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財政黒字ギャンブル? PB黒字化で財政破綻VS経済成長
http://www.asyura2.com/11/hasan72/msg/589.html
投稿者 sci 日時 2011 年 8 月 01 日 20:44:01: 6WQSToHgoAVCQ
 

普通は財政健全化(緊縮財政)は需要減少により、経済停滞(GDP減少)を招くと考えられている。
しかし政府は経済財政白書で、財政再建(特に政府歳出削減)が経済成長をもたらすという
主張を幾つかの国の例から行っており、説得力が一見あるようにみえる
http://www5.cao.go.jp/keizai3/whitepaper.html

以下のblogでは、それを比較的単純なマクロモデルを用いて検証している
その結果は
「超長期的(50~100年)には政府の主張が正しいが、
中期的(10〜25年スパン)には破綻リスクが高まる」というものである。
モデルの信頼性の問題もあるが、
「最適財政金融政策が、単純な緊縮財政では実現できない」
という直観と一致する。
現実解は、無駄な歳出削減と、デフレ脱却後の増税は必須としても、
やはり、緩和的な金融政策と、効率的な財政拡張政策によってサポートすることが、
短期的には必要不可欠であるということだろう。

http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20110731/surplus_gamble
財政黒字ギャンブル?


昨日、7/24エントリにコメントを頂き、いろいろとやり取りをさせて頂いたが、その中に、同エントリでの実証結果と7/16エントリのシミュレーション結果をどう整合させるのか、という質問があった。それに対しては、7/16のシミュレーションは取りあえず元論文のモデルに乗数理論を乗せただけであり、むしろExcelベースでこうしたシミュレーションが行えるようなツールの整備がそのエントリの主目的であった、という主旨のお答えをさせて頂いた*1。

ただ、確かに7/24エントリで見い出した名目成長率とPB(プライマリーバランス;なお、ここでは対GDP比率を考えている)の関係は、7/16エントリで想定していた関係とは違っていた部分がある。そのうちの最も大きなものは、7/16エントリではPB=0をベースラインに置き、そこからの乖離という形でシミュレーションを考えたのに対し、7/24エントリの実証では、どうやらPBの水準(=ゼロからの乖離)よりは前年差をベースに考える方が適切なようだ、ということが分かった点にある。

さらに言うならば、その実証では、PBの前年差と名目成長率の前年差がラグを伴いながら互いに影響を及ぼす、という関係が見えてきた。具体的には、

(t-2)〜(t-1)期でPBが1ポイント上昇[低下]

  ↓

(t-1)〜t期で名目成長率が0.927ポイント低下[上昇]

  ↓

t〜(t+1)期でPBが0.927×0.716≒0.664ポイント低下[上昇]

という関係である。

この場合、PBをある期でGDPのn%にしたとしても、翌々期にはそれ自体が原因でn×0.664ポイントだけ下がってしまうことになる。従って、PBのGDP比率をn%で一定に保つためには、その時点で改めてn×0.664ポイントだけPBを改善する必要がある*2。しかしその改善がやはり翌期にかけての成長率低下を通じてPBの低下をもたらしてしまい、以後はその関係が繰り返されることになる。

ただし、そうしたPBから名目成長率を通じたPB自身への波及効果は、係数0.664で収束していく。そのため、7/16シミュレーションで想定していたようなPBから名目成長率に毎期同等の波及が生じるケースよりは、最終結果への影響は小さくなると思われる。そのことを確認するため、実際にシミュレーションを回してみた結果が以下である*3。

f:id:himaginary:20110731190107j:image

f:id:himaginary:20110731190106j:image

これを見ると、確かに、債務比率(d)が2.5もしくは3に達する確率がPBの黒字化と共に低くなっていく傾向は、50年後(T=50)と100年後(T=100)においては、上述の乗数効果を取り入れた場合でも、乗数効果が無い場合と同様である(ただしその傾きは緩やかになる)。

しかしながら、25年後(T=25)においては、その確率とPBの関係は変化し、ほぼフラットないし逆傾斜気味となる。この場合、むしろPB=3%の黒字を維持した場合に、d=2.5、3のいずれのケースでも破綻確率が最大となる。

