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発送電分離:先駆けの英米では…停電頻発 安価の代償
2011年7月3日 8時50分 更新:7月3日 10時57分
http://mainichi.jp/select/today/news/images/20110703k0000e020018000p_size6.jpg
各国の電気料金(09年)
菅政権が検討に着手した発送電分離だが、欧米では既に取り組んでいる。先駆けとなった英国と米国の現状を報告する。
「電気代節約のため電力会社を変えるのは日常茶飯事よ」。ロンドン市内で夫と年金生活を送るレイナ・ウルフさん(70)は話す。英国では、利用者が複数の配電会社から料金などを比較して選べる。
市場原理を重視するサッチャー政権が電力自由化に着手。90年には国有電力会社を発電会社3社と送電会社1社に分割・民営化した。消費者に配電する小売市場も自由化された。独仏などの企業も相次いで参入。会社員のベッキー・ハバートさん(31)は自宅購入を機に電力会社選びを始めた。「調べてみてびっくり。会社によって年間200ポンド(約2万6000円)も料金が違う」と自由化の効用を強調する。
ただ、コスト競争への対応で経営効率化を迫られ、巨額の費用が必要な発電所への投資が滞るなど自由化の弊害も出始めている。英政府は09年2月、「20年までに総額200億ポンド(約2兆6000億円)の投資をしなければ、電力供給が不足し、大規模停電が起きる可能性がある」との報告書を発表し、電力業界に警鐘を鳴らした。
米国でも90年代以降、電力自由化が各州に拡大し、発送電分離の動きが相次いだ。09年末時点で3000社超の事業者が乱立。20年近くに及ぶ電気料金値下げ競争とコスト削減で設備投資の遅れが指摘される点は英国と共通している。特に送電網の老朽化は深刻だ。
首都ワシントン郊外のメリーランド州ロックビル市に住むアリッサ・ウィーナーさん(43)は買い物から戻り、自宅の電気がつかないことに気づいた。「また停電ね」。動じることもなく、ランタン型の懐中電灯をテーブルに載せ、読書を始めた。「半年に1回は停電しているから慣れているの」と平然。冷蔵庫の中身は停電のたびに全て廃棄し買い直しているという。
ワシントン周辺では年2〜3回の停電が当たり前だ。原因は雷雨や強風などだが、今年1月には10センチの降雪で24時間以上停電した地域もあった。
カリフォルニア州で00〜01年に大停電が発生したのは、州当局の勧告を受け、電力会社が発電設備を売却するなどの発送電分離が進み、設備投資が滞ったためだ。03年にはニューヨークなどで北米大停電が発生し、電力自由化を取りやめる州も出ている。オバマ大統領が「スマートグリッド(次世代送電網)推進」を掲げたのも脆弱(ぜいじゃく)な送電網への危機感が背景にある。
◇日本、新規参入阻むコスト高
「電力の品質を損なうことになればまずい」。半導体メーカーなどが加盟する日本電機工業会の下村節宏会長(三菱電機会長)は5月末の会見で、菅直人首相らが言及した発送電分離論をけん制した。半導体などの超精密機器の生産にとって電力の安定供給という品質は「命綱」だからだ。電力業界は「発送電分離は顧客への安定した電力供給の責任をあいまいにする」と発送電一括管理の重要性を主張してきた。
確かに日本の電力の「品質」の高さは世界トップクラスだ。年間の平均停電時間は14分(09年度)で世界で最も短い。電力業界によると「風力発電の比率が高い沖縄県が台風の影響で停電が比較的多く、東京電力管内では2分」という。さらに瞬間的に電圧が低下するトラブルも超精密機器には大敵だ。だが「年数十回にも上ることがある欧米に比べ、日本はひとけた」(松村年郎名古屋大教授)と安定した電力供給が日本製品の信頼性を支えてきた面がある。
しかし、日本の電気料金は、電力自由化が進んだ米欧よりも割高だ。インターネット通販大手、楽天の三木谷浩史社長は「電力コストが高いと国際競争力に影響する。新しい流れが必要だ」と、発送電分離を批判する経団連から脱会した。IT(情報技術)業界はデータセンターで大量の電力を必要とするため高い電気料金はマイナスに働く。
日本も制度上は、大口需要家向けの電力小売りは自由化されている。だが、電力大手以外の販売量シェアは10年度で3・4%に過ぎず、大手の「地域独占」は崩れていない。新規事業者が電力大手の送電網を利用して送電する際の利用料が電気料金の2割程度を占め米国よりも負担が重く、参入のハードルが高いからだ。
地域独占の発送電一貫体制の弊害は、福島第1原発事故後の東電の「計画停電」でも表面化した。大手電力同士で融通できる電力には限りがあり、大手以外の事業者は肩代わりできるほどの発電能力を持たない。東電が電力供給をストップした途端、交通網などは大混乱した。
第二次世界大戦前の日本の電力業界は、ほぼ自由市場で数百社の電力会社が乱立していた。戦時中の国家統制による一元管理体制を経て、1951年に全国を9地域に分け、各地域を電力9社がそれぞれ独占する体制(現在は沖縄電力含め10社)がスタートした。それから60年を経て、震災と原発事故という未曽有の危機に直面し、電力システムのあり方が根底から問い直されている。
(立山清也、三沢耕平、宮崎泰宏、野原大輔、和田憲二、ロンドン会川晴之、ワシントン斉藤信宏が担当しました)
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