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ドイツの川にはなぜ堤防がないのか 氾濫が起きて当たり前の日本の河川
2011.07.21(Thu) 田中 正知
本流トヨタ方式
「本流トヨタ方式」の土台にある哲学について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。
ここ数回は「(その4)現地現物」に関して話をしてきました。現場に行った際は、何を見て何を読み取るかが問題です。前回は韓国の釜山港付近で撮った写真を基に、日頃から現場に関心を持ち、洞察力を鍛えておくことの必要性をお話ししました。
日本ではそろそろ台風の季節です。毎年大雨による河川の氾濫が話題になります。マスコミはそれらをもっぱら「地球温暖化」「異常気象」の影響とだけ報じ、自分たちの日常の努力でいかに災害を減らすかという観点の報道が極めて少ないのを残念に思っています。
今回も、写真を基に、現場で何が読み取れるかを考えてみましょう。筆者がドイツを訪れライン川を遊覧した時に撮った写真から、ドイツと日本の違いを垣間見ようと思います。
この写真から何を読み取りますか
【写真1】 ドイツのライン川の写真。拡大表示してご覧ください。拡大画像表示
右の【写真1】は2001年9月23日にライン川の川岸の様子を撮ったものです。
写真を見て、日本との違いなど、気がついた点をメモしてから次をお読み下さい。
筆者が気づいた日本との違いは、以下のような点です。
(1)家並みに統一感があり美しい。
ドイツの正式名は「ドイツ連邦共和国」といいます。843年に誕生した東フランク王国がドイツの原型とされます。実態は数百にも及ぶ小国の集まりだったといいます。
現在は旧東ドイツも入れて16州からなる「連邦」です。ビジネスで訪れると、どの会社の人も「うちのチーズを食べたか」「うちのワインは」「うちのソーセージは」と自慢話を始めるので、閉口したことがありました。
日本では手前「味噌」だけですが、ドイツではチーズ、ワイン、ソーセージと各地の自慢が3つあるのです。それだけドイツ人は自分の土地の文化に強い愛着を持ち、大切に保存しているのだと痛感したものでした。
家並みに関しても強い思いを持っています。ドイツは戦争で壊された建物をコンクリートのビルで復興させたのですが、それをまた壊して、本来のドイツ風の家並みに建て直している場面をよく見ました。
筆者の知人がゴルフ等の付き合いが忙しく、庭の手入れを怠っていたら近所から注意され、奥さんに庭の手入れを頼んで出かけたら、近所から強烈なブーイングを受けたというのが語りぐさになっています。
家庭では奥さんが内装を担当し、窓ガラスを磨き上げ、窓際に美しいカーテンと花を飾ること、亭主が家の外装を担当し庭の手入れを怠らないことが、その土地に住む必要条件になっていたのです。
家並みはドイツの地方ごとの様式があり、それを頑なに守ることが彼らのアイデンティティーになっています。写真に写っているこの地方では、黒色の 瓦で葺(ふ)いた切り妻型の大屋根を持った4階建てで、隣近所と調和の取れたパステル調の壁の色が特徴のようです。一戸一戸の美しさもありますが、家並み としての美しさを表現するのがドイツの特徴のようです。
(2)電柱や広告がない。
写真を見て分かるように伝統的な綺麗な家並みを生かすために、電柱を立てず、目立つ広告も設置していません。実にシックな街になっていて、これが彼らの誇りなのでしょう。
日本の京都を思い出してみて下さい。1200年余り続いた神社仏閣等という貴重な文化遺産を台無しにする奇怪な近代建築が立ち並び、さらにそれら を押しのけて目立とうとする大きな広告看板に、乱立する電柱。その景色とドイツのこの佇まいとを比べると、日本の家並みに関するセンスのなさが恥ずかしく なります。
運河として用いられるドイツの川
(3)大きな川なのに堤防がない。
写真をよく見ますと、こんなに大きな川なのに、いわゆる堤防と言うべきものがありません。しかも、川の水面と道路の高さの差は2メートルを切っているように見えます。ドイツでも雨は降りますし、春には雪解け水もあるはずです。なぜ堤防がなくてもよいのでしょうか。
