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債権放棄のススメ 国債も住宅ローンも、履行できなきい債務は貸し手にも責任
2011年8月25日 木曜日
Bloomberg Businessweek
Peter Coy(Bloomberg News記者)
米国時間2011年8月10日更新「 Debt: The Forgiveness Fix 」
かつて米国では、借金を返済できない者が投獄されていた時代があった。だが、債務者を塀の中に閉じ込めてしまったら、返済することが一切できなくなる。債務者を投獄するのは処罰として過酷だし、賢明な処罰とも言い難かった。
筆者は大学時代、米コネチカット州議会に寄せられた貴重な歴史資料を目にしたことがある。それは、借金を抱えた夫の釈放を求める女性の悲痛な声がつづられた嘆願書だった。しかし、彼女たちの訴えはほとんど無視された。
それから社会は大きく進歩したが、まだ十分ではない。厳しい仕打ちをすれば、借り主から返済金を搾り取れるという認識が今も根強い。米住宅ローン市場はまさにその例だ。金融機関は、そもそも融資すべきでなかったずさんな住宅ローンについて、債権を全額回収できると今も強硬に主張している。
欧州のソブリン債問題についても同様のことが当てはまる。債権国や金融機関はギリシャやアイルランド、ポルトガルのソブリン債について債権の損失処理を渋っている。
こうした債権者の行動がなぜ問題なのか? 政府の債務でも民間の債務でも、国内外で債務問題が2011年最大の問題になっている。債務拡大に伴う危険性は、米ワシントンの政策論争でも大きな議題になっているし、英政府が緊縮財策を取る理由でもある。経済成長が乏しい状況で、債務問題は今後長年にわたって先進諸国の重荷になるだろう。
米国は債務を履行できるし、履行すべき
各国の意識が政府債務の圧縮にばかり向かう中、成長促進策を実行するのは一段と困難になっている。世界経済を再び回復軌道に乗せるには、債務の一部不履行が避けられない――という認識を受け入れる必要がある。この意識改革は早ければ早いほど望ましい。米証券会社ウエストウッド・キャピタル(本社:ニューヨーク)のマネジングパートナー、ダニエル・アルパート氏は「この点がどうなるかは今後の重要な焦点になるだろう」と語る。
債務者による借金踏み倒しを正当化しているのではない。米政府には14兆3000億ドル(約1100兆円)の債務を全額返済できる能力がある。きちんと債務を履行すべきだ。そして実際に債務は履行されるだろう。反発はあっても、米政府の債務上限は引き上げられた。米出版・情報サービス大手マグロウヒル(MHP)傘下の米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は米国債に対し、依然として最高格付けに近いAA+(ダブルAプラス)の評価を与えている。
米国が真の問題に直面するのはこれからだ。米国が今後数十年間にわたり、財政収支を健全化させることができなければ、本格的に厳しい局面に陥るだろう。
住宅ローン債務の減免が債務の維持につながる
一方で、全額返済される可能性が皆無に等しい借金もある。米消費者は全体として、2008年以降に1兆ドル(約74兆円)以上の債務を削減している。しかし、一部の消費者は依然として過大な債務を背負っている状態だ。
米国民にとって身近な問題として、住宅ローンを例に考えよう。米不動産情報会社コアロジック(CLGX、本社:カリフォルニア州サンタアナ)によれば、3月末現在、米国の住宅ローン抵当物件の約23%は、資産価値が債務残高を下回っている。米ネバダ州では、この割合が63%に達している。
こうした担保割れ住宅の所有者の多くは、住宅を売って引っ越し、ほかの仕事に就くことができない。ローンを完済する資金を工面できないからだ。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のエドワード・リーマー教授は「担保割れ住宅は実質的に、債務者を縛り付ける新しい形の監獄になっている」と語る。
こうした実態を改善することは可能だ。住宅ローン融資業者は、債務者を賃貸のような形態で自宅に継続して住まわせたり、債務を現在の住宅資産価値に見合った額に減免したりできる。債務が減免されれば、借り手は必要に応じて担保住宅を売却できるようになる。同時に、借り手がローン住宅を放棄する危険性も低下する。借り手が住宅を放棄した場合、金融機関は空室の売れない住宅を抱え込むだけだ。それでも、金融機関はローンの元本を減らすより、返済期限の猶予や金利の引き下げを選ぶ傾向が強い。
金融機関は債務の減免には消極的だ。不良債権を償却することで、深刻な自己資本不足に陥る恐れがあるからだ。さらに金融機関は現在、株式を売却することによってバランスシートを立て直すのが難しい状況にある。例えば、米銀大手バンク・オブ・アメリカ(BAC)の不動産ローン問題の深刻さが明らかになったことで、同社の株価は年初来40%以上下落している。
刑法から破産法へ
