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[経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
山崎元のマルチスコープ【第191回】 2011年7月27日
米国債デフォルトで何が変わるか?
米国債「リスク・フリー神話」の消滅
米政府の債務上限引き上げに関する米議会(特に共和党)と米政府の交渉が順調に進まず、米国債が一時的な利払いの遅延などの「デフォルト」(債務不履行)に陥る可能性が出てきた。
デフォルトとは債務に関する契約を少しでも違えることであり、利払いの遅延は立派なデフォルト行為だ。
政府債務の上限を巡る米議会と米政府の緊張したやりとりは過去に何度もあった。その度ごとに、ぎりぎりで上限が引き上げられて、問題がしばらく先 送りされる解決を見てきたので、今回も何とかなるのではないかとも思えるが、今回は、来年の大統領選挙を巡る駆け引きもあって、共和党とオバマ政権・民主 党との間の政治的な利害対立が先鋭化しているので、本当に問題が起こるところまで合意が形成できないかも知れない。この場合、米政府の資金繰りがつかなく なって、国債の利払いに遅延が起こる可能性が十分でてくる。
この構造は、特例公債法案の可否を巡って与野党が駆け引きしている日本の政治状況とよく似ている。但し、日本の場合、政府のバランスシートが巨大なので、赤字国債を発行できなくても、しばらくの間資金繰りをつけることは可能と見られ、米国ほどの緊迫感はない。
通俗的な金融論の解説では、国の債務、中でも強国且つ大国である米国の政府債務はリスクのない「リスク・フリー資産」と位置づけられて説明される ことがしばしばある。これまでしばらくの間、米国債には、デフォルトに至るような「信用リスク」が想定されることは無かったのだが、現実にデフォルトが起 こると、この米国債のリスク・フリー神話が大きく揺らぐことになる。
主な格付け会社の米国債の格付けは「AAA」のままだが、今頃になって米国債の格付けを「ネガティブ・ウォッチ」(引き下げ方向での見直し中、と いう意味)の対象としたことを公表するような会社もある(あまりにも馬鹿馬鹿しいので個別の社名は挙げない)。相変わらず、「格付け会社」ではなく「後付 け会社」と呼びたくなるような体たらくであり、格付けが信頼に足るものではないことをよく物語っている。
とはいえ、米国債が現実にデフォルトを起こすような事態となったときに、何が起こるのかについては、適当な前例がないこともあり、不安を覚える向きも多いようだ。
次のページ>>リーマンショックのような大問題にはならない
短期的に大問題は起こらない
もちろん、先の事は、分からない。しかし、もし起こった場合に米国債のデフォルト自体は、たとえば金融危機の引き金を引いたリーマン・ショックのような大問題にはならないのではないかと筆者は考える。
今回起こるかも知れないデフォルトは、米政府に必要な支払いを裏付ける資金調達能力が無くなって起こるデフォルトではない。債務を膨らませたあげ くに、これ以上の資金調達が不可能になる「支払い能力」が問題なのではなく、資金を調達する上での「手続きの停滞」がその本質だ。かつてデフォルトを起こ した新興国や現在のギリシアのような状況ではない。
国債利払いの停止、あるいは行政サービスの停滞のようなことが起こった場合、共和党も民主党もその責任を負う悪者にはなりたいくない筈なので、何らかの合意が遠からず形成されるだろう。
手続き上の障害を取り除いてしまえば米政府は資金調達能力が十分あるし、米国の長期金利は十分に低い水準にある。
デフォルトに対する反応として、一時的に、日本円や金のような相対的な安全資産が買われて急騰する場面があるかもしれないが、外国の中央銀行や海外機関投資家にとって米国債の資産価値が急激に変わることはないので、米国債が投げ売りされるような事態にはならないだろう。
仮に米国債の利回りが急上昇したとしても、その利回りでは資金需要が十分ないだろうし、実質金利が十分に高ければ投資家にとっては魅力的なものになる。
