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当面、政治・経済改革が進む可能性はほぼ0なので、
将来の国債実質デフォルト(高インフレ)による強制的な歳出停止(削減)は、
防げるかどうかというより、それがいつ来るかの問題になっている
日米とも、年内にテクニカルデフォルトが、そう低くない確率で起るなら、
財政機能喪失の過程を、実地で観察できる機会になりそうだ
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110621/221047/?ST=print
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このままでは日本沈没 雪崩的円安→国債暴落→金融破綻への導火線には火がついている
2011年6月24日 金曜日
竹中 正治
「国家は破綻する〜金融危機の800年」(著者:カーメン・M・ラインハート&ケネス・S・ロゴフ、日経BP、2011年3月)という本が妙に売れている。
「妙に売れている」という意味は、この本は超長期の過去にさかのぼった興味深い歴史金融データを提供しているのだが、どう見ても一般読者向けの本ではな いのだ。608ページに及ぶ分厚さと4200円という高価格の設定自体が、売れる部数を期待していない「専門書」であることを示している。
「今回はこれまでとは違う」の愚かさ
にもかかわらずアマゾン(amazon.co.jp)では「一般投資読み物」のジャンルで10位の売れ行きランクになっている(6月19日現在)。専門 書としてはやや意外なほど好調な売れ行きだろう。2008年の欧米の金融危機と世界不況を経て、さらに日本では東日本大震災が加わり、膨張する財政赤字、 累積する政府債務の先行きに対する不安感が世間一般に広がっているためだろう。
欧州のPIIGS諸国(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)の財政危機問題、とりわけギリシャ国債のデフォルト(債務不履行)は現実の差し迫っ たリスクとして語られている。既に日本国債は格下げされ、米国債の格付けも「安定的」から「ネガティブ(格下げ方向)」に見直されるなどの報道を受け、財 政赤字膨張の先にどのような世界が到来するのかという不安が世間に広がっている。
この本の英文原題“This Time Is Different”に込められた著者のメッセージは、近現代の歴史を通じて、政府も民間も債務の膨張に支えられたブームとその崩壊を繰り返してきたこ と、それにもかかわらずブーム(あるいはバブル)の時期には「今回はこれまでとは違う」という現状を正当化する言説が毎度横行してきたことへの批判であ る。
その意味で、政府債務のみでなく民間債務破綻も対象になっているのだが、今の時代の不安な雰囲気を敏感に感じ取った出版社は、日本語版のタイトルを「国家は破綻する」としたのだろう。このタイトルも売れている理由だろう。
「日本は違う」という根拠なき楽観
この期に及んでも、「日本の貯蓄率は高く、政府の国債の約95%は国内の貯蓄でファイナンスされているので、日本はPIIGS諸国とは違う。その証拠に 国債利回りは1%そこそこの低さを維持しているではないか」という主張が、少なくない政治家や一部の経済評論家から聞こえてくる。増税や給付の削減という 厳しい課題に直面することを厭う政治家や有権者には、“Japan is Different”という甘いささやきだ。
しかしながら、「日本の貯蓄率は高い」というのは過去の事実であって、今日では妥当しない。
いずれの国においてもファイナンスの最終的な源泉は家計の貯蓄である。2010年の時点で各国比較すると、日本の家計貯蓄率は6.5%であり、米国5.8%よりやや高いが、ドイツ11.4%より低く、「OECD Economic Outlook Data Base」にリストアップされた21カ国の平均値7.3%よりも低い。
にもかかわらず、10年物国債金利は1%そこそこと超低位を維持しているのはなぜだろうか。
実は政府債務の膨張にもかかわらず、長期国債の超低位金利が実現されていることにこそ、今の日本経済の閉塞の根本があると筆者は考えている。それをご説明しよう。
なぜメガバンクまでもが郵貯化するのか?
