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増税ではなく歳出削減と無駄の排除で均衡財政実現
財政の健全性が維持できる理由(2)
2011年6月28日 火曜日
高安 雄一
前回の「厳しい財政規律、少ない借金」では、韓国では均衡財政を堅持しており、国家債務が少ない状況である点を解説しました。均衡財政(※1)を堅持して財政の健全化を図ろうとする財政当局の使命感は日韓で違いはありませんが、結果には大きな差が出ています。今回はなぜ韓国では均衡財政の堅持が可能であったのか検討してみます。
国民負担によって均衡財政を実現したわけではない
まず均衡財政が堅持できた理由を税収と歳出の両面から見ます。第一に税収です。国の税収について対名目GDP比を見ると、近年は若干上昇していますが、概ね1975年以降は12〜14%の間で安定的に推移しています(図1)。
税収は税制の改正に大きく影響を受けますので、この間の税制の変更について確認します。まず所得税率は大きく変化しています。1975年には所得税率は16段階に分かれており、最高税率は8%、最高税率は70%でした。しかし現在は4段階に簡素化され、最低税率が6%、最高税率が35%となっています。
また法人税は1975年には3段階に分かれ最低税率20%、最高税率が40%でしたが(※2)、現在は10%と22%の2段階に簡素化されています。付加価値税は1977年の導入以来10%で変更はありません。
国税はこの3つの税で90%近くを占めるため、これらの税から判断すると、税制は減税の方向で変更されてきたと言えます。ただしGDP比で見た税収がそれほど落ちていない理由は、マイルドな物価上昇と堅調な実質成長率により、名目成長率が2001年から2010年の平均でも6.9%と高い成長を示したことが大きいと考えられます(※3)。また韓国租税研究院のパクヒョンス博士は、政府のクレジットカード普及策(※4)により法人所得の把握率が飛躍的に高まったこと、通貨危機以降、企業会計が透明化したことによって、法人税の課税標準が増えたことをその理由としています。
このように、韓国では増税によって均衡財政を達成しやすくしたわけではありません。韓国の租税負担率は2007年で21.0%(国税だけだと16.6%)、国民負担率は26.5%です。OECD平均がそれぞれ、26.7%、35.8%ですので、韓国は比較的低負担の国であると考えられ、ここからも韓国は国民負担によって均衡財政を実現したわけではないことが確認できます。
福祉分野の歳出も国際比較で見れば少ない
第二に歳出を見ます。国の一般会計の歳出は、1980年〜82年には名目GDPの17%前後でしたが、1994年には12.6%にまで低下しました(前掲:図1)。しかし通貨危機以降は上昇傾向で、2009年には18%を超えました。このように近年は少し上昇気味とも言えますが、国際比較で見ればこれでも少ない方です。政府の対象範囲は広くなりますが、一般政府(※5)の支出を見ると、2008年で韓国は名目GDP比で30.0%と、OECD加盟国平均の41.4%より低く、加盟国で下から2番目です(※6)。また韓国の公的な社会支出を見ると、2005年で名目GDP比で6.9%とOECD加盟国平均の20.6%より相当低く、加盟国で最低です。一般政府の支出を分野別に見ると、福祉分野は高まってきていますが(図2)、国際比較で見ればまだまだ少ないと言えるでしょう。
もちろん、韓国では65歳以上人口比率が2010年で11.0%とOECD加盟国平均の14.8%より低いなど高齢化が進んでいないという要因もありますが、それを割り引いても福祉分野の支出は少ないと判断できます。また高齢化にともなって増えていく義務的な経費がそれほど大きくないことも特徴です。
※1 均衡財政と言う場合、韓国では一般会計のみならず、特別会計、基金を含んだ統合収支基準で判断する。しかし以下では均衡財政を、国の一般会計における「税収内歳出」との原則から考察する。韓国開発研究院(2010)421ページでは、均衡財政と言った場合には統合財政で判断する必要があるが、一般会計における「税収内歳出」の原則を守ることは、財政規律の確立と財政健全性の維持に相当寄与していると指摘されている。つまり、均衡財政を国の一般財政に限って議論することには意味があると考えられる。
※2 韓国では法人税は累進税率が採用されている。
※3 所得税及び法人税が累進税率となっているので名目成長率が高いと税収も高まる。