中期的には歳出削減による不況が心配
但し、心配が無いわけではない。
現在、共和党と民主党は、債務上限の引き上げを巡って、歳出削減のパッケージを議論している。特に、共和党は強硬で、一切の増税に反対するのと同時に、大幅な歳出削減を主張している。
次のページ>>日本国債の状況を米国債が早足で追いかけてくるような状況
仮に米国債がデフォルトを起こした場合、これを収束するために歳出削減に関して強硬な意見が債務上限引き上げの付帯条件として採用される可能性が強まるだろう。
失業率が高止まりし、不動産価格が低迷する米国では、当面、民間消費は低調だろうし、民間の資金需要も盛り上がらない。こうした中で政府部門の支出を急激に縮小させると、近い将来、米国景気の本格的な後退が起こる可能性がある。
この状況下では、米国の長期金利は一段と低下することになるだろう。米国債のデフォルトは、一時的に米国債の売り(長期金利上昇)につながるかも知れないが、やや中期的には却って米国債が買い進められるような(長期金利が低下する)状況をもたらすかも知れない。
景気後退が深刻な場合、FRB(米連邦準備制度理事会)は、長期国債を含む資産の買い取りを行ってもう一段の金融緩和(「QE3」)を実施する可能性があるが、これも米長期金利の低下要因となりそうだ。
債券投資家にとっては悪くない状況が到来するように思われるかも知れないが、これは、経済の全体像としては、長期的な経済停滞の中にある日本国債 の状況を米国債が早足で追いかけてくるような状況を意味する。決して喜ばしい状況ではない。もちろん、日本の経済にとってもマイナス要因となる。
長期的には米ドル離れ
そもそも、一時的な「手続き要因」によるデフォルトが、「長期的」な米国債やドルを巡る状況に影響すると考えることは、経済的な思考として正しく ないのかも知れない。しかし、絶対の安全資産と考えられていた米国債の「神話」がデフォルトによって否定されることには、長期的な影響もあるような気がす るし、デフォルトが何らかの象徴的な意味を持つ可能性も考えてみたい。
既に、日本以外の中央銀行は、外貨準備を米ドルから他通貨建ての資産に徐々にシフトする動きを見せているが、「デフォルトの実績あり」ということになると、米国債の保有を減らす動機と名目がもう一つ増えることになる。
次のページ>>デフォルトは余計な神話のヴェールを一枚剥がすことに貢献?
海外の年金基金のような機関投資家もデフォルトの実績があり、おそらくはAAAから滑り落ちる米国債の保有を減らすことはあっても、増やそうとはしないのではないか。
とはいえ、これまで、米ドルは世界の準備通貨でもあると同時に決済通貨でもあった。軍事力を含めた国力、金融システムの発達、法的な制度の整備も含めて、米国の金融市場及び米ドルは、世界の金融取引にとって好都合であった。
こうした前提条件が一度の手続き的なデフォルトで急に変化するとは思えないが、考えてみると、米国の金融システム自体は、決済通貨が米ドルでなく ても、他の通貨あるいはSDRのようなものに変化しても問題なく利用することが出来る。米国の金融業にとって、取引が複雑になることは、参入障壁を作りや すくなったり、手数料を稼ぎやすくなったりするメリットもある。
急激な変化があるとは思えないが、長期的には、世界の金融システムの米ドル離れが進行するのではないだろうか。この流れの中にあって、「米国債デ フォルト」が起こると、本来絶対ではないはずの米国債の信用が絶対だと勘違いされてきた余計な神話のヴェールを一枚剥がすことに貢献したと振り返られるよ うなイベントになるのかも知れない。
日本は若年層の雇用が心配
起こりうるかも知れない米国債のデフォルトの、日本にとっての影響を考えて置こう。
先ず、短期的にも、中期的にも、為替レートが円高方向に圧力が掛かりやすくなることを覚悟しておく必要がありそうだ。最初は、米ドルの信用の剥落から、次には、米国の不況に伴う金利低下(米国の「日本化」ともいえる)から、円高が進む可能性がある。
この場合、日本の特に製造業企業の海外移転は加速することになりそうだ。
次のページ>>「嫌な時代」がやって来る?
