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中国経済と対峙する資本主義のジレンマ
EIUチーフ・エコノミスト、ロビン・ビュウ氏に聞く
2011.08.22(月)
川嶋 諭
エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)は、エコノミスト・グループの調査部門として、世界各国の政治経済の分析・予測、カントリーリスク、産業別分析、その時々のビジネス諸問題に関する調査リポートを提供している。
先般来日した同ユニットのエディトリアル・ディレクター兼チーフ・エコノミスト ロビン・ビュウ氏に、停滞感が強まる世界経済の見通しを聞いた。
不安定さが増す世界経済。牽引役の中国への影響は
川嶋 世界経済への不安が増し、世界中のマーケットが過敏に反応しています。その中で、アジアが唯一の成長地域だと思いますが、アジアが世界経済を牽引できるとお考えですか。
ビュウ 現在、アジアが経済的に最も活発な地域であることは間違いありません。中でも中国が世界経済の成長を支えています。
エコノミスト・インテリジェンス・ユニット ロビン・ビュウ氏/前田せいめい撮影ロビン・ビュウ(Robin Bew)
エコノミスト・インテリジェンス・ユニット エディトリアルディレクター、チーフエコノミスト
ここにきて中国経済にも鈍化傾向が見られますが、これはインフレを抑えるために政府が意図的に取った政策の結果であって、今後数カ月のうちに著しく落ち込むということはないと思います。
しかし、米国、欧州、日本などの主要経済国がいずれも苦戦中であることを考えると、中国一国でその落ち込みを補うことは難しいでしょう。中国経済もまた、世界的な景気悪化の影響をある程度受けるだろうと思います。
川嶋 中国のインフレは意図的に抑えられているということですが、インフレは中国にとって政治的な懸念でもあると思います。近い将来、引き締め政策を金融緩和に転じることはありますか。
ビュウ 中国の経済政策はある程度出つくし、インフレも頭打ちになっているようなので、これ以上の金利高はないと思います。一方、規制緩和の面では、中国政府は段階的に経済改革を進めていく方向にあると思います。例えば金融セクターをオープンにし、資金が流入しやすくするといったものです。
中国政府としては今後も成長を続けることが重要な政策課題ですから、規制を緩和し、競争原理を導入することで成長を促すと思います。いまは競争力がない分野を開放し、国際競争力をつけることで継続的な成長を図るでしょう。
川嶋 中国の成長は持続可能だと思われるわけですね。
ビュウ どのようなスパンで考えるかによります。将来、中国経済が危機を迎えるかどうかはさまざまな見方がありますが、いますぐ起きるとは思いません。
ただし、成長は鈍化するでしょう。中国の成長は農村から都市部への人口の流入、言い換えれば農業から製造業に労働力が移行することで支えられてきました。
しかし、それを続けるのは難しくなりつつあります。製造業は魅力的な職場ではなくなり、一人っ子政策の影響で高齢化も急速に進んでいます。2020年には、成長率ではインドが中国を追い抜くと見ています。
中国政府は不動産バブルをコントロールできるか
川嶋 危機がすぐには起こらないという理由は何でしょう。中国の不動産価格の高騰を見ると、1980年代末の日本を彷彿させます。当時の日本はこの繁栄がずっと続くと思っていましたが、突然バブルが弾けてしまった。
ビュウ 確かに中国の不動産はバブルの状態です。また、銀行も多額の債権を抱え、その中には不良債権化すると目されるものがかなりあります。これは米国でも日本でも起きたことですが、米国や日本と違うのは、銀行セクターの背後に中国政府が控えていることです。
今後2〜3年で不良債権額が増えると予想されますが、状況が著しく悪化した場合には、中国政府が銀行を救済するために積極的に介入するでしょう。
不動産についても、日本や米国と違い、中国ではローンで支払う額が小さい。不動産購入総額の50%程度でローンを組むのが一般的です。ですから不動産の価値が下がっても、ローン額を下回るまでには日本や米国よりも時間がかかります。
