簡単には移らないかもしれないな

サブプライムの「神」ポールソン氏の後光に陰り−ペセック　
　　６月23日（ブルームバーグ）：金融業界で神のごとくあがめられてきたジョン・ポールソン氏の後光が突然陰ってしまったかのようだ。ヘッジファンド運用会社ポールソンを率いる同氏は、2008年のサブプライム危機では、ウォール街の虚偽表示を見抜いた逆張りで150億ドル（現在のレートで約１兆2000億円）の利益を上げ、一躍ヒーローになった。そんな同氏も、今回は詐欺師にだまされてしまったのだろうか。

投資会社マディー・ウォーターズが６月２日のリポートで指摘した内容が正しく、カナダで上場する中国の造林会社、サイノフォレストが財務状況を虚偽報告していたことが事実ならの話だ。私にも、サイノフォレストの筆頭株主ポールソンをはじめとする投資家にも、本当のことは分からない。ポールソンは今週、保有するサイノフォレストの全株式を売却した。同社株はこの数週間で90％以上も下落している。

サイノフォレストは不動産保有を過大に報告していたことを否定しているが、投資家は安全策を取った。市場の変わり身の早さは、一歩間違えば世界金融危機が再発するという認識を反映している。

世界情勢は現在、安心できない状況だ。震災後の日本は混乱状態にあり、米国の景気回復はもたつき、欧州もギリシャの債務危機を解決できなければ、かつてのリーマン・ブラザーズのようなリスクを引き起こすだろう。中国の投資に対する信頼が突然崩壊したことで、市場はさらに懸念を募らせている。

粉飾決算

一部の中国企業の財務状況が信頼できないことは、意外でも何でもない。われわれがすぐに最悪の事態を想定する理由の一つには、リーマンが何カ月も否定した後、08年に本当に砂上の楼閣にすぎなかったことが判明したということがある。その前には、ワールドコムやパルマラットが実際に粉飾決算を行っていたが、ウォール街は見て見ぬふりをしていた。

香港の調査会社マディー・ウォーターズを率いるカーソン・ブロック氏のような、ほとんど無名と言ってよい投資家が中国に対する疑念を表明した際、投資家はどうしてすぐに本当だと信じたのだろうか。中国に対して空売りを仕掛けて大金を稼いだ者はほとんどいないが、カーソン氏のような投資家は増えている。いずれ中国の崩壊が訪れるという懸念がどこかにあるからだ。

懸念の一つは、中国の08−09年の大型景気対策で発生した不良債権の第一波が押し寄せるというものだ。もっと心配なのは、ここ数年の成長過程で国内の金融システムがぜい弱になっているのではないかということだ。中国の景気拡大はさまざまな非生産的な政策に依拠している。通貨は過小評価され、換金性に乏しい。また、資本を必ずしも生産的に使わない政府縁故企業の債務や多額借り入れを隠すため、簿外処理も横行している。

　　　　　　　　　　　巨大な同族会社

中国は市場経済と言うよりも、政治エリートに支配された巨大な同族会社だ、と「レッド・キャピタリズム」の共著者フレイザー・ハウイー氏は指摘する。中国工商銀行のような企業が上場する時、共産党が株式の大部分を保有する。これでは良い企業統治にはつながらない。

中国企業に新たに注目が向けられることで状況は変わるだろうか。ハウイー氏は、「そうなるよう望む。ビジネスをするのに中国が困難かつ腐敗した所であり、不可解な取引に満ちあふれていることは分かっている。確かに中国の小規模企業が注目されているが、大きな政府系企業にもその動きが広がるだろうか。それは私には分からない。投資家の多くは大物企業に対し疑問を持つのを避けるのではないだろうか」と語る。

行き詰まり

だが、投資家がそのような疑問を持つことは大切だ。不正行為が明らかになれば、外国で上場する中国企業の企業統治の見直しは加速するだろう。懐疑的な見方や変革に向けた活動が広がれば、「中国株式会社」はこれまでよりも厳しい目にさらされる。

中国は今や世界２位の経済大国だが、いずれは行き詰まるとの見方が広がっている。今後数年は、日本・欧州・米国の消費者に頼らなくてもやっていけることは証明済みだ。しかし３年目、４年目に入り、世界がソフトパッチ（景気の一時的軟化局面）もしくはそれよりも悪い状況になっても大丈夫だろうか。

金融危機後の世界は、暗闇に一条の光があることを歓迎した。ところが今では、中国の将来見通しは同国の企業統治と同じくらいよどんでいる。ブロック氏が自分の会社をマディー・ウォーターズ（泥水）と名付けたのにはやはり理由があるのだ。（ウィリアム・ペセック）

（ウィリアム・ペセック氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です）

記事に関する記者への問い合わせ先：William Pesek in Tokyo at wpesek@bloomberg.net.

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更新日時: 2011/06/23 08:35 JST