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自由市場資本主義は本当に死んだのか 興隆する国家資本主義 米国のリスクは企業
http://www.asyura2.com/11/hasan72/msg/223.html
投稿者 sci 日時 2011 年 6 月 20 日 10:08:45: 6WQSToHgoAVCQ
 

http://diamond.jp/articles/-/12781/votes
【第63回】 2011年6月20日  
自由市場資本主義は本当に死んだのか――
世界のエリートが注目する気鋭の政治学者
イアン・ブレマーに聞く 興隆する国家資本主義との相克の行方
 
“自由市場資本主義”信奉者にとって厳しい現実がある。リーマンショック以降のアメリカの自信喪失と迷走、そして中国やロシアに代表される「国家資本主義」の興隆だ。二つのシステムの衝突は歴史の必然なのか。それとも融合あるいは共存は可能なのか。日本はどちらに向かえばいいのか。地政学的リスク分析の第一人者で、アメリカや欧州諸国、中国、ロシアなど世界各国の政府中枢と太いパイプを持つ政治学者のイアン・ブレマー博士に話を聞いた。
(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)

――国家資本主義は学者によって定義が異なるが、ひとつの定義に収斂できるのか。
イアン・ブレマー(Ian Bremmer)
地政学的リスク分析を専門とするアメリカのコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長で、ワールド・ポリシー研究所の上級研究員。スタンフォード大学で博士号取得後、世界的なシンクタンクであるフーバー研究所の研究員に最年少25歳で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。グローバルな政治リスク分析には定評があり、ロシアのキリエンコ元首相やアメリカの民主・共和両党の大統領候補者らに助言を行ってきた。2007年には、ダボス会議を主催している世界経済フォーラムの若手グローバル・リーダーに選出されている。近著は、「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』日本経済新聞出版社刊)。

 ひとつの方法で定義できる。それができなければ、モデルに問題があるということだ。私は、国家資本主義を「国家が経済のPrincipal Actor(主役)として政治的目的を果たすために市場を利用する究極的な経済システム」であると定義している。

 もちろん、(原油などの)コモディティや土地が主である国もあれば、中国のように労働が主である国もある。ただ、すべてに共通するのは、“国家が主役である”という原則だ。一方、自由市場では主役はあくまで多国籍企業や民間セクターだ。

――国家資本主義は、かつての共産主義がそうであったように、本質的には自由市場資本主義と共存できないシステムなのか。

 こう答えよう。国家資本主義は、自由市場資本主義と競合するシステムだ。より正確に言えば、国家資本主義は自由市場資本主義と競合できるときには、競合する。つまり、国家資本主義の国であっても、小規模で弱体化していれば、自由市場と競合したくてもできない。

 中国は20年前も国家資本主義だったが、自由主義と競合していなかった。どうしてかといえば、欧米の多国籍企業が巨大な資金とテクノロジーのすべてを握っていたためだ。しかし今、中国は(欧米と)同等レベルのパワーを持ち、競争力を身につけた。

 同じことは産油国についても言える。産油国は自分たちで石油資源を地中から掘り出す力を身につけたことで、欧米の多国籍企業と競合できるようになった。今日では、世界の15大石油会社のうち13社までが実質国営だ。欧米系、民営系はたったの2社だ。このことを考えれば、2つのモデルの根本的な競合性が理解できるというものだろう。
次のページ>> 国家資本主義を加速させた4つの波

――中国はGDPで日本を抜き去り、世界で2番目の経済大国になった。これは、中国が自由市場資本主義の方向にシフトしたことを意味するのか。

 それは、まったく違う。中国政府は国家による経済を駆動する能力の源泉となっている低賃金労働(のメリット)をやがて使い果たすことから、(国家資本主義に基づく)自国経済を変革する必要があることは理解しているが、現在のメカニズムから手を引くのに非常に苦労している。その理由は、国が所有している企業がパワフルだからだ。

 中国政府は、必要性は分かっていても、そういう企業を倒産させて、経済の再バランスを可能にする準備ができていない。中国は確かに世界で第2位の経済大国になったが、システムはまだ変わっていないのだ。ただ、それでも成長を続けているので、問題は深刻な形では表面化していない。

――世界全体で見ると、国家資本主義は増加している傾向にあるのか。

 時系列で説明しよう。国家資本主義は昔からあるが、いくつかの波で加速されてきたことが分かる。

 最初の波は、石油だ。ご存知のとおり、かつては欧米の企業が石油のすべてを支配していたが、特にオイルショックを契機として、産油国に相次ぎ支配権が移った。国家(産油国側)と民間(欧米企業側)との間で争いはあったが、多くの場合、国家が勝っている。

