02. 2011年5月23日 22:02:04: Pj82T22SRI
増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル トップ | 米4月中古住宅販売、0.8%減=新規取得増加でも 2011/05/20 (金) 22:39−住宅価格、−5.0%=格安物件、依然高水準で− 【2011年5月20日(金)】 NAR(全米不動産業協会)が19日発表した4月の米中古住宅販売件数は、前月比0.8%減の年率換算505万戸と、前月(3月)の同3.5%増から減少に転じた。4月の新規雇用者数が3カ月連続で20万人を超えたほか、先行指標の3月の中古住宅販売保留指数も2カ月連続の上昇、住宅ローン金利も低水準と、住宅販売にとっては追い風の環境にもかかわらず、中古住宅販売が減少したことは市場にとってサプライズと受け止められている。 もともと、前月(3月)はプライベートエクイティ(PE)ファンドなど投資グループによる格安なフォークロージャー(住宅不動産の差し押さえ=競売)物件や、ショートセールズ(フォークロージャー前に債務者と債権者が協議して住宅を任意売却)物件といった、ディストレスト資産への強い投資需要に支えられて増加したことから、本来の回復とは異なると見られていただけに、それを裏付けた格好だ。 実際、市場予想の523万戸を大幅に下回ったことからもいかにサプライズだったかが分かる。今年1月は540万戸(前月比3.4%増)と、2007年8月以来3年5カ月ぶりの高水準を記録したが、それを35万戸(6.5%)下回り、また、前年比でも12.9%減と、7カ月ぶりに前年水準を上回った1月の6.1%増以降、前年割れが3カ月連続で続いている。 長期トレンドで見ると、過去8カ月間のうち、昨年10月と今年2月を除いた6カ月は対前月比で増加を示し、昨年夏以降、中古住宅販売市場は回復基調にあるものの、このところは回復力は弱く足踏み状態が続いている。 中古住宅の販売水準は600万戸が健全水準といわれるが、それを16%も下回っており、昨年7月の直近の景気循環サイクルの谷間(386万戸)からまだ31%しか回復していない。 NARの主席エコノミスト、ローレンス・ヤン氏は、4月の結果について、「雇用が増加し、(住宅ローン金利が過去最低に近い低水準など)かつてないほど住宅を購入しやすい環境となっていることを考えれば、住宅市場は堅調に伸びると思われるが、金融機関の融資基準の厳格化で住宅ローンの利用が困難なため、毎月、販売件数が増加するとは限らず、来年にかけて緩やか、かつ、まだら模様の回復が続く」と見ている。 ■ディストレスト物件比率、低下=依然高水準 4月が減少に転じたのは、前月(3月)に見られた投機買いの一服で減少に転じた可能性がある。今回の統計では、全体の販売件数のうち、投機対象となるディストレスト物件が占める割合は低下に転じている。 1月は37%だったが、2月は39%、3月は40%と、上昇したが、4月は37%と、一気に3%ポイントも低下している。ただ、1年前の2010年4月の33%を上回っており、依然、高水準には変わりはない。 また、投機対象物件が減少したことで、全額現金で住宅を購入した比率も全体の31%と、前月の35%から一気に低下している。これは前月とは反対に、投資グループによる住宅購入が収まったことを示す。実際、投資グループは、4月は全体の20%と、前月の22%から低下した。ただ、1年前の2010年4月の15%を上回っている。 また、新たな問題として、販売契約にこぎつけたものの、契約後の住宅価格の値下がりで契約のキャンセルが増えたことも販売件数が低迷している原因と見られる。NARによると、会員企業の11%はこうしたキャンセルがあったことを報告している。また、10%が契約締結の遅れ、14%も契約後に購入価格の引き下げ協議を行ったと指摘している。 ■新規住宅取得比率、上昇に転じるも不十分 明るい材料となったのは、住宅市場の回復の原動力となる住宅ローンを使って初めて住宅を購入する層の割合が、前月の33%から36%と、一気に3%ポイントも上昇したことだ。 しかし、政府の住宅支援策(住宅取得控除)で需要が盛り上がった前年同月の44%を依然、大幅に下回っており、エコノミストが健全な水準と見ている40%も下回っており、4月の販売件数を押し上げるには不十分だった。 住宅ローンの頭金比率は2006年の住宅バブル時の4%から昨年には22%にまで上昇するなど貸し出し基準の厳格化で、本来、住宅市場の大半を占め、銀行借り入れを使った新規購入者のウエートが改善したものの、水準的には依然、低いのが問題で、先行き見通しは楽観できない状況だ。 また、今回の統計では、前月(3月)のデータは、前回発表時の前月比3.7%増の510万戸から同3.5%増の509万戸に下方改定されている。昨年12月(522万戸)は、持続安定的な回復に必要とされる520万戸台に、昨年6月(526万戸)以来6カ月ぶりに戻ったあと、1月も540万戸と、増勢を維持していたが、ここにきてブレーキがかかった状態が続いている。 ■保留指数、2カ月連続の上昇 一方、NARが4月28日に発表した住宅市場の先行指標である最新の3月の中古住宅販売保留指数は、前月比5.1%上昇の94.1と、2カ月連続の上昇となり、今後、中古住宅販売件数が増加する見通しを示している。 