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バブル崩壊後は、皆、似た経過を辿る
莫大な財政政策も金融政策も、容易には巨額なマイナス資産効果と
長期にわたる需要減少を補うことはできない
http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/2011/08/16/013522.php
第115回 アメリカ経済の日本化(1/3)
2011/08/16 (火) 12:43
前回に引き続き、アメリカ経済の話題である。
前回の「第114回 アメリカ国債格下げの意味」において、現在のアメリカは経済の主役を務めていた家計の負債が減少局面に入っていると書いた。すなわち、バブルが崩壊し、家計が負債と支出を縮小した結果、政府の財政赤字が拡大し、最終的に米国債の格下げに結びついたわけである。
とはいえ、これまた前回書いた通り、今回のS&Pによる米国債格下げは、
「アメリカがついにデフォルトする!」
といった話ではない。むしろ話は真逆である。民間(家計など)が負債削減に邁進する中、政府までもが「必要な財政出動」に踏み切れなくなり、アメリカ経済が「デフレ化」していく可能性が出てきたという意味で、極めて重大なのだ。
ゼロ金利、量的緩和の拡大にも関わらず、民間の経済主体がお金を借りない。本来、「ゼロ金利」下でお金を借りず、負債の返済に邁進するのは、資本主義経済下では非合理的な話なのである。
それがバブル崩壊後、すなわち各経済主体のバランスシート上の資産価格が暴落し、債務超過状態に陥った場合は話が変わってくる。バブル崩壊後は、それまでとは逆に、各民間の経済主体が、所得の余剰や収益を負債の縮小に充当することこそが、合理的になるわけである。
民間の経済主体がこぞって負債を返済していく中、政府が財政赤字を拡大できなくなると、国民経済が深刻なデフレに陥る。結果、長期金利は却って低 迷し、格付け機関による国債の格付けが無意味になる。政府が負債を増やし続けても、格付け機関が格下げを繰り返しても、その国の長期金利は上昇しない。何 しろ、家計や企業が負債返済に専念し始めた結果、民間の資金需要が枯渇してしまうのである。
家計や企業などの民間経済主体は、お金を借りるどころか貯蓄(負債返済と預金)を拡大していく。結果、銀行などの金融機関のもとに「運用に回せないお金」である過剰貯蓄が貯まっていくわけである。
国内の民間の資金需要が低迷し、銀行の手元に過剰貯蓄が溢れている以上、政府が国債を発行しようとした際に、極めて低金利で消化することができてしまう。もはや、格付け機関の評価がAAAだろうがCCCだろうが、全く無関係になるのだ。
上記のデフレ深刻化と長期金利の「超低迷」こそが、いわゆる「日本病」である。今回のアメリカの連邦政府債務上限引き上げをめぐる混乱、及びS&Pの格下げは、アメリカが日本病を患っている可能性を表面化させたのだ。
『2011年8月14日 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版「格下げ、ゼロ金利―米国に忍び寄る「日本化」の影」
国債が格下げされ、ゼロ金利が今後2年間続く―。新たな現実に立ち向かう米国の債券投資家が日本の経験から学ぼうとしている。
今月5日、スタンダード&プアーズ(S&P)は米国の長期債を最上級のトリプルAから格下げし、9日には米連邦準備理事会(FRB)がゼロ金利政 策を少なくとも2013年半ばまで継続すると表明した。それ以来、債券のトレーダーは運用モデルの見直しに着手、多くが、1998年にトリプルAの格付け を失い、10年近くゼロ金利政策を続ける日本の経験を生かそうとしている。(中略)
モルガン・スタンレーで金利戦略を世界的に統括するジム・カーソン氏は「誰もが米国と比較できるデータを求めている。巨大かつ発達した債券市場が ある国で最も類似したケースは日本だ」と述べた。「米国と比較できるのは日本だけ。まったく同じというわけではないが、最も近い」(中略)
ストラテジストは、米国債10年物の利回りは今後数カ月のうちに現在の2.23%から2%を割り込む可能性があるとみている。日本の10年債利回りはしばらく前から1.05%前後で推移している。(中略)