 第二の波は、1980年代〜90年代に新興市場が台頭し始めたころだ。それと共に、それらの国々で、政府による所有が進んだ。

 第三の波は、sovereign wealth fund(政府系ファンド)だ。この種のファンドは実は50年前から存在するが、sovereign wealth fundという言葉が広がったのはほんの5年前のことだ。つまり、世界各地の投資パターンで、国家がさらに重要な役割を担うようになってきたということだ。

 そして第四の波が最も重要で、金融危機だ。

 この金融危機で、欧米諸国の自由市場システムのすべてが突然崩壊した。短期間だったが、機能する金融システムがこの世界に一体存在するのかという疑問まで持たれるほどだった。そうした中で、中国はいち早くリセッションや金融危機から抜け出しただけでなく、抜け出した後の姿はさらに強大なものとなっていた。
次のページ>> 米国のリスクは、むしろ企業が国家を乗っ取ること

 近著『自由市場の終焉』(日本経済新聞出版社刊)の冒頭部分で、中国の何亜非(かあひ)・外務次官からリーマンショックショック後の2009年5月に「自由市場の失敗を受けて、国家が経済に果たすべき役割をみなさんはどうお考えですか」と聞かれたことがあると書いたが、5年前、10年前、20年前ならば、このような質問はありえなかっただろう。金融危機が起こって初めて、こうした質問も可能になったし、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)の首脳たちが新たな国際組織を持ちたいなどという意図について話し合うことができるようになったのだ。

――金融危機以降、欧米や日本でも民間経済活動への政府の介入が増えて、国家の存在感が増しているように感じられる。これは自由市場資本主義の国々も国家資本主義の方向に向かっているということか。それとも、国家資本主義とは根本的に異なるのか。

 非常に異なる。『自由市場の終焉』の中(60ページ)で「市場スペクトル」と名付けた図解で示したが、左に行けば「国家資本主義」、右に行けば「自由市場資本主義」で、中間もある。アメリカが右側で、中国は左側だ。たまたま今は世界最大の経済大国がアメリカで、2位が中国となっている。

 アメリカは金融危機が起きたために、国家が介入してきた。しかし、アメリカは依然、企業が支配している国だ。アメリカの企業の力は、日本やヨーロッパの企業と比較しても強大であり、ロビー活動等を通じて規制に関わる政策を決定する能力すら持っている。

 振り返れば金融危機前、アメリカの金融業はいわば自己規制だった。後に過ちを認めたとはいえ、それがいいアイディアだと、時の中央銀行のトップ(アラン・グリーンスパン前FRB議長)までが認めていたような国だ。そんなアメリカが国家資本主義になっていくという考え方は、本当に馬鹿げている。アメリカにおける本当の危険とは、国家が企業を乗っ取ろうとしていることではなく、企業が国家を乗っ取ろうとしていることだ。

――どういう意味か?
次のページ>> 中国の国家資本主義はあと10年は大丈夫?

 そもそもアメリカ企業の経営陣もその株主も競争を欲しているわけではない。可能ならば独占企業になりたいし、政府からの補助金もたくさん欲しい。しかし、現実にはそのようなことは無理なので、2番目にいいものとして自由市場システムを受け入れているのだ。競争相手による独占を防ぐために、だ。

 ただ、稀に企業は見事に国家を乗っ取り、少なくとも短期的に自分たちに有利な規制を決めることができたりする。アメリカの歴史を振り返れば、自動車、金融、石油掘削の3つの分野で、それが起きた。これは、アメリカ経済のサステイナビリティにとっては非常に悪いことだった。なにしろ規制する側が突然ひとつのチームに乗っ取られたのだから、レフリーがいないに等しい。レフリーが、何が起きようとも、あなたを支持するならば、一生懸命やる必要はない。これが、金融危機の大きな背景理由でもあった。

 しかし、言い換えれば、アメリカの自由市場資本主義は歯車が狂っただけだといえる。中国の何亜非・外務次官にも伝えたが、アメリカの自由市場そのものが失敗したわけではない。