加えて、現在、日本企業ではいわゆる「2013年問題」(年金支給開始年齢の引き上げに伴う問題)の影響もあり、高齢社員の定年が実質的に延長さ れる方向にある。この場合、企業は、一時的に高齢社員向けの人件費の減少ペースが鈍るので、このしわ寄せが、若年者の雇用機会減少に回る可能性が大きい。
さらに、本稿で想定したように、米国の不況入りが現実のものとなると、日本では、ただでさえ悪い若年者の雇用状況が更に一段と悪化する可能性があるということではないだろうか。
米国債デフォルトだけによる問題ではないが、日本独自の政策でデフレを解消し、若年者の雇用状況を改善しなければ、若年者の大量失業がさらに大きな問題になるような「嫌な時代」がやって来るのではないかと心配だ。
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ソブリン危機――歴史的難局の選択肢【第2回】 2011年7月26日
日米欧“同時”政策機能不全 債務危機と低成長で動転する政治家たちの悲哀と求められる発想転換――モハメド・A・エラリアン PIMCO最高経営責任者/IMF元理事
米国の債務上限引き上げ協議の紛糾、欧州の債務危機、そして日本の復興財源議論の迷 走…。日米欧で進行中の一連の出来事の背景には、いわずもがな、政治・政策の機能不全がある。国際通貨基金(IMF)の元理事で、現在、世界有数の資産運 用会社PIMCOの最高経営責任者(CEO)を務めるモハメド・エラリアン氏は、従来の知見だけでは解決できない技術的難題に直面している政策立案者らに 同情を寄せつつも、このままでは、世界経済がより激しい乱気流に突入しかねないと警鐘を鳴らす。
モハメド・A. エラリアン(Mohamed A.El-Erian) 運用資産1.28兆ドル(2011年3月末時点)を誇る世界有数の資産運用会社PIMCO(パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・ エルエルシー)の最高経営責任者(CEO)兼共同最高投資責任者(Co-CIO)。国際通貨基金(IMF)、大手投資銀行などを経て、1999年に PIMCO入社。投資戦略の要職を務めた後、ハーバード大基金の運用会社のCEOに転身。2年後、07年12月にPIMCOに復帰。米財務省国債発行諮問 委員会メンバー、IMFの理事を務めた経験がある。IMF次期専務理事候補に名前が浮上したことも。現在、全米経済研究所(NBER)、ピーターソン国際 経済研究所の理事を兼務。ケンブリッジ大学卒業。オックスフォード大学大学院で経済学修士号と博士号を取得。主な著書に「When Markets Collide」(放題「市場の変相」プレジデント社刊)。
他の人はいざ知らず、私の場合は、自分の乗った飛行機が乱気流に遭っても、操縦室の閉ざされた扉の向こうに座っているパイロットがうまく対応して くれると信じられれば、安心できる。だが操縦室の扉が開いていて、機体が思うように動かないことにパイロットたちが苛立ち、次の操作について言い争い、操 縦マニュアルを見ても何の手がかりもない様子が目に映れば、とても安閑とはしていられない。
今日、西側諸国の多くで、政治家たちの振る舞いがそんなパイロットたちに似ているのが気掛かりである。こうした印象は、単に彼らの意見や行動が矛盾しているからというだけではなく、実際の経済の動きが一貫して彼らの期待を大きく下回っているからである。
こうした印象が顕著に見られるのは、欧州、米国、日本だ。景況感を示す指数が再び悪化し始め、もともとペースの遅かった景気回復の足も止まり、無 理のかかったバランスシートがますます危なっかしいものになっている。企業や家計がさらに警戒心を強めるのも無理はない。政治家にとっては、やっかいな仕 事がさらに困難なものになるのは必然である。
欧州では、ユーロ圏周縁国で債務危機が拡大するなかで、政界はその対応に失敗している。多くの首脳会議やプログラム、複数回にわたる巨額の支援、 各国の社会に対して痛みを伴う経済的犠牲を強いているにもかかわらず、である。動転したパイロットが操縦する飛行機のように、欧州経済は(政界の)指図通 りには動いていない。ギリシャのゲオルギオス・パパンドレウ首相が先週、ユーログループ議長を務めるルクセンブルクのジャン=クロード・ユンケル首相に宛 てた力強い書簡で述べたように、「市場と格付け機関は、私たち皆が期待したような反応を示していない」のである。
政治家たちの予測を大幅に下回る結果が出ている以上、政官界のなかにほとんど調和が見られないのも不思議ではない。見解が対立する例も増えている――しかも、驚くほどあからさまに、不安を煽るような形で。
欧州において意見対立が見られるのは、「ソリューション提供者」(欧州中央銀行、欧州連合、国際通貨基金による「トロイカ体制」)と、現在痛みを 伴う財政緊縮措置をとっている国々(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル)とのあいだだけには限られない。悪影響につながる意見の不一致は、トロイカ体制 そのもののなかにも現れている。特に泥沼となっているのは、フランクフルト(欧州中銀の本拠)とベルリン(ドイツ政府)との対立である。
