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日本の貿易構造をどのようなものにすべきか  日本の貿易構造は、決して高度工業社会のものとは言えない
http://www.asyura2.com/11/hasan72/msg/148.html
投稿者 sci 日時 2011 年 6 月 10 日 01:36:09: 6WQSToHgoAVCQ
 

最近の日本のネット論壇は需要不足と緩和を唱える人が多いから、サプライサイド重視の野口は少数派か
しかし財務省や増税派にとっては頼もしい存在かもしれないな
http://diamond.jp/articles/-/12635
野口悠紀雄 未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか
【第16回】 2011年6月9日
野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
日本の貿易構造をどのようなものにすべきか?4

 4月の貿易収支は赤字となったが、これをもたらした主たる原因は、自動車の輸出が激減し、他方で原油とLNG(液化天然ガス)の輸入が増加したことである。
 今後の見通しについては、前回述べた。その結論は、
1.自動車輸出は今年いっぱいくらいには回復するだろう。2.しかし、原油とLNGの輸入は減らないだろう。
 ということであった。
 したがって、貿易赤字は短期間で克服できる問題ではなく、今後かなりの期間にわたって継続する可能性が高い。1980年代以降、日本の貿易収支が年間を通じて赤字だったことはないので、大きな変化が日本経済に起きたことがわかる。
 東日本大震災によって生じた経済条件の変化を考えると、「原油やLNGを大量に輸入して工業製品を輸出するという貿易のパターンを、今後も続けてよいのか?」という疑問が発生する。
 中長期的な観点からもう一つ重要なことは、生産活動のうち、海外で行なわれる比率が高くなることである。それは、日本の貿易収支の赤字をさらに拡大する方向に働くが、この傾向をどう評価すべきだろうか?
 これらはいずれも、日本の産業構造と密接にかかわる問題である。この問題について考えるために、まず、過去の貿易構造がどのように変化してきたかを概観することとしよう。
電気機器と半導体では輸出・輸入比率が顕著に低下
 日本製造業の国内生産比率の低下は、いくつかの分野ですでに生じている。とりわけ顕著なのが、電気機器やエレクトロニクスの分野だ。
 【図表1】には、電気機器と半導体についての輸出・輸入比率を示す。

 電気機器の場合、80年代には輸出が輸入の6〜8倍程度あった。しかし、90年代の前半にこの比率が急低下し、90年代の中頃には3倍を下回るようになった。2011年2月には、輸出と輸入の比率は1.2倍程度まで低下した。
 半導体においても同様の傾向が見られる。80年代には輸出・輸入比は5〜6程度であった。しかし、90年代初めに4程度に急低下し、90年代の中頃には2.5程度になった。現在では2程度である。
次のページ>>電子製品輸出減少の背景にある「アジアNIES」の成長と「海外生産依存」
 このような大きな変化が生じたのは、韓国、台湾をはじめとするアジアNIES(新興工業経済地域)の成長があったからである。そして、為替レート が円高になったことの影響もある(1992年の1ドル=130円台から94年の100円台まで、さらに95年には80円台にまでなった)。
 電子製品の輸出が減ったのは、国際市場でアジアNIESに押されただけでなく、日本企業が積極的に生産を海外に依存するようになったからである。このための方法としては、生産拠点を海外に移転することの他にも、OEM、EMS、ファウンドリなどがある。
 OEM(Original Equipment Manufacturing)とは、他社ブランドの製品を製造すること。EMS(Electronics Manufacturing Service)とは、電子機器の受託生産を行なうサービスを指す。OEMと似た形態だが、EMSでは製品の設計も受注先に代わって行なっている。
 ファウンドリとは、他社からの委託により、半導体チップの製造を専門的に行なう企業のことである。他方で、自社で生産設備を持たずにファウンドリに生産委託し、自らは製品の設計やマーケティング、販売などに特化するメーカーをファブレス企業と言う。
 電気機器、半導体については、OEMメーカーやファウンドリが海外に立地している場合が多いので、上で見たように輸出・輸入比が低下したと考えられる。
機械・金属製品でも輸出・輸入比率が低下
 輸出・輸入比率の低下は、一般機械においても見られる(【図表2】参照)。輸出・輸入比は80年代には6倍程度、90年代の前半でも5程度だっ た。しかし、それ以降低下して95年には3を切るようになり、90年代の末からは2台の値になった。2006年頃からはわずかではあるが上昇傾向が見られ る。これは、対中国輸出が増加していることの影響だろう。

