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http://www.nli-research.co.jp/report/report/2011/06/repo1106-T.pdf
孤立死のリスクと向き合う
生活研究部門 主任研究員廣渡健司
東日本大震災により多くの被災者が避難生活を強いられ、今後も仮設住宅等での生活を余儀なくさ
れる中で、マスコミ等では阪神大震災後の経験から改めて孤立死防止対策の必要性が唱えられている。
しかし災害時に限らず、今後単身高齢者が爆発的に増加していく社会構造の中では、孤立死は誰もが
自分に降りかかる可能性のあるリスクとして理解し、備える必要がある課題といえる。ニッセイ基礎
研究所が行った平成22年度老人保健健康増進等事業による調査研究の中から、私たちの身近に潜む孤
立死のリスクと実態を紹介し、備え方についての私見を述べたい。
1--------孤立死のリスク
孤立死を「自宅にて死亡し、死後発見までに一定期間経過している人」として、東京都23区におけ
る孤立死の発生数から算出した発生確率(死後4日以上)は65歳以上高齢者全体で死者100人あたり
1.74人であるが、性と年齢によって大きく異なっており、最も発生確率の高い65−69歳男性でみれば、
死者100人のうち8.36人が死後2日以上、5.69人が死後4日以上、3.90人が死後8日以上経過して発見
されるという実態がある。(図表−1)
その確率を元に全国の推計を行うと、全国において年間15,603人(男性10,622人、女性4,981人)の
高齢者が死後4日以上を経て発見される状態で亡くなっていることになる。(図表−2)
2--------孤立死の実態と支援拒否への対応
全国から収集した孤立死事例についてみてみると、要介護度が高い事例やフォーマルサービスの関
わりが多い事例ほど、死後経過日数が短い傾向にあり、約80%の割合で「汚れた衣類着用」や「室内の
ゴミ放置」、「閉じこもり」や「医療拒否」といったいわゆるセルフ・ネグレクト状態にあることが想
定される事例が含まれていた。また、死後発見までの期間ごとに事例を整理してみると、生前の本人
の生活における他者との「物理的な距離」「日ごろの関係の深さ」「関わりの頻度」によって差異が見
られ、より近くに、より深く、より頻繁に関わっている方がいることが早期発見につながっており、
他人との接点が少なく、かつ薄いケースでは長く発見が遅れているようである。
特に、死後発見が遅れた多くの事例から浮かび上がってくるのは、「周囲の支援を頑なに拒否する
高齢者像」と「近隣に親族が居住するケースや、本人がしっかりと自立生活を維持しているケースに
おいて、周囲の警戒感が緩み発見が遅れてしまうことがある」というリスクの存在である。
特に「高齢者本人による支援拒否」は、多くの自治体が「孤立予防・解消」の取り組みを進める上
でも直面する課題としてあげられているが、積極的に取り組んでいる自治体においても、本人を中心
にした支援者のチームを作り、関係づくりと継続的な関わりを地道に進める局面で、本人の状態を理
解しスムーズな支援につなげるキーマンとしての家族の存在が求められている。また自立生活ができ
ている高齢者であっても、突然死のリスクを踏まえた地域での人間関係が必要といえる。
【全国から収集した事例(参考)】
80代前半男性。近所に住む息子が死後4〜5日後に発見。金が
入ると全てアルコールにまわして、家に閉じこもる。福祉サー
ビスは金銭的な問題で中止。本人の性格と行動もあり近隣との
関係は疎遠だったが、すぐ近くに息子がいるので安否確認はで
きていると思われていた。
70代前半男性。ほぼ毎日連絡を取り合っていた妹が連絡がとれ
ないことを心配して訪問し、風呂場での死亡を発見。死後11日。
生活は自立し、行政とのコミュニケーションもあった。しかし、
玄関横の窓から異臭がするにもかかわらず近隣からの通報がな
く、付き合いが希薄だったことが推測される。
70代後半女性。以前よりサービス受入拒否があり周囲が心配。
連絡を受け訪問したケアマネジャーが玄関での死亡を発見。死
後11日。汚れた衣類、無入浴等不衛生な状態。他人の関わりに
強い拒否。プライドが高く状態が悪化する自分の姿を他人にさ
らすことに強い抵抗があり周囲との関係も次第に疎遠に。
80代後半男性。認知症の妻と同居。県外の娘から連絡が取れな
いとの電話を受け、訪問して発見。親戚は殆ど県外。地域住民
とのかかわりも乏しい状況で、妻の介護をしながら生活。妻の
徘徊問題もあり、介護保険サービス利用を勧められるも利用に
は至らず。
3--------個人に求められるもの
住み慣れた場所で、自分の時間を大切にしながら、ある日突然に最期の時を迎えることは、むしろ
理想かもしれない。しかし、死後発見が遅れれば腐敗等の進行により、本人の尊厳の問題だけでなく、
社会経済的にも多大な影響を及ぼすことになる。そういう観点からやはり、自宅で死亡したケースに
おいても死後できるだけ早期に発見されることが望ましい。
行政や社協、自治会等、地域の中では、訪問・見守り活動等、孤立を防ぐさまざまな取組み、努力
が行われているが、どれだけ周囲ががんばっても、本人が支援を拒否するケースでは対応が難しく、
その取組みの効果も限定的になる。我慢づよさ、慎み深さは美徳ではあるが、周囲の関わりを「監視」
としてではなく、「万一の時に自分の尊厳を守る備え」と理解し、加齢による身体の変化と周囲の思
いやりを受け入れることが、生活の潤いにもつながるのではないだろうか。
震災に直接被災しなかった方々も含めて、誰もが人と人との絆の大切さを痛感した今日、大切な人
や将来の自分が「孤立状態」に陥らないよう、離れて暮らす親やその近隣の方々との関わり方、自ら
の地域での人間関係について再確認していただくきっかけにしていただければと願うところである。
平成22年度老人保健健康増進等事業
「セルフ・ネグレクトと孤立死に関する実態把握と地域支援のあり方に関する調査研究報告書」
http://www.nli-research.co.jp/report/misc/2011/sn110421.pdf
公表について
http://www.nli-research.co.jp/company/110421self_neglect.pdf
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