(11年8月24日付、日本経済新聞)。
しかし、原材料を輸入するにあたって、円高はコストダウンに貢献するはずだから、原材料高に苦しむ、というのは奇妙な話だ。果たして素材産業や食品業界は、「円高ドライブ型」なのか、「円安ドライブ型」なのか。
本コラムはときどき「書きすぎだ」といわれるので、この問題は提起するにとどめよう。少なくとも、原材料高と円高とが相殺しあって「ニュートラルだ」という文章分析を行なっているようでは、筆者自製の『原価計算工房ver.6』が高笑いする。この程度の問題は、1人でさっさと解くものだ。
輸入原材料の問題は、ろくすっぽ分析もせずに文章だけで円高談議をする人々に対して、その議論が如何に「空疎」なものであるかを教えてくれることだろう。
http://diamond.jp/mwimgs/f/e/600/img_fed0efb626540ed4a0a25235c8e4e5d58572.gif
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