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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』
Q:1216 復興と財政健全化の両立、増税以外に方法は?
◇回答
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
□水牛健太郎 :日本語学校教師、評論家
□中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
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■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:1215への回答、ありがとうございました。「カンブリア宮殿」というテレ
ビ番組のインタビュアーをやりはじめてすでに6年目ですが、「日本は停滞期から衰
退期に入りつつある」という認識を示すゲスト経営者が多くなってきました。そんな
時期、ある程度の成功を収めている企業を紹介するわけですが、特徴の1つとして、
従業員のモチベーションを重要視しているということが挙げられるようです。ただし、
従業員のモチベーションを上げるのは、簡単ではありません。
賃金は、働くモチベーションの重要な要素です。ただ、同業他社よりも圧倒的に高
い賃金を払わなければならないということではないようです。もちろん同業他社より
も明らかに低く、さらに昇給がないという場合には、モチベーションを上げるのは非
常にむずかしくなります。賃金の他にモチベーションの要素となるのは、「やらされ
感がないこと」だと思いました。言われたことをただ言われたとおりにやるというよ
り、ある仕事を「任されている」という感覚があるほうがやる気につながるようです。
日本の衰退は止めようがないのかも知れませんが、言われたことを言われたとおり
にやるのではなく、「やらされ感」のない、仕事を任されているという感覚を喜ぶ人
々が増えていくのは、よいことだと思います。
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■今回の質問【Q:1216】
先週、来日中のIMF筆頭副専務理事が都内で記者会見し、「復興対策と財政健全
化を両立させることが非常に重要な課題だ」と述べ、さらに、消費税率を将来15%
まで引き上げることが望ましいとの見解を示したそうです。
( http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110608-00000131-jij-int )
復興と財政健全化の両立ですが、増税以外に何か方法があるのでしょうか。
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村上龍
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
消費税率を「将来のある時点で」15%くらいにする政策は、財政事情・直間比率
・徴税コストなどの点から見て十分現実的で検討に値する選択肢でしょう。
将来のある時点とは、日本のインフレ率が十分に高まってデフレの心配が無くなっ
てから、ということです。今年、来年、といった時期に消費税率引き上げを決めると、
経済の縮小を招き、デフレからの脱却が遠のいて、強い縮小均衡圧力に晒されること
になるでしょう。
経済政策としては、上記のような展開を是非避けるべきであり、国民に「復興の重
要性」と「増税の我慢の必要性」を混同させて消費税率の引き上げを早期に達成しよ
うとする官僚共同体とその影響下にある政治家の意図に誘導されてはまずい、と強く
危惧します。
今回のIMFの見解は、それ自体として不自然ではないものではありますが、日本
の財務省の意図の後押しを受けたものである可能性も考えて、少々割引きして聞くべ
きものでしょう。
「復興」の投資効果は大きく、これに資金と国家の経済資源(労働力等)を投入する
ことは必要であると同時に、効果的でもあるはずなので、この資金を国の債務で調達
し、さらに、デフレを完全に脱却していない現在、これに緩和的な金融政策を組み合
わせることには何ら問題はありません。復興の必要性と消費税率の引き上げは別問題
であり、前者は速やかに行い、後者は、将来、経済環境の変化を見ながら、適切な税
負担のバランスの議論を経て決定・実行すべきものでしょう。
また、ご質問にある、増税以外の財政健全化の方法ですが、第一に支出の削減です
し、その他にも、インフレ率と名目成長率の引き上げによる税収の増加や実質債務の
削減など、複数の方法があります。この場合、増税は支出の削減を緩和する方向に働
くので、「お金をたくさん集めて、多くの支出に絡む」ことをより大きな権力の源泉
として、同時に飯の種ともする官僚共同体は、増税を指向することになります。官僚
集団の中では、時期に関係なく増税を実現することに対して幼稚な英雄主義がはび
こっているように見えます。
基本的に「復興」はどんな資源を投入して何をやるかという実物の問題で、費用を
増税で賄うか国債発行で賄うかはファイナンス(資金繰り)の問題です。両者は全く
無関係な訳ではありませんが、後者が前者の大きな制約要因であるかのような理解は
正しくありません。
ついでに申し上げると、財政が行う非効率的な資源配分に関わる支出の削減は現在
只今も大いに必要ですが、その目的は行政の効率化とひいては資源配分の適正化で
あって、今は不適切な「財政収支の改善」ではありません。
JMMも含めて、「財政健全化をどうするか?」という問題が動かしがたい制約で
あるかのように繰り返し繰り返し問われる現状は、増税を目指す官僚集団によるプロ
パガンダの影響を受けすぎているように思えます。「日本には大きな財政赤字があり、
