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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層
【第30回】 2011年7月13日
熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト],森田京平 [バークレイズ・キャピタル証券 ディレクター/チーフエコノミスト],島本幸治 [BNPパリバ証券東京支店投資調査本部長/チーフストラテジスト],高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト]
生き残っていく職業は何ですか?少子高齢化になって増える「技能職」
スキルを身につけても労働生産性が高まらない、厳しい労働市場
――熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
平成22年の「国勢調査」(総務省)の詳細データを調べると、意外な働き方の素顔が見えてくる。特徴は、ここ数年、技能職の労働者数が増え ていることだ(図表1参照)。人口減によって就業人口も細っていく中で、非正規化や新卒採用抑制によって、日本の勤労者のスキルが低下していくのではない かと危惧していたが、必ずしもそうではない。
データを確認すると、就業者の総数は1995年の6418万人がピークで、2010年は5829万人と減っている(ピーク比▲589万人減、▲9.2%減)。2010年の水準は1985年を下回っている。
職種別には、農林漁業、生産工程・労務作業者、管理的従事者、運輸・通信作業者が減少。反対に、専門的・技術的職業従事者、サービス職業従事者が年々増加している。
専門的・技術的職業従事者、すなわち技能労働の職業区分の内訳を見てみると、SE(システムエンジニア、情報処理技術者)、看護師、保育士など社 会福祉専門職業従事者などの増加が目立つ。背景には、IT化と高齢化が進んでいることがある。医療・福祉に近接した分野では、医師、薬剤師、歯科衛生士が いる(図表2参照)。
ほかにも、弁護士、宗教家、デザイナー、栄養士、スポーツを個人教授する者、俳優・演芸家に教授する者も比率として急増している。「師」や「士」 が付く仕事の増加は、単にIT化・高齢化を反映しているのではなく、働きたいと思う人々が「手に職をつけて食べている仕事」を得たいという動機があるので はないか。
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特定スキルにある時給
少子高齢化と長期不況の中で、なぜ技能職が増えているのか。その理由について、筆者はゼネラリスト(管理職・一般事務職・営業職)の生存能力が低下して、より報酬の高いスペシャリスト志向が強まったという供給サイドの要因があると考える。
労働の変化について、しばしば非正規化が進んだことが指摘されるが、それは労働市場の一部分を描写した変化に過ぎない。
労働市場のもっと広範囲のエリアでは、代替が利きにくい技能職へと就業者が流れていき、ゼネラリストは長期不況色が濃くなるほど就業者が離れて いったという構造変化があると理解できる。働き手の待遇が著しく悪化するのならば、「自分はそうした境遇になりにくいスペシャリストを目指そう」という、 多くの人の思いを反映しているのだろう。
医療・福祉・介護という需要サイドの変化も、ゼネラリスト志向の若者たちがそちらに向かって就職する供給サイドの動機になったということだろう。
では、スペシャリストとして仕事をすることで、どのくらいの待遇格差が生じるのか。あまり厳密ではないことを十分に承知した上で計算してみた。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の職種別129サンプルのデータについて、時間当たり報酬(時給)を、勤続年数・年間総労働時間、そして資格の必要な職種の区分(資格ダミー)を説明変数にして分解する。
すると、時給の高い職種になると、年功(勤続年数)よりも資格によって生じる時給の上積み部分(プレミアム)が大きいことがわかった(図表3参照)。
次のページ>>就業者を技能職へと駆り立てる、世相を反映した「暗黙の了解」
さらに、サンプル中で最も時給が高いパイロット、大学教授、弁護士などでは、「特定の資格に与えられるプレミアム」(※)の時給部分が大きいこともわかった(図表4参照)。しかも、この資格のプレミアムは、過去のデータと比べて、年々そのプレミアムの金額が大きくなっているという特徴もある。
就業者全体に技能職を選択していく傾向が強まっていることは、新しく入職あるいは移動する就業者が、暗黙のうちにこのプレミアムの存在を認知していて、自分の待遇を向上させようと行動している作用であると考えられる。
