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経済学的には常識的な見解だが
今の日本で政治的強者である既得権層に受け入れられるかというと疑問だな
http://diamond.jp/articles/-/13631
ソブリン危機――歴史的難局の選択肢
【第9回】 2011年8月19日
早すぎた欧米の「出口戦略」日本は政策の順番を間違えるな
――早稲田大学政治経済学術院教授 若田部昌澄
8月10日のFRB(米連邦準備理事会)は、金融緩和を継続する旨のコメントを発表した。これよって、世界の金融市場はやや落ち着きを取り戻したように見えるが、依然として、ユーロのソブリン危機、アメリカの景気後退懸念は払拭されておらず、市場は不安定な状態が続いている。2008年のリーマンショック後、先進各国は大規模な財政出動、金融緩和をしたにもかかわらず、再び景気後退に対する不安心理は高まっている。世界経済の根底では何が起こっているのか。『危機の経済政策』(日本評論社)で、経済危機と経済理論、経済政策の関連を見事に解き明かしている早稲田大学政治経済学術院の若田部昌澄教授に、現在の混乱をどう読み解き、どのような政策を打つべきかを聞いた。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン客員論説委員 原 英次郎)
わかたべ まさずみ/1965年生まれ。早稲田大学政治経済学術院教授。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院経済学研究科、トロント大学経済学大学院に学ぶ。ケンブリッジ大学客員研究員、ジョージ・メイスン大学客員研究員を歴任。専攻は経済学史。著書に『経済学者たちの闘い』(東洋経済新報社、2003年)、『改革の経済学』(ダイヤモンド社、2005年)、『危機の経済政策』(日本評論社、2009年:第31回石橋湛山賞受賞)。共著に『まずデフレをとめよ』(日本経済新聞社、2003年)、『昭和恐慌の研究』(東洋経済新報社、2004年:第47回日経・経済図書文化賞受賞)など。
大きく三つに分かれる
世界経済の見立て
若田部 最初にマクロ経済学者が、今の状況をどのように見ているかについて、整理しておきましょう。
1番目が「不十分派」。これはケインズにシンパシーを寄せているような人々で、代表が米プリンストン大学のポール・クルーグマンや、ハーバード大学のグレゴリー・マンキューといった人たちです。100年に1度という金融危機が起きた。それに対して大規模な財政出動と金融緩和を行ったが、今回の危機は大変大きかった。だから、すぐに解決するほうがおかしいので、今までやってきた対策の延長線上、あるいはさらに効果のあるやり方でもっとやらないといけない。対策が息切れしているという見方です。
次のページ>> 「構造派」と「あるがまま派」の見方
2番目が「構造派」。代表はスタンフォード大学のジョン・テイラーやシカゴ大学のラグラム・ラジャンやジョン・コクランといった経済学者たちです。彼らは、処方自体が間違っている、なぜなら多くの人はこれまでのマクロ経済の延長線上で、今回の危機を捉えているけれども、底流にある構造的な変化が問題なのだ。だから、むしろ金融緩和、財政支出をし過ぎていることが問題だ、と考えている。アメリカでは今、この構造派が力を持ちつつあるという印象を受けます。
3番目が「あるがまま派」とでもいえる立場です。この立場は1番目の見方に近いのですが、『国家は破綻する』(日経BP社)を書いたカーメン・ラインハート(メリーランド大学)、ケネス・ロゴフ(ハーバード大学)が代表です。彼らがこの本で言っているのは、過去の大規模な金融・経済危機を調べると、その際にどのくらい経済が落ち込んだか、どれくらいでリカバリーするかの平均的な姿が分かる。そうすると、今回は非常に大きく落ち込んだのだから、リカバリーするのに時間がかかるのは当然であり、自然な経路の中で動いている、ということです。基本的には何もしなくてよいと考えるのか、何か政策が必要と考えるか、どちらの立場にもなりうるようで、最初の二つの立場をちょっと超越しているところがある。
――先生はどうお考えですか。
若田部 私は危機が大きかったので、対応の効果が出るのに時間がかかっていると考えています。それと大規模な政策を打ったことによって、世界大恐慌の再来は防いだが、未然に防いだというところで立ち止まっているので、本当はもっとやれることがあったのではないかと思っています。
1930年代の世界大恐慌の時にも、アメリカの1937年不況のように、景気回復の途中で引き締めを行うという政策的な失敗を犯している。結局、第2次世界大戦によって、需要を増加させるという結果になってしまった。そう考えると、今回も対策の規模が不足しているという考え方が、一つ成り立つ。構造的な問題よりも、マクロ的な不均衡つまり需要が不足しており、それへの対応が必要だというのが、妥当な見方であると思っています。
次のページ>> いま金融緩和、財政出動をやめるのは危険
