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【オピニオン】予想以上に悪化する米国経済
マーティン・フェルドシュタイン
2011年 6月 9日 7:00 JST
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マーティン・フェルドシュタイン ハーバード大学教授
オバマ政権が打ち出した数々の政策は米国経済の悪化をもたらしてきた。今後1年間の経済成長は良くて平均以下と予想され、失業と不完全雇用は高止まりするか、上昇するだろう。
2011年1〜3月期のGDP(国内総生産)成長率は年率でわずか1.8%と、昨年10〜12月期の3.1%から減速した。だが、実はこの数字以 上に経済が悪化している。1.8%という成長率の3分の2は、個人消費あるいは最終的な買い手への販売ではなく、企業の在庫投資によるものである。最終的 な売り上げの成長率は年率で0.6%に過ぎない。つまり、昨年10〜12月期からの実質的な成長率はわずか0.15%と、ほぼゼロ成長と言っても過言では ない。在庫投資だけでは持続可能な経済成長を期待することはできない。企業の雇用や投資に結びつくのは最終的な売り上げなのである。
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Chad Crowe
細かく分析すると、さらに憂鬱な実態が浮かび上ってくる。月ごとのGDP予想からは、2011年1〜3月期で前月比増になったのは3月のみであることが示されている。米国経済は3月に一時的に拡大した後、4月には再び縮小し始めている。同月は、実質賃金、耐久財受注と鉱工業生産、中古住宅販売、国民1人当たりの実質可処分所得はいずれも減少した。景気先行指数が4月に低下したのは予想通りではあった。だが、この指数は2009年春に上昇に転じて以来、低下は今回を含め2度目だ。
5月のデータも出そろい始めているが、今のところ4月より悪化した数字となっている。中でも目立つのは、雇用成長の大幅縮小、失業率の上昇、製造業の受注および生産の鈍化、小売りチェーン店売り上げの軟調、消費者信頼感指数の大幅低下である。
堅調かつ持続可能な景気回復に失敗したことについて、オバマ政権はどの程度の責任があるのだろうか?
オバマ政権による最も明らかな失策は誤った財政政策である。例えば、自動車買い替え助成金制度、初めて家を買う人に対する優遇税制、8300億ドル規模の「景気刺激」策など。自動車買い替え助成金制度は自動車生産を一時的に押し上げたが、経済に対して持続的な効果をもたらさなかった。初めて家を買う人に対する税優遇による住宅需要も一時的なものだった。
「景気刺激」策については、その規模も内容も不十分であり、総需要の大幅な減少を相殺できなかった。2008年末までに1世帯当たり資産が縮小し、年間の個人消費は5000億ドル以上減少した。また、住宅着工件数の減少の影響でGDPが2000億ドル低くなった。したがって、GDPの縮小規模は7000億ドルを超えた。オバマ政権の景気刺激策は2009年に3000億ドル弱の規模でスタートし、2010年には4000億ドルにまで達した。しかし、刺激策の1ドル当たりGDPが1ドル上昇すると仮定したとしても、7000億ドルというGDPの縮小額を穴埋めするには十分ではなかったのである。だが実際には、財政赤字を1ドル増やしてもGDPへの貢献は1ドルを大幅に下回った。
過去の経験から言うと、一時的な財政刺激策でコスト的に最も効果的なのは直接的な政府支出である。2009年の場合、それを実行する上で最も明確な選択肢はイランおよびアフガニスタンで使用される兵器の修理や交換だった。これらの措置はいずれ必要になってくるものだからだ。しかし、オバマ政権の景気刺激策が国防省関連に向けられることはなかった。その代りに、地方自治体への資金のばらまきや、個人へのばらまき、低所得者層に対する一時的な減税が、議会の民主党首脳の主導で寄せ集め的に実施された。その結果、経済成長を達成することなく財政赤字が拡大した。
景気の軟調が続く2番目の原因は、増税を重視するオバマ大統領の姿勢である。オバマ大統領はブッシュ減税の延長にしぶしぶ同意したが、今年度の予算では高所得者層および多国籍企業に対する増税が再び盛り込まれた。個人や企業が増税を懸念するあまり、堅実な景気回復の要因となる起業家的投資や事業拡大に二の足を踏んでいるのは当然だ。
3番目の問題は、将来の財政赤字や増加する国家債務に対処するための明確な計画が欠けていることである。そのため、将来の増税や金利の見通しへの懸念が生じ、家計支出や企業の投資の妨げとなっている。米国の政府債務残高は今年、GDPの69%に達し、2008年の40%から大幅に増加していることが示された。米議会予算局(CBO)の試算によると、この比率は10年後には85%になり、その後も増加が続くとされている。
さらに、オバマ大統領の医療保険制度改革では、最初の10年間で1兆ドル超のコストが掛かると見込まれていることから、現実はもっと厳しい状況だ。オバマ大統領は、この医療保険改革法で政府債務が「10セントたりとも増えること」はないと豪語しているが、それが可能になるには、提案されている増税の実施に加え、まず実現しないだろうと思われる「メディケア(高齢者向け医療保険制度)」負担の削減が条件となる。
そして最後の問題は、ドルの世界的価値についてオバマ政権の見解がちぐはぐなことである。米財務省が「ドル高は米国にとって良いことだ」と繰り返し主張する一方、ドルの実質価値は過去1年間で7%低下している。さらには中国に対して、人民元に対して速やかにドル安を進行させるよう求めている。このような通貨政策の一貫性の欠如により、不透明感が強くなり、設備投資や雇用が抑制されている。
一貫性があり効果的な経済政策が打ち出されない限り、景気悪化は今後も続くであろう。そのような政策とは、政府支出の削減と、直接的な政府支出と同等の税制優遇措置の抑制により、限界税率を引き上げることなく長期的に財政赤字を管理することである。また、法人税と所得税を引き下げて、起業家的活動や投資を促進することも実行されるべき政策だろう。さらに、社会保障制度とメディケアの改革を進めて、将来の退職者の生活水準を保護するとともに将来の納税者の負担も抑える施策も必要である。
これらの政策は全て実行可能だ。しかし、オバマ政権はこれまで、そのいずれも実施しなかったばかりか、今後も実施する意向も示していない。
(レーガン大統領の下で経済諮問委員会委員長を務めたフェルドシュタイン氏は、ハーバード大学教授で、WSJ寄稿者委員会(The Wall Street Journal’s board of contributors)のメンバー)
記者: Martin Feldstein
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