03. 2011年7月06日 21:46:19: Pj82T22SRI
ギリシャの苦悶 我々は一体どうなってしまったのか? 2011.07.06(Wed) The Economist一部のギリシャ人は、麻痺状態に陥り、腐敗した自分の国に腹を立てている。一方で、ただ良き時代を取り戻したいと思っているだけの人もいる。 彼らは警告を受けていた。ギリシャの300人の国会議員が、明らかなマイナス面が多々ある国際的に支持された金融支援計画――例えば、既に税金を払っている不運な企業と市民に痛みを押し付け、それで税金を納めていない企業と市民に補助金を出すことになる――を議論し、最後に承認した時、彼らの耳には、世界に対して「ノー」と言うことで起こり得る結果に関する恐ろしい宣告が鳴り響いていた。 ギリシャ議会、緊縮策可決 デモ隊と警官隊が衝突 緊縮財政案が可決された6月29日、議会の外ではデモ隊が警察と衝突していた〔AFPBB News〕 18人のギリシャ人エコノミストのグループ(ほとんどは母国のキャンパスを台無しにする縁故主義や無秩序状態から逃れた、ギリシャ学界の国外離散者)は、ギリシャが経済的自給自足を選択した場合に起こり得る結果をリストアップしていた。 つまり、ギリシャが債務の返済を停止し、外国の助けを借りて財政と行政の健全化に向けて進むという考えを拒否した場合だ。 そうなれば、公的部門の賃金は急減し、銀行は崩壊し、国は何年も世界の債券市場から締め出されることになる。また、ユーロから離脱すれば、ハイパーインフレを招く恐れがある――。エコノミストらはこう指摘していた。 終末の警告 歯に衣着せぬ発言で知られるセオドロス・パンガロス副首相は、もっと赤裸々な言い方をした。ギリシャが救済してくれようとする人々と決別し、新たなドラクマを発行すれば、国内の銀行はパニック状態の預金者に取り囲まれ、軍隊が秩序を維持しなければならなくなる。「商店は空っぽになり、窓から飛び降りる人も出てくるだろう」。パンガロス氏はスペインの日刊紙エル・ムンドに対してこう語った。 (パンガロス氏は昨年、政界のエリートだけでなくギリシャの一般市民も、この国に雨あられのごとく降り注がれた融資や補助金を浪費した、「我々は一緒になって全部平らげた」と述べ、一部のギリシャ人を怒らせ、その他のギリシャ人を感心させた) こうした忠告は恐ろしいように聞こえるが、ギリシャは6月末、変化を受け入れる用意のある人たちと、変化を極度に恐れるあまり、自分たちの利益に少しでも損害を与える危険を冒すくらいなら家全体を倒壊させるかもしれない人たちとの間で、いまだ微妙なバランスを保っているように見えた。 ギリシャの大手紙イ・カシメリニのアレクシス・パパヘラス編集長は、改革を断固阻止しようとする様々な極左勢力と極端な伝統主義者の勢力を指す「coalition of the unwilling(無志連合)」なる用語を生み出した。 パパヘラス氏が指摘したように、中産階級のギリシャ人が苦労して手に入れた富が水泡に帰すのを目のあたりにしているため、むっとしながらすべての変化に疑念を抱く市民の数は増えていくかもしれない。 一方で、ギリシャには、近代主義者の支持基盤も存在している。すなわち、正常に機能しない司法制度や腐敗した公務員、汚職に対する刑事責任の免責など、相互に関連している問題に嫌気がさしている人々だ。 テレビ司会者で人気ウェブサイト「www.protagon.gr」の創設者でもあるスタシス・セオドラキス氏は、麻薬取締法の自由化から警察の浄化に至るまで、主流政党が絶対に受け入れないような様々な改革に対して、国民は強い関心を抱いていると話す。 コネに恵まれた人が処罰を受けないことに激怒している人たちにとっては、先日ギリシャのプロサッカーの八百長事件が明らかにされたことは満足感を覚えるものだった。警察はこの事件に関して9万ページの資料を集め、選手から胴元に至るまで85人を捜査していると話しており、逮捕者の中には2つのクラブの会長も含まれていた。 