ライン川本流はスイスの海抜1600メートルの高地に水源を持ち、全長1200キロメートル余りの大河で、フランス、ドイツ、オランダを経て北海 に注がれます。支流を含めるとドイツの主要都市のハイデルベルク、マンハイム、ボン、ケルン、デュッセルドルフ等とオランダのロッテルダム港をつなぐ運河 にもなっていて、まさにドイツの貿易物流の幹線でもあるのです。
文献を調べると、1100年頃、ドイツの森林地帯シュバルツヴァルト(黒い森)からの木材を、ライン川の支流であるネッカー川を活用して運ぶよう になったのが河川運輸の始まりだとされています。大航海時代になるとさらに需要が増し、ライン川の川下であるオランダのロッテルダム港まで運ぶようになっ ていったとあります。
高級車で有名なベンツ本社があるシュツットガルトはスイスに近く、ネッカー川沿いにある海抜245メートルの工業都市です。現在はヨーロッパ最大 のハブ港ロッテルダム港とシュツットガルトまで、海上コンテナを積んだ運搬船が往復できるようになっています。つまり、ライン川とネッカー川の輸送力がベ ンツの世界戦略を支えているとも言えるのです。
では、どうしたら河川を運河にすることができるのでしょうか。それは、日本の河川とは全く逆の発想をすることで可能になったのです。
ある地域に雨が降ったとします。時間あたりの降水量に相当する「流量」を増やすことができれば、川は氾濫しません。流量というのは川の流れの断面積(幅×平均深さ)と、流れの勾配(落差)で決まります。
筆者は次のように想像しています。昔のドイツ人たちはまず材木を流したかったので川底を掘りました。ただ掘っただけでは水面が下がってしまい元の 木阿弥ですから、所々に堰(せき)と水門を作り、川の水位を一定に保つようにしたのだと思います。水量が増えた時は水門を徐々に開け、水量が減った時は水 門を閉じることで、一定の水位を常に保つことが可能となります。
流量を増やしたい時には水門を開けて流速を速くすればよいのです。川幅と水深を十分に取ってあるので、水路は確保されます。堤防は不要なのでした。
船やいかだはどうやって堰を通るのでしょうか。この問題は、堰の横にバイパス用の水路を造り、その前後に、船が通れる水門を備えた仕組み、すなわち「閘門(こうもん)」(「ロック」とも言う)を造ることで解決しました。
閘門という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、デパートやホテルの入口にある二重扉を思い浮かべて下さい。冬に、寒い外から中に入る時、外側だ け扉を開けてまず2重扉の間に入り、次に外側の扉を閉めて寒い外気を遮断してから、内側の扉を開けて中に入ります。閘門では、建物の中に入るあなたが船と なり、扉が水門となります。
パナマ運河は、この閘門の大がかりなものをたくさん造って、何万トンもの大きな船を山の上まで持ち上げ、降ろすことで、太平洋と大西洋との間の航行を可能にしているのです。
日本の河川は対症療法のかたまり
さて、日本の河川はどうなっているのでしょうか。木曽川など大きな川ではドイツと同じで山奥から材木が運ばれていました。一般貨物は舟で川を下 り、上りは岸伝いに労務者が綱で引き上げる方法を採っていました。その名残りが観光客向けの「川下り」として残っているだけです。
筆者の知る限り、貨物船が川をさかのぼれるように橋桁を上げ、川底を掘っているのは、荒川の下流だけです。河口から約30キロメートル上流にある埼玉県和光市までの間で、現在も小型タンカーが石油関連製品を運んでいます。
この30キロメートルの水運の持つ意味は、実は防災対策なのです。30年以内に関東大震災並みの地震が起きる確率が70%と言われていますが、大 地震が起きると、陸上の交通網は道路の陥没や建物の瓦礫でしばらくの間使用不能になります。この河口からの30キロメートルは、支援物資の供給路として大 きな意味を持ちます。河川敷は物資の供給センターになり、臨時避難場所ともなることでしょう。
一方、洪水対策から見ると日本の河川はどうなっているのでしょうか。
大雨が降ると水位は上がり、流れの幅は広がります。これ以上幅が広がらないように、ある川幅で土手が造られ、これ以上は川の水面は上がらないであろうという高さまで土手を高くしています。これが堤防です。
ところが、いざ大水が出ると、川の水の高さと幅が想定内でも、流れが速くなりすぎて堤防の表面が削られていき、決壊する場合があります。そうならないように、流れの勾配が緩やかになるように所々に堰堤が設けられています。
これが日本の河川の状態です。読んで分かるように「対症療法」のかたまりで、様々な問題点があります。
