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20年経てよみがえる「経済こそ問題」曲がり角の米国財政再建
2011年8月25日 木曜日
安井 明彦
「ばかげている」「うんざりする」「がっかりした」「子供じみている」
8月2日に成立した米国の財政管理法。債務不履行(デフォルト)回避と財政赤字削減という2つの目標を成し遂げた財政合意の結果であるにもかかわらず、世論の評価は散々だ。
悪評ばかりの財政合意
冒頭にあげた単語に代表されるように、7月末にピュー・リサーチセンターが実施した世論調査では、合意までのバラク・オバマ政権と共和党の交渉を7割以上が否定的な表現で評価した。8月7〜9日の米FOXニュースによる世論調査でも、「良い合意だった」とした割合はわずか14%に止まっている。
目を引くのは、合意内容では分が良かったはずの共和党の不評ぶりである。8月2〜3日に行なわれたニューヨーク・タイムズ紙の世論調査では、オバマ政権の交渉姿勢には賛成(46%)と反対(47%)が拮抗しているのに対し、共和党については反対(72%)が賛成(21%)を圧倒的に上回った。CNNの調査でも、民主党の好感度が合意の前後で2ポイント上昇したのに対し、共和党の好感度は8ポイント低下している。
「小さな政府」を目指す共和党の路線は、大勝した昨年の議会中間選挙から変わらない。今回の財政管理法では、債務上限の引き上げと引き換えに財政赤字削減への道筋がつけられる一方で、削減策の具体的な内容には増税が明記されなかった。
こうした結果は、もっぱら歳出削減による財政赤字の削減を目指す「小さな政府」の原則に沿っている。共和党は選挙公約の実現に一歩前進したにもかかわらず、なぜ世論に背を向けられたのだろうか。
一貫して経済の好転を求める有権者
謎を解く鍵は、財政赤字は決して有権者の最優先課題ではなかった点にある(図表1)。むしろ有権者の最大の関心は、一貫して「経済・雇用」にある。
中間選挙で「小さな政府」が幅広く支持されたのは、オバマ政権が進める「大きな政府」からの転換が暮らしを良くするきっかけになるという期待があったからだ。「小さな政府」自体を支持する人だけでなく、これを経済を好転させる道具として好感した人たちがいなければ、共和党の歴史的な勝利は難しかった。
ところが実際には、債務不履行の可能性が報じられるなど、「小さな政府」に固執する共和党の姿勢は、むしろ経済に混乱をもたらす元凶として位置づけられてしまった。世論が幻滅するのも当然である。
それどころか、一度は高まったはずの「大きな政府」への警戒感が和らいでいる気配すら感じられる。8月11〜12日にラスムッセン社が実施した世論調査では、経済問題への政府の対応について、「不十分になる」ことを心配する割合(49%)が、「多くをやりすぎる」ことを心配する割合(36%)を久々に上回った。政府の対応不足を危惧する割合は、経済金融危機以来なかった高水準である。
実はオバマ政権も同じような経験をしている。
2008年の大統領選挙でやはり歴史的な勝利を収めたオバマ大統領は、2010年3月に公約の医療改革の実現にこぎ着けた。ところが、オバマ政権の支持率は上がらず、医療改革も不評のままだった。当時のオバマ政権と今の共和党は、有権者が経済や雇用を重視しているにもかかわらず、これとの関係が明確ではない論点で持論に固執して混乱を招いた点が共通している。
経済金融危機が発生して以来、経済・雇用を重視する有権者の問題意識は揺らいでいない。有権者が政治に求めているのは、最大の関心事項である経済・雇用の問題で結果を示すことであり、それぞれの党の主義主張も、そのための「道具」として評価される。有権者にとっては、あくまでも経済こそが問題なのである。
財政赤字は「病気」か「症状」か
そもそも論争の中心となった米国の財政赤字自体も、経済の力強さと切り離して考えることはできない。近年の米国の財政赤字は、それ自体が「病気」であるというよりも、経済金融危機という「病気」の「症状」としての性格が強いからだ。
経済金融危機は、2つの回路を通じて米国の財政赤字を急増させた。
第1は、景気の減速による財政赤字の自然増。いわゆるビルトインスタビライザーによる効果である。景気が減速すると、何もしなくても税収の伸びは低下し、失業保険などのセーフティーネット関連の支出は増加する。政策対応を講じなくても発生する財政の動きには、景気循環の波を穏やかにする働きがある。
今回の経済金融危機の局面では、こうしたビルトインスタビライザーによる財政赤字の水準が、1980年代以来の高水準を記録した(図表2)。
これに第2の要因として政策対応が加わった。オバマ政権が2009年に実施した大型の景気対策を筆頭に、相次ぐ景気対策が米国の財政赤字を膨らませてきた。
もちろん米国財政には、それ自体の問題がある。中長期的な視点では、医療保険関連の歳出の増加が主因となり、米国の債務残高は維持不可能な水準にまで上昇してしまう。米国財政の中長期的な健全性を確保するには、その「病気」を治癒する医療改革を欠かすことはできない。
しかし、こうした米財政の「病気」は時間軸の長い問題であり、足下にある「症状」としての財政赤字とは性格が違う。足下の財政赤字が「症状」である以上、その行方は根本である「病気」、すなわち経済の力強さに左右される。経済成長が力強さを増せば、財政赤字には減少の余地が生まれる。ビルトインスタビライザーの働きは自然に弱まり、景気対策の必要性も薄れるからだ。反対に経済成長の弱い期間が長引けば、それだけ財政赤字は減りにくくなる。
何もしなければ緊縮財政だが…
米国の財政再建は、経済成長への目配りが問われる時間帯に差し掛かっている。経済の回復力に改めて疑問が呈されるなかで、米国は既に敷かれた緊縮財政への路線を走り始めている。
「財政再建機運が強く政治が機能していない現状では、景気対策の積み増しは不可能」という見方が多いが、このまま何もしなければ、2009年に始まった景気対策の効果は時間とともにはく落し、今年末には社会保障税減税、来年末にはブッシュ減税の期限切れが控えている。イラク・アフガニスタンからの米軍撤兵も、歳出が減るという意味で景気の観点からは逆風だ。
1992年の大統領選挙で民主党のビル・クリントン陣営は、3つのスローガンを掲げた。
「変革か旧態依然か。経済こそが問題だ。医療問題を忘れるな」
財政問題での党派対立は、いわば旧態依然の米国政治の現実。医療改革の重要性を忘れてはならないが、肝心なのは経済の力強さである。当時とは文脈こそ違うが、約20年前のスローガンは、まるで今の米国財政の論点を言い当てているかのようだ。
安井明彦さんの近著
『アメリカ 選択肢なき選択』
(日経プレミアシリーズ、850円+税)
豊かなはずの彼らが、何に失望しているのか。揺れ動く米国の今とこれからを「選択」をキーワードに読み解きます。
このコラムについて
Money Globe- from NY(安井 明彦)
変わりゆく米国の姿を、ニューヨークから見た経済の現状と、ワシントンの政策・政治動向の両面をおさえながら描き出していく
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