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震災・原発停止、世界金融危機&景気低迷、円高という外部要因が、日本経済に及ぼす影響(生産力破壊、輸出減、雇用を生む投資の持続的減少)がかなり明確になりつつある。
こうなってくると供給制約と空洞化で日本経済が成長せず、長期的に日本の自然失業率が高止まりするシナリオの実現確率は急上昇だ
ただ短期的には円高が復興を後押しするように、定量的に、それらの効果を計算して、適正な政策を提言する必要がある。
まあ、簡単ではない作業だが。
http://diamond.jp/articles/-/13225?
野口悠紀雄 未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか
【第22回】 2011年7月21日野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
復興財源に何を選択するかで、マクロ経済への影響は大きく異なる
これまで、貿易のミクロ的側面について見てきた。以下では、貿易や復興財源に関するマクロ的側面を見よう。マクロ的な条件は、直接目に見えるものでないので、分かりにくい。だから人々の関心をひかないのである。
しかも、マクロ経済的な問題は、その影響が多くの場合間接的であるために、緊急度が感じられず、軽視されることが多い。
例えば、財源選択の問題に関して、政府にとって最大の問題は、実際に財政収入が得られるかどうかだ。それが経済に与える影響は二義的なものとしてしか認識されない。
課税される側から見れば、課税によって自分の生活や事業がどうなるかが、最大の問題だ。だから、経済界は法人税減税を求めるだけだ(それにさまざ まな理由はつけるが)。しかし、復興財源の選択が経済にどのような影響を与えるかは、今後の日本経済にとって重要な意味を持つ。
とりわけ、震災後の日本経済は全体として強い供給制約に束縛されているので、マクロ的条件を勘案することが大変重要である。
それにもかかわらず、経済全体の供給制約を無視した議論が、きわめて多い。例えば、「日本経済は、今年の秋ごろからV字回復する」という意見があ る。しかし、これは自動車生産という経済の一部だけを見ている議論だ。震災によって損壊したサプライチェーンは、最近時点になってかなり復旧したから、 「今後は自動車生産を中心として生産活動が回復し、それが輸出を拡大させて、日本経済を回復させる」とされるのだろう。
しかし、経済は、ある部門の条件が回復しただけで回復するわけではない。現代の経済活動は複雑に関連しながら行なわれているので、ある部分に制約が残れば、それがボトルネックとなって、他の部門の生産活動拡大が阻害される。
震災直後から日本経済にとっての大きな供給制約となってきたのは、自動車生産などにおけるサプライチェーンの損傷である。今後の日本経済にとって 大きな制約条件となるのは、電力に関連する諸問題である。電気は現代のあらゆる経済活動で必要とされるので、この制約がある限り、経済全体の拡大は制約さ れることとなる。
今年の夏には、電力制約を回避するために、輪番操業が実施されている。これは、自動車生産を始めとする多くの生産活動に対して大きな制約となっているはずだ。
電力制約は終戦直後を別とすれば、いままで経験したことがなかったものだ。石油ショックも供給制限だが、それとは少し違う。しかも、世界の中で日本だけが影響を受けている。
したがって、それに対する対応も、必ずしもうまくできているとは言えない。このため、脱原発を選択するのか否かなど、将来への方向付けもはっきりせず、将来への不確実性が高くなっている。
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供給制約下での復興財源
マクロ的制約は、復興財源を考える際に重要な視点である。
復興財源が議論される場合、政府がどれだけの財源を調達できるかは議論されるが、それが経済活動にどのような影響を与えるかは、必ずしも意識され ていない。こうなる理由は、冒頭で述べた一般的な理由の他に、石油ショックを克服した後の日本経済は、経済全体として強い供給制約を受けることがなかった からである。
ケインズ的な経済(需要不足経済)においては、過剰な生産能力が存在するわけだから、国債発行によって有効需要が拡大すれば、遊休資源が活用されることとなる。いわば「無から有」を作り出すのだ。だから、国債発行が大きな問題を引き起こすことはない。
日本では、発行された国債の大部分は金融機関によって購入されるが、過去10年程度の日本では、企業の資金需要がないため、企業は借入残高を継続 的に減少させつつあった。金融機関は、その分を国債購入にあてることによって、金利高騰を引き起こさずに国債保有残高を増加させることができたのである。
しかし、供給制約がある経済では、政府が使用する資源が増えれば、必ず何らかの用途にあてた資源が犠牲にされる。これを、「クラウディングアウト」という。何が犠牲にされるかは、経済に大きな影響を与える。
今後復興投資が本格化すれば、企業がこれまでのように借入残高を減少させ続けることはないだろう。むしろ、復旧投資のために借り入れを増加させる 可能性がある。また、被災家計が住宅を再建すれば、住宅ローンの需要が増えるだろう。そうなれば、政府が国債を発行しても、金融機関はこれまでのように国 債を購入し続けることができなくなる。つまり、復興投資の増加が、「クラウディングアウト」を引き起こすのである。
復興財源の問題は、政府だけでなく、日本経済全体の問題として議論する必要があるのだ。それにもかかわらず、これまで需要不足経済に慣れてしまっているので、こうした視点からの十分な議論が行なわれていない。
復興支出が経済に与える影響
以下では、復興財源と経済への影響について、定量的な評価を行なおう。
2011年度第3次補正予算案の骨格となる復興基本方針は、7月末までにまとめられる予定だが、新聞報道によると、今後5年間で必要な復旧費用 は、国費と地方費を合わせて10兆〜12兆円程度とされている。内訳は、仮設住宅等の災害救助0.8兆円、自衛隊の活動経費0.8兆円、被災者生活再建 0.4兆円、水道や電気、道路、港湾、農地、住宅、保健医療施設などのインフラ復旧5兆〜7兆円、がれき処理0.7兆円などだ。なお、東京電力福島第一原 発事故の補償費は、ここには含まれていない。
次のページ>>復旧復興費用12兆円が経済にどう影響を与えるか
この財源となる増税の中身は、基本方針に盛り込まず、議論を8月以降に先送りすることとされている。
なお、内閣府の6月の試算によると、震災による被害総額は、16.9兆円だ。これを考慮すると、最終的な復旧復興費用は12兆円を大幅に上回る可能性もある。
では、このような復興支出は経済にどのような影響を与えるだろうか?