まず、上流に大雨が降った場合、堤防は川の水があふれるのを防ぐことができます。しかし、当地に降った大雨の水を川に流そうとすると、ポンプで汲まない限り、堤防が邪魔で流せません。そのポンプが水没し、被害が拡大した例も多いのです。
また洪水の度に河床が上がっていき、まわりの土地より高くなってしまう、いわゆる「天井川」という現象が起きます。こうなると常に洪水や床上浸水の危険にさらされ、ポンプなしでは生活できない事態にもなってしまいます。
それだけではありません。河床に積もるのは最初は砂ですが、次第に肥沃な土が積もるようになります。そこに草が生え、木が茂り、河床があたかも緑 地公園並みになっている河川が増えています。このような状態で河川敷内の流量が上がると、木や草が橋桁に絡まってダムになり、それがもとで堤防決壊、河川 氾濫、家屋浸水となります。
【写真2】 長野県の松川の写真。拡大表示してご覧ください。拡大画像表示
右の【写真2】は長野県飯田市を流れる松川にかかる永代橋を上流から撮った写真です。大雨が降ったら氾濫は確実です。過去にも近くで大水害があり、この状態が放置されている理由が分かりません。
日本国中、ほとんどの河川がこの写真以上に悪い状態です。河床が上がり、樹木が茂り、里山状態にあります。下司の勘ぐりで、氾濫すれば復旧予算が付くのでそれを待っているのでは、と思ってしまいます。
河川の修復には毎年予算が付いているはずですが、その予算はどのように使われているのでしょうか?
日本全体で見ればコンクリートに入れる川砂は貴重な資材です。採掘許可を与えれば業者は喜んで河床を下げてくれると思いますが、その許認可はどうなっているのでしょうか。
ちなみに河川敷きの私有は禁止されていて、大きな川は国有地で、小さな川は県有地です。すべて我々の納めた税金で管理されているのです。
写真2を見ると、大雨が降った後の河川の氾濫の報道が、現地現物の考えからいかに外れたものであるかお分かりいただけると思います。
「元に戻す」だけが復興ではない
(4)橋を架ける代わりに渡し船を走らせている。
【写真1】には、乗用車換算で3車線×8台くらいの輸送能力を持った前後対称型の渡し船がまさに接岸しようとする風景が写っています。甲板が大変 低く、まさに動く橋桁といった機能的な船に見受けられます。出ていく同型の船が見えたので、筆者は数隻の船がピストン輸送で運んでいるのだと思いました。
日本にも、有名な「矢切の渡し」などの渡し船はありますが、1日数回しか運行していません。人と自転車を渡すのが大体の傾向で、ここの渡し船のように自動車を通す橋の代わりという渡し船は極めて少ないと思います。
日本では一部の人が私欲のために強引に橋を架けさせ、それが財政の負担になっている例が多い気がします。かつて三重県の鳥羽から愛知県の渥美半島まで伊良湖水道を跨ぐ大きな橋を架けようという運動が起き、意見を求められた筆者は猛反対した覚えがあります。
やり過ぎた橋の代表例が、3ルートも造った本州四国連絡橋でしょう。お金をかけすぎ、通行料はべらぼうに高くなり、強風時は危険ということで封鎖 されてしまう始末でした。強風時に使えないなら、従来の渡し船と変わりません。料金が安いだけ渡し船の方がよかったという声が多く、瀬戸内海の島間の船に よる連絡は復興しつつあると聞いています。
諸行無常という言葉の通り、ものには寿命があり、取り壊す時にも多大な資金が必要となります。橋を造り直すのであれば、さらにお金がかかります。 そのことを勘案すると、川を自動車で渡るには橋しかないと思い込まされている我々は、このドイツの機能的な渡し船を見て、選択肢は他にもあると気がつくべ きです。
今、東北の復興に向けて様々な対策が取られています。ともすると「元に戻す」という発想だけになりがちですが、もう一度この写真を見て、考えてみてください。
新しく建てる家並みはどうするのか、川は堤防を嵩上げするのか河床を下げるのか、断崖絶壁の海岸線に道路と橋は本当に必要か、農水省の漁港とその取付道路、国交省の道路と港は別々に造る必要があるのか・・・。
日本は900兆円の財政赤字を抱え、少子高齢化に向かい、人口が減っています。その中で、人間としての充実した生活には何が必要かという原点に戻って再検討する必要がありそうです。
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