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Q:日本経済の衰退を示す指標、数値とは?
http://www.asyura2.com/11/hasan72/msg/436.html
投稿者 sci 日時 2011 年 7 月 18 日 11:35:02: 6WQSToHgoAVCQ
 

Q:日本経済の衰退を示す指標、数値とは?

今回の質問【Q:1220】

「衰退」という言葉をわたしもよく使うようになりました。実際に日本がゆっくりと
衰退しているのか、曖昧な「印象」で判断してはいけないとわかっているのですが、
わたし自身も含め、つい性急に結論づけようとする傾向があるようです。Q:121
9の回答の中で、土居さんは衰退の目安の一つに「失業率」を挙げていました。日本
経済の衰退を如実に示す指標、数値とはどのようなものでしょうか。また、それらの
指標、数値がどういった変化と値を示せば、衰退が明らかとなるのでしょうか。

                                  村上龍
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   ◇回答

    □土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授
    □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
  □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
    □中空麻奈  :BNPパリバ証券クレジット調査部長
    □三ツ谷誠  :評論家・IRコンサルタント
    □津田栄   :経済評論家
 □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授


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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授

「衰退」は、現在の状況をあるものと比較することで認識されるものだと考えます。
それは、現在の日本を過去の日本と比較する形で認識されることもあるでしょうし、
日本の現状を諸外国と比較する形で、つまり現在の日本が世界経済で占めている地位
を過去の日本が世界経済で占めていた地位と比較する形で認識されることもあるでし
ょう。そして、現在の日本が比較対象に比べて劣っていてその傾向が今後も続くと認
識されれば、「衰退」と認識されると考えます。

 前者の、現在の日本を過去の日本と比較する形で認識されるものとしては、人口減
少、少子高齢化により、日本経済はかつてのような経済成長が容易に実現しないこと
から、「衰退」と認識されると考えられます。私がQ:1219の回答で指摘した失
業率も、かつて2%台だったのが、現在では5%台でもはや今後4%を下回ることは
ないような状況にあり、それだけ職に就けない人(割合)が増えていて、「衰退」と
の認識の一端を表す指標といえるでしょう。

 後者の、現在の日本が世界経済で占めている地位を過去の日本が世界経済で占めて
いた地位と比較する形で認識されるものとしては、GDPが中国に追い越され世界第
3位になるとか、1人当たりGDPの順位が低下しているとか、国際競争力ランキン
グで趨勢的に順位が低下しているなど、といった"Japan as No.1"と呼ばれていたか
つての日本に比べて国際的に見て地位が低下していることから、「衰退」と認識され
ると考えられます。

 ただ、このように認識されたとしても、1人当たりGDPは、途上国や新興国より
も高く、極言すれば、高成長で勢いのある中国に比べても日本の方が高いわけですか
ら、過去と現在を比較するだけで今の生活水準を捉えて「衰退」というには片面的だ
ともいえるでしょう。

 そういう意味では、前者の比較と後者の比較の両方、つまり、過去の日本と比べて
も、諸外国と比べても、現在の日本が劣っている、さらにはその傾向が今後も続く、
という現象が観察されれば、「衰退」という現象が頑健に認識されるでしょう。この
見方に立てば、1人当たりGDPが伸び悩み、先進国のみにあらず新興国、途上国が
どんどん日本の1人当たりGDPの水準に近づいたり追い越したりする、といった現
象は、「衰退」に該当するでしょう。また、失業率で見れば、その水準がかつての日
本よりも高くなるだけでなく、同時期の諸外国に比べても高い(例えば8〜10%を
超える)状況になるということでも、「衰退」と認識されるでしょう。

 こうしたことにならないようにするには、日本において生産性を向上させる取り組
みが引き続き不可欠であり、過去の日本だけでなく、諸外国にも負けないような努力
が求められます。

                     慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
                 < http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ >

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 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 高校生だった頃に、文系志望のませた友人から「東京がゴジラの出現で破壊された
とすると、日本の経済は衰退するのか、逆に成長が促進されるのか」と設問を投げ掛
けられて非常に困惑した思い出があります。

 今思えば、友人は「日本経済の成長・衰退」はGDPで測られること、そして、G
DPで測られる経済成長では、破壊からの復興による活動経済の増加が考慮される一
方で、多くの被災者の発生やインフラの破壊によってもたらされる損失は考慮されな
いこと、を的確に指摘していました。(当時の私には理解できませんでした。)

