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資源をもたない日本は貿易黒字により海外資産を築き上げたのと逆のプロセスで、じきに経常収支も赤字化して債権取り崩し国になり、最終的には対外資産も消え、慢性的な通貨下落、そして国債破綻(強度のインフレ)へと至るか
まあ、今の老人たちは増税などで誤魔化せるから余裕で逃げ切れそうだが、40代以下の世代は、今のうちに対策を考えておいた方がいいだろうな
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20110715/221507/?ST=print
日経ビジネス オンライントップ>企業・経営>小峰隆夫のワンクラス上の日本経済論
国際収支を巡る議論 現状編 その3
経常収支の赤字を懸念せざるを得ない理由
じきに双子の赤字で対外資産は消える
2011年7月20日 水曜日 小峰 隆夫
これまでの連載の中で示してきたことは、「貿易収支そのものはそれほど問題ではなく、問題があるとすれば経常収支だ」ということであった。ところが、最近その経常収支が赤字になるという見方が強まっている。今回は日本の経常収支について考えてみよう。
雪だるま式に増えてきた日本の経常収支
日本は長い間経常収支の大幅黒字国であった。表は80年代半ば以降、最新時点までの経常収支の動きを見たものである。これによって次のようなことが分かる。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20110715/221507/image001_s.jpg
第1に、日本の経常収支はかなりの期間大幅黒字を続けてきた。この表より前に遡ると、1979年と1980年に石油価格の上昇によって経常収支が赤字になったことがあるが、それ以降は黒字を続けている。
しかも日本の黒字額は国際的に見てもかなり大きく、2005年までは世界一だった。2006年以降は中国が世界一で、2010年の中国の経常収支黒字額は3062億ドル、日本は第2位の1948億ドルである。
第2に、その内訳を見ると、経常収支の黒字は、貿易収支の黒字と所得収支の黒字によってもたらされていることが分かる。注目すべきは、両者の相対的な大 きさだ。90年代前半までは圧倒的に貿易収支の黒字幅の方が大きかったのだが、その後逆転し、近年では圧倒的に所得収支の方が大きい。日本は貿易で稼ぐ以 上に、利子配当所得で稼いでいる国になっているのだ。
これは次のようなメカニズムが作用したからである。経常収支は、貿易・サービス収支と所得収支の合計である(以下、移転収支はウエイトも小さく、基本的 なストーリーとは無関係なので無視する)。日本の貿易・サービス収支はこれまで大幅な黒字を続けてきた。貿易・サービス収支の黒字は必ず対外資産を増や す。対外資産は証券や、直接投資で得られた生産設備などであり、そこから利子所得やロイヤルティーが入ってくるので、これが所得収支の黒字を増やす。つま り、経常収支は増え始めると「雪だるま式」に拡大していくのである。
この雪だるまのメカニズムはかなり強力である。日本の貿易・サービス収支は、30年以上もの間大幅な黒字を続けてきたので、それが累積した結果としての 対外資産は巨額なものとなっている。2010年末の対外純資産残高は実に251.5兆円、名目GDPの約半分の規模である。第2位は中国の167.7兆円 だから、日本は圧倒的に世界一の対外資産保有国である。これだけの資産を保有していれば所得収支が巨額なものとなるのは自明である(ただし、保有資産規模 の割には所得収支黒字が小さいという指摘はある)。
そして第3は、震災後、経常収支黒字が急減していることである。変化したのは貿易収支である。2月は4873億円の黒字だったが、震災を機に3月は 300億円の黒字に縮小し、4月以降は赤字に転じた。その理由が、原油高などによる輸入金額の高止まりとサプライチェーン(供給網)の寸断による輸出の減 少であることは前々回に詳しく説明した。
一方、サービス収支は赤字が続いているから、貿易収支とサービス収支の和である貿易・サービス収支は3月以降赤字に転じ、5月は8075億円の大幅赤字 となった。しかし、所得収支は前述のメカニズムによって依然として大幅な黒字を維持している。以上の結果、経常収支は2月の1兆2748億円の黒字から、 3月以降減少しており、5月は3910億円にまで減ってきた。
経常収支赤字化論のオールド・バージョン