 金属製品は、80年代の末には輸出・輸入比率は4程度であったが、90年代の中頃に2程度となり、現在では1程度に低下している。
 医薬品については、もともと日本の医薬品産業の国際競争力は強くなかった。それを反映して、輸出・輸入比率も90年代前半まで0.2〜0.3程度 という低い値であった。その後徐々に上昇して、90年代の末には0.5を超えるまでになった。しかし、05年頃から再び低下している。
次のページ>>自動車も輸出・輸入比率が低下した時期がある
 自動車関連についてはどうであろうか? 自動車は日本の最重要の輸出製品であり、90年代以降、国内需要の飽和に対応するために、国内生産に対する輸出の比率が高くなったというイメージがある。
 しかし、輸出・輸入比率の実際の推移を見ると、【図表3】に示すように、88〜91年頃と94〜96年頃には低下している。顕著に上昇したのは、 05〜07年頃だけのことだ。この期間に輸出・輸入比率が高まったのは、アメリカで住宅価格バブルを背景として自動車の購入が高まったことの影響だ。

 自動車部品は、91〜94年頃を除けば、むしろ傾向的に低下していると見ることができる。輸送機器全体では、90年代の末以降、顕著な傾向は見られない。
 このように、輸出産業としてのイメージが強い自動車関連についても、輸出・輸入比率が傾向的に高まっているとは言えないのである。
原材料製品の輸出・輸入比率はむしろ上昇気味
 【図表4】に示す原材料製品については、輸出・輸入比率の低下傾向は見られない。むしろ、比率は上昇気味である。

 鉄鋼の場合、輸出・輸入比率は90年代までは3〜4程度であった。しかし、その後比率は4〜5程度に上昇した。2001年頃と09年には7を超える水準まで上昇した。
 鉄ほど顕著ではないが、他の原料についても、類似の傾向が見られる。化学製品や非鉄金属も、06年頃には上昇気味であった。繊維も90年代初めに は若干ではあるが比率が上昇した。原材料全体も、09、10年頃には上昇気味であった。少なくとも、これらの項目について、電気機器や一般機械のような明 白な低下傾向が見られなかったことは疑いない。
次のページ>>中間財生産者としての日本の役割は低下?
以上で見たことをきわめて大ざっぱにまとめれば、高度な技術が必要とされる加工型の製造業において国内生産の比率が低下し(ただし、自動車は上昇し た時期もある)、その半面で、エネルギー多消費的な装置産業において国内生産比率が一定または上昇気味という傾向が見られるのである。
「日本は高付加価値の製造業において比較優位を持っており、とくに新興国に対して中間財(機械などの資本財や部品)の供給を行なっている」というイメージが一般的である。
 80年代には確かにそうした構造だった。
 しかし、それ以降の貿易構造の変化は、そのようなイメージを裏付けるものにはなっていない。とくに、一般機械や自動車部品において輸出・輸入比率が低下しているのは、むしろ中間財生産者としての日本の役割が低下していることを示していると解釈することができるのである。
 これは、やや意外な結果である。90年代以降の日本の貿易構造は、決して高度工業社会のものとは言えないのである。
 90年代以降の日本が「失われた20年」に陥った原因として、金融緩和が不十分であったとか、少子化が進んだからだと言われることがある。しか し、もっとも重要な原因は、産業構造が高度化しなかったことなのだ。それは、製造業対高度サービス業という関係だけでなく、製造業の枠内に限っても言える ことである。
 では、なぜこのような変化が生じたのだろうか? それについて次回に検討を行なうこととする。
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