 当時は「経済成長=GDPの増加」の視点に今よりも異論は少なかったと思います
が、友人が意図して引き起こした「困惑」が示すように、当時でもその視点が全く無
批判に受け入れられていたわけではなかったのでしょう。

 実際、私達の幸福と経済成長がどのように結びついているのか、また、幸福にさせ
る要因は何なのか、という観点での経済学の研究も数多く見ることができます。例え
ば、人間開発指標は、一般にはGDPに加え平均余命、乳児死亡率、識字率、カロ
リー摂取量などを考慮して算出されます。国連年次報告での人間開発指標によれば日
本は1993年に1位となって以降、2010年現在は11位と国別順位では低落傾向にありま
す。

 一方、人間開発指標そのものは多くの国・地域で長期的にGDP成長率を上回る改
善を示す調査結果が多いようです。これは一般に考えられる以上に、単純にGDPで
測られる経済成長が厚生に寄与していることを示しているものと考えられます。その
ため、政治的には幅広い立場から、最小不幸社会の実現を掲げる功利主義者まで含め
て、GDPで測られる経済成長を目標と掲げることに同意できることを示していま
す。

 その意味では、一方で経済そのものの究極の目的をめぐる多様な価値観があり、他
方で指標としてのテクニカルな問題点も多くある中で、経済を評価する指標としてG
DPが大きな位置付けを占めることは事実でしょう。ただし、GDPがフローのみを
認識し、ストックの視点を十分に反映していないのと同様に、経済の持つ負債の側面
=例えば地球環境負荷や資源の問題などを無視していることは非常に不都合な欠陥と
いえます。

 その中で、「失業率」は非常に示唆に富む指標です。経済成長を裏付ける要因とし
て捉えた場合、特に様々な経済発展段階にある多くの国を対象に関連を調べた場合な
どは、直観的には明確な相関関係を示さないのではないかと推測します。それは、高
成長にある新興国などでの多くでは構造的に高い失業率を示す国が多く見られるため
です。背景としては、経済発展に伴い雇用需要が拡大する高度な知識・技能を持った
労働者の不足といったミスマッチの要因、あるいはインフォーマル・セクターでの雇
用などの統計的な要因なども指摘されますが、一方で安価な労働力供給の豊富さとい
う成長要因としても捉えられます。

 他方で、先進国では高失業率は高い社会保障水準と組み合わされていることも多く、
労働インセンティブや社会的モラルの低下などの問題を通じて、成長阻害要因の存在
を示すものと捉えられます。ただし、北欧諸国のように、失業補償や職業訓練などの
社会保障の完備の一方、競争力維持のため企業の解雇制限を緩和するなど、労働市場
の流動性を維持する選択をした社会などでは、失業率自体が必ずしも社会の活力低下
と捉えられないケースも指摘できるでしょう。

 日本では、失業率を抑え雇用を維持することが、セーフティネットの整備よりも強
く要請されており、低い失業率そのものが重要な国民の幸福度の指標であり、政策の
目的として強く意識されていように思われます。もちろん、各国の政府も雇用拡大と
失業率低下を重要な政策目標として掲げますが、日本の場合には、雇用維持のために
は経済の効率性の低下=企業負担の増加・競争力の低下も止むなし、というバイアス
が強いことが特徴のように思われます。要は、国民としての選択が、それぞれの指標
に対してどのような目的や意義を与えるかを決定する、ということではないでしょう
か。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎


 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 経済的に衰退を、時間の経過とともに貧しくなっていくことと捕らえると、親から
子供に世代が受け継がれるに連れ、消費水準が低下し、持っている資産の量が減って
いくといったことにを示すのだと思います。親が受けた教育を子供の世代は受けられ
ないだとか、親が持っていた車を子供は維持できない、住宅水準が維持できないなど
の様々な兆候が観察されることでしょう。衰退の過程を捕らえるには、いろいろな切
り口があるでしょうが、皆が等しく豊かであった時代から格差が広がり下層のほうか
ら絶対的な富や消費水準が低下していく過程と捉えることが可能ではないでしょうか。

 7/12に厚生労働省が、2009年での貧困率(貧困レベル以下の人口比率)を
16.0%と発表しています。前回調査の2006年の15.7%から0.3%悪化
していますが、一億層中流の時代だった85年に統計を取り始めてから、ずっと悪化
し続けているのがみて取れますので、すこしづつ中流層が崩壊していっているという
仮説が成り立つように思われます。