さらに短期の未来、例えば10年後においては、確率自体は低水準であるものの、その逆転傾向は一層はっきりする。以下のグラフはT=10とT=25を取り出して描画したものである。

f:id:himaginary:20110731190105j:image

f:id:himaginary:20110731190104j:image

つまり、PBの改善は、7/24の実証を基にした関係をベースに乗数効果を考えると、50〜100年といった超長期的には確かに財政を健全化する。しかし、10〜25年といった中長期的には、むしろ債務GDP比率の上昇を招く恐れがある、というのが本シミュレーションの結果である。この場合、中長期的な債務比率はPB改善により悪化するので、幾人かよりご指摘を頂いた資本蓄積の効果も期待できないことになる。もちろん、孫の世代になれば債務比率が改善するのだから今は我慢すべき、という超長期的なフォワードルッキングな効果を取り入れることも考えられるが、それだけのスパンのフォワードルッキングがどれだけ説得力を持つかはかなり疑問の余地があろう。

数学付録
Excelの入力

今回は、B列でPBの変化を計算するようにしたので、7/16のExcel入力に比べてXの計算以降が1列ずつ右にずれている(赤字はその列シフトに伴うもの以外の前回からの変更箇所)。
変数 s/Y Δs/Y X PB項 初期債務項 d
Excelの行/列 A B C D E F
2 適当な初期値 =A2 0.9845 (空白) 1.631 =D2
3 =IF(F2<0,0,$A$2) 0 =EXP(0.8122*LN(C2)+0.0241*SQRT(-2*LN(RAND()))*SIN(2*PI()*RAND()))*(1+B2*$G$2) 0 =E$2*PRODUCT(C$2:C2) =-A2-D3+E3
4 =IF(F3<0,0,$A$2) =IF(F3<0,0,B2*($G$2*0.716)) =EXP(0.8122*LN(C3)+0.0241*SQRT(-2*LN(RAND()))*SIN(2*PI()*RAND()))*(1+B3*$G$2) =C3*D3+C3*A2 =E$2*PRODUCT(C$2:C3) =-A3-D4+E4

4行目のセルを102行目までオートフィルすると、T=100までの債務が計算される(前回と同様)。

その上で、以下のマクロを実行する(乗数=0.927はこの中で指定している)。

For j = 0 To 6
For k = 0 To 1
Range("G2").Value = k * 0.927 '乗数
For i = 1 To 1000 'シミュレーション回数
Range("A2").Value = (j - 3) / 100 'PB
Cells(i + 2, j * 8 + 8 + k).Value = Range("E12").Value '10年
Cells(i + 2, j * 8 + 10 + k).Value = Range("E27").Value '25年
Cells(i + 2, j * 8 + 12 + k).Value = Range("E52").Value '50年
Cells(i + 2, j * 8 + 14 + k).Value = Range("E102").Value '100年
Next
Next
Next

上述のB列挿入に伴うシフトのほか、10年時点の債務を拾うようにしたので、シミュレーション結果の表示はH3:BK1002の56列になっている(PBが7ケース(-3%〜3%)×Tが4ケース(10、25、50、100)×乗数有り無しの2ケース)。それぞれのケースについて「=COUNTIF(G3:G1002,">2.5")」といった形でdが上限を超えた割合を計算するのは前回と同様。


7/16シミュレーション関連の小生のツイート
乗数効果の乗せ方について
himaginary_

@DeficitGamble @positivegamma 拙エントリへの言及ありがとうございます。ここでは論文報告云々よりもむしろ誰でもシミュレーションできるようにすることに主眼を置いていますので、手法はエントリ後半でExcelセル入力式+VBの形で完全公開しています。

2011-07-18 11:30:12 via web to @DeficitGamble
himaginary_

@maseguchi @deficitgamble @positivegamma 念頭にあったのはΔY=m×Δ(G-T)という単純素朴な乗数効果です(Gだけ変化ならm=1/(1-c)、Tだけ変化ならm=c/(1-c)、等)。つまり各年でのPB=0の場合を基準としたYの変化です。