しかし、新たな類似点も浮上している。その一つが、10年前の日本と同じように、米国が財政を引き締める可能性があるという点だ。
日本の不況は1990年代初めに始まった。90年代半ばまでには景気回復に転じたため、政策当局は97年に歳出削減と増税を実施、その結果、日本は不況に逆戻りしたと、カリフォルニア大学サンディエゴ校の経済学者、星岳雄氏は言う。
米国経済が日本と同じ方向、つまり財政赤字への懸念から財政引き締めが行なわれる方向に向かっているのではないかと懸念する声も上がっている。給 与税減税や緊急失業給付など景気回復のために実施されていた措置も期限切れが迫り、このような懸念から、エコノミストは経済予測の下方修正に追い込まれて いる。
星氏は、短期的には財政拡大の継続、中期的には財政再建が望まれていると指摘、その双方を実現することは容易ではないと述べた。(後略)』
バブル崩壊後の国がデフレ化を回避するためには、政府が財政出動し、中央銀行が通貨量を拡大させる、いわゆる「金融政策と財政政策のパッケージ」を実施するしかない。
野党やマスコミなどの反対を受け、それが実現できない場合、橋本政権後の日本のように長期に渡るデフレに突入することになる。あるいは、1930 年代前半のアメリカ、フーバー政権のように、国民経済(GDP)が半減し、失業率が25%に達するようなカタストロフィが発生しかねないのだ。
(2/3に続く)
(1/3の続き)
アメリカ政府は、そんなことは百も承知だからこそ、サブプライム危機勃発以降、金融緩和を継続しつつ、様々な財政出動を実施してきた。結果的に、アメリカはバブル崩壊後の雇用悪化を「失業率9%台程度」で抑えることができているのだ。
不動産バブルが本格的に崩壊を始めた07年以降、アメリカ政府が財政出動拡大に躊躇していた場合、同国の失業率は20%に近づいていたであろう(実際、一時的にアメリカの失業率は10%を上回った)。
ところが、アメリカ政府の財政出動は、バブル崩壊後の雇用環境悪化を完全に食い止めるには不十分であった。それほどまでに、今回のアメリカ不動産バブル崩壊の衝撃は大きいという話だが、「結果」のみを見ると、オバマ政権は、
「政府の財政を悪化させた割に、雇用環境の改善には成功していない」
と見なされてしまったのである。
オバマ政権に対する批判の声が高まり、アメリカ民主党は昨年11月の中間選挙で敗北する派目に至った。しかも皮肉なことに、野党である共和党側は、強硬的な「小さな政府」主義であるティーパーティ(茶会党)の勢力を取り込み、
「オバマ政権は借金ばかりを増やしている。このままでは、我々の子々孫々に莫大な借金のツケが回されることになる!」
と、どこかで聞いたような主張を展開し、選挙に勝利したわけである。
2010年秋の中間選挙、さらに2011年8月上旬の連邦政府債務上限引き上げに際した混乱を受け、オバマ政権はいよいよ「必要な財政出動」が不 可能な状況に追い込まれつつある。政府が最低限、必要な財政出動さえできなくなってしまった結果、中央銀行が金融緩和を拡大しても、民間の資金需要は伸び ない。結果、財政赤字拡大を理由に格付け機関が国債を格下げしていく中においてさえ、長期金利は低迷していく。何しろ、デフレ不況の深刻化により、銀行に は運用先のないマネーが余っているわけで、格付け機関の評価がどうであろうとも、金融機関は、
「米国債を売却し、他の投資先に資金を移す」
などという手段を採ることはできないのだ。そもそも、国債以外にまともな運用先があるのであれば、初めからそちらに資金が流れている。長期金利が低迷し、運用収益が上がらないことが分かっていたとしても、金融機関は国債にお金を投じざるを得ない。
今や、一部のアメリカの銀行は、高額預金者に対し「マイナス金利」を設定するようになってしまった。預金者がお金を預けてきても、その運用先が乏しい以上、マイナス金利を設定せざるを得ないのである。
まさに、アメリカ経済の日本化が進行しているわけだ。
【図115−1 日米両国の長期金利(新規発行十年物国債金利)の推移(単位:%)】
出典:ユーロスタット
※2011年8月は、8月15日の数値
アメリカの長期金利は8月上旬の連邦政府債務上限引き上げ問題をめぐる混乱、および8月5日のS&Pによる米国債格下げを受け、却って下がってしまっ た。ウォール・ストリート・ジャーナル紙にもあるように、今後のアメリカの長期金利はさらに下がり続け、史上初めて2%を切る可能性が高い。