 親の世代より子供の世代が貧しくなり、社会的な安定感・満足感の源泉である中流
層の厚みが失われているとしたら、経済的に衰退しているという言葉で表現するのが
ふさわしいでしょう。特に、上記の貧困率のデータで気になるのが、子供(17歳以
下)の貧困率が2006年の14.2%から2009年の15.7%と全体以上のス
ピードで上がっており、相対的な貧困層で育てられる割合が増えていることでしょう。
所得の獲得能力の維持ということでは、受ける教育水準は重要なファクターになって
きますので、この傾向が続けば次の世代の教育投資という面では大いに懸念されるこ
とになってきます。

 このまま貧困率が上昇傾向を続け、今後一人当たりのGDPが低下傾向を強めたら、
中流崩壊による衰退という仮説を否定するのは難しくなるのではないでしょうか。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長

 衰退──勢いが衰えること──ですが、日本が衰退しているというイメージそのも
のが反映された指標を見つけるのは、簡単ではありません。軸を決めて、その軸にお
いては衰退しているという指標は見つけられるでしょうが、全体で見れば、必ずしも
衰退とはいえない、ということはいくらでも出てくるからです。極端な話をすれば、
人の一生を考えて見ても、幼児期→青年期→壮年期→高齢期と変遷するわけです。労
働力や消費動向という観点から言えば、青年期から壮年期でピークを迎え、高齢期は
“衰退”しています。しかし、高齢期でないと提供できない知恵や技術など高齢期に
ピークを迎える例もありますから、杓子定規な意見が一面的で危険な議論であること
はすぐにわかります。しかし、衰退産業などといった言葉があるように、衰退する場
合には何らかの軸が落ち込みを見せているのだ、ということは明らかでしょう。それ
を整理してみようと思います。

 産業という場合をもっとも単純に考えれば、衰退は売上高に反映している気がしま
す。売り上げが伸びている間は“成長期”ですが、それがスローダウンして“成熟
期”、凋落が始まって“衰退”ということになります。さらには、新卒採用数という
のも一つの例としては注目してもいいかもしれません。たとえば、日立製作所は19
91年には1365名の新卒採用がありましたが、2008年には850名となって
いますし、東芝は同1400名→750名、ソニーは同1000名→500名です。
しかしながら、もちろん、新卒採用にはバブル景気など背景にした景況感に負うとこ
ろが大きく、必ずしも企業の衰退を示しているとは言い切れません。もし、この仮説
が正しければ、日立も東芝もソニーも衰退産業に入ってしまいますが、それは正しく
ありません。とはいえ、こうした採用数は売上高を反映しているはずですし、今後売
上高が伸びるような場合には採用は増えていくはずなので、一面的な指標としては見
ていいのではないでしょうか。また、就職などの人気ランキング調査などは、栄枯盛
衰の様子が映し出されると思います(ただし、人気ランキングは、学生が、世の中の
評判やイメージを聞きつけた結果、上下しますので、遅行指標的だとは思われます
が)。

 では、地方都市の場合はどうでしょうか。衰退した地方都市のイメージは、やはり、
人口減少、過疎化・高齢化の進展、結果として、財政赤字の増加、需要の低迷(シャ
ッター通りの出現)ということでしょう。そう考えれば、人口減少というのは一つの
衰退のきっかけを決定的にするような気がします。たとえば、和歌山市は1995年
39.4万人の人口がありましたが、2010年36万人、2015年には33.8
万人(予想)だそうです。大企業の工場が海外に移転してしまったとか、そもそもの
理由は様々でしょうが、地方都市の場合には衰退は、人口が減ることから始まると考
えていいのではないかと思われます。

 では、国の場合はどうなのでしょうか。英エコノミスト誌には、衰退の三つの理由
として、次が掲げられていました。1)労働力人口の減少、2)引退世代に対する現
役世代の減少、3)高齢化と人口減少による需要の減退、です。地方都市の衰退のイ
メージと重なるものがあります。ちなみに、労働力人口で見ると、日本は2001年
に6752万人だったものが、2010年には6720万人、2015年には660
0万人、2025年には6300万人(労働力調査)となるので、衰退が始まってい
るということになるでしょう。

