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私の資産は「商品と外国通貨」
著名投資家、ジム・ロジャース氏と対談(前編)
2011年8月1日 月曜日
豊島 逸夫
今年2月と5月に、日経CNBCの番組収録のため、シンガポールに住む著名投資家のジム・ロジャースの自宅を訪れた。外国人投資家として日本をどう見るか。株、債券、通貨、商品のうちで何に一番魅力を感じているのか。欧米先進国が抱える公的債務という悩み、新興国市場をどう見るか。そして震災後の日本の展望は…。2人で語りつくした。
ジム・ロジャース(Jim Rogers、右)
1942年生まれ。米国出身の投資家。イエール大卒、オックスフォード大修士。1970年代にジョージ・ソロスと共に設立したクォンタム・ファンドが10年間に3365%ものリターンを得て大成功。80年に引退し、世界各地を旅行。2007年に家族と共にシンガポールに移住した。
(左が筆者)
豊島:まず最初に、震災の前と後でポートフォリオにどんな変化が生じたか教えていただけますか。2月にお目にかかったときは、日本株と日本円を保有していましたよね。今はいかがですか。
ロジャース:日本株は買い増したよ。主に小型株とインデックスだね。あの震災で世界が終わるわけではないし、私は日本の復興を信じているから。
“buy disaster(災害は買い)”これは私の経験則だ。たとえ下げたとしても、それが結果的には底値であることが多い。シンガポールに移り住んでみて、中国にも同じ趣旨の格言があることが分かったよ。
豊島:日本株や日本円の保有は長期的なものですか?
ロジャース:ノー。日本株や日本円を保有するのは、あと数年だろうね。5〜10年といった長期で保有するつもりはないなあ。
つまり長期的には日本売りというわけだ。その理由は、日本経済が大きな問題を二つ抱えているため。一つ目は人口構成。少子高齢化が進み人口が減少している。二つ目は公的債務が巨額であること。こうした問題を考えると、日本に関する資産を長期で保有することは残念ながらできないね。
私はある時点からは、日本関連の資産は株も債券も通貨も、すべて売って、その後は持たなくなるだろう。日本はあと数十年で非常に深刻な問題に直面することが予想されるからね。
残念だが、若く賢い人は日本を離れるだろうね
豊島:確かに。日本政府の借金である国債は、1400兆円の個人資産で買い支えられていますが、ただし、その資産を保有する団塊の世代はリタイア時期にきています。これからは資産を食いつぶしていくから、1400兆円はどんどん目減りしていく。
こうした事態に加えて震災もあり、日本人の中でも国外に資産を移したり、本格的に海外移住しようとする動きもあるようです。
ロジャース:特に若い世代はそうだろうね。彼らの気持ちはよく分かるよ。言葉の壁があるから、英語でも仕事ができるような“Smart people leave Japan.(賢い人は日本を離れてしまう)”
豊島:ロジャースさんは、震災後の日本に対して見方は変わりましたか。
ロジャース:さほど変わらないよ。震災後は私は家族で日本食レストランに行ったんだ。あの後、シンガポールの日本食レストランは閑古鳥が鳴いている状況だったから、何か応援の気持ちを示したいと思ってね。
豊島:日本の読者は励まされますね。ところで、現在の資産配分は、何が中心ですか。
ロジャース:カレンシー(通貨)とコモディティー(商品)。これは、日本で大地震が起こる前も後も変わっていないよ。
まずは通貨の話から始めようか。
初めに個人投資家に伝えたいのは、現金が安全資産というのは間違いということだ。例えば、日本人が現金をたくさん持っているといえば、それは日本円のこと。米国人なら米ドルを意味するよね。誰でも価値中立な「現金」を持てるわけではなく、どうしても自国のおカネをたくさん持つことになる。すると政府の金融政策などで通貨の価値が変動するリスクがあるというわけだ。
だから、私は外貨投資の中でも色々な国に分散しているよ。最近、特に評価しているのは人民元。ずっと上がってきているからね。人民元を持つことはいちばん安全な投資だと思う。
人民元の問題は流動性が規制されていることで、ちょっと金融機関に電話して多額の人民元を入手するということはできない。それでも、今現在は人民元はいちばん好きな通貨だな。
豊島:私も人民元は好きですが、おっしゃるように、まだ一般には入手が難し過ぎるので、やはり個人資産としては米ドルとユーロがメーンにならざるをえない。通貨について、ほかの「他の選択肢」はあるのでしょうか。
保有通貨は15、分散投資を強く意識
ロジャース:選択肢はあると思うよ。私は今、住んでいるシンガポールドルはもちろんのこと、カナダドル、スウェーデン・デンマーク・ノルウェーのクローナ、スイスフランなどを持っている。たぶん、保有通貨の種類は10〜12、15くらいじゃないかな。
豊島:ずいぶん多様化していますね。一方で米ドルについての見立てはいかがですか。
ロジャース:実は最近、米ドルを買い増したんだ。理由は皆が米ドル売りに回っているから。売りポジションがたまっているから、近々買い戻されることを見越している。ただしこれはあくまで短期の戦略であって、長期的には米ドルは売りだと考えているよ。
米ドルにとって何が悪いといって、量的金融緩和でドルを大量に放出したのが最悪だったな。米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は大変な愚策を行ったものだ。こんなことをしたら、米ドルというペーパーマネー(紙幣)の価値は下がってしまう。こうした点を踏まえると長期的には米ドル売りにならざるをえない。
豊島:ユーロについてはいかがでしょうか。
ロジャース:これも昨年8月に買って、中期的に保有しているよ。理由を端的にいえば、ユーロにはドイツがついているから。一方、米ドルには誰もついていない。健全財政のドイツがユーロ経済を牽引していることは、大きな強みだと思う。