※4 2001年よりクレジットの使用額に応じて所得控除を受けることができるようにしたとともに、零細商店でもクレジットカードでの支払いに応じることを義務付けたため、クレジットカードの使用が増え、資金の流れが透明化し、法人所得の過少申告が飛躍的に減少した。
※5 中央政府の一般会計と特別会計、地方政府、社会保障基金が含まれる。
※6 OECD ファクトブック 2010による。以下OECDとの比較は同様。
国民年金への一般会計からの拠出は、国民年金管理公団の運営費の5%です(※7)。日本のように基礎年金拠出金の一部を国が負担する制度はありません。ただし老齢基礎年金については一般会計から給付費が拠出されています。これは年金といってはいますが、実際は一定の所得以下(その際には資産を決められた計算式で所得に換算します)の65歳以降の高齢者に対して給付を行うものです。韓国では年金制度が創設されてから日が浅く(1999年に国民皆年金となりました)、年金をもらえない高齢者が多いので、それら高齢者を支援しようとの趣旨で2008年に導入されました(※8)。これは義務的経費とも言えますが、今後公的年金制度が成熟すれば支給額が減少すると考えられるので、高齢化とともに今後継続的に高まって行く負担ではありません。従って、今の制度が続くならば、高齢化とともに義務的経費が大きく高まって行く状況にはありません。
以上のことから、韓国では増税ではなく歳出を抑えて均衡財政の維持を図ってきたと考えられます。
日韓ともに法律で規定されている均衡予算ルール
増税が歓迎されないことは万国共通であり、韓国でも長期にわたり増税は行っていません。もちろんマイルドな物価上昇や堅調な実質成長が続くなど、税収にとって良い環境にはありますが、減税でその効果はある程度相殺されています。このため、均衡財政を達成するために、歳出のコントロールを厳格に行っています。
まず韓国における法令上の均衡予算ルールは国家財政法の第18条に定められています(※9)。ここでは「国家の歳出は国債や借入金以外の歳入を財源としなければならない。しかしやむを得ない事情の場合には国会の議決を経た金額の範囲内で国債や借入金で充当できる」と規定されています。これは税収内での歳出の原則を示したものです。日本の財政法第4条第1項に相当する条文で、日韓とも均衡予算ルールが法律に規定されています。
しかし日本では但し書きで「公共事業、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」とされており、これに基づいて建設国債が発行されています。韓国の場合は建設国債との概念はなく、公共事業の財源といえども国債や借入金では充当できないことが原則とされており、日本より厳しいルールが法律で定められていると言えます(※10)。
韓国では原則的には、1980年代半ばより税収内歳出の原則を貫いています。1998年には通貨危機以降の大不況による税収減により赤字補填国債を発行し、それ以降は毎年発行が続いていますが、国債償還費等を除いて考えるならば、韓国では総じて均衡財政ルールを守っていると言ってよい状態です。
しかし日本の場合は建設国債はもちろん、1975年より毎年特例法を制定することで赤字国債を発行しており(※11)、法律上の均衡財政ルールは絵に描いた餅となっていることは周知のとおりです。つまり均衡財政ルールが法律で定められているからといって、必ずしもそれが約束されるわけではありません。ではどうして韓国では均衡財政ルールを守れるのでしょうか。以下では日本で均衡財政が守れない理由に関する研究からそのヒントを見つけていこうと思います。
予算室が編成した予算に賛成するほかはない仕組み
元一橋大学准教授の田中秀明氏は、日本で財政ガバナンスが低下している要因を、(1)政府の内外に存在する拒否権を発動するプレーヤーの存在、(2)財務大臣や首相、そして内閣が予算や税制についての意志決定に十分な権限を行使できない、(3)財務省主計局と各省庁の間における情報の非対称性から生じる予算削減の困難性の3点に整理しています。
一方、韓国の予算決定プロセスでは田中氏が整理した日本の問題点はすべて当てはまりません。第一に韓国では政府の内外に、予算当局が調整した予算に拒否権を発動できるプレーヤーが存在しません。また、政府が予算についての意志決定に十分な権限を行使しています。韓国で現在予算編成を担当している組織は企画財政部予算室です(この組織は表のとおり変遷してきましたが、その前身の組織も含めてここでは企画財政部予算室とします)が、予算室やその前身の組織は他の行政組織との関係で優位な立場にあります。