 国の豊かさという観点では、GDPの成長率や一人当たりGDPなども無視できま
せんし、貿易赤字は特定のセクターの栄枯盛衰を示す上では重要な指標になり得ると
考えます。ただし、よくある議論として、国の豊かさは生産性や富だけでは測れない
ということから、余暇の充実などを含めて考えられるようになってきました。トータ
ルで見たときの幸せというものは、国が豊かになることでは一定量までしか測れない
であろうというのが趣旨と考えられます。結局、衰退を示すとき、労働力人口の減少
などは一つの重要な指標になると考えるものの、それは、ある一部の衰退を示すもの
に過ぎないということを見落とさないようにしたいものです。

                 BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈

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 ■ 三ツ谷誠  :評論家・IRコンサルタント

「指標としての株価」

 近代以前と近代以降を分かつ最大の要素は「株式会社の存在」ではないかと思いま
す。

 株式会社の誕生によって、人々を何らかの目的に向けて組織し運動させる秩序形成
の軸が、「互酬」=共同体の論理や「再分配」=国家の論理から、「交換」=市場の
論理へと移行し、それが静謐で冷たい固体のような世界を、熱く激しい気体のような
世界へと変えていった、それが人類の歴史の一つの解釈ではないでしょうか。

 ただ、勿論、それは「互酬」が乗り越えられ「再分配」の世界が現出するというよ
うなものではなく、「交換」の世界にも「互酬」の世界が積み重なっている、織り込
まれている、溶け込んでいる、そういったものです。問題は、それらの形態の中で何
が秩序形成の主軸となっているのか、であり、近代以降、特に<帝国>的な世界であ
る現代を支配するものは「交換」=市場の論理であり、財やサービスの生産主体が国
家意思そのものではなく、分権的・分散的な株式会社に置き換わっている、そこが重
要な点でしょう。

 特に王たちの世界であった中世が、絶対王政に切り替わる動きを見ても、株式会社
はその存在と繁栄の前提として国家の法、場合によっては国家の保護が必要なのであ
り、株式会社の成長によって<帝国>が現出しつつある現代においてもなお、近代国
民国家と株式会社は切っても切り離せない関係にあると考えられます。

 それに徴税権も労働力の強制的な徴収権も持たず、全てを「交換」に委ねる株式会
社にとって、全ての前提は貨幣交換になりますが、その貨幣こそが共同体的な互酬の
論理や、何よりも王権が象徴する暴力の表象であり(古代にマジカルなものの表象で
もあるでしょう)、その意味でも国家と株式会社は不即不離な関係にあると理解され
るでしょう。

 前置きがやや(いやくどいほど)長くなりましたが、このような文脈で考えれば、
国家の盛衰を近代以降の世界においてもっとも指標性を持って映し出すものは、端的
にその国の代表的な株式市場における株価の動向であると考える事ができるのではな
いでしょうか。

 ダウでも、日経平均でもTOPIXでも構いませんが、やはりそれはその国の盛衰
の分かりやすい指標として機能していると思います。

 勿論、株価はどう言い募っても最後にはその市場に参加する人々の期待そのもの、
心理そのものを映し出す鏡でもあって、合理的な意味での相互比較には難しさが伴い
ますが、盛衰を考える場合、そのような期待も実は大きな意味、実質的な意味を持つ
ものだと思いますので、やはりその意味でも株価は、その国の盛衰を表しているよう
な気がします。

 盛衰の見方については、当然、上がり基調にある時期はその国も上り調子、下げ基
調にある時期はその国も下がり調子、或る価格の範囲で揉み合っている、ボックス相
場にある、そんな時期はその国も停滞している、そんな話ではないかと思います。

 また、本当に重要なのは、単なる上げ下げだけではなく、新規上場の社数や産業の
深さや広さなども含んだその他の要素も呑み込んだ指標「時価総額の増減」、そこを
確り見る事だと思います。

 更にその指標性を高めるためには、円ではなく基軸通貨であるドルベースでの株価
の増減、時価総額の増減、それを確認するのが重要になるでしょう。

 以上、纏めれば、今回の設問に対する回答は、「ドルベースに引き直したその国を
代表する市場の株式時価総額の増減」となります。我が国においては「東京証券取引
所の時価総額の増減」という事です。

 ただ、加速する<帝国>的な現実は、巨大合併を通じて「その国を代表する市場」
という概念自体を掘り崩す方向に向かっているので、あくまでも現時点での目安とい
う話ではありますが。

