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彼は昔の日経予測では、よく外していたが、まだ生き残っていたとは大したものだ
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30年ぶりの金高騰は吉か凶か
2011.06.21(Tue) 武者 陵司
エコノミストの眼
金は無味乾燥な経済論議の中にあって、いつも神秘的である。その怪しい輝きは人類が最も古くから崇めてきた価値の表象であり、幾多の悲劇と喜劇を織りなす糸として、連綿と続いてきた。
ことに合理性が貫かれるはずの現代資本主義経済にあって、前史から持ち越された金という不思議な金属の持つ神秘性は、我々を幻惑させる。理路整然たる経済論議が、突如金が登場すると、途端に魔法にかけられたように、捻じ曲がってしまう。
筆者は大学紛争騒然たる中で、1969年に横浜国立大学に入学したが、その年は、IMFがSDR(特別引き出し権)を創設した年であった。マルクス経済学の大家であった当時の学長、越村信三郎氏が新入生に対する経済講演の中で「いよいよ金の経済的役割が終わるときが来た。将来、金は便器の素材ぐらいとしてしか使い道がなくなるだろう」と語っていたことを思い出す。
当時、世界の半分を支配していた共産圏の計画経済ははるか前から金との紐帯を断っていたが、いよいよ資本主義にもそのときが来た、という感慨を越村先生はお持ちだったのだろう。
その年、ベトナム戦争で米国の敗色が濃厚となり、米国内では猛烈な反戦運動が盛り上がっていた。資本主義が全般的危機に陥っているとの観測が蔓延していた。そして2年後の71年、ニクソン・ショックでドルと金との交換が停止され、金はいよいよ廃貨された、と見えたのである。
効用が見えなくなった金
経済舞台から退場したと思われた金が、その後2度の急騰を演じ、いまだに金融の「要(?)」の位置にいるとは、誰も予想できなかったのではないか。
第1回目の急騰は80年で、ニクソン・ショック前の35ドル/オンスからピークには800ドル/オンスへと跳ね上がった。そして2000年代初頭の260ドルで底入れした後から再び騰勢を強め、今年は1500ドル/オンスと史上最高値を更新中である。
ここまで上昇するのであるから、投資対象として誰もが無視できない存在なのであるが、困ったことに、根拠が誰にも不明なのである。
あらゆる商品にはその効用(マルクス経済学で言えば使用価値)が備わっており、それが価値の源泉になっているはずなのに、金だけは効用(使用価 値)が不明なのである。唯一金の効用としては、装飾品用、および工業用(半導体のボンディングワイヤーなど)があるが、その程度では著しく価格を高めた金 の効用(使用価値)を説明することは困難である。
やはり金には、太古から人類が引き継いできた神秘性=究極の価値の表象がつきまとっている、と考える他ないのではないか。
金の急騰は不安の高まりによるものなのか?
ことに今年に入ってからの金の動きは経済分析家を困惑させている。2月以降、徐々に米国経済に減速の兆しが表れ、東日本大震災によって景気失速がはっきりし、長期金利は3.6%をピークに再度2%台に低下した。そして5月に入り失速懸念は株式市場に及び、金融市場は二番底、デフレ懸念に覆われている。原油や銅などの商品市況も軟調である。そうした中で唯一金価格だけが騰勢を維持しているのである。
1980年の金急騰は第2次石油ショックによる原油価格高騰とインフレによって引き起こされた、というものが定説である。だが、今回はどうも様相が異なっている。
わが国の金市場分析の第一人者である豊島逸夫氏は、金価格上昇の背景には4つの構造的要因があり、それが日替わりメニューのように登場して価格上昇を持続させている、と説明している(「東洋経済」6月4日号)。4つの構造的要因とは、「有事の金」「インフレ」「全面通貨安」「ソブリンリスク」である。
「有事の金」とは、ジャスミン革命に始まった中東の民主化運動、リビア内戦などの地政学的リスクの高まりにより、有事のよりどころである金が買い材料にされているという意味だ。