次のページ>>米国の債務上限引き上げ協議はまるで学級会議
米国の債務上限引き上げ協議はまるで学級会のようだ
米国での状況は欧州ほど深刻ではないが、ここでもやはり政策の機能不全が蔓延している。前例のない財政・金融面での刺激策にもかかわらず、経済は 依然として伸び悩んでおり、失業率も憂慮すべき水準で高止まりしている。中期的には今後も財政の悪化が続く見込みだが、その一方で短期的には、政治家たち が、財政赤字の上限をどこまで拡大すべきか学級会のような議論を続け、米国債の大事な「AAA」格付けを危うくしている。
しかも政治家たちは、複雑な技術的難題に直面している。これについてベン・バーナンキ連邦準備制度理事会(FRB)議長は、あいかわらず率直な物言いで、「私たちは、状況を正確に読み取ることができない」と表現している。
専門的モデルや歴史的分析も含め、FRBが経済について持っている知見では、今日の経済状況を把握するには不十分だというのである。だとすれば、 注目の的となった連邦公開市場委員会の最新の議事録において、賛否が分かれた様子が示されているのも不思議はない。委員会のメンバーは、金融政策について お互いに異なる進路を予想しており、さらなる金融緩和を期待する者もいれば、いったん金融引き締めに転じることを期待する者もいる。
一方、日本は引き続き呻吟している。大地震・大津波、そして長引く原発事故の発生から4ヵ月が経過したというのに、包括的な復興計画はまだ着手さ れていない。結果として生じた経済的な不確実性は、多年にわたる不十分な経済成長と公的債務の悪化という構造をさらに悪化させつつある。
欧州、米国、日本の政治家が抱える問題については、重要なテーマが6つある。第一に、この3つの経済地域は、いずれもレバレッジ解消をめざす不安 定な動きに悩まされている。先ほどから比喩で使っている飛行機に喩えるならば、飛行中に機内の酸素が吸い出されてしまうようなもので、レバレッジ解消は社 会を動揺させ、伝統的な公的政策の効果を損なってしまう。
実際、欧米日の経済を完全になすがままに任せたら、恐らく過剰な債務を整理し、長年続いた社会的契約を変更するだろうが、それは、ひどく無秩序で、経済の縮小につながるような、そして新たな金融危機のリスクを高めるような形で行われるだろう。
第二に、国内でのレバレッジ解消の動きは、他の構造的な障害をさらに悪化させている。経済地域ごとに、また(住宅、労働、信用仲介など)部門ごと に細部は異なるものの、それは共通した不幸な結果と結びついている。つまり、経済の成長力を損ない、したがって秩序ある形で過大な債務を克服する能力を損 なってしまうのである。
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胃袋がでんぐり返るような乱気流は必至か
第三に、欧米日の政治家たちの活動を取り巻いているのは、大規模な再編のただなかにあるグローバル経済だ。そこでは、中国をはじめとして、システム上重要な複数の新興経済諸国が、自国の高度成長段階を切り開きつつある。
第四に、構造的問題に対して景気循環対応型の措置を選択することで、政治家たちは事態をいっそう面倒なものにしてしまっている。これもやはり、いま直面している尋常ならざる課題についての彼らの無理解ぶりを反映している。
第五に、政治的な思惑(politics)が事態をひどく複雑化させている。その理由はシンプルだ。必要となる構造的対策には、ほとんどの場合、 長期的なメリットの代償として直近の痛みを伴うからだ。政治家が毛嫌いするトレードオフである。次の選挙までの任期が短いとなれば、なおさらである。
最後に、コミュニケーション面がひどすぎる。中期的な経済展望について、政治家がこれほどまでに明確なビジョンを示せないという状況はめったに見られない。この失敗によって、漠とした不安につながる不透明感がさらに強まっている。
こうした点をすべて考え合わせると、今日の政治家というのは同情に値する。ひどく効果の薄い手段を駆使して、異様に難しい課題に取り組まなければ ならないからだ。だが、同情に値するからといって何でも許されるわけではない。政治家たちが従来の景気循環を軸とした考え方を離れ、今日の停滞の根底にあ る、より面倒で、しかし決定的に重要な構造的問題をもっと正確に把握し効果的に対処できるような考え方へとシフトしていくよう、私たちは求めていくべきな のだ。
残念ながら、そうした変化は一朝一夕には実現しないだろう。場合によっては、条件が今よりも大幅に悪化しなければ、政治家の意識はそこに集中しな いかもしれない。あらかじめ状況の悪化に備えられる企業・家計は、当然のように引き続きその準備を進めるだろう。だがそれ以外の者は、不幸なことに、これ までよりさらに胃袋がでんぐり返るような乱気流に襲われることになる――しかも、閉ざされた操縦室の扉が与えてくれるはずの安心感もなしに。
翻訳/沢崎冬日、エアクレーレン
Pity the Policymakers by Mohamed A.El-Erian(c) Project Syndicate, 2011
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