                    評論家・IRコンサルタント:三ツ谷誠

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 多くの国民は、日本経済が衰退しているのではないかと、漠然と捉えているのでは
ないでしょうか。それは、国税庁が発表する民間給与実態統計調査にも示されていま
すが、多くのサラリーマンはここ十年近く給与が下がり続けていることを身をもって
実感しているからです。しかも、全体の1/3を占める契約・派遣社員、アルバイト
・パートなどの非正規雇用者が低所得に甘んじています。また自営業者も、売り上げ
の減少に直面し、所得を減らしているはずです。そう考えると、多くの国民は、成長
よりも衰退を感じているのではないでしょうか。

 とはいっても、そうした国民の感覚は主観的で、質問のように日本経済の衰退を如
実に示す指標とはいえません。ただ、日本経済が衰退といえるかどうかは判断が分か
れるのですが、GDP(国内総生産)は一つの目安とすることができましょう。GD
Pは、国内で新たに生産されたモノやサービスの付加価値がいかほどかを示すもので、
海外で日本企業が生産するモノやサービスを含みませんから、純粋に国内での生産活
動を示すものといえ、国内の景気の物差し、体温計といえます。

 もちろん、物価の変動の影響を取り除いた実質GDPが本来の国内の経済活動を示
すといいますが、ここ10年以上もデフレ状況にあって、国民の感覚からは物価変動
が影響している名目GDPが日本経済を表しているといえましょう。というのも、バ
ブル崩壊をきっかけに日本経済が変調を示しはじめたものの、物価が低いながらも少
しは上昇してディスインフレ状態にあるなかで、97年までは名目GDPも実質GD
Pもプラス成長していて、国民は低いながらも成長していると感じていたからだとい
えます。

 しかし翌98年から物価下落が始まり、持続的な物価下落であるデフレ状況が続く
と、実質GDPがプラス成長でも、名目GDPが伸び悩むかマイナスとなる中では、
日本経済は物価下落により作られた成長であって、国民の実感には合わない、冷えた
なかでの成長ともいえます。そのデフレの要因の一端は、経済のグローバル化により
生産基地化した中国を中心とする新興国などからの廉価品の流入にあり、その結果、
国内企業が生き残りのためにリストラによる賃金カットや解雇、低賃金の非正規雇用
へのシフト、海外への工場の移転などを行い、それが失業率の上昇に表れ、また先の
民間給与実態統計調査にも表れているように、97年をピークに所得の減少が続き、
そのことがGDPの6割を占める個人消費の伸び悩みに反映され、最終的に名目GD
Pの伸び悩みにつながっています。

 そして、個人消費、ひいては名目GDPの伸び悩みの要因といえる雇用者の所得減
少が、生活保護世帯数および生活保護受給者数の増加につながっているといえます。
それは97年まで大きな変化が見られなかったのに、98年からは年々増加し続けて
いることに表れ、2011年3月現在146万世帯、200万人超と最悪を記録して
います。また、全国民の年間可処分所得を少ないほうから並べて中央値の金額(09
年224万円)の半分(同112万円)に満たない割合を示す相対的貧困率が年々悪
化、2010年には16.0%と統計開始以来最悪を記録し、経済的苦境が拡大して
いることが垣間見えます。そして、そうした人たちが増えていく状況が経済の疲弊、
衰退の兆候を示しているといえましょう。

 また、民間給与実態統計調査にも出ていますが、雇用者の所得減少の一方で、所得
格差が拡大しており、中間所得者層が少数の高所得者層と多数の低所得者層に二極化
し、中間所得者層が没落しつつあります。そして、こうしたことが今後も続くという
ことになれば、社会全体が支え切れなくなって、犯罪の凶悪化や無差別化など社会不
安が増大してきます。しかも、今回の東日本大震災は、こうした流れを加速する恐れ
があります。それを抑制するのが政府であるはずですが、今や政府が信頼できる存在
ではなくなってきています。これまで歴史が示していますが、経済が疲弊し、衰退す
るのは、まず中産階級の崩壊が起き、政府への信用が揺らぎ始めた時です。そう考え
ると、今の日本経済がその分かれ目に来ているといえましょう。