豊島:確かにドイツの財政状態は堅いです。第1次大戦後のワイマール時代に天文学的なインフレに見舞われた教訓が生かされている。ドイツの学校で使われる教科書を見ると、「1億マルク紙幣」が載っています。過去の過ちの記憶が若い世代に引き継がれ、二度とこういう事態を起こしてはいけない、と皆が考えているのでしょうね。
ロジャース:欧州といえば財政問題が取りざたされるけれど、問題は要するに南欧だ。アイルランドやギリシャのような財政破綻国家は、さっさとユーロから切り離したらいいんだ。
アイルランドは人口比でEU全体の1%、ギリシアは3〜4%にすぎない。この国々が抜けても、ユーロはドイツ・フランスを中心にして充分な規模を保つことができるじゃないか。
豊島:EUといえば、欧州中央銀行(ECB)の新総裁、マリオ・ドラギ氏をどうみますか。イタリア人の総裁ということで、最初はドイツ・メディアは否定的、その後、イタリア中央銀行総裁としての堅い仕事ぶりが評価されてメルケル首相が支持に回ったという経緯があります。
ロジャース:確かに50年前のドイツ人なら、イタリア人の総裁はとても認められなかったと思う。イタリアは財政規律がなっていないし、通貨を改悪して堕落させた歴史があるからね。でも、新総裁は堅い人のようで問題ないと思うよ。
豊島:ECB総裁の方は人事が決まりましたが、今度はIMF(国際通貨基金)のトップ人事がもめています。
ロジャース:私はIMFなんて解散した方がいいと思っているんだ。世界中からおカネを集めて官僚組織がバラマキをしている。IMFがない方が、世界はもっとよくなると思うよ。
中国バブル崩壊まで新興国には手を出さない
豊島:新興国についてはいかがですか。2月には“too crowded(混雑しすぎ)”のマーケットは好きではない、とのお話しでした。
ロジャース:その通りで、2月は新興国売りのポジションを取っていたんだ。5月になってみると、混雑は少し緩和したけれど、私から見ると、まだ「売り」。
理由は中国。今の中国は過熱気味だから、一度痛みを伴う時期を経験しないといけない。今はまだ、ダラダラと過熱が続いているので、手を出す気になれないなあ。
豊島:新興国といえば、ビン・ラディン亡き後の中近東をどうみますか?
ロジャース:中近東には当分平和は訪れないと思いますし、地政学的リスクもまだ続くと思う。
リスクといえば、一番気になっているのは食糧問題なんだ。例えば米国の農業従事者の平均年齢は58歳。日本でも農家は高齢者ばかりで、地方へ行けば耕作放棄地が広がっているよね。
筆者がコメンテーターとして出演する日経CNBCの番組キャスター江連裕子さん(右)と
ここでロジャースさんは、CNBCキャスターの江連裕子さんに向かって「テレビの仕事なんて辞めて、農業をやりなよ(Yuko, be a farmer !)」と話した。実は同じことを米国の経済番組でも女性キャスターに話しているという。 そして、これからの結婚相手は“rich farmer(お金持ちの農家)”がいいと持論を展開した。
ロジャース:新興国の人口増加で世界的に食糧需要が増えるのに、生産は増えそうにない。そんな中では、穀物(soft commodity)が投資対象として面白いと思うよ。
豊島:確かに穀物は全世界的に不足しています。穀物の中でも特に注目しているものはありますか。
ロジャース:例えばコメ。過去数年で600%も値上がりしたけれど、1974年の最高値と比べると今はまだその半値で上値余地は大きい。個人投資家の中でも、投資といえば株、というイメージの人はまだ多い。でも私は、なぜ、この期に及んで皆が株について話しているのか分からないんだ。お金が流れていく先は株ではなくコモディティーだからね。
コモディティー全体について言えば、過去数十年は株式に比べて10倍も良い成績を収めてきた。特に、これから大きく伸びるのは農業だと思うよ。
世界経済が回復しない場合、株はダメージを受けるが、人口増のトレンドは変わらないので食糧不足からコモディティーは値上がり続ける。歴史を振り返っても、国がお札を刷りすぎている時は、現物資産(銀、コメ、天然ガス)が上がる。
原油(crude oil)に対しても、私は強気だ。何といっても埋蔵量に制限があるし、今後は原子力の代替エネルギーとして注目されるだろうしね。原油の供給不足感は、そうだね、大阪に油田が見つかるような状況になれば、変わると思うけれど、そういうことはまずないだろうし。
(後編に続く)
豊島逸夫が読み解く 金&世界経済
◆ジム・ロジャース対談「マネーは商品市場へ」
◆日本国債が売られる日
◆どこまで上がる「金」?
◆人民元投資のチャンスとリスク
◆1ドル=50円はあり得るか
このコラムについて
金と世界経済
金価格と国際経済の動きについて、アナリストや著名投資家の見方、現場からの報告を交えつつ紹介する。特に日本とアジア、日本と中国の違いに着目することで、金が史上最高値を更新している理由や背景が分かる。ムック『豊島逸夫が読み解く金&世界経済』からの抜粋
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著者プロフィール
豊島 逸夫(としま・いつお)
ワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表
国内銀行を経てスイス銀行貴金属外為ディーラーに。現在は非営利の国際機関であるWGCにて、金に関する啓蒙活動などに従事する。豊富な相場体験に基づき、金だけでなく世界経済まで分かりやすく説き、若手金融マンにファンが多い。日経新聞電子版の連載コラムも人気。猫と和菓子が好き。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110728/221722/?ST=print
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