ラジャンが『フォールト・ラインズ』(新潮社)で展開している議論は大変に緻密で賞賛するのはやぶさかではありませんが、危機の背景に焦点があって、では当面どうしたらよいのかというものがない。彼は教育の格差や所得分配の問題を指摘していて、それは重要な問題で修正する必要はあるとしても、ラジャンは金融緩和には否定的ですが、ではいま金融緩和をやめてしまったら、世界経済がどうなるのかについては、疑問が残ります。
歴史的にみれば、大恐慌時代のケインズ対ハイエクの論戦が復活しているともいえます。ケインズの側にいるのがクルーグマンたちで、ハイエクの側にいるのが、ラジャンたちという図式ですね。
いま金融緩和、財政出動を
やめるのは危険
――いま、政策的な支えをはずす時期ではないということですか。
若田部 いま金融緩和、財政出動をやめると危険だという感じがします。実は、現状では、その兆候が出ている。この7月にECB(欧州中央銀行)が利上げしました。欧州各国では債務問題への懸念から財政引き締めを進めようとしている。一方、アメリカは債務の上限問題を抜きにしても、政府支出の削減で、民主・共和両党が合意しており、さらに追加の削減ができるかどうかという話になっている。予定だけでもGDPの2%に相当する額を削るというのですから。
この2%という数字は、相当大きな額です。日本では橋本(龍太郎)内閣だった1997年に、消費財の引き上げなどによって、約9兆円の国民負担の増加があった。これはそのときのGDP比で約2%でして、その後の景気後退に影響を与えたとみられています。その意味で、今回も金融緩和、財政拡大が足りないというだけではなくて、ECBやアメリカの動きを見ていると、「早すぎた出口戦略」といえるような状況になっている。
次のページ>> QE2(金融緩和第2弾)は効果があったのか
イギリスではロンドンから各地に飛び火した暴動も、原因は政府支出を削減したからだという意見もあります。最近の論文で、過去90年くらいにわたって、政府支出のカットと社会的な騒乱の関係を調べたものがありますが、その論文によると、この二つは正の相関がある(財政支出のカットが大きくなると騒乱が増える)といっています。もっとも、最近はその相関は少ないともいわれていますし、イギリスではまだ政府支出は削減されていないので、こういう結論に飛びつく前に注意は必要ですが。ただ、こうした議論でわかるように、政府支出を削減することの問題点が、世界中で意識されつつあります。
今は景気停滞の原因が、需要不足か構造かと迷っている時間はないと考えています。そういう議論をしていると、バブル崩壊後の日本のように延々と議論が続く可能性がある。日本のようになりたくないのであれば、もう一押しも、ふた押しも金融緩和を続けるしかないと思います。
――しかし、FRBが昨年11月から今年の6月末まで実施した、QE2(金融緩和第2弾)、つまり市場から長期国債を大量に購入するという緩和策も、その効果に疑問がもたれています。
FRBのバーナンキ議長は、デフレに陥らなかったという意味で効果があったといっています。実際、昨年の8月にカンザスシティ連銀が、毎年夏に主催するジャクソンホール・カンファレンスで、バーナンキ議長が期待インフレ率が下がっていることに言及し、11月のFOMC(連邦公開市場委員会)でQE2の実施を決定しました。そのとたんに期待インフレ率が上がって実質金利(名目金利−期待インフレ率)が下がり、株価は上昇する一方で、物価は安定した。その点では、効果があったと思います。
ただ、雇用の増加には結びついていないので、雇用には影響を与えていないという批判はありうる。もっともこれも今年になって経済成長率が鈍化しているのだから、雇用が増加しないのも当然とはいえます。バーナンキ議長のやり方には、これからも毀誉褒貶がつきまとうでしょうが、彼のいいところは行動したということです。私自身は、金融緩和をQE2のように期間を区切るのではなく、たとえば失業率が一定の水準に下がるまでとか、名目経済成長率が一定の水準に上がるまでずっとやり続ける。その方がより期待に働きかけるアナウンスメント効果が大きいと思っています。
次のページ>> 経済が拡大しなければ財政再建は実現しない
――財政については、先進各国とも債務残高が膨らんだ結果、これ以上債務が増えると国債に対する信認が低下して、長期金利が上がる。それによって長期的な成長が、かえって阻害されるという意見が強いですが……。
若田部 それが一般的な意見ですね。しかし、ここで大事なのは債務残高そのものよりも債務残高と国内総生産(GDP)の比率。財政支出を切り詰め増税をすれば、政府のGDP比債務残高が減るかといえば、そうはなりません。今財政を縮小すると不況がやってくるが、それから景気はよくなるというのが財政再建派のロジックです。しかし、不況で経済が縮小してしまうと、縮小がさらに景気の悪化を招きかねないため、税収が減少していって財政再建はうまくいかない公算が大きい。
かつてはハーバード大学のアレシナらのように歳出削減を優先して7割程度、増税は3割程度にとどめるならば、不況にはならないという研究もありました。けれども最近では、やはり歳出を削減しても緊縮財政にする限りは不況になるという研究が出てきています。