表 財政担当の変遷
企画処予算局 (1948〜55年)
財務部予算局 (1955〜61年)
経済企画院予算局・予算室 (1961〜94年)
経済企画院予算室 (1994〜98年)
企画予算委員会、予算庁 (1998〜99年)
企画予算処予算室・財政運営室 (1999〜2008年)
企画財政部予算室 (2008〜)
出所:韓国開発研究院(2010)415ページの表の一部を翻訳
※7 2004年までは運営費の全額を負担していたが、2005〜2007年には40%となり、2008年以降は5%に減らされた。
※8 本パラグラフの以上の記述はチェソンウンほか(2009)を参考に記述。
※9 2006年末までは予算会計法第5条。
※10 1951年に制定された財政法では「戦争または事変収拾費,公共事業費出資金と貸付金の財源は国会の議決を得た金額範囲内で国債または借入金で充当することができる」とされていたが、1961年に同法が廃止され、予算会計法が制定された際に、現在の条文となった。
※11 ただし1991年から1993年には制定されなかった。
企画財政部のトップである長官(日本では大臣に相当)は、1963年から1998年、2002年から2008年まで経済副総理を兼ねていました。この経済副総理は経済政策全般を企画・調整する権限を持ち、他の長官の中で最先任の序列にありました(※12)。政治学者で国際大学研究所教授の信田智人氏は、日本における各省庁の大臣は当該省庁の代弁者であり、かつ出身派閥や党に対して忠誠心を持っているとともに、内閣が合議制であるから首相は全会一致に持っていかないと政策を遂行できないと主張しています(※13)。
しかし韓国では国務会議(日本の閣議に相当)の構成メンバーである各行政機関の長官は、「韓国がFTAを積極的に推進できる理由」で指摘したように大半が国会議員ではありません。そして多くは官僚出身か大学教授であり、政党との関係はありません。また、そもそも国務会議は審議機関に過ぎず、審議結果が大統領を拘束することはありません。よって国務会議で活発な議論が行われるというよりは、大統領によって決められた政策を追認する機能を果たすに過ぎない状況です(※14)。
こういった状況では、長官が行政機関の代弁をして予算案に反対しても罷免されるのがおちです。前出の信田氏は、日本の場合は首相が閣僚をクビにする権限があるが、クビになっても国会議員の一員であり、政権与党の中堅幹部以上の存在であることは変わらないので、罷免権の行使は政治的に大きな波紋を起こすことになるとしています(※15)。一方、韓国の場合は大統領が長官をクビにした場合、長官は政権にはなんの影響力を持たなくなるので、予算案に徹底抗戦などしたら、簡単にクビになります。このように、韓国では各長官が行政機関の意見を自分のクビをかけてまで代弁することは想定されず、企画財政部長官が提出する予算案、すなわち予算室が編成した予算に賛成するほかはないと考えられます。
各事業に優先順位をつけ不要不急の予算を大幅削減
企画財政部長官に影響力を持つ人物は大統領ですが、大統領にとっては、自らがこだわる政策に予算が配分されつつ、均衡財政が維持されることがベストです。韓国財政の専門家である韓国開発研究院のコヨンソン博士は、金大中大統領と盧武鉉大統領は福祉支出を増やし、李明博大統領は四大河川事業を行うなど、財政負担が大きな事業を行ないましたが、予算室が優先順位の低い分野の支出を削減することで、健全財政を堅持したとしています。
パクヒョンス博士によれば、金大中大統領と盧武鉉大統領の時代には経済関連予算が削減され、李明博大統領時代には土木関連を除いた予算が全般的に削減されました。このような予算削減はシーリングにより行われるのではなく、個別審査主義で行われています。田中秀明氏は、シーリングでは必要度の薄い予算が残るとの問題点を指摘しています(※16)。韓国の予算室では、予算編成の前に予算室長(日本では主計局長に相当)が主催する予算審議会が行われ、予算総括審議官、各分野別審議官(日本では主計局次長に相当)、財源管理担当課長、編成基準作成担当課長等が一堂に会し、各事業に優先順位を付けた上で、不要不急の予算を大幅に削減しており、これが予算削減に大きな役割を果たしています(※17)。
しかし行政府の中で予算室の権限が強いとしても、政治との関係が弱ければ、予算の調整は容易ではありません。しかし韓国では2つの理由で政治の関与が限定的なものとなっています。