 したがって、日本経済を見ていくには、こうしたデフレが続く限り、名目GDPを
見ていったほうがいいでしょう。そして、名目GDPが成長、もしくは停滞・衰退の
目安といえましょう。つまり、それが今後回復してくれば成長し、横ばい、もしくは
減少してくれば停滞もしくは衰退していくといえましょう。それは、最終的に個人消
費に反映されますが、それを裏付ける民間給与実態統計調査などにおける雇用者の所
得状況、失業率、生活保護受給状況、相対的貧困率などの統計の変化、それも一時的
ではなく趨勢的な変化として注視していくことが、日本経済の成長か衰退かを見極め
ることになるのではないでしょうか。

 最後に、経済のグローバル化に合わせた経済構造の改革を怠ってきたことが今の日
本経済の苦境を生みだしているといえましょう。そして、前にも書きましたが、小泉
改革といわれながら、依然として過去の輸出主導型の成功モデルで回復してきたとき
に、本格的な改革をして経済構造を変えなければ、次に来る大きな波には対応しきれ
なくなると言ってきましたが、まさに今そうした状況にあるといえましょう。

 経済のグローバル化以前は、国と企業と国民は一体であり、企業の発展が国民の所
得増、国の成長につながっていましたから、企業の成長を見ていればよかったといえ
ます。しかし、今は国・国民と企業との間は一体ではありません。というのも、経済
のグローバル化により、資本の移動は自由になり、企業は国を選択して、自分に有利
な国へ出ていくことができるようになりましたが、国民はそんな簡単に国を変えるこ
とができないからです。

 そう考えると、国の経済が成長していくには、国に縛られる国民の所得が増え、消
費が伸びていくことが必要であり、そのためには経済構造を常に世界の流れに沿って
変革し、資本、企業が国に留まるようにすることが求められます。それができなけれ
ば、いずれ資本が逃げ、企業が出ていくか、つぶれて、国は衰退していくことになり
ます。今の日本は、そうした改革をせず、デフレ状況を放置したままにあり、資本の
流出、企業の海外移転につながろうとしています。そのことが、日本経済の体力を奪
う一方、国民はそのしわ寄せを押し付けられ、経済的に落ちていく感覚に襲われてい
るのではないでしょうか。

 もう一つ、先日アメリカメディア関係者と話をして思ったことですが、アメリカも
今日本が経験してきた失われた10年あるいは20年という低成長をたどろうとして
いるのではないか、そして日本と同じように中産階級の没落、地方の衰退などにより
アメリカ経済も衰退に向かうのではないかということです。今アメリカでスクリュー
フレーション(screwflation)という言葉がはやっています。それは、中産階級の貧
困化(screwing)とインフレ(inflation)が重なっていることからの造語です。

 もちろん、アメリカは、デフレではありませんから、様相は日本と少し違う面があ
りますが、それは、日本が最悪と言われる財政赤字を抱えながら国債を国内資金で消
化している一方、基軸通貨ドルという信用を利用して半分近くの国債を海外に販売し
て資金を調達しているアメリカとでは、通貨の評価が違うからかもしれません。その
点で、今のアメリカのインフレ気味は、ドルの下落が要因に挙げられるかもしれませ
ん。ただ、片方で、新興国の需要増大によりエネルギーや原材料、農産物などの価格
上昇が続き、世界的なインフレの流れが起きています。

 一方、今アメリカでは金融・経済危機のきっかけとなった住宅価格の下落が一向に
緩和するような動きにはならず、バブル崩壊の根本的な問題解決には至っていません。
そうした中で経済のグローバル化により、日本が味わったようにアメリカ国内の雇用
改善の足取りは鈍く、しかも長期的な失業者が全体の半分以上を占める状況にあって、
中産階級は、ごく一部の高所得者層になる以外は所得を減らして低所得者層へ転落す
るものが増えて、貧困化しつつあります。

 中産階級の没落はまさに日本に似た状況にあって、こうした状況では、新興国によ
り世界経済が堅調ななかで自国経済が伸び悩み、それを改善しようとする新たな金融
・経済政策を行っても十分効果が発揮できていません。すなわち、そうした政策に
よっても、資本の自由化で海外へ投資されて企業が成長し、株や資源の価格が上昇す
るだけで、雇用改善につながらず、物価が上がるだけで、中産階級を救うことができ
ていないからです。それが高水準の失業率に表れています。