では、このように黒字が減ってきた日本の経常収支は今後どうなっていくのだろうか。この点については、驚かれる読者が多いかもしれないが、日本の経常収 支が近い将来赤字となることは、エコノミストの間ではほぼ常識化している。その背景を説明する前に、経常収支が黒字から赤字へと変化するのは意外と速いと いう点に注意したい。これは、前述の「雪だるま式」と逆のことが起きるからだ。
つまり、何らかの理由で貿易・サービス収支が赤字になると、今度はその分、対外資産が減少する。するとその分、所得収支の黒字も減る。このため「逆雪だるま式」に経常収支黒字は減っていき、いずれは赤字となるのである。
では、なぜエコノミストたちは日本の経常収支が赤字になると考えてきたのか。話を分かりやすくするために、経常収支赤字化の説明を従来からあった「オー ルド・バージョン」と、震災後に現われた「ニュー・バージョン」に分けよう。オールド・バージョンは震災の有無には関係なく成立する考えである。つまり、 これまでもあったオールド・バージョンの上に、震災後ニュー・バージョンが加わったため、経常収支赤字化の動きが従来よりもさらに現実味を帯びてきたとい うことである。
まず、伝統的なオールド・バージョンはどんなものか。これには二つのタイプがある。一つは、人口構成の変化による説明である。
今後の日本経済を見た時、長期的には人口構成の変化が重要なポイントとなる。特に重要なのは、人口に占める「働く人」の比率が低下することであり、これは「人口オーナス」と呼ばれている(詳しくは私が2010年に書いた本『人口負荷社会』を参照してほしい)。この人口オーナスは多くの問題を経済社会に突き付けるのだが、その一つが「貯蓄率が下がる」ということである。
理由は簡単だ。我々は働いている間に老後に備えて貯蓄をし、老後にそれを取り崩すという行動をとるはずだ(これを「ライフサイクル仮説」という)。する と、人口オーナス状態になって人口に占める「働く人」の割合が下がると、人口に占める「貯蓄する人」の割合が下がる。一方で高齢化が進行しているから、 「貯蓄を取り崩す人」の割合は上がる。すると経済全体の貯蓄率が低下することになる。これは既に現実に起きていることである。
日本の家計貯蓄率は、1999年度は10.0%だったのだが、その後急激に低下し、2007年度は実に1.7%にまで低下した。これは先進諸国の中でも 最低に近い(その後やや上昇し、最新の2009年度は5.5%)。これには高齢化の進展がかなり影響しているものと考えられている。今後人口構成の変化は さらに続き、働く人の割合が下がって、高齢者の割合が上昇するから、貯蓄率は長期的に低下傾向を続けることになるだろう。
こうして貯蓄率が下がってくることにより、国内は資金余剰状態から資金不足状態になっていくはずだ。もちろん貯蓄率に合わせて投資率も下がってくれば、 資金不足にはならないのだが、一定の経済活動レベルを維持しようとすれば、投資率を引き下げるわけにはいかないので、やはり資金不足になると考えるのが自 然である。
さて、6月8日の本連載で 説明した通り、経常収支は結局のところ、国内における投資と貯蓄の差となる。ということは、経常収支が黒字ということは、国内の貯蓄超過を、赤字は投資超 過を示すことになる。人口変化によって国内が投資超過・資金不足になっていくということは、経常収支が黒字から赤字になっていくということである。こうし て、人口構成の変化から経常収支赤字化というストーリーが導かれるのである。
もう一つ、経済の発展段階による説明もある。「クローサーの国際収支の発展段階説」として知られる考え方だが、この説によると、一国の国際収支は次のような段階をたどって変化する。
クローサーの国際収支の発展段階説
第1段階「未成熟の債務国」
発展の初期には必要な投資財を輸入に頼り、国に貯蓄も不十分なので資本も海外に依存する。したがって、経常収支も資本収支も赤字となる。
第2段階「成熟した債務国」
輸出産業が発展してきて、貿易・サービス収支は黒字となるが、過去の債務の利子の支払いが続くので経常収支は赤字状態が続く。
第3段階「債務返済国」
輸出が増えて経常収支は黒字となり、債務の返済が進むので資本収支も黒字となる。
第4段階「未成熟の債権国」
債務を返済し終わり、債権国となる。貿易・サービス収支の黒字と所得収支の黒字が重なるため経常収支は大幅な黒字となる。
第5段階「成熟した債権国」
貿易・サービス収支は次第に赤字化するが、対外債権が大きいので、所得収支は黒字であり、経常収支も黒字が続く。
第6段階「債権取崩し国」
貿易・サービス収支の赤字が拡大し経常収支も赤字になって、対外資産が減っていく。
詳しい説明は省略するが、この発展段階説は、現実の各国の国際収支構造の変化を比較的うまく説明している。日本の国際収支もほぼこのような段階をたどっ て変化してきており、これまでは明らかに第4段階「未成熟の債権国」であった。今後経済が成熟化していくとやがては第5段階へと進んでいき、経常収支は赤 字となるのである。