【図表1】は、1980年以降の名目GDP(国内総生産)の構成項目を「消費」(民間最終消費支出+政府最終消費支出)、投資(民間住宅+民間企業設備+公的固定資本形成)、財貨サービス純輸出(輸出−輸入)にわけて示したものである。【図表2】には、これらの構成比を示した(なお、ここでは、在庫投資を除外した)。
最大の需要項目は消費であり、90年代中ごろまでは急速に伸びていた。その後は、伸びは鈍化したが、増加傾向にある。GDPに対する比率は、90年代の中ごろまでは7割以下であったが、その後上昇し、最近では8割近くにまでなっている。
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次のページ>>純輸出の減少によるクラウディングアウトの回避
投資は、80年代までは伸びていたが、その後は減少傾向にある。GDPに対する比率は、90年代の中ごろまでは3割程度を占めていたが、「外需依 存経済成長」が始まった2002年ごろ以降は、20〜23%の比重まで落ちている。つまり、日本経済の中長期的な傾向としては、投資の比重が低下して消費 の比重が高まっている。
純輸出は変動が大きい。2002年から07年まで継続して1%を超えていたが、経済危機によってその比重が大きく落ち込んだ。そして、10年には再び1%を超える水準になっている。
上で見たように、政府、家計、民間企業を合わせた要復興経費はおよそ17兆円である。これを3年間で支出するとすれば、毎年5兆円強となる。
この大部分は投資である。したがって、現在は年間100兆円弱である投資支出が年間約5兆円、率では5%ほど増えることとなるわけだ。対GDPでは、ほぼ1%である。
いま、簡単化のため、供給制約によってGDPは増加できないものとしよう。すると、5兆円の投資増加は、他の需要を削減することになる。
どの需要項目が削減されるかは、復興財源として何が選ばれるかに大きく依存する。
第1に、増税による場合は、主として消費が抑制される。前記の復興基本方針に示された額が全額増税で賄われれば、年間の消費支出は2兆円程度減少することになるだろう。これは、消費を0.5%程度削減することに相当する。
第2に、政府支出の財源が国債に求められる場合には、消費支出は削減されないが、金利が上昇するため、主として投資支出が削減される。仮に、上記 5兆円の投資増がすべてこのメカニズムで調達されるなら、投資支出の総額は不変に留まるわけだ。これは、復興のための投資が順調には進まないことを意味す る。
純輸出の減少によるクラウディングアウトの回避
第3の可能性は、純輸出の減少である。
金利上昇は、海外からの資金の流入を招き、円高をもたらす。これに対して政策的な介入がなされず円高の進行が放置されれば、純輸出が減少することとなる。
上で見た年間5兆円の投資支出増は、2010年の純輸出とほぼ同規模である。したがって、その程度の純輸出減が生じれば、復興投資は抑制されることなく実行できるわけである。
これが一番ありうる姿であり、かつ日本経済全体からすれば望ましい資源配分のパタンと言えるのではないだろうか。
次のページ>>円高は必ずしも復興を阻害するものではない
これは、具体的には、つぎのような形で生じるだろう。
まず、自動車輸出が、これまではサプライチェーンの損壊で減少していた。今後は、電力不足や電力コストの上昇、そして円高によって伸び悩む。
他方で、発電用燃料の輸入が増える。
より長期的には、復興資材の輸入増加、製造業の生産拠点海外移転(部品生産も含めて)による輸出減が生じるだろう。
このところ、円高が進んでいる。そして、これに対しては、「円高が復興を阻害する」という意見が強い。しかし、以上で見たマクロバランスからすれば、「復興を円滑に進めるために円高が必要」という側面があることに注意しなければならない。
とりわけ、今後どうしても輸入増が必要なのは発電用燃料であり、それは円高になるほど安く輸入できることに注意しなければならない。石油ショック のときも、円高になったために、日本経済は原油価格高騰の影響を緩和された。この面で、円高は明らかに復興にプラスなのである。
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「第1章 復興にかかる厳しい供給制約」の全文を掲載した連載はこちら→【野口悠紀雄 大震災後の日本経済】
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