このために、我々に出来ることは限られている」と嘆くことは、硬直的な財政運営と
相まって、「震災復興」のみならず、広い範囲の社会活動に余計な制限となっている
ように思えます。
復興にせよ社会保障にせよ、やるべきことはやる、ファイナンスは環境に応じて適
切に手配する、と割り切って前を向くべきでしょう。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )
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■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
復興の費用は、ここ数年の間という短い期間に必要になりますから、短期的に復興
と財政再建を両立させることは難しいのですが、中・長期的に両立させるためにはい
くつかの選択肢があると思います。そうした選択肢の中で最も有効な方法は、わが国
の経済を成長させることだと思います。その成長も実質ベースではなく、デフレを止
めて、ゆるやかなインフレ状況の下で、相対的に高い成長を達成出来ることがベスト
の組み合わせと考えます。
それを実現するためには、まず、将来のわが国全体にとって効率的で、有効な復興
プランを作ることから始めるべきです。復興のための財源に関する議論が先行してい
るようですが、本来、どのような復興プランがあるかという観点からスタートすべき
です。その場合、東北地方の被災地を単純に元の状況に戻すのではなく、今後の日本
を考えた姿に作り替えるという発想が必要だと思います。そうすることによって、復
興のための資金をより有効に使うことを考えるべきです。
従来のように、雇用維持を主眼として公共事業を被災地にばらまくプランでは、1
990年初頭のバブル崩壊後と同じことの繰り返しとなってしまいます。それでは、
地場の建設業者を潤すだけで、わが国社会全体の効率性を高めることにはならないは
ずです。今回は、その学習効果を十分に生かすべきです。
当然、復興プランには、しっかりした経済合理性=費用対効果の考え方を取り入れ
ることが求められます。実際に復興プランについては、現政権の大好きな諮問会議だ
けではなく、国内外の民間企業を含めた多くの人たちから意見を集めることも、有効
な選択肢になると思います。そうして上がってきたプランを、当事者である地域住民
や自治体の意見を反映させながら、本当の意味の専門家を集めた機関で審査すればよ
いと思います。
その復興プランを含めて、政策当局は、わが国を成長過程に戻すような計画=成長
戦略を真剣に検討すべきだと思います。現在のわが国の経済状況、有力な部材や部品
の供給基地としての強みを考えると、今ならまだ、わが国の経済を成長過程に押し上
げることはできると思います。今回の大震災をきかっけとして、われわれ国民も、も
う一度新しい国を作るぐらいの意気込みで、経済を強くすることを考えることが必要
です。
もし、わが国経済が再び高成長の過程に復帰することが出来れば、国の税収は増加
するはずです。税収が増加すれば、少しずつ財政状況を改善することが可能になりま
す。それに合わせ、社会福祉などの制度も実態に合わせて、少しずつ改革することも
できるはずです。それが現実のものになると、国民の老後に対する不安も和らぐこと
が期待できます。個人消費が活性化して経済の先行きに明るさが出て、それが人々の
心理をさらに改善するという好循環を期待することもできるでしょう。
そしてもう一つ、デフレ状態から脱却できると、財政再建にむけてさらに状況が改
善します。税金は、一般的に貨幣価値の変動を勘案していません。ですから、ゆるや
かにインフレ状態になり、見かけ上、企業収益が一段と改善すると、そのぶんだけ納
税額が増加することになります。
また、インフレ状態になり貨幣価値が低下すると、既存の国債の実質価値が低下す
ることになります。そうなると、国債を返済する方から見れば、価値の下がった金額
を返済すればよいことになります。それは、財政当局にとって大きな福音になるはず
です。
ただ、インフレが高進し、物価上昇率が大きく跳ねあがるようだと、保有資産の持
ち高等によって、国民の各層に不公平感が発生することが懸念されます。過度なイン
フレ期待には、注意が必要だと思います。その意味では、インフレが発生しさえすれ
ば、多くの事が片付くというような単純な発想は難しいと思います。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 水牛健太郎 :日本語学校教師、評論家
復興と財政健全化を両立しようとすれば、増税は極めて有力な選択肢です。ただ増
税をどのくらい、どんなタイミングでするかということは議論の余地があります。
「消費税を15%に」というのは十分検討に値する案ではありますが、これだけに限
られるわけではないでしょう。
「復興」には復興債を発行して大規模な公共事業を行うことが必要になります。そし
て「財政健全化」とは財政の収支バランスを改善すること。支出を減らすか収入を増
やす、もしくはその両方ということです。
復興のために大規模な支出を行いながら、財政健全化しようとするならば、その分
の財源をどうするかが大きな問題になります。ただの財政健全化にとどまらず、復興
債の償還の財源も必要になるからです。
考え方として二つ、「ほかの支出を減らす」か「収入を増やす」か、ということに
なりますが、「ほかの支出を減らす」はかなり難しいことが既に明らかになっていま
す。政権交代当初、民主党政権は「無駄な」支出を減らすことでマニフェストに掲げ
た新政策の財源としようとしましたが、失敗しました。当時の政権が「支出削減」に
対して政治的にかなり強い動機を持っていたにも関わらず、見るべき成果を挙げられ
なかったということは、支出の大幅な削減は誰がやっても現実的に難しいということ
です。
とすれば残るはただ「収入を増やす」ことが唯一可能な選択肢だということになり