この二つがオールド・バージョンの経常収支赤字論である。この時注意すべき点は、この議論からすると「経常収支が赤字になることは自然であり、特に問題 ではない」ということだ。これまで上記のようなロジックで、やがては日本の経常収支は赤字になると説いてきた人は、「だから経常収支の赤字化を防ぐべき だ」とは主張していない。
例えば、ライフサイクル仮説に従って貯蓄率が低下し、経常収支が赤字化したとしよう。経常収支の赤字化を防ぐために貯蓄率の低下を防ぐことは意味がな い。各個人は働いて貯金し、それを老後に使う。使うために貯蓄していたのだから当たり前だ。貯蓄率が下がってしまうから使うなというのでは、それこそ「人 間のための経済」ではなくなってしまい、何のための経済だか分からなくなってしまう。
経済の発展段階で国際収支構造が変わるのも、一国全体が、時間の経過に従って、所得と支出のタイミングをずらしているからこそ生じる現象である。我々の 一生を考えても、若くて元気なときにローンを組んで家を建て、後から返すほうが合理的である。家を建てられる資金が溜まるまで待っていたら、一生の間に自 分の家に住める時間が短くなってしまうからだ。
国としても、発展を始めて間もない時は、国内に投資機会は豊富にあるが、貯蓄が足りないという状態になる。そんな時は海外からの資金流入に頼ることこそ が長期的な発展をもたらすことになる。常に経常収支を均衡させようとすることは、個人のレベルで言えば、一生借金はしないということと同じなのである。
つまり、いずれかの段階で経常収支が赤字になること自体は自然であり、特に是正すべき問題ではない。むしろ、「そうなることこそが日本人が最も幸せにな る道」なのだ。多くのエコノミストはそう考え、私もそう考えてきた。しかし、「実際に赤字になったら、そうはいっても相当な騒ぎになるだろうな」とは私も 思っていた。しかし、それは本稿で繰り返し述べてきたような一般の誤解に基づくものだと考えてきたのである。
経常収支赤字化論のニュー・バージョン
ところが、震災後ニュー・バージョンが現われた。この議論は、次のようなものである。震災後、日本の貿易収支は赤字となった。この貿易収支の赤字は今後 も継続する。当然、サービス収支も赤字だから、貿易・サービス収支は大幅赤字が続く。当面は所得収支の黒字が大きいので経常収支は黒字を維持するが、前述 の「逆雪だるま式」のメカニズムが作用して、近い将来経常収支も赤字になるというものである。
最近、こうした説を唱えるエコノミストは多い。野口悠紀雄氏は、今後年間3〜6兆円の貿易収支赤字が継続するとしている(「貿易赤字の定着という経済構 造の大変化」、ダイヤモンド・オンライン、2011年6月2日)。JPモルガンの菅野雅明氏は、貿易収支の赤字化により2014〜2015年頃には経常収 支も赤字化するとしている(「日本は3〜4年後経常赤字にインフレと大不況が来る」、エコノミスト、2011年6月7日)。さらに、日本経済研究センター も、6月14日に発表した改訂中期経済予測で、今後、貿易・サービス収支の赤字が恒常化し、2017年度から経常収支は赤字に転じるとしている。
こうして貿易収支の赤字が継続する理由としては、次のような点が指摘されている。
第1は、震災によって落ち込んだ輸出が震災前のレベルには戻らないことだ。震災によって生じたサプライチェーンの寸断が元には戻らない可能性があるし、今後電力の制約が強まることが輸出のための生産活動を制約する可能性もあるからだ。
第2は、日本企業の生産拠点が海外に移ることである。これはいわゆる「空洞化」として大いに懸念されていることだが、震災後、日本での生産には災害リスクが大きく、サプライチェーン構造も脆弱であることが認識されたことから、製造業の海外移転が加速する可能性がある。
第3は、原子力発電に頼れなくなり、石油、LNG(液化天然ガス)などの輸入が増えることだ。日本が輸入量を増やせば、価格も上昇するかもしれない。その場合は輸入金額はさらに増加することになる。
ただし、前々回の本欄で述べたように、私自身は、日本の輸出力の回復は相当早いと考えており、貿易収支の赤字も一時的なものではないかと考えている。いずれにせよ将来の話なので不確実性が大きく、前述のような経常収支赤字シナリオが実現する可能性があることは間違いない。
経常収支赤字と財政のファイナンス