(3/3に続く)
S&Pの米国債格下げを受け、同国(及び世界の)株式市場は混乱状態に陥った。株式から抜けたマネーとて、何らかの金融商品に投資されざるを得ない。結果、
「S&Pの米国債格下げにより、株式市場から資金が抜け、結果的に国債が買われる」
という、まことに皮肉な状況に陥っている。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙に登場しているカルフォルニア大学の星教授が言う、
「(アメリカは)短期的には財政拡大の継続、中期的には財政再建が望まれている」
という指摘は、全くもってその通りである。アメリカのみならず、日本の場合も同様だ。「中期的な財政再建」を目指し、現在の両国政府は、短期的に財政拡大を決断しなければならない状況にあるのだ。
ところが、民主主義国家の場合は「野党」及び「マスコミ」という困った存在がある。政権交代を目指す野党にとって、政府の「借金増加」は、まさに格好の批判のネタだ。政権批判を是とするマスコミも、野党の与党叩きを後押しする傾向が強い。
結果、バブル崩壊後の民主主義国家では、野党やマスコミなどの反対を受け、政府は必要な財政出動を継続できなくなってしまうのである。現在のアメ リカがデフレ化の危機を迎え、日本が15年もの期間、デフレに苦しみ続けているのは、両国が健全な民主主義国家である証のようなものだ(全く嬉しくない話 だが)。
これが中国のような独裁国家であれば、政府は「野党」や「マスコミ」のことなど気にも留めず、必要な財政出動を継続できる。結果的に、バブル崩壊からの立ち直りは独裁国家の方が早まる傾向が強い。
これは別に最近始まった話ではなく、1929年以降の大恐慌期にも全く同じ現象が見られた。民主主義国家の米英両国がデフレ脱却に苦しみ続ける中、独裁国家であるナチス・ドイツがまさしく「容赦なく適切な財政出動を実施」し、いち早く通常経済への復帰を遂げたのだ。
繰り返しになるが、8月5日のS&Pによる米国債格下げは、現実的にはアメリカのデフォルト(債務不履行)リスクが上昇したことを意味していない。と言うよりも、
「格下げをすると、その国の国債の金利が却って下がってしまう」
という点で、日本についで二国目の「問題の国」(格付け機関にとって)が登場したという話に過ぎない。今後、米国債の格下げがどれほど繰り返されようとも、アメリカの長期金利が急騰するような局面は発生しないだろう。
とはいえ、日米両国の差異についても触れておく必要がある。
日本の長期金利低迷の主因である過剰貯蓄問題は、我が国の経常収支黒字が一因になっている。経常収支が黒字の国は、国内が貯蓄過剰、もしくは投資不足であることを意味している。「投資不足(=需要不足)」とは要するにデフレのことだ。日本の状況は、
「デフレゆえに経常収支黒字、かつ過剰貯蓄であり、長期金利が低迷している」
と、説明することができるのである。国内が過剰貯蓄状態であるからこそ、政府が発行する国債の95%が国内で消化されるという異様な状況に至っているわけだ。
ところが、アメリカは恒常的な経常収支赤字国である。経常収支赤字である以上、本来は国内に過剰貯蓄は発生しないはずなのだ。経常収支赤字国の場合、政府の国債消化は国内のみでは賄えず、外国に依存する必要が出てくる。
とはいえ、アメリカ・ドルは世界の基軸通貨である。同国政府が国債消化の半分を外国に依存しているのは確かだが、その通貨はドル建てなのだ。
いずれにせよ、経常収支の状況が異なる以上、アメリカが日本と完全に同じ状況になるとは考えにくい。結局のところ、今後、アメリカが直面する問題は、「経済のジャパナイゼーション(日本化)」ではなく、アメリカナイゼーションであると考えるほうが正解だと考える。
アメリカは「日本的な問題」を抱えるわけではない。確かに、日本が抱える問題と類似はしている。とはいえ、アメリカが解決しなければならない問題は、結局は「アメリカの問題」という話である。
http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/20110817_01.png
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