第一は族議員がいないことです。韓国では多選議員が少ないこともあり、当選を重ねつつ特定の政策に精通する族議員が生まれにくく、族議員が政党の意志決定に重要な役割を与える状態にはなっていません(※18)。よって各行政組織には応援団がおらず、事業の予算の優先順位を落とされたとしても、巻き返しが難しい状況です。
もう一つは国会予算審議の段階で行政府が立法府に対して優位性を持っていることです。憲法は国会の予算決定権を立法権の範疇から除外しており、政府の同意なしに予算を追加する、あるいは新しい費目を設けることはできません。このように行政府は予算決定に関して優位な立場にあり、これは国会議員が選挙区の事業をごり押しするなどの行動を抑制することに寄与しています(※19)。
財政赤字を招く制度的な要因としては、経済産業総合研究所の鶴光太郎上席研究員は、「コモンプール問題」、すなわち政治家は自分の選挙区の利益になるような支出プログラムを提案する傾向にある一方で、このようなプロジェクトの財源は国全体で賄われることが普通であり、その結果コストが内生化されず、個別支出への増加圧力が大きくなりやすいとの問題を指摘しています(※20)。しかし韓国では憲法の規定により「コモンプール問題」の発生が抑えられています。
※12 韓国開発研究院(2010)417ページ。
※13 信田(1996)41〜42ページ。
※14 孔・鄭(2005)95〜96ページ。ただし盧武鉉政権では国務会議を活性化させるための試みが行われているとされている。
※15 信田(1996)73ページ。
※16 田中(2011)137ページ。
※17 韓国開発研究院(2010)431〜432ページ。
※18 この点も本連載「韓国がFTAを積極的に推進できる理由」で指摘した。
※19 韓国開発研究院(2010)418ページ。
※20 鶴(2004)41ページ。
“無駄”削減のために外部評価機関に委託して事業を審査
もちろん政治家は個人的・非公式的な経路で政府予算案編成に影響を与えることができます。また予算室が与党に予算案を説明するという公式手続きもあるので、与党は予算に意見を反映させることもできます(※21)。とはいえ、日本のようにそれぞれの分野の族議員が競争し、現状維持あるいは予算増大を図るという状況にはなりません。予算室は、大統領の意向を最優先し、次に与党全体としての要望を聞いた上で予算に優先順位を付け、税収の範囲内に抑えた予算を編成します。この成果である予算案に対して反対できるプレーヤーは存在しません。
また、韓国では大規模事業の事業評価を外部委託しており、その評価を元に無駄な事業を削減しています。つまり予算室と各行政機関の間に生ずる情報の非対称性を専門機関を利用して解消しているのです。これは投資事業審査評価というもので、1970年から行われていましたが、1998年に均衡財政が大きく崩れ、財政健全化が最優先課題となってから強化されました。
大規模事業を行う際には、所管する行政機関がその妥当性を調査しますが、予算獲得のため結果が歪曲されかねません。そこで大規模事業の実施に当たっては、事業の予算が決定する前に、政府出捐機関である韓国開発経済院の公共投資管理センターで予備妥当性調査を行っています。
予備妥当性調査では、費用対効果分析を基礎とした経済性分析、現金フローに焦点を当てた財務性分析などを行っています。具体的には費用担当と需要及び便益担当の二部門に分けて,韓国開発研究院の内部の研究者と費用や需要予測を担当する外部専門家により調査を行っています。当初は総事業費が500億ウォン以上の建設事業が対象でしたが、2008年には教育、文化、福祉などの分野の事業も含まれるようになりました。そして1999〜2009年の間で427件の事業を対象に予備調査を行い、その58%である248件のみが妥当であると判断されました(※22)。
補正予算も「剰余金」の範囲内で組むのが原則
このように韓国では本予算編成の段階で「税収内歳出」の原則を貫き、均衡財政を守っています。ただし、せっかく本予算の編成で税収内に歳出を抑えたとしても、マクロ経済政策としての財政政策を行う場合、つまり補正予算を積極的に編成する場合、本予算編成での苦労が水の泡となります。
しかし前回の「厳しい財政規律、少ない借金」で解説したように、景気後退期においても、原則的には歳計剰余金の範囲内で補正予算を組み、赤字補填国債を発行してまで景気浮揚を図ることは、通貨危機や世界金融危機により景気が大幅に後退した時に限られています。
さらに2006年に制定された国家財政法の89条では、政府は、(1)戦争や大規模自然災害が発生した場合、(2)景気低迷・大量失業など内外条件に重大な変化が発生したり発生する恐れがある場合(※23)、(3)法令により国家が支給しなければならない支出が発生したり増加する場合にしか補正予算を組むことができないことが規定され、補正予算のハードルが高められました。