では、仮に上記のようなニュー・バージョンの経常収支赤字化シナリオが現実のものとなった場合、何か問題があるのだろうか。このコラムでは何度も、経常 収支の赤字そのものは大きな問題ではないと説明してきた。そうであれば、気にする必要はないではないか。しかし、そうもいかないのである。財政のファイナ スという点で次のようなことが懸念材料となるからだ。
前述のように、経常収支黒字は国内の資金余剰を、赤字は資金不足を意味する。つまり、経常収支が赤字になった場合は、国内の資金需要の一部は海外からの 資金流入によって賄われなければならない。現時点で日本における最大の資金需要者は「国」である。財政赤字が巨額に達しているため、大規模な国債発行によ る資金調達を余儀なくされているからだ。つまり、国内が資金不足になれば、国債も海外の投資家に引き受けてもらう必要性が高まるということだ。これは日本 の国債をめぐる環境が大きく変化することを意味する。
これまで日本の国債の大部分は国内で消化されており、この点がギリシャのような国と違う点だと言われ、これが国債についての安心感につながっていた。で は、超低金利の国債が日本国内で安定的に消化されてきたのはなぜか。それは銀行をはじめとする機関投資家にとって他に有効な投資先がなかったからだ。貸し 手が見つからないので仕方がなく国債を買っていたのである。
ところが、経常収支が赤字になると、海外の投資家に国債を引き受けてもらう必要性が出てくる。すると、日本の財政の維持可能性を海外の投資家がどう評価 するかがポイントになってくる。仮に、海外の投資家は、日本の投資家ほどには日本の国債を信頼していないとすると(これはあり得ることである)、金利を高 くしないと引き受けてもらえなくなる。
もちろん、海外に頼る分は国債全体の中で限界的な部分である。しかし、価格は限界的な部分で決まるのだ。金利が上がると国債の価格が下がるから、大量に 国債を保有している日本の金融機関は、巨額の評価損を抱え込むことになる。日本の金融機関は、愛国心に基づいて国債を保有しているわけではないから、国債 が値崩れしそうな場合は、早めに売却しようとするだろう。現に、日本の大手銀行では、満期の短い国債だけを保有しているという話も出ている。日本の機関投 資家が同じように考えると、全員が国債を売ろうとするから、国債価格は暴落し、金利は急騰することになる。これが、経常収支赤字が財政を破綻させるという シナリオである。
通常の場合であれば経常収支の赤字化を気にする必要はない。しかし、現時点の日本経済のように財政の持続性に大きな不安がある場合は、経常収支の赤字化が、国債を取り巻く大きな環境変化と認識され、結果的に国債を巡る状況を大きく変化させる可能性がある。
ただし、だからと言って経常収支の赤字を避けるべきだということにはならない。経常収支が赤字になっても困らないよう、財政の健全化を急ぎ、市場の信認 を損なわないようにすることが必要なのである。この場合は、「国際収支は経済を映す鏡である」というよりは「国際収支は経済に潜む問題の解決を迫る警告灯 である」と言うべきかもしれない。
小峰隆夫のワンクラス上の日本経済論
「ワンクラス上」というタイトルは、少し高飛車なもの言いに聞こえるかもしれません。でもこのタイトルにはこんな著者の思いが込められています。 「タイトルの『ワンクラス上』は、私がワンクラス上だという意味ではありません。世の中には経済の入門書がたくさんあり、ネットを調べれば、入門段階の情 報を簡単に入手することができます。それはそれで大切だと思います。しかし、経済は『あと一歩踏み込んで考えれば新しい風景が見えてくる』ということが多 く、『その一歩はそんなに難しくはない』というのが私の考えなのです。常識的・表面的な知識に満足せず、もう一歩考えを進めてみたい。それがこの連載の狙 いであり、私自身がその一歩を踏み出すつもりで書いていきたいと思っています。コメントも歓迎です。どうかよろしくお願いいたします」。日本経済、そして 自分自身の視点を「ワンクラス上」にするための経済コラムです。
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小峰 隆夫(こみね・たかお)
法政大学大学院政策創造研究科教授。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。著書に『日本経済の構造変動』、『超長期予測 老いるアジア』『女性が変える日本経済』、『最新日本経済入門(第3版)』、『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』、『政権交代の経済学』、『人口負荷社会』ほか多数。
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