「インフレ」に関しては、日米など先進国ではデフレだが、新興国中心に世界はインフレトレンドである、またリーマン・ショック後の各国中央銀行の巨額の通貨供給が通貨価値を希薄化させマネー型インフレのリスクを招く。今は水平線あたりに積乱雲が見えるという状況であるが、それが徐々に現実味を帯びてくる。
さらに「全面通貨安」とは、米国の財政赤字、米国国債格付けの「安定的」から「ネガティブ」への見通し引き下げで、ドルの代替通貨としての金買いに加えて、ユーロ、円と3極通貨が弱さ比べをしており、その中で通貨の原点回帰として金が買われることを指している。
「ソブリンリスク」の意味するところは、ギリシャ、ポルトガルなど欧州周辺国はもとより、米国、日本などでも国債不信が高まっている、しかし、金は「発行体のない通貨」なので破綻懸念、信用リスクがなく選好される、という見解である。
豊島氏は「金価格の上昇をたどると、これら4つの不安、不信に行き着き、これらの問題は構造的で一朝一夕に解決するものではないので、金価格の上昇が続く」と説明している。
金価格の上昇は、FRBに対する信認の表れ
確かに金が買われるのは、外に不安が高まり、金に逃避するからという説明は説得力がある。しかし、だからといって金はあらゆる場面で、究極の通貨と見られているのであろうか。
どうもそうではないと思われるのは、2008年末、国際金融が一時崩壊したリーマン・ショック時、ドルが急騰し、米国金利が急低下したが、金は逆に大きく売られた記憶が強烈だからである。
金は究極の危機の際には、最後の拠り所ではなかったのである。つまり、不安が高まれば高まるほど金が買われる、という論理も万能ではないことが分かる。
仮に「不安」が理由ではないとしたら、何が金価格を押し上げているのだろうか。それは市場によるFRBに対する強固な信頼、とは考えられないだろうか。
つまり、FRBが金融緩和により株高を持続させ、持続的景気回復を実現するという確信が、金価格の騰勢を持続させていると。
ここ10年ほどの金価格と景気循環を振り返ると、以下のように整理することができる。
【金価格が上昇】
(1)景気停滞→長期金利低下→FRBの金融緩和→株高 (デフレ懸念だが当局信認)
(2)景気拡大→長期金利上昇→株高 (インフレ期待高まる)
(3)景気拡大→長期金利上昇→FRBの金融引き締め→株変調 (高インフレで引き締め懸念)
【金価格が低下】
(4)景気後退→長期金利低下→FRBの能力に疑問→株安 (デフレ制御不能の懸念)
景気循環を振り返ると、上の(1)から(2)(3)へと変動してきた。今後も同じようなトレンドをたどるのではないだろうか。
まず、経済が不振でも、FRBによる追加金融緩和でカバーできると市場が考えれば金価格は上昇する(1)。現在はそのケースである。
次いで経済が順調に拡大しインフレ期待が高まれば金価格は同調する(2)。
さらに景気が過熱し金融政策が大幅な引き締めに転じて、株価が変調をきたしても金価格は上昇を続ける(3)。
そして金価格が下落するのはリセッション、デフレの制御にFRBが失敗した場合のみである(4)。
2011年2月以降、長期金利は低下し、株価も調整色を強めているのに、金だけが上昇を続けているのは、「ファンダメンタルズに表れたデフレ懸念を、FRBがオーバーライドできる(覆せる)と考えられているから」と考えられる。つまり、金高が続く限り、株高基調は持続すると考えられるのではないか。
30年ぶりの金高騰は長期株高の前兆か
繰り返しになるが、過去5年間で唯一金価格が大きく下落した2008年は、デフレ懸念が強まる中で、FRBのデフレ制御能力が不安視されていたためであった。こう考えると、今や金が米国株式、経済の先行指標と考えられる。というより、より長期のトレンドで見ても、金価格は市場と実体経済変化の予兆であった可能性が強い。
1980年の金価格急騰は、80年以降の20年間の長期株高の起点となった。金価格の急騰にみる貨幣購買力の増大が長期経済繁栄をもたらしたのである。
詳細は別に論ずるが、今回の30年ぶりの金価格上昇も、この先の長期経済繁栄と株高の予兆とも考えられる。
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