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の貸借対照表(2011年3月末、連結ベース)を見て筆者は驚いた。
保有する「有価証券」の残高が71兆円(総資産の34.4%)にも増加し、貸付金80兆円(同38.8%)に匹敵する第2の資産項目になっているのだ。 保有有価証券は国債と地方債が大半であり、64%を占めている(国内株式の比率は5.1%)。2005年3月末の有価証券保有残高は48.5兆円(総資産 の25.9%)、貸出金85.7兆円(同45.8%)であるから、6年間で有価証券の保有残高は22.5兆円も増えたことになる。
みずほFGや三井住友FGも見てみたが、同様に国債と地方債を中心にした有価証券保有の急増と貸出比率の低下が見られる。
さらに日銀のデータで日本の預金預入金融機関全体(信金や信組も含む)の金融資産に占める国債等(国債、地方債、政府関係機関債)と貸出金が総金融資産に占める比率を示したのが図1である。
メガバンク同様に2000年代以降、国債等の保有比率が目立って上昇している。一方、貸付金の比率が低下している。
元々ほとんど国債等のみを保有している郵貯銀行もこのデータは含んでいるので、国債保有比率の増加は郵貯を除く民間の金融機関で生じていると言える。要するに2000年代になって「民間銀行の郵貯化」が急速に進んでいるのだ。
元来日本のマネーフローは、家計貯蓄の株式や社債などへの投資の多様化が進まず、銀行預金を通じて企業部門の貸付金に流れ、郵貯への資金は国債の購入に 集中していた。ところが2000年代以降は、民間銀行の資金も国債に流れるという変化、つまり「民間銀行の郵貯化」が進むことで政府債務はその急膨張にも かかわらず超低位に安定しているのだ。
念のために保険・年金基金の運用する金融資産の主要項目内訳がどのように変化しているかもチェックしてみた(図2)。なんとここでも株式投資の比率が低下する一方で国債等の比率が顕著な増加を示しているではないか。
赤字国債という巨大なネズミ講の拡大
「経済の低成長が続いているので、企業部門の資金需要は弱い。一方、政府の赤字は増加して政府部門の資金需要が拡大している。従って国債に金融機関や投資機関の資金が流れるのは当然だ。それで何か問題があるのか?」
そう考える方もいるだろう。
しかし「一国の経済が豊かになる」「経済的な富が蓄積する」ということはどういうことか考えていただきたい。家計が住宅ローンを借りて住宅投資を行う場 合にも、企業が資金を借り入れて設備投資する場合も、負債の見合いに資産が生まれる。企業と家計の関係に限定して言うと、家計の貯蓄が銀行融資や株式・社 債を通じて企業部門に流れ、付加価値を生産する企業部門の資産を増加させることで実体経済は拡大し、豊かになる。
つまり、家計の住宅ローンにしろ、企業部門の負債にしろ、資産と負債の両建ての拡大がファイナンスされることで一国の経済全体の富の蓄積が実現される。
ところが、赤字国債の発行で政府負債が増加する場合は、政府のバランスシートの資産サイドには負債の増加の見合いとなる資産の増加は全く存在しない。
筆者は短期的・中期的な財政赤字による景気対策は否定しない。しかし政府債務の長期にわたる一方的な累積は、将来に向けた巨大なネズミ講(ポンジスキー ム)にほかならない。資産の裏付けのない赤字国債が、途方もなく膨張し、投資家や金融機関が何も疑うことなく、積極的にそれを購入し続けているというの は、究極のバブルかもしれない。
リスク回避志向で縮む日本経済
このように説明しても、こう考える方はいるだろう。
「有望な投資案件がないので、銀行や機関投資家は国債に資金を投じざるを得ない。実体経済が低成長なのだから仕方がない。一体どうしろと言うのだ?」
卵が先か、鶏が先かの議論になるが、実際のところ経済現象の因果関係は総じて相互依存的、循環的なものである。
国内に有望な投資が見い出せないならば、新興諸国など高い経済成長を実現している海外にもっと投資したらよいだろう。日本株投資が不振ならば、海外株への分散投資をもっと拡大すれば良いだろう。
そうした海外投資の増加は、円売り・外貨買いを増加させるので、購買力平価に照らして円高に振れ過ぎている現在の円相場を円安方向に修正する。そのことは輸出企業の採算改善を通じて、国内での生産と雇用を増やす。そうして好循環が始まる。
実際にそのように動いている企業や投資家もいる。海外株式に分散投資する個人投資家も多少は増えているかもしれない。しかし、その裾野と規模がまだ小さ過ぎるのだろう。
もちろん、外貨投資が増え、円安方向に為替相場が修正されるだけで、すべての問題が解決するわけではない。しかしながら、危機や不況期に逆に円高になる という「日本病」の特徴は卑陋(ひろう)な例えで恐縮だが、風邪をひいた時(不況時)に下痢を併発して脱水症状(円高)になるようなものだ(拙稿「大震災危機でなぜ円高になるのか」、2011年3月20日を参照)。
