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ソブリン危機――歴史的難局の選択肢
【第1回】 2011年7月21日
著者・コラム紹介バックナンバー
ジョージ・ソロス 「欧州にはプランBが必要だ――ギリシャ債務不履行は不可避でも無秩序は避けられる」
ギリシャの債務不履行は不可避だろう。だが無秩序に陥る必要はない。EUには、まだ「プランB」が残されている、と世界的に著名な投資家、ジョージ・ソロス氏は説く。
ジョージ・ソロス(George Soros)
ソロスファンドマネジメント会長 著名な投資家であると同時に、東欧改革に取り組む慈善家、政治運動家でもある。オープンソサエティ・インスティチュート会長。Photo:REUTER/AFLO
欧州連合はカール・ポパーが「漸進的社会工学(piecemeal social engineering)」と呼んだ手法によって誕生した。「ヨーロッパ合衆国」構想に刺激を受けた先見の明ある一群の政治家たちは、この理想を達成するには漸進的なアプローチしかないと認識した。
限定的な目標を設定し、それを実現するために必要な政治的意思を呼び覚まし、各国が政治的に許容できる程度の主権放棄を求めるような条約を締結していく、という方法である。こうして、戦後の石炭鉄鋼共同体は欧州連合(EU)へと一歩ずつ変貌していった――その一歩が不完全なものであり、当然のようにさらなる一歩が必要になることを理解しつつ。
EUの創案者らは、EU誕生に必要な政治的意思を生み出すために、第二次世界大戦の記憶、ソ連による脅威、統合強化による経済的恩恵を足がかりとした。そのプロセスは成功を糧にさらに強化され、ソ連が崩壊すると、東西ドイツ統一の展望がさらに強い追い風となった。
ドイツは欧州統合のさらなる拡大という文脈のもとでなければ東西統一は不可能だと認識しており、その代償を担おうという意欲を持っていた。ドイツ国民が統合のメリットを少し積み増しして対立する国益を宥和しやすくしたおかげで、欧州統合プロセスはマーストリヒト条約の締結とユーロ導入という頂点を迎えるに至った。
だが、ユーロは不完全な通貨だった。通貨ユーロにとって中央銀行は存在したが、中枢となる財務省は存在しなかった。ユーロ制度の設計者らはこの欠陥に十分気づいてはいたものの、必要が生じれば、次の一歩を踏み出すための政治的意思が高まるものと信じていた。
しかし、そうはならなかった。ユーロには、設計者らが気づいていなかった別の欠陥があったからだ。彼らは「金融市場は自らの行き過ぎを修正できる」という誤解のもとで働いていたため、公的部門の行き過ぎを抑制することだけを意図したルールが作られた。そしてこの点についても、主権国家による「自己検閲」にあまりにも依存しすぎた。
もっとも、行き過ぎが生じたのは主として民間部門だった。欧州各国の金利が収斂していくことで、実体経済の乖離が進んだ。弱小国では金利の低下で住宅バブルが膨らんだのに対し、欧州最強の経済を誇るドイツは、統合コスト負担のために財政緊縮を強いられた。一方、金融部門では、不健全な金融商品と劣悪な融資慣行が蔓延していった。
東西ドイツの統一の完了により統合プロセスを支えていた最大の勢いは失われ、金融危機により分裂のプロセスが始まった。決定的な瞬間が訪れたのはリーマン・ブラザーズ破綻の後である。各国当局は、これ以上、システム上重要な金融機関を破綻させることはないと保証しなければならなかった。ドイツのアンジェラ・メルケル首相は、EU共同保証は行うべきではなく、各国が、自国の金融機関について保証しなければならないと主張した。これが今日のユーロ危機の根本的な原因である。
次のページ>> このままではギリシャは無秩序な債務不履行に陥る
金融危機によって、各主権国家は、崩壊した信用に代わって独自の信用を供与せざるをえなくなった。欧州では、各国が独自にそれを行う必要があったため、欧州各国の国債の信用度が問われることになった。リスクプレミアムは拡大し、ユーロ圏は債権国と債務国に分裂した。ドイツは、統合の主役から、いわゆる「移転連合(transfer union)」(注:ある国から別の国へと富を『移転』させるための連合)に対する主な反対者へと180度路線を転換したのだ。
こうして二極化した(two speed)欧州が生まれた。債務国は重い債務に沈み、黒字国は前進を続けている。ドイツは最大の債権国として支援の条件を決めることができたが、その条件は懲罰的で、債務国は財政破綻状態に追い込まれた。一方でドイツはユーロ危機による恩恵を被っている。ユーロの下落により競争力がさらに改善されたからである。
統合から分裂へという流れのなかで、欧州政界の役割も、さらなる統合に向けた旗振り役から現状維持へと反転した。結果として、現状は望ましくない、あるいは容認できない、持続できないと考える者は皆、反欧州的スタンスを取らざるをえなくなった。過大な債務を抱えた諸国が財政破綻へと追いやられるなかで、ナショナリズム政党(フィンランドの「True Fin(真のフィンランド人)」党など)が、域外諸国の同種の政党と歩調を合わせて勢力を増した。
欧州政界は依然として現状維持以外に取るべき道はないとの主張を続けている。金融当局は時間稼ぎのためますます乱暴な措置に訴えるようになっている。だが時間の経過はむしろ彼らに不利に働いている。欧州の二極化により、EU加盟国の乖離はさらに進んでいる。ギリシャは無秩序な債務不履行か減価、あるいはその双方に向かっており、それがもたらす影響は計り知れない。
一見したところ免れようのないこのプロセスを制止し、反転させるためには、ギリシャとユーロ圏諸国が「プランB」を緊急に採用する必要がある。ギリシャの債務不履行は不可避かもしれないが、だからといって無秩序に陥る必要はない。ある程度の「伝染」は避けられないかもしれない。ギリシャの状況はポルトガルまで広がる可能性が高いし、アイルランドの財政状況も持続不可能になるかもしれない。だが、それ以外のユーロ圏諸国は「隔離」する必要がある。つまりユーロ圏の強化ということであり、そのためには恐らく、ユーロ債の活用拡大、ユーロ圏全体に及ぶ何らかの種類の預金保証スキームが必要となろう。
次のページ>> EUそのものにも「プランB」が必要
政治的意思を生み出すためには、EUそのものについても「プランB」が必要になろう。欧州の上層部は、欧州連合創設の指針となった原則に立ち返りつつ、我々の現実理解が本質的に不完全であり、認識は必ず偏見を、制度は欠陥を抱える運命にあるということを認識することだ。「開かれた社会(open society)」は、現在広く行われているやり方を神聖不可侵のものとはせず、そうしたやり方が失敗した場合の代替案を許容するものなのだ。
「現状維持」が不適切になった場合でも、各国レベルではなく欧州レベルのソリューションを探るべきだ――そうした発想を支持する、親欧州の「サイレント・マジョリティ(声なき大衆)」を動員することも可能なはずだ。「真の欧州人」の数は、[ナショナリスティックな]「真のフィンランド人」やドイツその他の反欧州連合派よりも多いはずなのである。
翻訳/沢崎冬日、エアクレーレン
George Soros is Chairman of Soros Fund Management
(c) Project Syndicate, 2011
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