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2011/06/29 12:10 http://tamurah.iza.ne.jp/blog/entry/2339360/
欺瞞に満ちた復興構想会議の提言
政府はこのほど東日本大震災復興構想会議(議長・五百旗頭(いおきべ)真防衛大学校長)による「復興への提言」を発表した。「悲惨のなかの希望」という副題がついており、原則のひとつに「被災地域の復興なくして日本経済の再生はない。日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はない。この認識に立ち、大震災からの復興と日本再生の同時進行を目指す」とある。なるほど、その通り。だが、これほど欺瞞(ぎまん)に満ちた政策提言をこれまで見たことがない。
■デフレ病さらに悪化
消費者も中小企業も慢性デフレで弱り切っているのに、デフレ病をさらに悪化させる臨時増税を強いようとしている。「まるで災害という傷を負った子供に重荷を持たせ、将来治ったら軽くするといっているに等しい」という浜田宏一米エール大学教授の指摘にうなずく読者も多いはずだ。
増税が消費や投資を萎縮させるデフレ効果を持つのは、いわば経済学上の常識である。デフレが加速すれば、増税しても個人や企業の所得、収益は減る。すると税収は見込みとは逆に減る。財政収支はさらに悪化し、経済規模は縮小する。
増税して税収を増やすというのは、農民の年貢を引き上げる江戸時代の悪代官の手法と基本的に変わらない発想である。それでも増税が税収を増やし、財政均衡をもたらすならまだよい。阪神大震災(1995年1月17日)の後を例にとると、増税はむしろ税収を減らす。
95年度に政府は3度の補正予算で計3兆3800億円の財政資金を投入した。震災により資産は10兆円規模で破壊されたが、国民全体の努力により、わずか2年間で21兆4150億円も経済規模を拡大するのに成功し、増税なしで95、96年度と税収はわずかながら増えていった。
96年度に首相となった橋本龍太郎氏(1937〜2006年)は財務官僚の勧めに従い財政収支均衡をめざし97年度に消費税率を3%から5%に引き上げた。一般会計の所得税、法人税、消費税の収入合計は、この年度に42兆円と前年度の39.6兆円から増え、その後落ち込んだ。橋本氏を継いだ小渕恵三首相(1937〜2000年)は積極財政に転じ、税収は2000年度にいったん回復したが、翌年度は息切れした。結局、2%の消費税率アップで、03年度一般会計の消費税収は、96年度に比べ3.6兆円増えたが、所得税と法人税収は合計で9.5兆円も減った。
提言付属の資料には「阪神淡路大震災とのマクロ経済環境の違い」編が挿入されている。そこでは、名目GDPについて、阪神淡路489兆円(94年度)と東日本大震災479兆円(2010年度見通し)と対比している。だが、16年前よりも10兆円も経済の実学規模が少ないその異常さに何の説明も加えていない。その代わり、基礎的財政収支、一般会計公債依存度、国地方の長期債務残高、国債の格付けの悪化ぶりなど財源の制約ばかり盛り込んでいる。阪神大震災から2年後の増税がデフレ病を招き、経済活動萎縮→税収減→財政収支悪化、の悪循環にはまった教訓を完全に無視し、今回も増税が必要だと喧伝(けんでん)するのである。
復興構想会議の提言には「デフレ」、あるいは「デフレーション」の一言も出てこない。その代わり、「再生」という言葉は77回、「復興」は258回も繰り返し出てくる。言葉だけが呪文のように繰り返され、構想会議の委員たちは「悲惨のなかの希望」という陶酔に陥ったように思える。その恍惚(こうこつ)のなかで、委員たちは財務官僚主導の事務局が盛り込んだ消費税、法人税、所得税の増税案を妙薬と信じ込んでしまったのだろうか。
■だましのテクニック
事務局官僚はだましのテクニックにたけている。特区をつくれ、などという評論家委員たちの思いつきや地元からの要望を集大成すれば委員たちに異論はない。その費用は16兆円以上、財源は増税でまかなうというシナリオに抵抗はなかったのだろう。
委員の一人は述懐する。「いや、実際の会合では増税の意見はほとんど出なかった。なのに、財務官僚を中心にする事務当局が増税案が出たとメディアにブリーフィングし、われわれは驚いていた」と。だが、五百旗頭議長は、4月14日の初回会合の後、「復興増税」という相矛盾する言葉をつなぎ合わせたアイデアを記者発表し、明らかに「まず増税ありき」の会合の正体を図らずも吐露していた。委員たちは、財務官僚のせいにするよりも自身の無知と知的怠慢を恥じるべきだ。
提言を唯々諾々(いいだくだく)と受け入れた菅直人首相(64)にはもとより何も期待できないが、せめて与野党の議員たちは増税なき復興・再生に向けて行動してほしい。
(特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EX PRESS)
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