――では、自由市場資本主義に対して、国家資本主義が持つ競争上の強みとは何か。

 特徴として言えることは有権者についてそれほど悩む必要はないということだ。たとえば、中国でインフラ整備のために村ごと移動させたければ、それは可能だし、日本で原発事故が起きた後でも、原発をたくさん作りたければ、それも可能だ。経済運営において、中国政府ははるかに大きなフレキシビリティを享受している。また、中国企業は、欧米企業を蹴落とすために、自国の法律システムを利用できる。国家資本主義には、最初からこうしたアドバンテージが組み込まれているのである。

――逆に弱みは何か。

 最終的に効率が悪くなっていくことだ。しかし、率直なところ、そこに至るまでは長い猶予があるだろう。

 先ほど低賃金労働という中国のアドバンテージもいずれはなくなると話したが、そうなるまでには少なくともあと10年はかかると思う。国家資本主義が深刻な事態に陥るまで、まだかなりの時間が残されているということだ。
次のページ>> 日本は本当に自由市場資本主義の側にいるのか?

――日本はもっと国家資本主義的な要素を取り入れたほうがいいと思うか。そもそも日本は本当に自由市場の側にいるのか?

 日本が自由市場の側にいることは明らかだ。アメリカは当然のこと、カナダ、フランス、イギリス、ドイツなどすべての産業民主国家は先ほど触れた「市場スペクトラム」の自由市場側に位置する。すべてだ。ブラジルは中間に少し近い。自由市場陣営には、良い規制を持つ国もあれば、悪い規制を持つ国もある。しかし、多国籍企業が支配しているという点で共通しているのだ。

 質問に戻れば、日本では、国家資本主義が必ずしも成長を促すとは思えない。むしろ政府がもっと企業と協力して、例えばインドの経済開発で日本企業が重要な役割を果たせるように戦略の考案を手助けするとか、もっと産業政策の強化を図る方向に行くべきだと思う。産業政策と国家資本主義は混同されやすいが、この2つは根本的に異なる。後者は、日本政府が多くの民間企業を乗っ取らないといけないことを意味する。

 なるほど、アメリカでは、GM(ゼネラル・モーターズ)が政府に救済されたが、あれは国による経営とは違う。GMの再建にメドが立ったら、政府は保有株のすべてを売るとしている。そのことを誤解してはならない。

――日本経済の将来について、あなたは悲観的か。

 基本的に悲観はしていない。日本について興味深いことは過去20年間成長していないということだ。20年間成長なしだ。それでも日本には社会的な結合力と安定がある。それは、東日本大震災後も変わらない。気候変動や資源の制約、食糧価格高騰という世界の環境変化に対しても、日本は他の多くの国よりもうまく対処できる位置にいると思う。
次のページ>> 外交政策と産業政策を効率的に統合する能力が必要な時代

 日本をどう思うかと聞かれると、普通は成長するかしないかという尺度で答えたくなるが、日本が成長しないことは分かっている。問題はデフレという症状ではなく、日本には人口統計上の成長がないことだ。つまり、自国で市場を成長させる能力がないことだ。しかし、成長できないことが、先ほど述べた世界の環境変化の中で、20年前と同じネガティブな意味合いを持つとは限らない。日本だけの話ではなく、我々は今、成長以外にもフォーカスを広げていかなければならない時期にあるのだ。

――しかし、その大事な時期に、日本は権力闘争に明け暮れている……。

 そうだろうが、あなたはニューヨーク出身の人にその質問をしていることを自覚すべきだ。アメリカでは、国に関わる問題となると、いろいろなところで策動する人たちが実に多い。そんな私から見れば、日本の政治ゲームなどは驚きには値しない。50年間、事実上の一党支配が続いてきた日本で、今まで支配する側に立ったことがない党が与党になったわけで、混乱しても当然だ。官僚との協力の方法も、もう一度ゼロから作っていくしかないだろう。

――日本が国家戦略面で特に急ぎ構築すべきものは何か。

 日本は極めて強固な産業政策を持っているが、外交政策は非常に軟弱だ。ちなみに、アメリカはその逆で、残念な表現を使えば、両国は陰と陽だ。

 質問に戻れば、世界的に政治と経済の動きが一緒になろうとしている中、日本に今必要なのは外交政策と産業政策を効率的に統合する能力である。今のままでは、特に動きの速いアジアにおいて立ち遅れて行くことになるだろう。しかしその際、日本が国家資本主義にならなければならない理由はない。その方向に向かうことは、むしろ日本経済のためにならないと心得ておくべきだ。

質問1 国家資本主義の興隆は世界経済にとってプラスかマイナスか
描画中...
52.7%
マイナス効果のほうが大きい
33.8%
まだ分からない
13.5%
プラス効果のほうが大きい  

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