ます。ただ、「収入を増やす」=「増税」でないことには十分注意が必要です。経済
成長に伴う自然増収の可能性を忘れてはいけません。
「復興」に関してはまだ道筋も立たず、まったく先も見えない状況ですが、緊急に新
しい街づくりが求められることから、様々な面における大幅な規制緩和につながる可
能性があります。また、これまで実現の機会のなかった新しいアイデアが試されたり、
新たな人材が活躍の場を得たりするなど、被災地だけでなく日本全体に波及する動き
の発信源となることが一つの理想的なシナリオでしょう(その意味で、私は宮城県の
村井嘉浩知事の動きに注目しています)。もはや避けられないエネルギー政策の見直
しも、新技術の開発・実用化につながるでしょうし、つなげるべきです。
そうなれば、復興は単に大規模な公共事業による「特需」をもたらすだけではなく、
日本全体の潜在成長率を高めるような効果もあるはずです。日本の経済規模は500
兆円ですから、1%成長は5兆円に相当し、そのうち租税負担率は2割強なので、1
兆円強の増収に相当します(これは単純計算で、実際は所得税の累進性などから、
もっと多めに増収するようです)。消費税収入は1%が大体2兆円強に当たりますか
ら、2%成長すれば消費税率を1%アップするのと同じ収入が得られます。
もちろん、日本の膨大な財政赤字を思えば、消費税をまったく上げないのも非現実
的だと思います。政府には財政規律が根本的に存在しないのだと思われれば、それは
それで日本経済への信頼が失われます。今後の高齢化の進展、福祉の水準の維持など
を考えても、消費税をある程度上げるのが現実的な選択肢であることは確かでしょう。
しかし、かつて増税や支出減などによってのみ財政再建を成し遂げた例は国内外と
もあまりなく、自然増収とあいまって財政が再建された例がほとんどだと思います。
要するにメリハリをつけて上手に使うことによって経済の成長性を高めることが重要
であり、そうしたトータルな戦略の一環として、消費税率のアップを位置づけるべき
だということです。
日本語学校教師、評論家:水牛健太郎
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■ 中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
リプスキーIMF筆頭専務理事の言う「復興対策と財政健全化の両立」ですが、た
だでさえ財政が危機的状況にある日本でいくら復興のためとはいえ、財政状況を無視
して、これ以上の財政赤字拡大、政府債務の増大を招くような政策はますます日本の
財政の健全化を遅らせ、将来的には世界経済にとっても大きなリスク要因となりかね
ない、という危惧の念から出たものと解釈しています。丁度、ギリシャの債務問題が
大きな関心を呼んでいるだけに、このタイミングで警鐘をならしたものでしょう。
ただ、消費税15%というと復興のための財源と財政赤字削減のための財源がごっ
ちゃになっているような誤解を与えますので、復興財源は財政赤字削減プログラム、
消費税15%引き上げとは切り離して考えるべきでしょう。復興財源は10〜20兆
円の巨額になると思われますが、わが国財政の危機的状況と被災地・被災者同胞を助
けるという精神を考慮すれば、基本的に税金で賄うべきであり、東西ドイツ統一時の
連帯税的性格を持たせたほうが良いと考えています。
但し、巨額の復興資金はこの2〜3年で集中的に必要となりますので、すぐに大幅
増税を実施すれば景気悪化を招きます。先ずは復興債を発行して資金を調達するもの
の、復興需要が本格化する2年後あたりから5〜10年のタームで復興税を徴収する
ことを条件とすべきでしょう。そうすれば、財政規律を遵守しつつ、景気浮揚を確実
なものにすることができると考えています。最近、欧米の政府機関、中央銀行と震災
復興について意見交換する機会がありましたが、上記の考え方は理にかなっていると
言ってくれました。復興プログラムは時限かつ自前で完結するプログラムであるべき
と思います。
さて、復興とは切り離して財政健全化を考えると、平成23年度予算では92兆円
の予算規模に対して、税金はわずか41兆円しかありません。プライマリーバランス
対象経費が71兆円ですので、単純にプライマリーバランスを達成するには30兆円
の増税が必要です。消費税1%引き上げで2.5兆円の増税と仮定すれば、消費税率
15%は今より10%の引き上げに相当しますので、25兆円の税収が見込まれます。
残りの5兆円はバラ撒き支出を削減すれば、プライマリーバランスが達成されます。
リプスキー筆頭専務理事がどういう根拠で15%という数字を出してきたのか分かり
ませんが、プライマリーバランス達成には15%くらいの消費税率が必要だというの
は上記の試算からなんとなく理解できます。
但し、これは極めて機械的に計算したものであり、実際のところプライマリーバラ
ンスを達成するために必要な消費税率は歳出カットにどれだけ切り込めるか、将来の
経済成長率をどう見るかで大きく変わってきます。歳出カットでは地方分権の実現に
より国の予算のかなり多くの部分がカットできるでしょうし、また成長戦略を強力に
推進することで税収見積もりが大きく変わるわけですから、最初からこの歳出カット
と経済成長底上げを考慮せずに、先ず消費税引き上げありきの議論は避けるべきで
しょう。あくまで歳出カット、経済成長、消費税率の3要因をどう組み合わせるかを
考えるのが本筋だと思います。
伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也
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JMM [Japan Mail Media] No.640 Monday Edition
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