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2011年6月5日
この記事は「米国債政治デフォルトの危機」などの続きです。
5月16日に米国の財政赤字が法定上限に達し、追加の国債発行ができなくなって以来、米議会は上限を引き上げるべきかどうかの議論を断続的に続けている。だが、前ブッシュ政権(共和党)時代に時限立法で制定された金持ち減税をやめて増税して赤字を減らすべきだと主張する民主党と、民主党が重視する社会保障費の支出を切り詰めて赤字を減らすべきだと主張する共和党という二大政党間の対立が解けず、引き上げは実施されていない。 (Lawmakers Dig In Over Debt-Ceiling Demands After Credit Warning)
米財務省は、公務員年金用に積み立てておいた資金などを取り崩して他の財政支出用に使い、急場をしのいでいるが、そのやり方も8月2日までしか持たない。その後は米国債の償還金や利子の支払いができず、米国債がデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が増す。6月末には、米連銀による米国債の買い支え事業(QE2)も終わり、下支えが失われる中での危機になる。 (Suddenly, The "Unthinkable" Debt Ceiling Solution Is Becoming Mainstream)
世界の全債券の頂点に立つ米国債が不履行に陥ると、金融システムの大黒柱である債券市場に大混乱を巻き起こすだろう。だが、議会下院の多数派を握る共和党内では「短期間のデフォルトを起こした方が、オバマ政権(民主党)が本気で支出削減せざるを得なくなるので、むしろ好都合だ」と高をくくった姿勢が強い。下院の共和党は6月1日、わざわざ否決する目的で、赤字上限を引き上げる法案を出して票決し、否決する政治ショーを展開した。 (Debt Ceiling Tragicomedy Resumes: On Today's Symbolic, And Doomed, $2.4 Trillion Debt Ceiling Vote)
この危険な火遊び的な動きを見て、米国の債券格付け機関ムーディーズは6月2日に「赤字上限引き上げをめぐる民主・共和両党間の主張の対立が強いので、米国債が短期的にデフォルトする可能性が増している」「デフォルトが起こり、その悪影響が大きいと判断されたら、米国債を格下げする」「7月中旬までに議会の議論が進展しない場合、米国債の格下げを検討し始める」などという方針を発表した。 (Moody's Update on Rating Implications of US Debt Limit, Long-Term Budget Negotiation)
債券の価値は格付けで決まるので、格下げは重大だ。ムーディーズが、米国債の格下げを検討し始める期日として、米財務省が指定した期限である8月2日でなく、その2週間前の7月中旬を指定した点が大事だ。 (Debt Ceiling Fight Could Strain Economy Even Before August, With Moody's Downgrade Possible)
▼7月に混乱が加速する?
今から7月中旬まで1カ月半の時間があるが、1週間の休会が2回はさまるので、議論できる期間は6月13日からの2週間と、7月6日からの2週間だけだ。共和党が上限引き上げ絶対拒否の姿勢なので、6月中は議論が進まないだろう。8月に入ると長い夏休みなので審議できない。となると、本気の議論が行われるのは7月6日からの2週間だけになる。その間に2大政党間で話が妥結しなければ、米国債デフォルトの可能性が一気に強まり、ムーディーズは米国債の格下げを検討し始める。 (2011 Published Schedules)
米国では来年、総選挙(大統領と議会の選挙)があり、選挙に近づくほど、両党は財政政策を見直したがらなくなる。両党とも、選挙に勝って自党の好き勝手にできるようになるまで待とうと思うからだ。ムーディーズは、上限引き上げ問題の根幹にある財政政策の見直しについて、今回の機会に見直しが両党間で妥結しない場合、来年の選挙まで見直しは無理だと予測している。
米財務省は、選挙後まで米国の財政を持たせるには2兆ドルの赤字上限引き上げが必要だと言っている。米議会は、7月中旬の土壇場で、国債デフォルトを避けるため、時間稼ぎの少額の赤字上限引き上げを模索するかもしれないが、それは2兆ドルよりずっと少ない額となるだろう。選挙後までの時間稼ぎとして不十分だ。延命策として色々な選択肢があるものの、デフォルトの可能性は増大している。7月は金融市場の動向が要注意だ。 (Debt Ceiling No Longer a Laughing Matter: Analyst)
米国の財政赤字はGDPと大体同額だ。GDPの2倍の赤字がある日本より、ずっと少ない。しかし、日本政府の財政赤字の95%は政府が国内の金融機関などに買わせているのに対し、米政府の赤字の半分は、中国やアラブ、日本など海外の投資家に買ってもらっている。国内金融界は政府の言うことを聞くが、外国投資家の多くは聞いてくれない。国債を買ってもらえなくなって破綻する確率は、日本より米国の方が高い。
財政破綻と金融危機を引き起こすのに「デフォルトした方が良いんだ」と豪語する米共和党は、大間抜けか売国奴(隠れ多極主義者)である。米マスコミは、それをほとんど指摘しない。
世界的に、米国の覇権失墜を本気で望む勢力は、まだ少ない。今の米国覇権体制に賛成する大多数の国々の政府や銀行などは、ドルや米国債が安定している限り買い続けたいと思っている。米国は、まだ財政赤字を増やしても大丈夫だ。それなのに米議会は、世界の投資家を不安にさせるデフォルト議論を続けている。今後、米国債がデフォルトするとしたら、それは経済的(市場原理的)な理由からでなく、議会のばかげた論争の結果としての政治的な理由からであり、政治的デフォルトとなる。 (Patriots Don't Let Their Nation Default)
米国は今、財政赤字を減らすのが非常に困難になっている。米政府はリーマンショック後、巨額の赤字を作って経済テコ入れ策をやった。しかし、失業はなかなか減らないし、金融危機の元凶である住宅相場の値下がりも止まらない。CNBCは「米経済指標が、崖から落ちるように悪化している」と書いている。 (Horror for US Economy as Data Falls off Cliff)
6月3日に発表された5月分の米国の雇用統計は、事前に12万人の雇用増が予測されていたが、実際には6万人しか増えず、景気回復の遅れが顕著になった。しかも6万人の雇用増のうち半分は、マクドナルドが夏のシーズン向けに季節的に従業員を大増員したことの影響であり、1企業の季節的増員が米国の雇用増を支える不健全な状態だ。 (McDonald's and other May jobs fun)
米国の景気が再び悪化したら、米政府は追加の対策が必要になるが、議会で赤字縮小ばかりが論じられる中で追加対策は難しい。QE2の延長も、やりそうもない。米経済は危険さを増している。
こうした米国の状況と、日本の政界で起きている「菅おろし」は、タイミング的に合致するところがある。それについては短信だが、田中宇プラスの有料記事「国是めぐる政争が再燃した日本」として書いた。 (国是めぐる政争が再燃した日本)
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