川嶋 1980年代末にバブルが弾けた日本や、2008年にサブプライムローンが崩壊しリーマン・ショックが起こった米国よりも、中国政府の方が経済コントロールがうまいということですか(笑)。
ビュウ いいえ、中国政府の経済政策の采配が米国や日本より優れているとは思いません(笑)。ただ、中国政府は潤沢な資金を持っているので、危機が起きた時に金融セクターを強力に救済することができるということです。
川嶋 日本経済がこの20年落ち込んでしまったことが世界経済にも悪影響を与えたと思いますが、そもそもの発端は1985年のプラザ合意です。今はまた米国経済が減速しドル安になっていますが、中国の人民元に対しても、日本と同じような為替レートを求めることが持続可能な成長につながるのでしょうか。
それとも、さまざまな問題があるにせよ、中国にはあの巨大な国を強力な圧力でコントロールする政治があるから世界経済が安定するのか。ある意味ジレンマだと思いますが、この点をどうお考えですか。
ビュウ 現在のドル安は米国の財政問題の表れです。一方、人民元の為替レートは中国政府が強力にコントロールしており、今後も国内経済を睨みながら手を緩めずに関与を続けると思います。自由経済の原則で、対ドル・対円で元が動くことはないでしょう。
確かに中国経済は政府によって厳しく管理されています。しかし、政府が厳しく経済活動を規制したから経済が成長した、あるいは今後も成長するという考え方は当たっていません。
実際、中国の経済活動で活力のある分野は、政府から最も遠いところにあります。規模の小さい周辺的な企業が活躍している。そうした企業は起業家精神に溢れ、政府のサポートがなくても自力で頑張っています。
規制緩和が進まない日本。国民にも市場開放への抵抗感
川嶋 中国で小さな企業が頑張っているというのは、日本と同じですね。
ビュウ 日本の中小製造業は世界レベルの実力を備えています。今回の震災でサプライチェーンが絶たれ、世界中で大企業の生産ラインに大きな影響が出たことからも、その実力が証明されました。それに対し、中国の製造業はそれほど洗練されたものではありません。
エコノミスト・インテリジェンス・ユニット ロビン・ビュウ氏/前田せいめい撮影
この20〜30年の両国の経済政策を見ていると、政府の関与が少なければ少ないほど企業は繁栄するという興味深い共通点があります。中国の国営や元国営の大企業は、政府の持つ多額の資金へのアクセスはありますが、運営面は非効率です。
同様に、日本の大企業にもしばしば過剰設備や生産性の問題が見られ、統合などで効率性を上げる必要があります。
例えば、サービス業はGDP(国内総生産)の3分の2から4分の3を占めていますが、この分野において規制が競争を阻み、効率化が進まないという現象が見られます。
中でも特に海外との競争が阻害されています。大企業やサービス業では統合や規制緩和で効率化するなど、成長への努力が必要だと思います。
川嶋 具体的にはサービス業のどの分野ですか。
ビュウ 小売や物流は欧米企業と比べ競争力が劣ると思います。銀行や医療分野も同様です。銀行の場合、例えばATM(現金自動預払機)の活用範囲を広げるなど、いろいろ工夫の余地があると思うのですが・・・。
政府が消極的であること、そして国民にも市場を開放して競争を持ち込むことに抵抗感があるように思えます。
しかし、規制によって生き残る企業の生産性の低さは、経済全体の改善、生活水準の向上にとってマイナス要素です。競争力があってこそ成長が促進される。海外企業との競争は脅威ではありますが、競争にさらされることによって生産性が上がるのです。
川嶋 いまの指摘はかなり前から問題だと言われています。日本の3つのガンは財務省、厚労省、農水省で、ここは規制でガチガチです。日本にも米国のようなベンチャーキャピタルがあれば、非常に活性化すると思うのですが。
ビュウ そういう意味で、日本の金融はもっと効率化してほしいし、農林水産業やヘルスケア分野など農水省や厚労省の規制でがんじがらめの体質はぜひ改善してほしいですね。
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