(※)「特定の資格に与えられるプレミアム」は、単に資格があれば与えられるプレミアムとは別物。ただし、これは有利な特典だけではなく、医師ならば精神的緊張や自分の時間が得られないといったデメリットに与えられる報酬も含まれる。
もうひとつのサービス化
もう一度、総務省「国勢調査」の分析に戻ろう。増加する就業者として、技能労働者に並んで増えているのは、サービス職業従事者である。サービス職 業従事者の内訳では、介護職員(介護士)の増加が目立つ。介護職員の区分は2000年からできた新しいもので、その人数は2000年36万人から2010 年98万人へと増えている。
それ以外には、美容師、調理人(調理師)もやや増加が目立つ。よく見ると、ここでも「師」や「士」が付く仕事が増えている。人数が多い区分として は、調理人に近接して接客・給仕職業従事者(ウエイター・ウエイトレス)も多い。飲食店は、産業別に見て、小売・卸、宿泊などの個人消費周りの従事者が軒 並み減っていくのに対して、唯一増加を続けている。
サービス業従事者の増加は、先の技能労働者の増加と軌を一にする部分もあるが、サービス職業従事者の中には必ずしも高いスキルを要しない者も多く居る。
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たとえば、飲食店の従事者はその7割が非正規労働者と、極端にパート・アルバイトが多い。飲食店の従事者が少なくならない理由は、その性格が労働集約的であり、「減らされにくい仕事」として残存している面もある。
労働集約的な仕事はサービス価格を引き上げないと、付加価値を増やせない性格から、低賃金化しやすい。サービス化は、特定スキルの有無で報酬に差 が出やすい労働環境をつくっていると理解できる。技能職の志向が強まるのは、サービス化とともに報酬に格差が生じることも影響しているのだろう。
減らされていく仕事
90年代から続くデフレ時代は、ホワイトカラーの「冬の時代」でもあった。「国勢調査」では、素直に管理職・事務職・営業職などが減少する傾向が読み取れる。ホワイトカラーは企業収益が悪化して、リストラや組織のスリム化が進んだために削減されてきた。IT化が進んで事務職の仕事が省力化されたり、従来型の営業がインターネット経由にシフトしたという技術的要因と、相まったところもあろう。
世の中に管理職ポストは154万人分(2010年)あるが、その数はピーク時(1995年)の272万人から半分近くに減っている。かつてのゼネラリストは、その論功を管理職への昇進で還元されていた。その年功序列の仕組みは、すでにパイプが極端に細くなっている。
こうした人数ベースの絞り込みは、役職者の報酬の切り下げとも連動している。管理職の時給を2010年から2005年までの推移で調べると、部長から係長まで上位の役職者ほど時給が圧縮されている(図表5参照)。
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そのほか、管理職の内訳に注目すると、管理職公務員が極端に絞り込まれていることも特徴的だ(1995年14.9万人→2010年6.2万人)。それに比べると、民間企業の方がまだマイルドである。
公務員の中では、地方公務員よりも国家公務員の方が激しく人数を絞られている。かつて1990年には13人に1人の割合で管理職になっていた公務 員は、2010年には32人に1人しか管理職になれなくなっている。公務員は、ことあるごとに総人件費がカットされている厳しい職種だ。
最後に
私たちの働き方は、年々厳しさを増している。不況期が来れば待遇が悪化し、回復期になっても待遇は据え置かれて戻りにくい。労働市場では、そうした波風に環境適応するかのように、技能職へと労働移動が進んでいる。
一昔前は、少子高齢化になっても、1人当たりのスキルの蓄積が進んで労働生産性が上昇すれば、日本の豊かさを維持できるという楽観的な議論があっ た。今、確かに技能労働は増えていて、見かけ上はよい方向に進んでいるかに見えるが、良質な仕事を巡る競争は激しくなっている。
なぜ厳しいままなのかを考えると、スキルを身につけても容易に労働生産性が高まらないという事情がある。結局、高齢化の中で高齢者などが、新しいサービスにもっと多くの支出をするビジネスを育てないと、総需要は飛躍しない。
そうした意味で、高齢者が先行きの不確実性を理由に節約志向を高めるバイアスを強める政策誘導は、正反対のことをしているように見える。
質問1 あなたの仕事はスペシャリスト型? それともゼネラリスト型?
描画中...
83.3%
スペシャリスト
16.7%
ゼネラリスト
どちらとも言えない
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