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【第11回】 2011年6月9日ワークス研究所の労働市場最前線
「非正規という働き方」への誤解
萩原牧子 [リクルートワークス研究所研究員]6
非正規として働く人が増加している。非正規という働き方は、長期化すると、正社員との収入格差を生じさせたり、能力形成機会の損失を招いたり、未婚化にもつながるといわれ、正社員に移行することの重要性が叫ばれている。
筆者もそう考えていた。どうすれば、非正規で働く人が正社員に移行できるのだろうかと。問題の突破口を探し、30代の大卒男性の非正規社員を対象に、全国調査を実施した。その中で、非正規という働き方に対する多くの誤解や、正社員移行を解決策とする議論の限界が見えてきた。ここでは、調査から見えてきた、30代の大卒男性の非正規という働き方の実態を中心に紹介したい。
「非正規という働き方」への誤解
非正規と言えば、「不安定」「労働時間が短い」「収入が低い」「親にパラサイトしている」といったイメージを持つ人が多いかもしれない。では、その実態をみていこう。
●非正規といっても、雇用は継続している
非正規の64.0%が、雇用契約期間を定めて雇われていると回答した。しかし、雇用契約が更新される可能性が高いと回答した人は74.0%に達した。図表1は、雇用契約期間と勤続年数である。
雇用契約期間は1年未満が55.6%で、残りのほとんどが1年半未満であるが、現在の職場の勤続年数は雇用契約期間よりも長い傾向にある。図表では詳細の表記はしていないが、勤続年数が5年以上のものも2割にのぼる。このデータから、契約更新が繰り返し行われている実態がうかがえる。
次のページ>> 夫婦で見れば、非正規の世帯収入は低くない
●非正規の労働時間は短いとは言えない
非正規の82.5%が週5日以上働き、7割弱が週35時間以上働いている。極端に短いわけではない(図表2)。一方で、正社員の2割弱が週55時間以上(残業週15時間相当)働いていることも見逃せない。実は非正規社員は労働時間のバランスがよく、一部の正社員が働きすぎだと言えるかもしれない。
●夫婦で見れば、非正規の世帯収入は低くない
既婚率は正社員(54.8%)に比べ、非正規が19.1%とかなり低く、非正規の配偶者の57.4%が働いている(正社員の配偶者の労働率は46.6%)。夫が非正規の場合、妻がともに働いて家計を支えている様子がうかがえる。
世帯収入を単純化して計算すると、夫が非正規で妻が働いている場合、2人の年収平均の合計は502.2万円(252.1+250.1)で、配偶者が働いていない正社員の収入483.0万円と逆転するというのは興味深い(図表3)。雇用が不安定な時代においては、配偶者が働いていない正社員より、夫婦ともに働いている非正規のほうが、リスクが少ないかもしれない。
また、生活のおもな収入源については、非正規の78.8%が自身の収入によってなりたたせていると回答している。非正規は親にパラサイトしているという議論があるが、親の収入という回答は15.9%と少数派であった。
次のページ>> あえて非正規で働いているひとも4割強
以上を見ただけでも、非正規というイメージが多少改められたかもしれない。これまでのデータよりさらに筆者が興味深かったのが、つぎの調査結果である。
●非正規の6割強が正社員も経験し、現在、消極的に非正規であるのは6割弱
これまで経験した就業形態について、非正規の61.6%が正社員を経験していた。また、現在、非正規で働く理由は、「正社員の仕事が得られなかった」と いう、消極的な理由は6割弱であった(図表4)。
非正規という働き方には様々な意見があるが、今回の調査では、実はあえて非正規で働いている人が4割強も存在する。どうしてなのだろうか。彼らの望ましい働き方について詳しくみてみたい。
本当に望んでいる働き方とは
現在の就業形態で働いている理由を「正社員での仕事が得られなかったから」という人を、「消極的非正規」に、「就業形態にこだわらず仕事を探した」と「そもそも正社員としての仕事に就く気がなかったから」を「自発的非正規」に分けて、望ましい働き方についての回答を比較した(図表5)。
次のページ>> 仕事以外の時間を大切にする まず、自発的非正規に注目してみよう。正社員に比べて、昇進(出世)や大きな責任のある仕事を望まず、マニュアルや手順にそって仕事を進めることや、無理せずきっちり働くこと、経済的に恵まれなくても仕事以外の時間を大切にすることを望む。安定した雇用契約も望ましいが、その選択率は正社員に比べて低く、ほかの望ましい条件をかなえるために、いまの非正規という働き方を選んでいる様子がうかがえる。