 そして、日本が経験しているように、その中産階級の貧困化が、アメリカの地方の
疲弊と没落につながって経済をボディブロウのようにダメージを与えつつあります。
そう考えると、アメリカも日本と同様に経済の衰退の瀬戸際にあるといえましょう。
しかも、そこを抜けるには、国内に残れるように企業の競争力を高める構造改革と通
貨や財政の政策おける信頼性の回復などが必要なのですが、そこまで至っていないの
が実情ではないでしょうか。

                             経済評論家:津田栄


 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 確かに、私たちは"衰退"という言葉を、明確な定義なしに使ってきたと思います。
その背景には、1980年代、わが国が"世界の工場"の地位にあったことが、とても
強い印象として残っていることがあるのでしょう。既に、"世界の工場"の地位は中国
に移ってしまいました。労働力が豊富で相対的に安価な中国は、かつてわが国で行っ
ていたアセンブリー(組立型の製造業)を中心に活発な経済活動を行っています。

 また、韓国や台湾なども中国同様に経済活動を活発化し、わが国の製造業中心の産
業を脅かす存在として成長しています。特にIT関連の製品や自動車などについては、
わが国は、これらの諸国に急速に追い上げられており、多くの分野で、かつての競争
力を維持することが難しくなっています。そうした状況を目の当たりにすると、どう
しても"衰退"という言葉を使いたくなってしまいます。

 ただ、一方、アセンブリー中心であったわが国の企業は、主要な素材や部材、さら
には部品などの分野で、依然として、世界の主要な地位を占めている分野もあります。
今年3月の大震災によって、わが国の製造業は大きな痛手を受けました。それに伴い、
自動車部品などいくつかの分野でサプライチェーンが寸断されました。わが国のサプ
ライチェーンが寸断されたことによって影響を受けたのは、わが国企業だけではあり
ませんでした。

 とくに自動車に使われるマイコンと呼ばれる部品については、特定の分野でわが国
企業が高いシェアを持っていたこともあり、世界的に生産活動にマイナスの影響が出
ました。他にも、ICチップの基盤材のような主要部材についても、わが国の企業が
高いシェアを持っていたため、その影響は世界的に広がったようです。

 それについて、米国のある雑誌は、震災の発生によって、わが国企業が主要素材や
部材などの分野で、いかに重要なポジションを占めていたかが再確認されたという特
集記事を掲載していました。ということは、日本企業の経営戦略として、相対的に高
い人件費によって競争力を失ったアセンブリーの分野から、高い技術力を生かせる素
材や部材などの分野にターゲットをシフトしたとも考えられます。

 その証拠として、震災の前まで、わが国は着実に貿易収支の黒字を稼いできたこと
からもわかります。ということは、IT製品に韓国製が多くなったから、あるいは、
衣料品がミャンマーやバングラデッシュから輸入されているからと言って、直ぐに、
わが国経済が衰退していると結論することは難しいと思います。

 経済が衰退しているか否かの基準は、やはりGDPが主要なメルクマールになるの
ではないかと思います。というのは、GDPは、その国でどれだけの付加価値=儲け
を生み出したかを示す指標であるため、当該国の経済が成長しているのか、あるいは
衰退を辿っているのかを端的に表す指標と考えられるからです。ただ、GDPという
場合、物価変動を考えない名目ベースの方が、私たちの実感に近いと思います。私た
ちの感覚に近づけるのであれば、実質ベースではなく、名目ベースの方が適切かもし
れません。

 GDPが増加傾向を辿るということは、企業が相応の競争力を持ち、国全体の儲け
=付加価値を勝ち取っているということがいえるはずです。GDPが増加すると、基
本的に私たちのお給料も増えることになりますから、生活水準を高めることもできる
ことになります。

 逆に、GDPが減少するということは、国全体で生み出す付加価値が減少するわけ
ですから、一般的に、企業収益や私たちのお給料が減ることが想定されます。長期間、
そうした状況が続くと、生活水準を落とす必要も出てきます。このような状態は、ま
さに国の経済力が衰退する、一つのプロセスと考えられます。
 
                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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コメント
 
01. 2011年7月18日 15:11:05: 3Sz5bSNGFo
sci=幸福の科学=日経筋??

02. 2011年7月18日 16:21:15: 2uOv2R3MRs
日経平均みればタコでもわかるのに評論家ってアホなの?

それとも日銀がアホでスカポンタンだからこうなってるってはっきりと言えないからなの?


03. 2011年7月18日 18:38:15: BSZLL2M15c
この7人の顔ぶれ・・・脳足らずばっかり。

バカ達じゃない


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