脱水症状のため高熱が下がらず症状を深刻化させる。そのため、とんだ長患いになるリスクを生んでしまう。それを克服するためには円高を海外投資のチャンスだと決断できる投資家の「アニマル・スピリッツ」が必要なのだ。
高金利通貨の外国債投資は原理的な過ち
「海外への投資はやってみたよ。高金利通貨の外国債に投資する投資信託を買ってみたが、2007年以降の円高で大損して懲り懲りだ」という方も少なくないだろう。それは投資する対象を間違えているのだ。
海外の高金利通貨の国債に投資しても、日本との金利格差は長期的には為替相場の変化(円高)で帳消しになり、低金利の日本国債に投資したのと同じ総合投 資リターンしか得られない。いや、投資信託などに払う高い手数料分だけ、投資リターンはマイナスになる。これは「金利平価原理」(あるいは結果的には同じ ことだが「購買力平価原理」)として国際金融論の基礎的な原理である。
実際、1990〜2010年の期間で10年物の日本国債と米国債を比較すると、金利は米国債が平均して2.84%高い。ところがこの期間にドル相場は円に対して年率平均で2.80%下落している。金利格差は為替相場の変化でぴったりと帳消しになっている。
投資信託などを企画・セールスする方々は、大学で国際金融論を学ばなかったか、あるいは学んでも都合の悪いことは忘れてしまっているのだろう。人間は都合の良い虚構を捏造して人に語っているうちに自分自身でそれを信じ込んでしまう動物だ。
一方で、海外株式に分散投資していればどうなっただろうか。米国株式指数S&P500で計算すると、過去30年間の価格上昇率は年率10.3%、平均配 当利回りとして2%を加えると、同期間のドル相場の年間平均下落率3.3%を差し引いても年率9.0%という極めて高い総合投資リターンとなった。
これは株式が債券に比べて長期的にはリスク・プレミアムの分だけ高い投資リターンを生み出す結果だ。同様に過去20年間でも年率6.1%の純リターンになる。要するに海外の金融資産に投資するなら株式への分散・長期投資こそが王道なのだ。
もちろん、個人投資家も投資対象を米国に限定する必要はない。「米国経済の長期的な将来に悲観的だ」と考える方ならば、新興諸国に投資する手数料の安いETF(Exchange Traded Fund)なども東京証券取引所は上場している。
強調しておくが、決して手数料の高い投資信託などを証券会社や銀行から買ってはいけない。
このままではいずれ雪崩的な円安と国際暴落
日本人は官も民も、機関投資家も個人投資家も、米国を中心とする海外の政府債という長期では為替相場の変動(円高)で全く報われることのない低リターン の金融資産に莫大な投資をしてきたのだ。国内投資でも対外投資でも、皆がリスクを回避しようとして閉塞し、財政赤字の膨張だけが進行する現状のコースを今 後10年ほど日本経済がたどれば、最後にはどうなるか…。
合理的な対外投資ではなく、パニック的な国外への資本逃避が起こり、雪崩的な円安(=国民の対外的な購買力の急激な喪失)と国債価格の暴落→金融危機につながる可能性が高い。
それは今のギリシャとは違ったパターンの「国家は破綻する」シナリオだ。いつそれが起こるかは予想不能だが、そうなる前にコース転換できるかどうか、残された時間が次第に短くなっていることは間違いない。
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、NBonline編集部 が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引 き出します。
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竹中 正治(たけなか・まさはる)
龍谷大学 経済学部教授
1979年東京大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)の為替資金部次長、調査部次長などを経て、2003年3月よりワシントン駐在 員事務所所長。ワシントンから米国の政治・経済の分析リポート「ワシントン情報」を発信する傍ら、National Economists Club(WDC)役員を務めるなどエコノミストとして活動。2007年1月から2009年3月まで国際通貨研究所チーフエコノミスト、2009年4月よ り現職。最近の著書に、『米国経済の真実』(共著編、東洋経済新報社、2002年)、『素人だから勝てる 外貨投資の秘訣』(扶桑社、2006年11月)、『ラーメン屋vs.マクドナルド』(新潮新書、2008年)、『今こそ知りたい資産運用のセオリー まず投資の魔物を退治しよう』(光文社、2008年)、「なぜ人は市場に踊らされるのか?」(日本経済新聞出版社、2010年)など。
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