次に、消極的非正規をみてみよう。さきほどの自発的非正規の傾向に似ている。ただし、昇進(出世)に対しては、自発的非正規よりも望んでおらず、マニュアルや手順にそって仕事を進めることや、無理せずきっちり働くことを望んでいる割合も自発的非正規よりも高い。その上で、安定した雇用形態を求めているのである。
この結果を踏まえると、自発的非正規は、正社員という雇用形態よりも、その他の望ましい働き方を優先して、今に至ると考えられる。そして、消極的非正規は、その他の望ましい働き方が実現できる正社員を求めて、正社員での仕事が得られずにいる。
この両者に対して、現状の正社員になることが、望ましいことなのであろうか。彼らにとって選択に値する道なのであろうか。
図表6をみてほしい。正社員と非正規社員に、現在の就業実態について聞いたものである。設問は、先ほどの望ましい働き方についての設問に対応しているので、それぞれの就業形態で、実現できる働き方なのかを確認することができる。
次のページ>> 自発的非正規社員の本当の悩み 言うまでもなく、正社員になると、昇進(出世)する可能性が高まる。マニュアルにそって進める仕事は減り、仕事に大きな責任を伴い、多少の無理をすることや残業も増えてしまう。安定した雇用形態を手にいれるということは、現状では、これらの義務も伴ってしまうのだ。
正社員になりたいがなれない人を取りあげて、問題だという議論がある。しかし、現在の正社員での求人が増えたとしても、消極的非正規の望ましい働き方と、現在の正社員が求められる働き方のギャップが埋まらない以上、消極的非正規の問題は、解決しないかも知れない。
自発的非正規社員の本当の悩み
調査によって、自発的非正規にとっては、非正規という働き方でも、雇用が継続されて、望ましい働き方として選択肢になり得ている様子がうかがえた。30代になっても、男性で非正規という働き方を続けることについて、実際にどう感じているのか、調査対象者に直接聞いてみることにした。
インタビューでは、まず、収入や不安定さというものが彼らにとって大きな問題ではないことが確認された。それよりも、非正規という働き方に対する社会の評価やイメージが、非正規で働き続けることを難しくしている実態が多く語られた。
●世間体っていうのもあって。初めてあった人に、派遣でやっていますって、あんまり言いにくいです。
●一番の不都合は、社会的な面です。お金はちゃんとそろっているのに、「アルバイトなんでローンは組めません」とか。
●正規の社員ではないという人に対する地位が世間的に見て比較的低い。自分がしっかりしていればいいんでしょうけど。
●ほかの人間(大学のときの友達)はみんな正社員なんで、やっぱり自分もちょっと気遅れして、なかなか連絡をとらないんですね。
調査からみえたことから考えると、非正規社員の中には偏ったイメージにより、肩身の狭いを思いをしている人がいるように思う。
次のページ>> Win-Winの関係を目指して
Win-Winの関係を目指して
まず、社会、そして、雇用する側は、非正規社員の実態を正しく理解すること、一方で、雇用される側は、正社員で雇用されるには、責任が伴うことを自覚すること、両側からの改善が必要であろう。
また、新しい就業形態の可能性も考えられないだろうか。非正規社員は、昇進(出世)や大きな責任のある仕事を望まず、無理せずきっちり働くことを望んでいる。高い収入は望んでいない。
さらに、仕事を通じて成長したいという意思は、非正規社員(そう思う計72.8%)と正社員(75.5%)を比べても、大きく変わらない。多くの企業で管理職ポスト不足が問題になっていることを考慮すると、通常の昇進(出世)を目指すコースとは別に、仕事の範囲が限られた、新しい正社員という形態が、(成長意欲が高い人材を高くない給与で活用できる)企業にとっても、(望ましい働き方で安定雇用を得られる)個人にとってWin-Winの状態になりえないだろうか。
いまや望ましい働き方は多様である。多様な人材を活かすために様々な就業形態の在り様が求められる。さまざまな働き方が生まれ、それぞれの働き方が尊重されるとき、そもそも正社員と非正規社員の2つに分けて議論すること事態に意味がなくなるだろう。
(ワークス研究所研究員 萩原牧子)
質問1 非正規社員という働き方は望ましくないと思いますか?
49.1%
契約の条件による
29.4%
望ましくないと思う
18.4%
そうは思わない
3.1%
わからない
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