「サッカーで起こっていることと、より幅広いギリシャ社会との間には、直接的なつながりがある」と、文化スポーツ相のパヴロス・ゲルラノス氏は述べた。 麻痺しきった社会 せめて、より幅広いギリシャの苦悩を癒やすことが、サッカー界を正すのと同じくらい容易であればいいのだが。 議員たちが言い争い、警察が議会の外のデモ参加者と戦っている時、電力公社の労働者による2週間に及ぶストのために、ギリシャ全土で輪番停電が実施された。特権を持つ強力な電力公社労組は、多くの人々が分別ある変化に対する障害と見なすリストの中で上位を占めている。 また、学校や病院も、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)との間で合意されたいわゆる中期救済計画に関する議論と時期を合わせて行われたストによって影響を受けた。 航空便は航空管制官のストのために混乱し、観光客は、共産党系労働組合PAME(全ギリシャ戦闘的労働者戦線)によるピケ隊のせいでギリシャの島々に行くフェリーに乗ることができなかった。 「娘はやらん」父親が娘の婚約者の右手を切り落とす ギリシャの島々の雰囲気は今も変わらないが・・・〔AFPBB News〕 ギリシャの旅行業者にとっては、恐らくこれはほんの少し信用を落とすだけで済むだろう。業者によると、トルコやキプロスのような観光地ほどではないにせよ、ギリシャを訪れる観光客の数は今年わずかに上昇している。 税務職員の関心を集めた派手な新築別荘の狼狽売りが増加しているにもかかわらず、人気のあるエーゲ海諸島の雰囲気は相変わらず明るい。 それでもやはり、アテネ中心街の博物館や古代遺跡を訪ねる旅行者が吸い込んでも仕方がないと思う催涙ガスの量にも限度がある。 不満を持つ人の多くは――組合員であれ、議会近くで野営する様々なイデオロギーを持つ自然発生的な抗議者であれ――、自分たちは政界全体、あるいは少なくとも与党の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と中道右派の野党、新民主主義党に対してデモを行っていると話している。 利益供与のマシンと化している主要政党 議会の外にかかるある垂れ幕は、政治家は国を売るために「どれほどの銀貨」を受け取ったのかと問いかけていた。 こうした抗議がギリシャの政治秩序に対する成熟した拒絶を示しているとしたら、それは勇気づけられる流れだ。社会学者のニコス・モーゼリス氏が指摘するように、ギリシャの2大政党は、地中海の民主主義の基準からしても驚くほどの規模で利益供与や助成金を分配するためのマシンと化していた。 短期的な惨事を食い止めるために考え出された経済計画以外に、何かできることはないのだろうか? ヨルゴス・パパンドレウ首相は、議員の数を減らし、選挙制度を変えることで、旧来の利権政治に終止符を打つ憲法改正という考え方を提案している。 こうした改正が国民投票で承認されれば、それは、パパンドレウ首相がギリシャ議員の頭上を通り越して首尾よく市民に訴えたことを意味するだろう。 首相にとっては、それが政治的な主導権を取り戻す最後で最善の望みかもしれない。 単に養ってくれないために怒っているだけだったら・・・ だが、多くのギリシャ市民が政治家に失望しているのは、古い利益誘導システムを拒絶したからではなく、ギリシャに資金がなくなり、自分たちを養えなくなったからだという可能性もある。 誰もが飼い葉桶の餌を食べたというパンガロス副首相の見方が正しければ、まだ一部の人たちは施しを切望しているかもしれない。その場合、ギリシャの運命に責任を負っている人たちは――国内であれ国外であれ――、今度は飢餓の政治に対処しなければならなくなるだろう。 © 2011 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved. |