最近の日本で、財政再建がうまくいったのは、小泉内閣のときです。あの時は、財政はある程度切り詰めたが、増税はしなかった。そして量的緩和と外需に引っ張られる形で景気が回復したからです。円高に振れかかったところを、さらなる金融緩和で阻止したこともある。財政再建が必要だとしても、手段としてまず何が必要かといえば、経済を拡大させることです。
日本が財政再建に失敗してきたのは、経済を拡大させるのに、財政政策だけを使ったからです。開放経済のもとでは、財政政策だけを実施すると実質金利が高くなって円高になってしまうので、財政政策の効果は一時的で限界がある。したがって、金融政策も使って実質金利を下げて、経済を拡大してデフレを克服しないといけない。
最近、ロゴフが米国で何をすべきかについて、面白いことを言っています。彼の提案は、実はインフレ政策です。現在、FRBが目標としているインフレ率は2%前後だと思われるが、それでは低すぎるので、平均4〜6%を目標にしたらどうかと言っている。これくらいのインフレ率が続けば、実質的な政府の債務残高はずっと軽くなっていきます。
次のページ>> 逆説的だが、日本はいい立場にある
グレゴリー・マンキューも、ロゴフと似たようことを言っている。彼はプライスレベルターゲット(物価水準目標)の導入を提案しています。プライスレベルターゲットは、物価上昇率を目標とするインフレターゲットよりも、例えばCPI(消費者物価指数)いくらというように、特定の物価水準を目標とするので、物価上昇期待に対するインパクトは、インフレターゲットよりさらに強いものになる。ハーバード大学の2人の著名な経済学者が、同じようなことを言い始めている。経済に大きな打撃を与えずに、政府債務を減らすには、このような方法しかないかもしれません。
インフレ率4〜6%は高すぎるにしても、3%くらいという目標を掲げると、人々の心理はずいぶん変わってくると思いますね。
それと、インフレになると金利が急騰する、という人がいますが、金利負担の増加は一時的ですけれど、税収が増える効果が着実に見込めるので、かりに金利が上がったとしても、日本の場合は3年くらいで税収が金利負担を追い越すようになるでしょう。
財政再建を成功させるためには
財政再建を目標にしてはいけない
――では、日本はどのような政策を採るべきなのでしょうか。今回の混乱は米国、ユーロに震源があり、日本は打つ手がほとんどないという声が強いですね。
若田部 逆説的な言い方ですが、日本はいい立場にあるといえます。アメリカは現状でデフレに陥っていないので、さらに金融緩和をやろうとしたときに、「錦の御旗」がない。これに対して、日本はデフレ脱却という錦の御旗がある。
一方、ユーロ諸国はどうかというと、ユーロそのものが崩壊してもおかしくないという状況で、ユーロ加盟国の国債を買い上げるECBだけが頼りという状況になっています。財政政策も統合して経済政府を設立する構想、ユーロ債のみを発行する構想なども出てきていますが、結局、ドイツが問題債務国の救済のために、どれくらいおカネを出すのかという問題に行き着きます。
次のページ>> 財政再建のためには財政再建を目標にしてはいけない
けれどもドイツ国内の政治的な障害もあり、ユーロ圏の政策決定は大きなハンディキャップを背負っています。本当は債務国がデフォルトでも起こすとドイツやフランスの銀行、そして両国経済に大きな影響が起こるのですが、それでも債務国や銀行を救うのかといった国民の声を抑え込むのは容易ではない。これに対して、日本にはそういう桎梏がなく、自国だけで粛々と政策が実施できる。
日本の課題はまずデフレを克服し、経済を再建することです。そのためには菅総理の後を引き継ぐ民主党の代表候補の人たちも、金融緩和をやるとはっきり言わないといけない。
これからFRBはQE3に踏み込むかどうかという難しい判断があるけれども、経済を悪くしないという点では、金融緩和をやめることはない。ECBも利下げからはじめ、金融緩和に踏み切らざるをえなくなるでしょう。結果として、グローバル金融緩和競争に乗り遅れた国の通貨が高くなってしまう。今の日本がそうです。
だから、日本は思い切った金融緩和をする御旗もあるし、それをやればよい。円も円安の方向に向かうでしょう。それがまた東日本大震災で疲弊した日本経済を救う。一石二鳥です。逆にこのまま円高が続けば、日本経済をつぶしてしまう懸念があります。なんとしてもこれ以上の円高は阻止しなくてはいけない。そして円高を阻止するための「王道」は、為替介入ではなくて金融緩和です。
1997年の例で分かるように、過去、日本は財政再建に高いプライオリティをつけては、失敗してきました。もういい加減に失敗を繰り返してはいけません。財政再建をやるためには、財政再建を目標にしてはいけない。税金を上げるよりも、経済の再建の方が先。順番を間違えてはいけません。
質問1 日本の経済政策として、財政再建、経済再建のどちらを優先すべきだと思いますか?
描画中...
78.3%
経済再建
14.1%
同時に追及すべき
5.3%
財政再建
2.3%
わからない
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