財政赤字に拒否感を持つ国民性も
以上述べたように、韓国政府が均衡財政を守れる理由は、(1)政府の内外に予算当局が調整した予算に拒否権を発動できるプレーヤーが存在しない、(2)政府が予算についての意志決定に十分な権限を行使している、(3)予算室と各行政機関の間に生ずる情報の非対称性を専門機関を利用して解消していることが挙げられます。
予算室に唯一決定的な影響力を与えられる人物は大統領ですが、大統領も全ての予算に関心を持っているわけではなく、自らがこだわる予算が付いた上で、均衡財政が達成されることが理想的です。李明博大統領は大統領選挙時の公約で、予算の20兆ウォンの節減と均衡財政を挙げています(※24)。大統領候補者がわざわざ選挙公約で予算節減と均衡財政を挙げた理由は、国民が財政赤字に拒否感を持っていることを示唆しています。
韓国は1970年代まで高インフレ問題に直面していましたが、政府が率先して財政の健全化を行ったこともあり、1980年代に入ってようやくインフレが終息しました。また1997年は企業の過剰投資による経常収支の赤字基調継続から通貨危機が発生しました。1997年は財政赤字が引き起こした通貨危機ではありませんでしたが、健全財政が崩れれば、南米諸国などのように財政赤字により通貨危機が生じる可能性もあります。
つまり韓国政府が経済を安定的に推移させるためには均衡財政が必要であり、このことについては多くの韓国の財政研究者が一致して政府に進言しています。また、前出のコヨンソン博士は、借金が多くなるほど返済が難しく、子供の代に負担が回されるため、国民は財政の健全化を望んでいるとしています。均衡財政の重要性については日本でも否定する人はいないと考えられますが、総論賛成、各論反対との環境の中で、結局のところ財政は悪化の一途をたどっています。韓国では、各論における反対意見を押し切れる環境が企画財政部の予算室にあることが、均衡財政を守れる理由であると考えられます。
※21 以上は韓国開発研究院(2010)418ページによる。
※22 このパラグラフは韓国開発研究院(2010)434ページを参考に記述した。
※23 現在は2番目の条件が、「景気低迷、大量失業、南北関係の変化、経済協力といった内外の条件に重大な変化が発生したり発生する恐れがある場合」と変更されている。
※24 慶應義塾大学曽根泰教研究室(2008)59ページ。
<参考文献>
(日本語)
慶應義塾大学曽根泰教研究室(2008)『李明博政権の韓国マニフェスト』アスペクト。
孔義植・鄭俊坤(1995)『韓国現在政治入門』芦書房
信田智人(1996)『官邸の権力』ちくま新書
田中秀明(2011)『財政規律と予算制度改革』日本評論社
鶴光太郎(2004)「日本の財政問題」『日本の財政改革』青木昌彦・鶴光太郎編著 東洋経済新報社、p.35-88
(韓国語)
韓国開発研究院(2010)『韓国経済60年史』
チェソンウン・カンチウォン・イムワンソプ(2009)『2009社会予算分析』韓国保健社会研究院
このコラムについて
知られざる韓国経済
韓国経済の真の姿を、データと現地取材を通して書いていきます。グローバル企業がめざましく躍進し、高い経済成長率を誇る韓国。果敢に各国と自由貿易協定を結ぶなど、その経済政策は日本でも注目されています。一方、格差、非正規、雇用、農業保護政策、少子高齢化などの分野では、さまざまな課題を抱えてもいます。こういった問題は日本に先駆けている部分もあり、韓国の政策のあり方は、日本にとって参考にすべき点が多くありそうです。マクロとミクロの両方から視点から描きだす、本当の韓国経済の姿がここにあります。
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著者プロフィール
高安 雄一(たかやす・ゆういち)
大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。1990年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、調査局、外務省、国民生活局、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て現職。
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