ウエストウッドのアルパート氏は「この状態を脱するには、米政府が金融機関に対して、不良債権処理で生じる資本損失を10年にわたって分割計上する措置を認めるべきだ」と主張する。
債権放棄については前例がある。19世紀初め、借金問題を賢明な形で処理する破産法が、債務者を投獄する刑法に取って代わり始めた。債権者からの保護を裁判所に申請した企業は、裁判所が「債務を整理して更正させる価値がある」と認めれば、債務負担を軽減され、再出発を図ることができる。借金にあえぐ世帯は債権回収業者の督促から逃れられるし、現実的に可能な範囲で最大限に債務を履行できるように返済計画を見直しできる。極めて合理的で、秩序が取れた債務処理制度だ。
しかし、破産法の基本原理はそれほど広い範囲には適用されない。主たる住宅物件に対する第一抵当権者の融資は破産法の適用対象外だ。債務者が破産しても、破産法廷の判事は第一抵当権者に債権放棄――他の債権者と同じように痛みを分かち合うこと――を強制することはできない。米国消費者連盟(CFA)の住宅・信用取引政策担当部門を統括するバリー・ジーガス氏は「こうした特権があるため、金融機関は思慮を欠く融資を行う。さらに、他の関係者の利益になるような債権放棄にはなかなか応じない」と指摘する。
ギリシャの場合
破産法に関して、主権国家間の利害を裁定する国際破産裁判所も存在しない。ただし世界の指導者らは、少なくとも最貧国について、債務問題において救済措置を講じる必要性を徐々に理解し始めている。最貧国の債務帳消しを求めて活動する非政府組織(NGO)ジュビリーUSAによれば、1996年以降、22カ国が総額1000億ドル(約7兆7000億円)の債権放棄を約束した。ザンビアはこうした救済措置によって自由に使えるようになった資金を元に、明らかに国民の利益になる事業――家畜の疫病対策や国民の学費負担軽減――への財政支出を増やした。
最貧国が負っている債務は比較的小規模で、大半が国際通貨基金(IMF)や世界銀行など公的機関からの借り入れであるため、救済措置に対する抵抗は少ない。一方、ギリシャやスペイン、イタリアなどの中高所得国を救済することには強い反発がある。また、こうした国が抱える債務の規模を考えると、世界経済に悪影響を及ぼすリスクははるかに大きい。おそらくスペインとイタリアは、金利を減免し返済期間を猶予すれば、債務を完済できるだろう。しかし、ギリシャが現在の債務を完済するのは不可能だ。問題を解決するには債権放棄しかない。
もちろん、ギリシャには債務問題の責任がある。ギリシャでは脱税が横行し、十分に税収を確保できていない。だが、欧州連合(EU)当局やIMFの要求に従って厳格な緊縮財政策を実行しても、状況が深刻化するだけだ。ギリシャの経済は悪化し、税収は落ち込み、秩序のない債務不履行(デフォルト)に陥る危険性がある。
7月に取りまとめられたギリシャ支援策では、債権放棄に道を開く暫定的な措置が導入された。ギリシャへの支援策として1590億ユーロ(約18兆円)の新規援助と返済期限の延長が約束された。さらに、民間金融機関は自主的な債券交換や買い戻しと称する措置により、500億ユーロ(約5兆5000億円)の救済措置を講じる。金融機関の国際団体「国際金融協会(IIF)」によれば、これらの救済措置によってギリシャの債務額は少なくとも135億ユーロ(約1兆5000億円)減少するという。
だが、まだ十分ではない。ギリシャの債務はGDP(国内総生産)比約1.5倍に達しており、依然として持続可能な水準には収まっていない。債権者は今後、追加の債権放棄に同意するだろうか。かつてのアルゼンチンのような完全なデフォルトに陥るのを避けるには、債権放棄が不可欠だ。現状では、アルゼンチンの二の舞になることが強く懸念される。
欧米で景気後退の脅威が増す中、その場しのぎの弥縫策ではもはや不十分だ。米連邦準備理事会(FRB)は8月9日、政策金利であるフェデラルファンド(FF)レートを少なくともあと2年間は、0〜0.25%の超低金利水準に据え置く方針を明らかにした。これは脆弱な債務者に融資を続けて延命させる「ゾンビ経済」に等しい状態だ。本来なら死に体の企業は破綻させて再生を図るべきだ。そして、金利は中央銀行ではなく、市場が決定すべきだ。
債権放棄に反対する基本的な論理は、「今後のモラルハザードを助長する」というものだ。借り手が無謀な借り入れをしても救済される可能性が高ければ、同じことを繰り返す恐れがある。
だが、分別のない融資判断をしても保護されるなら、貸し手もモラルハザードに陥る恐れがある。活況期に濡れ手で粟の大もうけを狙ったギリシャ向け融資はその典型例だ。国際決済銀行(BIS)のバーゼル合意(BIS規制)は、国家向け融資については金融機関に自己資本を積み増すことを義務づけていない。このため、金融機関にはギリシャに融資するインセンティブが働いていた。
結局のところ、債務者への救済措置を肯定する最大の論拠は、経済拡大の可能性に道が開けるからだ。数世紀前、債務者が投獄された時の債務問題と同じように、現在、過剰債務の重圧が経済成長の可能性を閉ざしている。もはや債務者をこうした束縛から解放すべきだ。
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