この結果について、NARのヤン氏は、「中古住宅販売保留指数は昨年6月の底から24%も上昇して回復傾向にある」とした上で、「今年の中古住宅市場は景気回復と雇用市場の改善、住宅を購入しやすい環境が整って、前年比5-10%増となる」と指摘している。 しかし、4月の中古住宅販売が減少したことから、これまでの中古住宅販売保留指数が多少、見かけ高めの数値になっていた可能性がある。その理由は、販売契約を結んでも、その後、住宅価格の値下がりで契約のキャンセルが増えているためだ。 中古住宅販売統計は、契約後の住宅の引き渡しの完了時点での販売件数を示すのに対し、同指数は、購入契約書に捺印した時点での販売件数を示すので、中古住宅市場の先行指標と見られている。同指数の上昇はその後1‐2カ月後に中古住宅販売統計に現れてくる。 ■中古住宅在庫、9.2カ月分に上昇 中古住宅市場の供給過剰感を示す4月の売れ残り住宅在庫は、前月比9.9%増の387万戸と、3カ月連続の増加となった。この結果、同月の販売ペースで換算した在庫水準も9.2カ月分と、前月の8.3カ月分を大幅に上回った。 ただ、1999年以来11年ぶりの高水準となった昨年7月の12.5カ月分を3.3カ月下回っているものの、2009年11月の6.5カ月分を除けば、依然、過去25年間の平均値である7.1カ月分を上回っており、適正水準とされる6-7カ月分(2005年の住宅ブームのピーク時は4.5カ月分)も上回って、依然として高水準が続いている。 また、販売の内訳は、主力の一戸建ては前月比0.5%減の年率換算442万戸と、前月の同3.7%増から減少に転じた。また、前年比も12.9%減と、3カ月連続の減少。 一方、分譲住宅と集合住宅は合計で前月比3.1%減の63万戸と、前月の同1.6%増から減少に転じたほか、前年比も15.0%減と、3カ月連続の減少となっている。 ■中古住宅価格、前月比2.4%上昇=前年比では5%低下 また、中古住宅の販売価格の中央値(季節調整前)は、通常、10‐15%も割安なディストレスト物件の比率が37%に低下した結果、前月比は2.4%上昇の16万3700ドルと、3月に続いて2カ月連続の上昇となる。販売価格は昨年8月の17万7300ドル以降、8カ月連続で前月を下回っていた。 しかし、前年比ではディストレスト物件比率は依然、高水準のため、5.0%低下と、マイナスが続いている。 一戸建て販売価格の中央値は、前月比1.6%上昇(前年比5.4%低下)の16万3200ドル。分譲住宅も同8.5%上昇(同2.3%低下)の16万7300ドルと、いずれも前年水準を下回っている。 エコノミストは、依然、低水準の中古住宅価格を深刻に受け止めている。これは、新築住宅は中古住宅、特に、ディストレスト物件との厳しい競争に直面しているため、中古住宅との対抗上、新築住宅の価格も引き下げざるを得なくなるからだ。 売れ残って在庫となっている新築住宅はすでに完成している物件なので、住宅建築業者は値下げでコスト割れを起こし、売るたびに採算の悪化は避けられない。ちなみに、NARによると、中古住宅の価格は中央値で新築住宅より45%も安くなっている。通常は、中古住宅は約15%安くなっている。 また、地域別の販売件数は、中西部を除いたすべての地域で減少した。北東部は前月比7.5%減(前年比32.1%減)となったほか、南部も同1.0%減(9.3%減)、西部も同1.6%減(0.8%増)となったが、中西部は同5.7%増(16.4%減)となっている。 ■4月フォークロージャー、9%減=手続き遅延で 一方、米不動産調査会社リアルティトラックが12日発表した、住宅価格を押し下げる最大要因となっている4月のフォークロージャー件数(デフォルト通知や競売通知、銀行差し押さえ件数の合計)は前月比9%減(前年比34%減)の21万9258戸と、3月の同7%増から減少に転じ、40カ月ぶりの低水準となっている。 また、フォークロージャー件数は6カ月連続で30万戸割れとなり、前年割れも7カ月連続となったが、同社のジェームズ・サカシオCEO(最高経営責任者)は、これは、いわゆる、"robo-signing"という、専門家の監査を受けずに融資担保物件を差し押さえた問題で、一部の大手金融機関がフォークロージャーの書類審査が適切だったかどうかを確認するための見直し作業に入っており、その間は、フォークロージャー手続きやデフォルト物件の売却が停止されるため、見かけ上、減少しているだけで、住宅回復による減少ではない、と指摘する。 実際、1-3月期の銀行による住宅差し押さえ手続きの通知から完了までに要した日数は平均400日で、これは前年同期の340日より約2割も余計にかかっていることからも明らかだ。また、2007年第1四半期(1-3月)の151日の2.6倍にもなっている。特に、ニュージャージー州とニューヨーク州では900日以上と、両州の2007年当時の3倍も日数がかかっているほどだ。 言い換えれば、フォークロージャー手続きが遅れていることを示すもので、エコノミストは、今後、中古住宅市場へのフォークロージャー物件の流入が長期化し住宅市場の回復が思ったよりも厳しくなる可能性があると見ている。 (了)
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