2011-07-20 01:31:30 via web to @maseguchi
himaginary_

@DeficitGamble @maseguchi @positivegamma 各年においてgをPB=0の場合の成長率と見做し、それに乗数効果を加算しています。翌年以降については小黒先生の論文(3)式のAR(1)のρで効いてきます(実際にはXに対して操作を行っているので)。

2011-07-21 01:08:46 via web to @DeficitGamble
himaginary_

@DeficitGamble @maseguchi @positivegamma モデル構造の変更にまで踏み込む積もりは無かったので、乗数を通常より小さく設定することで翌年以降への波及効果を抑制しています。具体的には、1/(1-ρ)5なので、0.2倍が目安と考えています。

2011-07-22 00:53:29 via web to @DeficitGamble

(注)「1/(1-ρ)5」の原文は「1/(1-ρ)≒5」

成長率が低くなったのに、翌期もさらに成長率を低めるのはおかしい、という指摘への回答
himaginary_

@maseguchi @deficitgamble @positivegamma その話を敷衍しますと、そもそも元論文のXに平均回帰的な動きが組み込まれていないのはおかしい、ということになるかと思います。

2011-07-23 01:14:00 via web to @maseguchi


財政再建による資本蓄積の進展が成長率に好影響を与える、という指摘への回答
himaginary_

@DeficitGamble @maseguchi @positivegamma ただ一方では、エントリで言及したデロングなど米国の左派系経済学者が懸念している通り、失業を通じた人的資本の劣化による成長率低下という問題もあるように思います。

2011-07-22 00:59:35 via web to @DeficitGamble


資本蓄積の成長率への影響など様々な効果を考えるべき、という指摘への回答
himaginary_

@positivegamma @DeficitGamble @maseguchi 元論文ではそういった様々な効果をひっくるめてXのAR過程として表現したと理解しています。ただ、そこへPBを外生変数として被せたので、PBの効果については明示的に考える必要が生じたと思います。

2011-07-23 01:29:20 via web to @positivegamma

*1:その際、同様の質問に対するツイート上での回答にリンクさせて頂いた。また、7/16エントリのコメント欄での回答でも、自ツイートを引用させて頂いた。本エントリの末尾では、改めてそうした関連ツイートをまとめておく。ちなみにユーロ危機について同様にプライマリーバランスの改善と乗数理論を結び付けた分析として、Daniel Grosらの昨年4/22のvoxeu記事がある。

*2:厳密に言えば、そうした直接的な因果関係による変動への対応以外にも、分母のGDPの額が変化することによる微調整が必要になるが、それはごく小さいのでここでは無視する。

*3:実際のExcelでのシミュレーション方法については後述参照。
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とおりすがりとおりすがり 2011/07/31 21:05 おもしろい
これまとめてJERくらいに投稿したらどうでしょう
結論もノントリビアルだし

はてなはてな 2011/07/31 22:09 だんだん現実に近づいてきたような感じがします。小型のDSGEモデルとかを構築して、財政赤字ギャンブルでしたっけの、失敗確率を推定できないでしょうか。JERとかに掲載できるように思います。
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<[経済]債務の対GDP比率は無意味...  

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コメント
 
01. 2011年8月02日 02:06:31: Pj82T22SRI
>中期的(10〜25年スパン)には破綻リスクが高まる

均衡財政PB=0%が最も破綻リスクが少なく、黒字、赤字、どっちに偏っても
中期的には破綻リスクが高まるという結果だが
量的緩和の効果とかモデル依存性も、もっと検証してもらいたいね


02. 2011年8月02日 06:28:01: 2uOv2R3MRs
だからデフレ放置してる限り借金減らないんだって

数式いじくりまわすより日銀のバランスシートふくらませてインフレ誘導しろや


03. 2011年8月02日 10:32:18: 0J7slYFgPk
数学を駆使しての財政分析、感服いたしました。でも、残念ながら経済学や財政学は科学ではありません。かなりいい加減な学問です。易学か陰陽道にむしろ近いのかな?プライマリィバランスなんて言葉は難しいけど小学生の算数よりもやさしい原理だ。

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